人気者
♢45♢
代々木公園の日替わりのゲートにも人が集まっていた。あたしたちのように渋谷駅前から、こっちに来た人たちも大勢いたんだ。
さっきまでは……。
「これで全部ですね」
最後の1人も刀の鞘で腹部を一撃され倒れた。
鞘でバシバシとやられたから、峰打ちですらないけどさ。
抜かなければいいんだろうか?
あれでも銃刀法とかに引っかかると思うんだ。
「こっちも済みましたー」
あっちはもっとヒドい。
何故、あの子は特殊警棒なんか持っていたのだろう。あの、いつも持ち歩いているハンドバッグの中には、何が入っているのだろう。
「10人はいたよね?」
「いたな……」
いたんだ。10人以上いた。
ここから逃げた人と、ゲートの中に逃げた人も合わせると倍くらいはいた。
しかし、今いるのは日替わりゲート周囲に散らばる倒れた人たち(意識はない)だ。
ユッキーと亜李栖ちゃんが全員倒してしまった。
「これでここは使えますね。あっ、みなさんもどうぞーー!」
遠巻きに見ていた人たちに亜李栖ちゃんが呼びかけているが無駄だと思う。
今のを見ていた人たちはあたしたちがいたら、中へは入らないよ。絶対ね。
「結局、移動してきた意味はなかったね。物理で押し通るんだからさ」
「あんなところでコレをやったら、普通に捕まるからな」
「まぁ、その話は終わりということにしよう。それにしても……こんなに組織化してるんだね。駅前にも同じくらいの人数が配置されてたし」
おそらくはレベルの低い人たちなんだろう。
外の見張りなら魔法は関係ないから。
ゲートごとに人を配置しているとなると、かなりの大人数。それも外だけでだ。
裏東京にはもっと人数がいるのかな?
「程度の低い連中でした。不良にしても情けない。こんなのは放っておいて行きましょう!」
「亜李栖ちゃんが倒したんだけどね?」
「可愛く頼んでダメなら仕方ないじゃないですか。話し合いができないなら、暴力しか解決法はありませんよ」
「そうだねー」
この話も終わりにしよう。
そして早く中に行こう。
新宿まではまだ距離があるからね。
「待て。行く前に確認だろ?」
……そうだった。
調子とか武装とか。中での手筈とかを確認してからでないといけないんだった。
「見た通り、私とアリスは調子も悪くないです。武装、その他も確認済みです。問題ありません」
「はい。ユウキさんの言うように調子は良いくらいです。ポーション効果ですかね。普通の武器の類は必要ないと思いますが、確認しますから少しお待ちを」
ハンドバッグが開いている! 中を見るチャンス!
怖いもの見たさというやつだね。ごくり──
「おい。一番心配なのはお前なんだが?」
中身が気になるのに……。
「あたしは何も持ってない。こともなかった。姉から銃を借りてきたんだった」
玩具らしいから合法な大丈夫なヤツだよ。
例の青い物質でできた銃。引き金を引くだけだし、替えの弾はないから今入ってる分だけ。
「──あれっ? 壊れてるのかな。動かないや」
カチカチなりもしない。
弾は入っていると言っていたのに。
「不良品か?」
「雲母さんめー、よく確認しなかったな!」
不良品をつかまされた! あのダメ姉めーーっ。
あたしたちには確認しろと言ったくせに、自分は確認しなかったな。本当にズボラなんだから。
「違いますよ。それは安全装置がかかっているからです。貸してください。こうして……はい、これで撃てますよ」
手渡した銃を慣れた手つきでいじる亜李栖ちゃん。
わずか数秒で手元に戻ってきた。
「亜李栖ちゃん。詳しいね。やっぱり家にある──」
「──ない! 何回も言わせんな。他も確認して、さっさと行くぞ!」
みんな調子は悪くない。
本当にポーション効果なようだ。
昨日より魔力とかも増えてる気がする。
向こうは常に全体が魔力に満ちているし、案外いけるんじゃないだろうか?
これは心配して損だったかな。
♢
フウちゃんは、あたしが人気者だと言っていた。
黒ブタマンとの戦闘が配信されていたし、ファンがいる人気者なんだと思ってた。
──でも、人気者って意味が違った!
「きゃーー! なんでみんなこっちくんだよ!」
代々木公園の周辺は問題なかったんだ。
みんなどこかに行ったようで、誰もいなかったから。
今回はあらかじめ亜李栖ちゃんがアプリで辺りを検索して、人が何か群がっているのが分かっていた。
当然無視して新宿に入るつもりだったのに……。
「あの女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────」
あたしに何か恨みでもあるの?!
それとも良かれと思ったの?
