作戦会議 ③
「明日は……じゃないや。ボスキャラとは、ゆーきが闘う。それにはみやびは邪魔」
フウちゃんに新たにリストバンドを付けられた。
緑のやつでも力を抑えられているのに、青いやつも同じ効果があるらしい。
──これはマズい。
今なら小学生のフウちゃんにも負けると思う。
「風香、分かるように言え! それは一度付けたら簡単には外せない。お前はそれを知っているだろうが!」
「みやびには大人しくしていてもらいたいんだ」
ユッキーが闘う? 1人でってこと?
それは駄目だ。一緒に行くし、一緒に戦わなくちゃ。
「みやびの魔法はスゴい。街をメチャクチャにしちゃうくらいに。でも、そんなとこでみんなで戦える? みやびも周りを気にしては本気で戦えないよね。観てたし、見たから知ってるよ」
……フウちゃんの言う通りだ。
あたしの魔法では死なない奴らだったから、新宿では戦えた。クソピエロも黒ブタマンも。
もし、あの時。あの場所にユッキーたちがいたら、ああは戦えなかった。あれじゃ、周りの人間はみんな死んでる。
「きららが付けた分じゃ力を抑えられてない。みやびには、もっと強力に力を抑えなくちゃ意味がないんだ」
「だがな。勝手にやっていいことじゃない……。それにタイミングも最悪だぞ?」
明日、ボスキャラに挑むこの状況で。
「だから、ゆーきが闘うんだよ。みんなはチームなんでしょ? 1人がダメなら力を合わせなきゃ」
これでは足手まといにしかならない。
「……そう、私も言おうと思っていました。1人でやらせてくれと」
「──ユウキ?!」「──ユウキさん?!」
ユッキーは何を言って……。
志乃ちゃんも亜李栖ちゃんも驚いてる。
「1人で行きはしません。しかし、1人で闘わせてほしい。雅たちにはそれを見ていてほしい」
「優姫……ミヤビちゃんなしでやれるのか?」
そんなの認められるわけない。
一緒にいて見てるだけなんて出来るわけない。
「──はい。私があの怪物を殺します」
でも、ユッキーは本気だ。
今の殺すには何の混じりけもない。冗談でもない。
本気の本気でそう思ってる。
「実を言うとあの瞬間、私の剣は当たればあの怪物を殺せていた。血の一滴も流れていないあの怪物を。弱点も分かっていますし……。何より、同じ相手に二度の敗北など私は自分に許しません」
尽きない魔力。それでできている身体。
元からある肉体の能力に魔法。
魔力は攻撃にも転じ、魔法にも変わる。
1人で完結している生き物。
戦うという点において一切の無駄もない。まさに怪物。
「雅は1人で背負いすぎです。世界なんてものを1人で背負っては潰れてしまいますよ? ですから、明日は私に任せてください。信じてください」
信じてください。とか言われたら信じるしかない。
もう大したことは出来そうにないし……。
「わかりました。ユッキーを信じて任せます。志乃ちゃんも、亜李栖ちゃんもそれでいい?」
これは初めてかもしれない。
誰かに何かを任せるなんて。
「ウチらは一瞬でやられてるからな。嫌だと言ってもな……」
「はい……──しかし、それならそれでやりようもあります! みんなで露払いでもしましょう」
そうだね。ユッキーの邪魔をさせないように、ユッキーのフォローをしよう。
「ミヤビちゃんは無理だろう。フウのせいで一般人になってしまったぞ?」
「風を50。水を50。それぞれ封じたから、みやびに残る魔力はカスくらいだよ!」
「力の制御が出来ていれば良かったのにな。これでは1パーセントの制御どころではない。全開でやって1パーセントくらいしか力はでないぞ」
そんな気はしていたけどさ。
1パーセントでは魔法なんか使えない。
「ねぇ……これは怒っていい案件だよね?」
言ってくれれば良かったんだ。
そうすれば納得したかもしれない。
「相談なしにやったからな。流石に止められないな」
「ふふふふ、覚悟があってのことでしょうから大丈夫でしょう」
殴ったり、叩いたりはしない。
でも罰は必要だと思うんだ。
「フウ。これでは私も雅たちを止められません」
「諦めろ。滅茶苦茶にされて反省するんだな」
撫でるのと抱きつくのは禁止されているから、どうしようかな? くすぐろうかな? 全力で。
「……嘘だよね? しの? ゆーき? 2人はフウを助けてくれるよね?」
「──フウちゃん」
あたしが正面を。亜李栖ちゃんが後ろを。
