晩ごはん ②
クソゲーの運営のことでメソメソしていても仕方がないので、切り替えて買い出しに来た。
ここまで運転して来た姉は買うものがあると、あたしたちを降ろしたら行ってしまった。1時間後に迎えにくるらしい。
「スーパーマーケットに来るのは初めてです」
雲母さんがいないのでユッキーと2人なんだけど、スーパーの入り口でユッキーはこんなことを言う。
本当にあの家はどうなってんだろうね。
「いつもはどうしてたの?」
「コンビニか、姉さんが買ってくるかです」
やはり姉がダメらしい。姉はダメダメだ。
ユッキーはコンビニには行き慣れているんだろう。
しかし、スーパーマーケットに行ってことないってどうなのよ? この5年間で1回もだよ?
「ヤツのことは分かった……。これからはユッキーが買い物に来た方がいい」
「わかりました」
「うん、そうしなさい。夕飯はその駄目な姉のリクエストで鍋にします」
ユッキーのために徹夜するらしいので、雲母さんの食べたいものを聞いた。
そうしたら、夏なのに鍋が食べたいと言い出した。
『今年テレビでやってたやつが食べたかったんだが、売ってなくてな。結局、見ただけになってしまった。だから、ミヤビちゃん作って』
って言われた。
説明すると、姉が食べたいと言ったのはミルフィーユ鍋だ。確かにテレビで見た記憶がある。
それに難しくもない。なのでOKした。
「……何を買うんでしょう?」
「豚バラと白菜。あとは日割りのやつを見て。あー、タッパーも買わないとだった!」
「これは必要ですか?」
これ、とは買い物カートのことだ。
どうやら使いたいらしい。カゴだけで足りるけど、ユッキーが押したいなら止めるまい。
「うん、持っていこう。混んでるし、買い物で疲れるのも嫌だしね」
「カゴを載せて……」
「──じゃあ、行ってみよう! 最初はタッパーから」
忘れるとアレだからさ。最初にカゴに入れておくよ。
このあとは特に何もなかったので省略。
別に何も起きずに、買い忘れもなく、ユッキーとも特に何もなく……買い物は終了しました。
期待などしてなかったけどね、はぁ……。
レジが混んでたけど買い出しに1時間など掛かるはずもなく、姉待ちになってしまう。
♢
姉が迎えに来ない……。
あたしたちは時間通りに買い物を終え、こうして待っているというのに。姉は約束の時間を過ぎても一向に来ない。
携帯にも出ないし、どこに行くのか聞いておけば良かった。
「雅、暑いならあそこで待ってましょう」
ユッキーは涼しい顔しているけど、あたしは暑い。
ずっと我慢していたんだけど、ユッキーにそう言われて断る理由はない。
もう夕方だというのに暑い!
8月になったら本当にとけるかもしれない。
「冷たいものでも買いましょう。ほら、レジ袋もかして──」
ユッキーに持たせまいとしていた、1人で両手に持っていたレジ袋も奪い取られた。
見栄を張っていたのを見破られたようだ。
「貴女は意地っ張りですね。何故、半分持ってくれと言わないんですか?」
「カッコつけなくてはならないんだよ」
あなたに少しでも自分を良く見せたいんです。
「意味ないからやめなさい」
「……はい」
もう、意地を張るのはやめます。
いいとこ見せようとして、逆にカッコ悪いとか。
頑張るだけ無駄だったらしい。
「私は、ちゃんと半分持ってくれと言う人の方がいいと思います」
「それは、そういう人の方が好きだということかな?」
「そうかもしれません。ほら、何にしますか?」
スーパーの隣が小さなフードコートのようになっていて、食べ物を売っている。自販機もたくさんある。
屋根がついてテーブルもあるしベンチもある。これなら少し休んで帰る人もいるだろう。
「コーラがほしい。シュワシュワすれば回復する気がする」
「私が買ってきますから座っててください」
あたしと荷物を置いて、ユッキーが買ってきてくれるらしい。もう無理なのでお言葉に甘えよう。
「めんぼくない……」
ユッキーが優しい。
今日のユッキーは特に優しい気がする。
あぁ、日陰は涼しい。生き返る。
このテーブルも冷たくて気持ちいい。
「はしたないですよ。他人に見られますからやめなさい」
テーブルに顔を押し付けてベターってなってたら怒られた。言われると、確かにはしたない気がする。
「ごめんなさい。嫌いにならないでください」
「何を言ってるんですか。はいこれ」
差し出されたコーラを受け取り、ユッキーは何を買ってきたのかを見る。
……ソフトクリームだと?
気づいてはいた。ソフトクリーム型の置物があったから。
「あたしもソフトクリームがよかった……」
「自分でコーラがいいと言ったじゃないですか」
言ったけど、見てしまったら自分も食べたくなってしまう。コーラもいいけどソフトクリームもいい。コーラフロートだったら尚良い。
「仕方ないですね、ほら──」
ユッキーはかき氷の時のようにスプーンで、あーんってしてくれる。しかし、これは……。
「また、食べないんですか? アリスのかき氷は食べたくせに……」
「──そんなことないよ?! いただきます!」
あの時もユッキーは、あーんしてくれた。
恥ずかしくて食べなかったけど、今日は逃げられない。
2人きりだし……──あーっ、余計なこと考えたら余計に恥ずかしくなってくる。
「美味しいですか?」
「美味しいです。とっても!」
おや? 今のは最初の一口だったんだ。
なら大丈夫。恥ずかしくない!
「それは良かったです……本当に美味しい」
あたしが最初に口をつけたスプーンをそのまま使って、ユッキーがソフトクリームを食べた。
これは間接キスというやつだよね?! ユッキーは気にしてないけど、あたしは気にしてしまうーー。
「──あっ、姉さんも来たようですよ」
駐車場が正面だったユッキーが先に姉に気づいた。
遅れてフードコートの真ん前に停められた車に、あたしも気づいた。
雲母さんは姿が見えたあたしたちに気づいて、あの位置に車を停めてきたんだろう。
「着信があったのは分かったんだが、運転中で出られなかった。買い物は終わったのか?」
「終わりました。雅が暑そうだったので日陰に移動してきたんです」
「おそいよー、もう少しでとけるところだった」
外からの暑さと、中からの暑さでとけるところだった。姉が来てくれて助かった。顔は赤くなっていないだろうか?
「いいな、ソフトクリームか。私も買ってこよう」
子供か! と思わなくもないけど、美味しいから仕方ない。だから一口もらおう。一口かじりつこう。




