チームワーク ②
♢40♢
『──さん!』
指示されたタイミング。それに完璧に合わせて、指示された2人は左右に逸れた。
どちらも踏み込んだ足の方向に体重をかけて、左右へと移動する。
『志乃ちゃん、ファイト!』
何も気取られないようにユウキは大技を放つフリを、亜李栖は次の次を考えて。それぞれが行動した。
「なっ──、こんな馬鹿なことすんのはミヤビちゃんだな?!」
流石の雲母もこの行動は読めず、読めるはずもなく、ユウキたちが避け開いたところに急速に迫る大楯を横に回避する。
「みやびーーっ、あとでぶっ飛ばすからなーー!」
秘策なりがあると思ったからこその、この行動だったわけだが指示した雅が行ったのは、抱えていた志乃をぶん投げるという予想外の行動だった。
『大丈夫だって。ルートは予め決まってるし、その盾は飾りじゃないでしょ?』
正面に盾を構える志乃は、水で形をなす龍へと衝突する。その衝突はかなりの威力だったらしく、志乃と水龍はずっと遠くまですっ飛んでいってしまった。
「……もう少し、やり方がなかったんですか?」
水龍はただの水へと戻り、着地した志乃はこちらに向かって怒鳴っている。
無論、着地点まで計算してあってのことではあるが、それは伝えられていないので、やられた方は突如として投げられたのだから抗議は上がる。
「いい案の間違いじゃなくて? 盾に潰されて龍が弾けたし、今のは大成功でしょ?」
雅は志乃の怒鳴り声を聞き流しながら、自分はユウキたちのところにふわりと着地した。
「シノが可哀想です。あとでぶっ飛ばされても助けませんからね」
脅威を1つ消せはした。だけど見ていた側からも無茶なやり方だった。
この件には、誰からもフォローはしてもらえないだろう。
「無茶するなぁ……。だが、今のは中々上出来だった。シノ以外は考えて動いていたからな。まぁ、聞いてたら絶対に暴れただろうがな」
「余裕があるね。前に3人。後ろに1人。挟まれてしまったというのに」
「余裕があるんじゃなくて、────余裕なんだよ!」
位置関係は雅が言った通り。
しかし、有利というわけではない。
雲母には本当に余裕があるし、3人の中でユウキ以外の2人は反応ができなかった。
「「消えた?」」
錯覚でしかないが、そう見えた。
直後、金属がぶつかる音がして2人は音がした方を向く。自分たちの真後ろを。
「違います。今のは歩法術です。くっ──」
「少し速く動いてみただけだそ? あのボスキャラはもっと速かった。このくらいついてこれなくて、どうやってアレと戦うんだ?」
刀ごとユウキが吹っ飛ばされ、残る2人にも硬化による攻撃が振るわれる。
「空域圧縮と加速」
雅は空域内の空気を全方位から、雲母に向けて押し付ける。受けた側は急に身体が重くなり、動きはスローになっていく。最後には動けなくなる。
「──好機!」
逆に身体の軽い亜李栖は、好機と見るや斬りかかる。選択自体にに間違いはないが、それは相手による。
「舐められたものだ。 ──吹き荒べ」
しかし、動きはスローにはなったが止まらない。止まっていない。
「亜李栖ちゃん、ダメだ!」
気づいた雅の言葉はもう遅い。
拳を握ってない方に持っていた、緑のカードが光り風が吹く。
「────っ!」
横殴りに風が吹いた。雅が押し固めた風が亜李栖へとぶつかり、スローだった拳も速度を戻し、受けた身体が飛んでいく。
「ミヤビちゃんは何も、風の全部を常時操っているわけではない。同じ属性なら割り込むことも逆手に取ることも可能だ。今のキミの状態では、細かい制御ができていないからな」
そのために雅は特訓していたし、そのための合宿だった。そして、まだ何も覚えていない。
誰彼構わず巻き込んでいいなら、雅は今のも対処できた。そんなことを出来たならの話だが。
「雲母さんの方が怪獣じゃん。どういう仕組みなの? 実はラスボスとかだったの?」
「ミヤビちゃんと違って器用なだけだ。さて、1人になったな……」
「みんなすぐに戻ってくるよ」
「そう思うか? 私がそうさせると思うのか。4人いるんだ。各個撃破が望ましい」
