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 人気者 ④

♢47♢


 着信があったのはすぐに気づいた。だけど、出ようにも銃を持ったヤツらに追われていたから出られなかった。


『あいつは気にしすぎなんだよ。少しは信じてこっちに任せろって……。もう守られるばかりじゃないんだ。(みやび)が無理なら、あいつ1人くらい守ってやるのに』


 亜李栖(ありす)ちゃんが電話を切り忘れたのか、わざとなのかは分からないが、みんなの会話は全部留守電になっていてメッセージとして残っていた。


 これを3回ほど繰り返し聞いている。

 あと10回は聞きたい。


「…………」


 ミヤビちゃんは要らない子ではないらしい。

 魔法が使えなくてもだ。


 足手まといでもいいらしい。

 小学生にも負けそうなのに。


 あたしがみんなを守らなくてもいいらしい。

 逆に守ってくれるなんて、そんなふうに考えたことはなかった……。


「キミは友人に恵まれているな。エースのお嬢さん」


 追われているあたしを黒ウサギが匿ってくれた。

 今いるこの場所は隙間だってウサギは言ってた。現実の東京と裏東京との隙間。


「……うん」


 でなければ、留守電など聞いている余裕はなかっただろうし、みんなの言葉をここで聞くことも無かったかもしれない。


 ウサギに助けられてなければやられてた。

 もし、1人だけ情けなくやられて表に戻されていた場合、3日は部屋に閉じこもっていたと思うからだ。


「どうするのかね?」


「どうしよう?」


 本当にどうしよう……。

 どんな顔して志乃(しの)ちゃんに会えばいいのでしょう。

 どんな顔して亜李栖ちゃんと話せばいいのでしょう。


「お嬢さん方は、キミを探しているぞ?」


 行かなくちゃとは分かっているけど、あたしも恥ずかしい。全部聞いたとは絶対に言えない。

 もう電話は切れているし、履歴を見ない限りは亜李栖ちゃんも気づかないと思う。しかしね。


「──黒ウサギ。あたしはどうしたらいい? 知らん顔して普通にした方がいい? それとも、みんなを頼る姿勢を見せたほうがいい?」


「くくくくっ……なんとも贅沢な悩みだな」


 そうかもしれない。

 自分があんなに想われているとは知らなかった。


「今日は足手まといなのは自分でも分かってたんだ。黒ブタマン以外には無力だって。でも、いざとなったらやっぱりショックだったんだ。あたしは守る側だと思ってたからさ」


 姉が提案してきた今日戦う方法。

 それはボスキャラ以外には使えない。

 あと風の魔法を使えるプレイヤーたちしかか……。


 自分の力で行う魔法ではなく、他者が行なった魔法を利用して戦うというカウンター戦法。

 自分では魔法を使えないけど、そうじゃない力はそれなりに制御できたからだ。

 

「……その呪い。オレが代わろうか?」


「呪い?」


「キミの力を押さえ込んでいるそれのことだ。それは、この国では呪いと呼ぶ力だ。他者の足を引っ張っり自由すら奪うな。無理に外せば力を制限されているキミは死だろう。呪いと言わずしてなんと言うか。だが、対象を移し替えるだけなら可能だ」


 呪い。呼び方の違いかもしれないけど呪いか……。

 これが無ければ魔法は使える。黒ブタマンだって倒せる。


「でも、力の制御が出来ないのは本当なんだ。あたしは自分で自分の力をコントロール出来ない。それでは、みんなに余計に迷惑をかけてしまう」


 自分以外を全部壊してしまう。

 良いも悪いも全部だ。

 それこそボスキャラのようになってしまう。


「それがなんだと言うんだ? 全てが劣る者たちに遠慮し、自らの才を潰す。これの方が遥かに愚かだと思うがね。壊したところで全ては元に戻る。キミが何を気にする必要がある? 仮に壊れるものがあったとして、それは仕方がないことだろう?」


「仕方がないこと……」


 そうではないと思う。

 あたしは壊したいのではなく守りたいのだから。

 いない人たちの分まで。自分の守れる全てを。


「それに言われなかったか。力は使わねば意味が無いと」


「なんで──」


 黒ウサギが知ってる? どうしてこいつが。

 誰にも聞こえたわけないのに……。


「それを言うのは力がある者にだけだからだ。想像は容易だ。他には何か言われか?」


「他? ……お前の感じているのは単なる恐れだ。って言われた」


 誤魔化したところでダメだ。

 こいつがあの子を知ってるなら。


「ふむ……恐れか」


 知り合いの可能性はある。

 このウサギも向こう側から来たんだから。


「恐れとは与えられるものではなく、自らが生み出すものだ。キミは自らの生み出した影を恐れているに過ぎない。だが、それは自分でしか殺せない」


 昨日、フウちゃんに言われるまでもなく分かってた。黒ウサギに言われるまでまでもなく気付いてた。

 だけど、どうしたらいいのか分からない。雲母(きらら)さんに習うのが唯一の道な気もする。

 

「そのままでは影は殺せず、一向に悪循環は解消しない。それでは困るのだ」


「……それはあの子が?」


「あくまで個人的な話だ。オレはキミにボスキャラを倒してほしい。アイリの思惑通りに進むのも避けたいからな」


 ふわふわと黒ウサギは仲間じゃないのかな?

