チームワーク ④
♢41♢
立て直す隙を与えずに、銀の銃弾は次々と発射される。
凍りついた足のままの雅には、全部を躱すことも防御することもできないでいた。
「──痛い! バンバン撃ちやがってーー」
「粘るな。オモチャではやはり駄目か。ミヤビちゃんだし、1発くらいならいいかな?」
いつのまにか弾が装填されるフリントロック式の銃に、雲母が自ら弾を込める。
銀色ではない弾が装填される。先のような青い色の銃弾が。
「その銃なんなんだ! 嫌な感じがするぞ。黒ブタマンみたいな感じが」
「それは銃じゃなく弾にだよ……。この銃自体は、ただのオモチャだ」
玩具から本物の弾が出るはずも、火薬を必要とすることもおかしくはあるが、玩具というのも間違いではない。
撃たれた雅はピンピンしているのだから。
「また、凍るやつか。くそー、あの液体に秘密があるようだけど。何なのかも分からないし、こうなったら一か八か……」
空気を叩き横へ。タワーマンションの側面へと移動し、側面に着地する。
身体は横を向いたままだが、吸い付いているように自然に停止する。
「……足を止めた? とうとう諦めたかな?」
自ら足を止めるという愚を犯す。
諦めたと言われても仕方がない。
一定範囲を凍らせる弾丸。足が止まっていれば、この場にいない3人のように、身動きを封じられる結果になる。
──パン!
発射音がしてから雅は側面を蹴る。
上でも横でもなく前へ。相手の方へと。
「これなら凍らない! どうだ、参ったか!」
「確かに凍りはしないが、近寄ってきて私に勝てるのか?」
逃げるのではなく前へ出る。
銃弾は後方で弾ける。
「離れて撃たれるよりマシだ!」
白い靴に付く羽に、力が集約される。
そこから繰り出されるのは残る右足での蹴り。本気の一撃である。
「ははっ──」
急速に迫る雅を、迎え撃つ格好の雲母。
両者の距離が半分になったところで異変が起きた。
「──ぶっ」
鈍い音がして、雅が何かに顔面から衝突する。
2人には見えないが、間に仕切りのようなものが突如として出現した。
「また、これか……。忘れてた。空中にもなんかいたの……」
完全に勢いあまった雅は激突し、そのまま落下していく。
あまりに呆気ない終わり方。その最後に雲母は激怒する。
「──あのチビ助が! ビビっていなくなったと思っていれば……──そこか!」
何もないところへと引き金を引く雲母。
「──うにゃ?!」
弾は命中したのだろう。謎の声が上がる。
「フウ、余計なことしやがって! あとで説教してやる!」
見えないものを雲母はそう呼んだ。
♢
何も無い場所に、何も無かったところに金属が浮いている。無数の輝きを使い、それは加工されていく。
エッグによる魔法は、使用者のナニカを使用して発動する。ナニカが魔法に変わるのだ。
「まだ、掛かるのか? だいぶ時間掛かってんだけど……」
『もう少しなんだ。あとはこれを何処に取り付けるべきか……悩む』
エッグを使用した志乃は、カムイなる男により、望んだものが出来上がるのを待っている。
長い時間が経過している気がするが、自分には魔法のことはよく分からない。だから、大人しく見ていたがそろそろ限界が近くなっている。
「いったい何を──」
志乃からは、もう出来上がっているように見える。
しかし、カムイはもう少しだと言う。
今まで、作業に没頭していたカムイに話しかけなかった。どうせ考えていることや、思ったことは筒抜けなんだから。
『この花飾りを何処に取り付けるべきか』
「…………」
しかし、この場所にも慣れてきた志乃はスタスタ歩いていき、背後からカムイを蹴り飛ばした。
『──いたい! 何するのさ?!』
「そんなものはいらない! もう、とっくに出来てるじゃないか!」
『えっ……いらないのかい? 装飾なしだと、イカツイ感じになってしまうが』
迷いなく頷く志乃を見て、カムイは驚愕の表情を浮かべる。
「誰に見せるわけでもない! 変なとこにこだわりやがって……」
『──バカな。花飾りを喜ばない女の子がいるなんて。これは、自分が歳をとった考えてしまうな』
あったならそれも構わなかったが、無いならそれも構わない。どちらでもいい。これが正解である。
「急いでるんだ。これ、貰っていくぞ」
『せっかちな女の子だ。よろしい、行きたまえ。使い方は説明せずとも理解できる。あとね。盾もただ攻撃を受けるだけでは勿体ない。こちらも細工しておいた。サービスというやつだ。重量が気になるが、キミは土の属性だし魔力を効率よく分配すれば大丈夫だ。あっ──、そっちも術式は組み込んであるから、手に持つだけで使える。それと話は変わるんだけど──────etc.』
「ありがとう。じゃあな……ところでオマエはどうなるんだ?」
1人で喋り続けているカムイに、お礼だけ言って帰ろうと思った志乃だが、この男がどうなるのか気になった。
『────────。なに? ボクがどうなるのかか……消えるんじゃないか? ボクが生きているなら身体に戻るだろう。このボクは、約38万個に分割されたボクだからね。役目を終えれば消えるのが道理だ。そして消えれば肉体へと戻るだろう。まさに働きアリのように巣に帰るがごとく────────etc.』
帰り道の心配はいらない。
よく知る声のする方に行けばいいんだから。
志乃は一礼してその方向へと歩いていく。
カムイが気づいた時には、もう誰もいなかった。
「──というわけだ。あれっ、──いない! 人間というのはせっかちでいけないな……。しかし、故に人なんだろう。寿命というものを超越したボクたちには、とても理解できない事柄だな。キミもそう思うだろう?」
カムイは、友達に話しかけるようにそう言った。
♢
意識が戻った時には理解できていた。
どうすればいいのかを。どう使うものなのかを。
右手に金属の感触はするが、元からあったように、違和感なく馴染んでいる。
ずっと知っているもののように感じた。
ガシャーンと音を立てて、手足を拘束していた氷はガラスのように砕けた。
離れた位置にいたユウキの氷も、動くことなく破壊される。
「なんか長かった気がする……」
志乃は使い方は分かっても、他は何も覚えていなかった。それは不必要なことだからだ。
「1分くらいでしたよ?」
「1分では無いだろう……」
未だに重なり合ったままの体勢の2人。
亜李栖は氷は砕けだと分かっていて動かない。
「いい加減に退いてくれ」
「えーーっ」
自分からは動かない亜李栖を押しどけ立ち上がる。
「座ってないで行くぞ。あの怪獣をぶん殴らなくてはいけない」
「……それでですか? 流石に雅さん死んじゃいますよ」
金属製の籠手。それが片方だけ。
一切の装飾のないその姿は無骨と言っていい。
形は籠手だが使い方は異なる。
もちろん籠手のようにも使えるだろう。
しかし、そんな物をあの男は作りはしない。
「じゃあ、デコピンくらいにしておくよ」
「それも死ぬと思いますよ……」
氷は振動により破壊された。
籠手から伝わった僅かな振動は、増幅し拡散する。
その威力は拘束を破壊して尚余る。
扱うには筋力も必要になるが、抜かりはなく肉体に付加される力も大きくしている。
土の属性の力を引き上げている。
エッグの使用者が作ったものとは違う、特別製。
気まぐれな男が作り出した遊び心がある武具。とても、らしいと言わざる得ない代物だ……。