どっちにしても覚えてろよ。ふわふわめーー。
『──あらっ、雅じゃない。あなたも遊びに来てくれたのね。ありがとうー。みんなー、運営がイチオシの雅ちゃんです! みんな知ってるよね?』
どっかから、そう声がした。
その作られたキャラクターにもひいたけど。
『現在、プレイヤー中最強との呼び声も高い彼女も、このゲームに参加するらしいです! みんなはピンチだよー。雅なら空中にあるシャボン玉までひとっ飛び。あっという間に全部盗られちゃうかも……』
その説明の仕方にもひいた。
というか、わざとだよね?
『地に足ついている今が雅を倒すチャンス! みんなで力を合わせれば彼女にだって勝てると思う。障害は早く消した方がいいと、アイリは思うなぁ』
──言い方! そんな言い方したらこうなるわ!
シャボン玉を追いかけていた人たちの幾らかが、ミヤビちゃんを狙ってきた。ふわふわに騙されて。
別にあたしはシャボン玉なんていらないと言うのに。そう言っても、ふわふわのせいで信じてはもらえないと思うんだ。
「飛び道具ってのは厄介だな。本当に蜂の巣になりそうだ」
現在、チャカを構えたたくさんの人たちに狙われています。志乃ちゃんの言うように蜂の巣になりそうです。
「しかし、所詮は素人。こうしていれば当たりませんわ。もう少し近寄ってきたら全員、聖剣のサビにします」
みんなで志乃ちゃんの盾の陰に隠れている。
だけど4人でこのサイズはキツい。
回り込まれたらイチコロだし。
「私とアリスで数を減らします。雅、銃があるなら援護をお願いします」
いや、撃ったことないんだけど……。
それに数が多すぎると思う。
敵さんより撃ったことないのに当たるのか?
「今日の雅には何も期待すんな。要は動かなくすりゃいいんだろ?」
期待値は無いと。
今日のミヤビちゃんには頼らないというわけだね。
はぁ……ショックだけど事実だから。
「そしてユウキにも、こんなところで力を使わせるわけにはいかない」
重いから付けていなかった籠手が、志乃ちゃんの手に現れる。土の力を使えば軽いらしいけど、常時やっていては消費が増えるだけ。
まだ序盤だから温存していたようだけど。
「シノ。それは何度も使えるのですか?」
「何回もは無理だな。長い時間もだ。だから、パパッと終わらしてくれ!」
ユッキーが何か言う前に、志乃ちゃんは直接地面に手をつく。すると地震かと思うくらいに一瞬地面が揺れる。
「──ユウキさん、行きましょう!」
聖剣を構えた亜李栖ちゃんが突撃し、ユッキーが後を追う。亜李栖ちゃんは行動と手が出るのが早いよね。
「無理せずに拘束はすぐに解除してください!」
1回揺らしたのは体勢を崩すため。
これでもう、銃口はこっちを向いてないだろう。
そして盾を利用して振動を拡散。拘束。
ビックリしたね……。
もう、こんなに使いこなせるんだ。
「お前も銃を使えよ」
「大丈夫じゃない? 聖剣が殴殺してくれるよ」
亜李栖ちゃんのあれは、まぁまぁヒドい。
水の塊でブン殴られるわけだからね。
あの子はだいたいやる事がヒドいね。
横薙ぎに水柱が振るわれ、巻き込まれた人たちは飛んでいく。追いかけて経験値にするつもりのようだ。
「もう解いていいんじゃない? 聖剣が振るわれたし、ユッキーも峰打ちという名の物理攻撃を叩き込みまくってるよ」
たった5日。たったそれだけの期間で、こうも魔法を使えるようになるなんて。
姉の教え方だろうか? 実戦を経験してだろうか? それとも、その武器を生成したエッグの力だろうか。
とにかく。最初から見ているあたしとしてはビックリです。
『──やるじゃない。それ、とっても面白い道具ね』
むっ──、またふわふわの声がする。
どっから見ているのか。そしてふざけやがって!
「ふわふわ! 貴様よくも──」
『そこ、注意よ。足元注意』
足元注意? 志乃ちゃんがぶっ壊したから?
いや、騙されてはいけない。
ふわふわ感に騙されないようにしなくては。
『エッグを手に入れられなかったみんなにも楽しんでもらえるように、今日は大盤振る舞いだぁ! 今日のイベント地域内には、いつもより大量のモンスターがPOPするよー』
…………まさか。
『モンスターによる経験値も稼ぎ放題。ただ、一度に現れる数が半端じゃないので注意してね? さぁ、まだまだ序盤! 頑張っていきましょう!』
この地面の黒いシミは全部……。
「これはあの時の公園と同じやつか? じゃあ──」
「志乃ちゃん。この黒いの見たことあるの?」
「あの時はピエロが倒した」
聞いた。その話聞いた。
やっぱりこの黒いシミは……。
地面の黒いシミから黒いヤツらが這い出てくる。
視界全部にシミがある気がする。
「ふわふわの話と総合すると……これ全部モンスターというヤツかな?」
大量のモンスターも現れた!




