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 晩ごはん ③

 ミルフィーユ鍋とは豚バラを白菜で挟む。これをなん分割かに切り、鍋に敷き詰めていく。たったこれだけでできる簡単鍋だ。


 1つポイントをあげると白菜の固そうなところは、外側ではなく内側に入るようにした方がいい。

 意外と柔らかくなりにくいから、火の真ん中に固い部分が来るようにした方がいいと思う。めんどくさければそのままでもいいと思う。


 味付けは、だしに醤油と塩とシンプルなのがいい。

 作るのも楽。1人でも大人数でも美味しい鍋。


「ミヤビちゃん。さっきから何をやってんだ?」


 鍋の仕込みなどとっくに終わり、カセットコンロも鍋もないと帰り道に知り急遽買ってきたコンロで鍋を火にかけて、現在煮えるのを待っている。


「大根おろしと格闘しているように見えます」


 シメには雑炊がいいというので、鍋の他には何も作らなかった。だから、暇だった。楽すぎた。

 なので違うところに凝ってみることにした。


「鍋はそろそろいい感じだと思うから、ネギ入れて」


「あぁ……。もう一度聞くけど、さっきから何をやってんだ?」


 最後にネギを入れるのを雲母(きらら)さんに頼んだ。

 あたしは手が離せない。集中しなくては……もう少しで完成するから。


「──できた!」


「これは、何?」


「大根おろしだよ。お好みでどうぞ! あっ、それかこれを上にのせる?」


 思わぬ力作になってしまった。

 写真撮っておこう。あとで志乃(しの)ちゃんに自慢しよう。


「これ……クマか?」


「そう、シロクマだよ。思ったより巨大になってしまった」


「可愛いですが、結局は食べてしまうんですよね?」


 大根おろしで動物を作る。これを一度やってみたかった。1人ではやる気にならなかったけど、今日はみんないるしやってみた。


「結局は食べてしまうけど写真には残せる。志乃ちゃんに自慢できる。早速送ろう」


 正面から1枚。横からも1枚。シロクマと一緒に1枚。

 キリがないな。亜李栖(ありす)ちゃんの気持ちが分かる。


「本当に撮ってるよ。ユウキ、皿をくれ。フウに持っていくから。まったく、アイツも出てくりゃ楽なんだがな……」


「私が持っていきますよ。シロクマはどうしましょう?」


「──まるごとくれてやれ!」


「いえ、(みやび)が一生懸命に写真を撮ってますし。こんなに大根おろしは、いらないでしょう」


 映える。これは映えるよー。

 かき氷より映える。若い衆より映える。


 ──そうだ。アイコンはシロクマにしよう!


「ミヤビちゃんは大根おろしに夢中だし、私たちは先に頂こう。最悪ミヤビちゃんにはシロクマだけ食べさせよう」


「姉さん。それは可哀想です」



 ♢



 夏に涼しい部屋で食べる鍋というのはいいものだ。冬にコタツで食べるアイス的な感じ。

 これなら鍋もいいな。次は全員いる時にやろう。


「ご馳走様でした。それじゃあ私は作業に取り掛かる。気が散るから入ってくるなよ」


 食休みもほどほどに雲母(きらら)さんは立ち上がる。

 片付けを手伝う気がないのがあれだけど、ユッキーのためだから大目にみよう。


「まさか姉に裁縫のスキルがあるとは思わなかったな。意外すぎる」


「縫い物なんてやるように見えるのか?」


「見えないから意外だと言ったんですが?」


 だって、ユッキーの魔法少女衣装を直すんでしょ。つまり破れたところを縫うんじゃないの?

 まぁ、赤いやつはフリフリではないので、イマイチ魔法少女感はないけどね。


「1つ講義してやろう。外装魔法(がいそうまほう)というのは本当に物が存在するわけじゃないんだ。見えているものは術式と魔力によって存在するように見えるだけ。着替えてるように見えているが、実際にはユウキの服は何ら変わってない」


「……でも、スカートの丈とか。明らかに服のシルエットが変わってるのは?」


 スカートじゃなかったのにスカートに。

 スカートだったのにスカートじゃなくなったりしてたよ。


「実は衣装が変わる一瞬、裸になってるのかもな。カットされているだけで変身シーンは存在するのかもしれない……」


 そんな────


 どうやったら、そのシーンをみれるんだろう。

 スローモーション機能とかないのかな。


「姉さん。嘘を教えるのはやめてください」


 えっ……嘘なの? ミヤビちゃんの純真を弄んだの?

 ニヤニヤしているから嘘なんだ! この女はーー!