 こうして隠れて話しをしているし。

 ボスキャラの事のように一枚岩ではないんだろうか?


「ジャックのお嬢さんは強い。彼女なら間違いなくボスキャラも倒せる。しかし、それはあるモノを使う場合だ。あると分かれば彼女は狙われることになる。そんな分かっていることを──」


「──ジャックってユッキー? あたしもエースって呼ぶけどなんなの?」


 カッコいいから放置してきたけど、何なんでしょう。


「……あぁ、クイーンのお嬢さんに説明したからか、知ってると思い込んでいたな。トランプの絵札。ゲームはポーカーだ」


 クイーンも誰?

 でも、黒ウサギに悪いし今はいいや。


「エースというカードが持つ意味を知っているかな? 絵札のカードはあらゆるゲームで一定の強さを持つが、エースのカードだけは違う。最強のカードであり最弱のカードでもある。エースには二面性がある。片方の世界では最弱のカードだったが、もう片方の世界では最強のカード。それがキミだ」


 最強。ミヤビちゃんが最強か。悪くない。

 けど、ユッキーにも姉にも勝ててないし、黒ブタマンにもクソピエロにも勝ててないし、このウサギにも勝ててないのに。最強は名乗れない。それに今は。


「満足に魔法も使えないのに?」


「それは呪いのせいだ。話は最初に戻るがどうする。その呪い。身代わりとなろうか?」


 ウサギを身代わりにしても心は痛まない。

 問題は、気になるところは別にある。


「黒ウサギがあたしに親切にする理由は何? オマエだって、これ付けられたら困るでしょう?」


 良いウサギすぎる。何もなくこんなに親切にされる理由が分からない。

 ウサギ紳士と言えばそれまでだけど、コイツはボスキャラと同じもののはずだ。


「困りはしないのだ。それは人の色を封じる呪い。元より呪いのような黒に、そんなものは意味を成さない。呪いを受け、それを引き剥がして死ぬというならそれも構わない。その程度で死ぬのならね」


「なんとなく困らないのは分かった。でも、親切の理由は何? はぐらかさずに答えなさい」


「その前に答えを聞こう。イエスかノーか」


 あたしが答えないと答えないだと? 譲歩はしないな。

 迷わなかったわけじゃないけど……。


「ノーだ! あたしは壊すだけのものではなく、守りたいものを守れるものになりたい。そのために多少壊すのはしょうがないと思うけど、何も地球を丸ごと破壊しようとは思わない! 具体的には、東京都までくらいなら地図から消えてもしょうがない!」


 志乃ちゃんを。亜李栖ちゃんを。ユッキーを信じる。みんなを信じて、みんなが信じたあたしを信じる。

 なのでウサギの申し出は断る。ここでリストバンドを外しても、前へは進まないと思うから。


「実はそう言うと思っていた。なら、話は終わりだ」


 ウサギが悪い笑みをもらしたら、急に足元がぐわんぐわんして立っていられなくなる。

 ちょっと──、本当に立っていられないんだけど?!


「──こら、黒ウサギ! 逃げんな! あとぐわんぐわんしてるの何とかして!」


 黒ウサギは本を開いていて全然こっちを見ていない。

 あと、やつは不安定な足場なのに微動だにしない。

 あんなふうにできないあたしは、入ってきた方向に戻されていく。


「話は終わりだと言ったろう? またいずれ話をする機会もあるだろう。エースのお嬢さん。これは付き合ってもらった御礼だ。せいぜい自らの選択を後悔しないようにしたまえ」


 本から一筋の光が放たれる。

 それはあたしにぶつかって消える。


「今の何? 答えろよーーっ! きゃぁぁぁぁぁぁ──」


 最後に地面が跳ねた。

 一気に外まで飛ばされたようだ。しかし、痛くはない。


「──いたぞ! こっちだ!」


「────!」


 また、銃を持った奴らに見つかった!

 というか同じ場所。さっきと同じ奴だ。

 あたしをずっと探してたのか? しつこい奴らめ!


「──逃げなくては!」


 また走らないとか!

 だけど……不思議と身体は軽い気がする。


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