人気者 ④
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着信があったのはすぐに気づいた。だけど、出ようにも銃を持ったヤツらに追われていたから出られなかった。
『あいつは気にしすぎなんだよ。少しは信じてこっちに任せろって……。もう守られるばかりじゃないんだ。雅が無理なら、あいつ1人くらい守ってやるのに』
亜李栖ちゃんが電話を切り忘れたのか、わざとなのかは分からないが、みんなの会話は全部留守電になっていてメッセージとして残っていた。
これを3回ほど繰り返し聞いている。
あと10回は聞きたい。
「…………」
ミヤビちゃんは要らない子ではないらしい。
魔法が使えなくてもだ。
足手まといでもいいらしい。
小学生にも負けそうなのに。
あたしがみんなを守らなくてもいいらしい。
逆に守ってくれるなんて、そんなふうに考えたことはなかった……。
「キミは友人に恵まれているな。エースのお嬢さん」
追われているあたしを黒ウサギが匿ってくれた。
今いるこの場所は隙間だってウサギは言ってた。現実の東京と裏東京との隙間。
「……うん」
でなければ、留守電など聞いている余裕はなかっただろうし、みんなの言葉をここで聞くことも無かったかもしれない。
ウサギに助けられてなければやられてた。
もし、1人だけ情けなくやられて表に戻されていた場合、3日は部屋に閉じこもっていたと思うからだ。
「どうするのかね?」
「どうしよう?」
本当にどうしよう……。
どんな顔して志乃ちゃんに会えばいいのでしょう。
どんな顔して亜李栖ちゃんと話せばいいのでしょう。
「お嬢さん方は、キミを探しているぞ?」
行かなくちゃとは分かっているけど、あたしも恥ずかしい。全部聞いたとは絶対に言えない。
もう電話は切れているし、履歴を見ない限りは亜李栖ちゃんも気づかないと思う。しかしね。
「──黒ウサギ。あたしはどうしたらいい? 知らん顔して普通にした方がいい? それとも、みんなを頼る姿勢を見せたほうがいい?」
「くくくくっ……なんとも贅沢な悩みだな」
そうかもしれない。
自分があんなに想われているとは知らなかった。
「今日は足手まといなのは自分でも分かってたんだ。黒ブタマン以外には無力だって。でも、いざとなったらやっぱりショックだったんだ。あたしは守る側だと思ってたからさ」
姉が提案してきた今日戦う方法。
それはボスキャラ以外には使えない。
あと風の魔法を使えるプレイヤーたちしかか……。
自分の力で行う魔法ではなく、他者が行なった魔法を利用して戦うというカウンター戦法。
自分では魔法を使えないけど、そうじゃない力はそれなりに制御できたからだ。
「……その呪い。オレが代わろうか?」
「呪い?」
「キミの力を押さえ込んでいるそれのことだ。それは、この国では呪いと呼ぶ力だ。他者の足を引っ張っり自由すら奪うな。無理に外せば力を制限されているキミは死だろう。呪いと言わずしてなんと言うか。だが、対象を移し替えるだけなら可能だ」
呪い。呼び方の違いかもしれないけど呪いか……。
これが無ければ魔法は使える。黒ブタマンだって倒せる。
「でも、力の制御が出来ないのは本当なんだ。あたしは自分で自分の力をコントロール出来ない。それでは、みんなに余計に迷惑をかけてしまう」
自分以外を全部壊してしまう。
良いも悪いも全部だ。
それこそボスキャラのようになってしまう。
「それがなんだと言うんだ? 全てが劣る者たちに遠慮し、自らの才を潰す。これの方が遥かに愚かだと思うがね。壊したところで全ては元に戻る。キミが何を気にする必要がある? 仮に壊れるものがあったとして、それは仕方がないことだろう?」
「仕方がないこと……」
そうではないと思う。
あたしは壊したいのではなく守りたいのだから。
いない人たちの分まで。自分の守れる全てを。
「それに言われなかったか。力は使わねば意味が無いと」
「なんで──」
黒ウサギが知ってる? どうしてこいつが。
誰にも聞こえたわけないのに……。
「それを言うのは力がある者にだけだからだ。想像は容易だ。他には何か言われか?」
「他? ……お前の感じているのは単なる恐れだ。って言われた」
誤魔化したところでダメだ。
こいつがあの子を知ってるなら。
「ふむ……恐れか」
知り合いの可能性はある。
このウサギも向こう側から来たんだから。
「恐れとは与えられるものではなく、自らが生み出すものだ。キミは自らの生み出した影を恐れているに過ぎない。だが、それは自分でしか殺せない」
昨日、フウちゃんに言われるまでもなく分かってた。黒ウサギに言われるまでまでもなく気付いてた。
だけど、どうしたらいいのか分からない。雲母さんに習うのが唯一の道な気もする。
「そのままでは影は殺せず、一向に悪循環は解消しない。それでは困るのだ」
「……それはあの子が?」
「あくまで個人的な話だ。オレはキミにボスキャラを倒してほしい。アイリの思惑通りに進むのも避けたいからな」
ふわふわと黒ウサギは仲間じゃないのかな?
