歪
♢8♢
ピエロ男ことカイアスが、多数ある中でこの公園を休憩地にしたのは理由がある。
ゲーム開始以降、何も問題なくつつがなく行われていた遊戯。
それに現在問題が発生しているからだ。
「……やはり、ここにもですか。向こうでは何が起きているのやら……」
奢ってもらったコーラを口にしていたカイアスは立ち上がる。
人払いはしたが人が入って来てしまった。
何より、ご馳走になってしまったから。
「お嬢さん方。少しお待ちを。エッグを使用するのをちょっと待ってください」
「……今更ですか?」
「魔力を手に入れてしまうと狙われますから」
言われていることが理解できない、女子高生2人は訝しげな表情をする。
その表情は驚きから恐怖へと変わっていく。
「その場を動かないでください。すぐにすみますから」
地面から黒い影が這い出してくる。
いくつも、いくつも、いくつも。
逃げ道など無くなるほど、影は人気のない公園内を埋めつくす。
「あぶれた分が現実にまで滲んでくるとは……。まさかとは思うのですが、向こうで魔物狩りなんて行っていませんよね?」
黒い影は次第に形を整える。
影は丸い形に定まり動き出す。
プルプルと震えているように見える。
「……何だよ。これ……」
「不気味な光景ですわね……」
少女たちは動くなと言われるまでもなく動けない。
公園を抜け出るルートはなくなってしまった。
「どちらにしても、これはワタクシの仕事ですかー。面倒ですが実害が出ては文句を言われそうですから、仕方ないですねー」
カイアスの左手の刻印が青い光を放つ。
その輝きが意味するのは水。
「100体ほどですか。ザコとはいえ数が多い」
公園の中心にあった噴水の水が、おかしな動きをし始める。噴き出した水が落ちずに留まり、小さな球となっていく。
「これだけ撃てば核に当たるでしょう。お嬢さん方、くれぐれも動かないように。ハチの巣になってしまいますからね」
創り出す魔法は難しいが、ある物を使うのなら難易度は下がるし消費する魔力量も減る。
ただしピエロにそこまでの考えはない。
たまたま水の魔法が手に入り、たまたま噴水が目についた。
これは、それによって起きる事象。
「──うわぁ」「きゃっ──」
影をはるかに上回る水弾が影を貫く。
凄まじい速度の水は志乃と亜李栖の真横にも突き刺さる。
「……思ったより数が減らない。公園はボロボロになっていきますが、それに駆除できる数が見合いませんねー」
噴水から水は絶えず流れ落ちる。
水は球となって影を貫き続ける。
影が消え去るまで、それを繰り返す。
「もっと静かにできねーのかよ!」
「それに水が飛んできて……」
影を貫いた水弾は、ただの水に戻っていく。
戻った水は、雨でも降っているかのように彼女たちにかかる。
「──これはワタクシとしたことが! 配慮が足りませんでした。申し訳ない!」
紳士は顔をそらし、駆除方法を変更する。
右手に大きな袋を持っているカイアスは左手を真横に伸ばす。
「別にいいんだけど……。早くこれを何とかしてくれよ」
「いや、志乃さん。良くはないです。女子の尊厳です! 透けるなど由々しき事態ですわ!」
また、どこかから今までなかったものがカイアスの手に現れる。エッグの入った袋しかり、最初はこの男は何も手にしてはいなかったはずなのに。
「また、何もないところから物が出てきた」
「それにしても……あの大きさを振れるんでしょうか?」
その手に握られているのは大きすぎる剣。
身長が180はあるだろう男より長い大剣。
剣に変わったところは見られない。
ただ、両手で振るうことが前提である構造以外には。
「後始末が大変そうですが、ワタクシには関係ないこと」
片手で扱えるわけがない大剣を片手で振るう。
その重量は容易く影を四散させる。
「「──きゃあ」」
今度は叩きつけられた剣が地面を巻き上げ、風圧が少女たちを襲う。
「……ワタクシ、何も見ていません。ですからこのまま続けます。今ので道が空きましたので、向こうまで下がっていただけると、いろんな意味で有難い」
振るわれた一撃は直線に道を開いた。
今ならば影を横切り木下まで移動できる。
「──亜李栖!」
志乃が手を引き2人は木の下に、その陰に入る。
そして気配が移動したことを察したカイアスは、遠慮なくその大剣を振り回す。
斬っているのではない。
残念ながら男は剣士ではないから。
見事な剣を持ってはいても、それだけだ。
その使い方に剣士らしさなどない。
振り回し、叩きつけ、薙ぎ払う。
「核が何処であってもこれなら関係ない。風圧で巻き込んで、これで叩きつければ跡形も残りませんから!」
そのあと1分も経たずして影は全滅した。
影の現れる前と後で公園は見違えてしまったけど。
「少しはしゃぎすぎましたね。これを繰り返すとなると、被害が増大するので対策を考えていただかないとですね」
ベンチへと戻り飲みかけのコーラに再び口をつけるピエロは、変わり果てた公園を見てそんな感想を口にする。
♢
走っても追いつくはずはない。
そう思っても諦めるわけにはいかない。
手を伸ばして掴める範囲にいなくては、掴めないのと同じことだから。
「……はぁ、はぁ……なんだろ。ここ変な感じがする……」
通り過ぎるところだったが、気になって足を止めたところは公園。
何も変わったところがない。何もおかしなところもない。
「だけど、誰も中に入っていかない」
ジョギングしている人も、犬を散歩している人も、自分たちのように制服の学生たちも。
わざわざ公園に入る必要性は無いのかもしれない。
けど、足を向けていたはずなのに逸れていく。
そんな気がする。
1人くらいは公園に入っていくのが普通な気がするのだ。
ここは通り抜けるのにも使えるし、信号に捕まらず反対まで行ける。
両脇は木が生えていて木陰になっていて、暑い外を歩くなら利用しない人がいないのは不自然。
──ドォォォ
意識を向けたからだろうか。
公園の中からそんな音が聞こえる。
何の音なのかは分からないが、只事ではない。
「誰も気づいてない?」
人はまばらだがいるし車も走っている。
窓を開けてる車もあるのに、誰も周囲の生き物すら気づいていない。
「嫌な感じがする。何か嫌な感じが……」
足は公園の方へ向かう。
ピエロのいる公園へ。
♢
過剰なモンスターの追加は混乱を招くと思っていたが、フィールド外への流失の方が混乱を招く。
そこで、全てをフィールド内に解き放ち、プレイヤーたちに駆除を任せることになった。
予定より早くはあるがボスも追加を試みる。
思ったよりプレイヤーの成長が早いことと、ストックしておける数には限りがあるからだ。
最初は順番通りにいく。
舞台も東京であるし丁度いいだろう。
プレイヤーたちに逃げ場がなくなるのが気にはなるが1人くらいはいるはずだ。アレを討ち破れる強者が。
今回の現象は向こうでの魔物の大量駆除が原因である。おそらくではあるが2度3度とあり得るだろう。
リポップする設置型と違い、ランダムな配置となる。
強力な個体についてもこちらからは対処できない。
プレイヤー諸君には不利に働くやもしれない。
そちらにもイベントと称し対応を試みる。予定は7月30日。




