人気者 ⑤
5話目の7月30日を読んでからお読みください。
迷った結果、同じ話をそのまま掲載はやめました。
身体が軽い。黒ウサギに何かされたようだ。
全力で走っていても、不思議なくらい自然に足が前に出る。まるで重りが取れたみたいだ。
「──撃て!」
横目に見える風景に見覚えがある。
ここは来たことがある。
志乃ちゃんが喜ぶ、可愛いもの屋さんがある通りだ。
「すばしっこい……」
「構わない。このまま追い込め!」
なら、駅は向こうか。固定ゲートはおそらく使えない。
かといって日替りゲートの近くはモンスターハウス。
駅まで行って地下鉄かなぁ……。
誰も乗っていないのに電車が動いてたのを見た。
内部に入ってしまえば操縦はできる気がする。
無理だった時は、インターネットの力を借りよう。
♢
「わぁーーーーーーーーーーーーっ!」
──ババババッ ──ババババッ
叫びながら逃げる雅を少年たちが追う。
それぞれの手には自動小銃にマシンガン。
連射が可能な銃を持つプレイヤーたちが集まってきている。
「あんなの映画の中だけにしてよー!」
そう雅が言うのも無理はない。連射が可能な時点で、単発射撃より飛んでくる弾数は何倍にも膨れ上がるのだから。
それでも雅は、街中のあらゆるものを利用して被弾を防ぐ。これは把握できているからだ。街の中を。
何処に何があるのかを無意識に把握出来ている。
マップは平坦でしかないが、雅は立体に地図を見ていると思ってもらいたい。範囲としては自分から数メートル先まで。移動しているから、常に地図は更新されていく。
「角を曲がれば……──きゃーーーーーー!」
──パンパン
しかし、見える範囲外からは普通に攻撃される。
そして逃げ道は徐々に狭まっているが、細い道に入ってはいけないと理解している。
後ろに引き連れているから逃げられているのだ。挟まれたら逃げられない。
「いやーーーーっ。死ぬ、死ぬーー」
だから大きな道を走っている。
遮蔽物は大きな道だろうと存在するし、スピードを落とさず距離を保って移動できる。
「駅まで行けば、地下鉄を使って逃げられる!」
逃げるまでのルートは出来上がっていて、あとはミスなくやり切るだけ。
「……みんなして迷子になりやがって」
こんなことを言う余裕もある。この余裕が生んだミスからは分からないが、雅は1つミスを犯す。
自らの歩幅の計算が狂っていることに気付いていなかった。だからつまずく。
「うにゃ……」
これほどの距離を今まで走ったことは無かったのだ。
長距離走には長距離走のペースと歩幅がある。全部同じだと思っていた雅は、縁石につまずき派手に転ぶ。
「今だ! 足が止まってる。逃げ足がなけりゃ的だ。撃ち殺せ!」
そしてこのミスで、一気に窮地へと陥ってしまうことになる。動いていたから、遮蔽物があったから銃弾を防げていた。なければ本当にただの的。しかし──
「──勝手にウロチョロしやがって!」
雅には仲間がいる。例え、広大な場所であっても、こうして見つけてくれる友達がいる。
「違うよ。いなくなったのは、みんなの方だよ」
聞いてしまった志乃たちの会話は、知らないことにするようだ。気恥ずしさが勝ったためだろう。
「気づいたらいなかったのはお前だ。雅!」
「子供じゃあるまいし……」
「その通りだ。子供じゃないんだから1人でいなくなるな! 今だってどこに行こうとしてたんだ?」
「地下鉄に乗って逃げようと思って」
「さらに離れていくつもりだったのか? そんなことじゃないかと思ったんだ。まったく……」
何事もなかったように軽口を言い合える。
知らないことにした雅は下手なことを言わないし、雅の気持ちを察する志乃も余計なことは言わない。いつも通りならそれでいいのだ。
「志乃ちゃんたちが、いなくなったんだよ。あたしは悪くないと思います」
「迷子はみんなそう言うんだ。あとで2人にも聞かせてやろう」
「えっ、それはちょっと……困るかなー。ところで2人は?」
いない2人は雅を見失ったグループと遭遇し戦闘中。新たに追加されたモンスターたちも巻き込んでの大立ち回りを演じている。
「あの人斬りたちは、あっちで片っ端から斬りまくってるよ。人間もモンスターも区別なくな」
「こわー。ところで今のは黙っておくから、あたしのも黙っておいて。ねっ?」
「黙っておくも何も、合流するには目の前の敵をなんとかしなくちゃならない。さっそく使うことになるとはな」
亜李栖がまとめて持っていた雲母お手製のカード。
志乃はそれを数枚持ってきた。
「……やめよう? それ使うの。大爆発だよね? それ」
昨日は上手くいかなくて、亜李栖と2人で爆発の余波を受けてしまった。カードを飛ばすというのは意外と難しいと学んだ。
「攻撃力のないウチらはにはこれしかない。前衛2人がいないし、後衛は使えないからな」
「それでもやめよう。爆風っていうのはね、マンガみたいに盾じゃ防げないんだよ?」
この数の敵を魔法の無い雅と、盾持ちの志乃で相手にするのは得策ではない。切れるカードがあるなら使うべき状況。
その威力はどちらも体験しているが、初見では間違いなく無事で済むプレイヤーはいない。
「分かってるけど、お前がいるんだ。だから大丈夫だ」
失敗を経て、大爆発を引き起こす真っ赤なカードは上に向けて飛ばされる。
志乃の目測では盾で防げると思っていたが、実際にはそのままだったら、自分たちも余波を受けていただろう。しかし……。
「──志乃ちゃん。そんなにあたしのことを信用してくれてるんだね! ……だけどやめよう。大人しく撃たれて動けなくなって、あんなことやそんなことをされよう」
「嫌だよ!」
大爆発の後、雅たちがいるところだけは爆発の影響を受けなかった。理由は、爆風は操作されたからだ。空域という箱の魔法を無しにして。
♢47.5♢
目に付いたのはたまたまだった。
この場所にいたのは上を通るだろうエッグを待っていただけだ。そんな時、何気無しに下を見たら見覚えのあるやつがいた。
あいつに遭遇してから、何もかも上手くいかなくなった。全部あいつが悪いんだ……。
助けた気になっているなら違う。オマエに、助けてくれなんて言った覚えはない。
だけど、狙ったやつを隣のやつが庇った……。
どうしてそんなことをする? 死ぬわけでもないのにだ。
分からない……。
自分にはそんなことをしてくれるやつはいなかった。我が身可愛さに誰も残らなかった。
解らない……。
あれが友達だと言うのなら、自分が友達だと思っていたのものはいったいなんだったんだ?
……わからない。
「──よう、探したぜ」
この場所へは梯子を登らなくてはこられない。
そしてその梯子は自分の目の前にある。
それなのに自分の背後から声がする。
最初にピエロと遭遇した時のように……。
「つくづく救えないな、オマエ」
茶髪にピアス。鼻に付く香水の匂い。
服装も相まって実に嫌いなタイプだ。
「1回だけしか言わない。返事はイエスである事を願うよ……オレの下につけ。そうしたら見逃してやる」
「嫌だと言ったら?」
「1回しか言わないと言ったろう……。それはノーってことだな? なら、話は終わりだ。ブッ殺す……」