こうして隠れて話しをしているし。
ボスキャラの事のように一枚岩ではないんだろうか?
「ジャックのお嬢さんは強い。彼女なら間違いなくボスキャラも倒せる。しかし、それはあるモノを使う場合だ。あると分かれば彼女は狙われることになる。そんな分かっていることを──」
「──ジャックってユッキー? あたしもエースって呼ぶけどなんなの?」
カッコいいから放置してきたけど、何なんでしょう。
「……あぁ、クイーンのお嬢さんに説明したからか、知ってると思い込んでいたな。トランプの絵札。ゲームはポーカーだ」
クイーンも誰?
でも、黒ウサギに悪いし今はいいや。
「エースというカードが持つ意味を知っているかな? 絵札のカードはあらゆるゲームで一定の強さを持つが、エースのカードだけは違う。最強のカードであり最弱のカードでもある。エースには二面性がある。片方の世界では最弱のカードだったが、もう片方の世界では最強のカード。それがキミだ」
最強。ミヤビちゃんが最強か。悪くない。
けど、ユッキーにも姉にも勝ててないし、黒ブタマンにもクソピエロにも勝ててないし、このウサギにも勝ててないのに。最強は名乗れない。それに今は。
「満足に魔法も使えないのに?」
「それは呪いのせいだ。話は最初に戻るがどうする。その呪い。身代わりとなろうか?」
ウサギを身代わりにしても心は痛まない。
問題は、気になるところは別にある。
「黒ウサギがあたしに親切にする理由は何? オマエだって、これ付けられたら困るでしょう?」
良いウサギすぎる。何もなくこんなに親切にされる理由が分からない。
ウサギ紳士と言えばそれまでだけど、コイツはボスキャラと同じもののはずだ。
「困りはしないのだ。それは人の色を封じる呪い。元より呪いのような黒に、そんなものは意味を成さない。呪いを受け、それを引き剥がして死ぬというならそれも構わない。その程度で死ぬのならね」
「なんとなく困らないのは分かった。でも、親切の理由は何? はぐらかさずに答えなさい」
「その前に答えを聞こう。イエスかノーか」
あたしが答えないと答えないだと? 譲歩はしないな。
迷わなかったわけじゃないけど……。
「ノーだ! あたしは壊すだけのものではなく、守りたいものを守れるものになりたい。そのために多少壊すのはしょうがないと思うけど、何も地球を丸ごと破壊しようとは思わない! 具体的には、東京都までくらいなら地図から消えてもしょうがない!」
志乃ちゃんを。亜李栖ちゃんを。ユッキーを信じる。みんなを信じて、みんなが信じたあたしを信じる。
なのでウサギの申し出は断る。ここでリストバンドを外しても、前へは進まないと思うから。
「実はそう言うと思っていた。なら、話は終わりだ」
ウサギが悪い笑みをもらしたら、急に足元がぐわんぐわんして立っていられなくなる。
ちょっと──、本当に立っていられないんだけど?!
「──こら、黒ウサギ! 逃げんな! あとぐわんぐわんしてるの何とかして!」
黒ウサギは本を開いていて全然こっちを見ていない。
あと、やつは不安定な足場なのに微動だにしない。
あんなふうにできないあたしは、入ってきた方向に戻されていく。
「話は終わりだと言ったろう? またいずれ話をする機会もあるだろう。エースのお嬢さん。これは付き合ってもらった御礼だ。せいぜい自らの選択を後悔しないようにしたまえ」
本から一筋の光が放たれる。
それはあたしにぶつかって消える。
「今の何? 答えろよーーっ! きゃぁぁぁぁぁぁ──」
最後に地面が跳ねた。
一気に外まで飛ばされたようだ。しかし、痛くはない。
「──いたぞ! こっちだ!」
「────!」
また、銃を持った奴らに見つかった!
というか同じ場所。さっきと同じ奴だ。
あたしをずっと探してたのか? しつこい奴らめ!
「──逃げなくては!」
また走らないとか!
だけど……不思議と身体は軽い気がする。