「──騙したな、子供の夢をぶち壊しやがって!」


 アニメのように脱げてから着てるんだと思ったのに。そのシーンを見たかったのにーー。


「くくっ……こんなの信じるなよ」


「ぬわぁーー! その買ってきた袋に秘密があるんだな。見せろ! その秘密を見せろ!」


「あっ、──こら!」


 やけに分厚い、この本でも入っているような袋に秘密がある。わざわざ買いに行ってきたくらいだし…………んっ? 本当に本が出てきたぞ?


「破いたりしたらオジャンなんだ。やめろ、返せ」


「この本なに? 鈍器?」


 この本で殴られたら死ぬと思う。そんな分厚い、何語だか分からない文字で書かれた本が出てきた。

 それになんていうか、持ってるだけで頭が良くなりそうな感じ。


「それは魔道書というものだ」


 ……ゲームかよ。


「ゲームかよ。あっ、口に出てしまった」


「ゲームふうに言うと、使うと賢さが増えたりするやつか? あながち間違いではない。読めば頭が良くなるだろうし、理解すれば頭が良くなるし、下手すると持ってるだけで頭が良くなるかもな」


「どうせそれも嘘なんだろ?」


 嘘くさーー。確かに魔道書と聞けばそう思える。

 これ自体が魔法みたいなものなんだとも分かる。

 しかし、姉の言うことを鵜呑みにはできない。


「めんどくさいけど説明してやろう。まず、ユウキのドレスはこのカードによって作られている」


「……紙じゃん」


 ユッキーの持ってる真っ赤なカード。

 これで変身するのは知ってるけど、服がカードでできてるわけない。


「紙じゃない。よれないように、濡れないように、破れないように加工してある。さて、この紙には何が書いてある?」


 何も書いてない。見る限り全部が真っ赤。

 色が塗ってあるなら分かるけど、何も書いてはいないと思う。


「こうすると、どうかな?」


 雲母さんが触れると赤いカードに光が灯る。

 するとユッキーが変身の際にくぐる魔法陣が現れた。


「分かったか、この魔法陣はユウキが行なっている魔法じゃない。このカードに組み込まれた魔法なんだ」


「つまり、ユッキーは魔法を使ってない?」


 少しの魔力にあのカードは反応する。

 衣装になるやつも、爆発するやつも、水が出るやつも。おそらく全部同じ。


「そうです。私には魔法は使えない」


「このドレスは魔法の無いこの子に、私が与えた魔法だ。ユウキ自身の魔力量は並以下。ユウキが魔法を使って戦うにあたっては補うものが必要だった」


 これが少ない力で戦える理由。

 ユッキーに魔力を感じない理由。


「ドレスは分かった。でも、魔道書は何につかうのさ」


 本なんてどこに使うの? ユッキーが読むんだろうか?


「だから、魔法陣を作るのに使うんだよ。真っ赤に見えるこのカードには、隙間なくびっしりと文字が刻まれている。その結果が真っ赤だ。赤色は火を意味している。魔法を生み出すのに必要なものが、カードには全部刻んであるんだ」


「……は?」


「ユウキのドレスは、いくつもの文字列により作られているわけだ。カードを分析すると表面はプログラミング言語みたいになっている。この魔道書は中身だけパチって使う」


 おやおや、予想外の使い方だね。

 魔法陣を作るのに魔道書を使うか。普通、逆じゃない?


「パチるって何、どんな意味?」


「この場合は盗むという意味だな。魔道書をパッチワーク的にこう、必要な部分だけ切り取ってくっつけて、壊れた部分の修復に使う。この魔道書はこれがオリジナルらしいが仕方ない。ユウキの方が大事だ」


 確かに……。それには納得するしかない。

 古本1冊にユッキーは代えられない。


「時間を掛けられないから、魔道書にはお亡くなりになってもらう。これを犠牲にし壊れた箇所の修繕と、可能な限りの強化を施す」


「雲母さんは何すんの? 魔道書を切ったり貼ったりするの?」


「そんな時間の掛かることするか! こうするんだ」


 開かれた魔道書。その目次だと思われるページ。

 姉が指でなぞると、その目次の文字が動いて本から抜け出た。 ──抜け出た!?


「書いた人物。込められた魔力。一冊で書として成立しているわけでなく、その一部分であっても効力を──」


「──そんなことより、それどうなってんの!? 本の文字が動いてるよ!」


「これか? 正確には、動いてるのは文字じゃなくてインクだ。インクってのは要は水だ。このくらいはできる」


 水を操る魔法使いだとは思っていたけど、本の文字を動かせるとは思わなかった……。

 ビックリした。魔法というのは使い方次第なんだね。


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