「ひっ──?! その手の動きはなに? 小学生に何をするつもりなの! 犯罪だぞ! 通報するぞ!」
フウちゃんは後ずさるが、亜李栖ちゃんにガッチリと捕獲される。
これがチームプレイというやつだ。今のは口に出さなくても分かった。
「大丈夫だよ。少しくすぐるだけだから……」
「ちなみに、雅さんは手先が器用なので、指がそれぞれ別な生き物のように動きます。もうスゴイです」
以前にふざけあって、これをやった事がある。
二度とやるな! と志乃ちゃんに怒られてた。
以来、封印してきたが他は思いつかないから。
「ごめんなさい。ほら、謝ったから許して?」
「フウちゃん。世の中には、謝って済む事と済まない事があるんだよ。一個勉強になったね」
「にゃ、にゃーーーーーーーーーーっ!」
フウちゃんをくすぐり倒しました。
もうこれでもかというくらいに、くすぐってやりました。
息は切れ、涙流し、ごめんなさいを繰り返してもやり続けてやりました。あたしはとても満足しました。
この後、フウちゃんは部屋に閉じこもってしまった。
ご飯になったら呼びにいこう。カギは壊れたままだから。
♢
フウちゃんをくすぐり倒し、真面目に明日の話をして作戦会議は終了した。
フィールドの加護とやらで死にはしないのであたしも行きます。ユッキーの邪魔にならないようにします。
夜の練習はやらないと姉が言っていたので、今日はもうご飯を食べて寝るだけです。なので、明日に備えて休むというか、すでにお昼に3日分は戦ったと思う。
「しかし、ミヤビちゃんはいらない子……」
フウちゃんに装着されたリストバンドの枷は大きい。自由が効かないくらいに。
……てっきりミヤビちゃんスペシャルで倒すんだと思ってた。あれなら黒ブタマンだって倒せたと思う。
雲母さんには効かなかったけど、姉は黒ブタマンより強いから。
「はーい、みんなお薬の時間だよ!」
ソファーでゴロゴロして、コーラを飲みながらテレビを観ていたら、隣のオフィスのドアが開いた。
明らかにおかしなセリフと共にだ。
あと、テレビを観てはいるが内容は頭に入っていない。みんなに心配されないように平静を装っているだけだ。
「「「…………」」」
テーブルで学校の課題をやっていた志乃ちゃんたちも、おかしなセリフを言った姉を見ている。誰も何も言わないけどね。
「ほら、飲め」
「飲むわけないじゃん。なんだその液体……」
「いいから飲め。ユウキにモテるようになるぞ?」
「──いただきます!」
惚れ薬なのかな。そんなものが実在するとは。
水の魔法にあるのかな?
見るからに真っ青な液体にそんな効果が──
「何かも分からずに飲むな! バカなのかお前は!」
「今のは卑怯です。雅さんには特に」
コップに入った液体に手を伸ばしたら止められた。
「ちっ──」
「また騙したな!」
くそーーっ、一瞬我を忘れてしまった。
この姉はちょっと油断するとすぐこれだ。
「なんなんですか。この合成着色料は一切使用していません、とは絶対に言えない液体は?」
青い。青汁とかの青ではなく本物の青。
コップの向こうが見えないくらいに青い液体。
「ある種のポーションというやつだな。調合してみた。これ飲んで明日に向けて力を付けてほしい」
「せっかくだけどHPはMAXだからいらないや」
お断りしよう。
危ない薬を飲んで死亡とか洒落にならない。
「ミヤビちゃん。私は何もできないから……。これくらいしか、みんなにしてやれる事がないから。だから……」
うわぁ、嘘泣きだ。
普段そんなキャラじゃないじゃない。
「そんなに思いつめていらしたなんて……」
──亜李栖ちゃん?!
バカな。こんな芝居に騙されるだと。
「せっかくだから貰おう」
──志乃ちゃん!?
普段とのギャップか? あまりの違いにか?
「飲むの、その液体を飲むの? 2人とも騙されてるよ!」
たしかに心配はしていると思う。
作戦会議後も、あれこれユッキーに言っていた。
その姿は姉と言って間違いないものだった。
みんなそれを見ていたし、真面目な顔をしていたし、けどね──
「──いいから飲め!」
「──むぐっ!」
渋っていたら無理やり口に入れられた。
液体がコップから口に向かって飛んできた。
こんなことができるなら、どうやっても逃げようがなかったじゃん。そしてマズっ……くはない。むしろ甘い。
「……何味だ?」
「何味かはわからないけど、甘い」
「成功か。良かった良かった」
「──おい!」