雲母の手元からポタリと一滴雫が垂れた。
ビンから一滴、深い青色の雫が落ちていく。
「──何する気だ!」
「さあね──」
止めようとした雅の咄嗟の風の操作は、同じような力により無効化される。最大威力のゼロ距離での風の刃も殴り壊される。
「それはもう何度となく見た。対処は考えてあったし、相性で負けているのなら付け足せばいい。そう思わないかい?」
鉄のように硬化した両腕に赤みが加わる。
まるで熱せられているように赤くなっていく。
「怪獣め……」
風は火に弱い。土に火を足して不利を消した。
1つより2つ。2つより3つ。
属性を操れた方が有利なのは言うまでもない。
「近接戦闘の技術も、使える魔法の種類も私が上。さて……どうする?」
♢
地に落ちた青い雫。雫が落ちた場所から三方向に青色が伸びていき、行き着いた先でその効力を発揮した。
いつのまにか濡れていた、いつからか広がっていた水に反応し凍てつかせる。
「冷たい。冷たい。冷たいです! ──夏なのに!」
「その前に何か言うことないのか? 亜李栖……」
「重いですか?」
飛んできた亜李栖を受け止め、体勢を崩し倒れた先で凍りついた。志乃たちは重なり合って固まっている。
腕と足がそれぞれ固まっていて身動きが取れない。
「重くはない。もういいや……。ユウキは大丈夫か?」
近い場所で同じように動けなくなっているユウキ。2人より頑丈に拘束されているようだ。
「そちらと同じく動けないですが問題ないです」
「これ、どうしよう?」
「私が溶かします。火の魔法は私しか使えないでしょうから」
ユウキが火。亜李栖が水。志乃が土。雅が風。
ユウキだけはドレスにより4つ全てを扱えるが、これが今の4人の力の分類だ。
「待て。実は結構無理してるだろ?」
「……よく分かりましたね」
ドレスの力を使うには自前の魔力を消費する。
力の総量が少ないユウキには、何度も魔法を使うことはできない。
脱出に力をさけば致命的なのは明白だろう。
「なんか、そんな気がしたんだ。勘が冴えてるっていう感じかな」
「勘……ですか」
「申し訳ないが、ウチらには息まいたところで大したことはできやしない。結局はユウキに頼ることになってしまう。だから──」
志乃が優れているのは勘ではなく感じる力。
本人は気づいていないが、それは雅を上回る。
そして自身の武具とも噛み合っている。
例えば攻撃が飛んでくる箇所を予測できたなら。
方向と力を正確に測れたなら。
受け止める以外に盾を利用できるだろう。
「──2つめのエッグを使おうと思う。どっちみち亜李栖が飛んでこなきゃ、そうしようと思ってたんだ」
「もしや左手に握っているのはそれですか?」
「そうだよ。今まさに使おうとしてるところに、亜李栖は飛んできたんだ」
魔法の強化に使用した亜李栖。
不思議な靴を作り出した雅。
志乃はそれを間近で見てきた。
自分が一番何もできていない。
ずっと内心そんなふうに思っていた。
「だから、この場くらい何とかしたい……」
──自分が。
「いいのですか? 私ならこの拘束を破れます。それなのに、ここで使ってしまって」
「いいんだよ。だから、ユウキには力を残しておいてほしい。違うか……あたしに任せてほしい」
雅にも、ユウキにも、自分の力は必要ない。
自分の助けなどなくても大丈夫に見えるから。
「亜李栖は何やかんや戦いに向いてる」
「そうですわね。志乃さんよりかは向いてると、自分でも思います」
でも、彼女も友達なんだ。みんなと同じようになりたいし、その役に立ちたい。
そんなふうに思いもするだろう。
「お前らといると、役に立ってないのは自分だけだと思う時がある」
「それは違います。雅は貴女だから無茶ぶりをするんですよ?」
それはそうなのだろう。
志乃だから、雅は頼るのだ。
「だけど実際そうだし、そう思うんだ」
「「…………」」
「違う。悪い意味で言ったんじゃないんだ。だから、役に立てるやつに、頼られるやつになりたい? 雅ならそんなふうに言うかな?」
雲母の本質は水。ならば有利に働くのは土の属性。




