晩ごはん
♢38♢
お昼はユッキーリクエストによって作ったわけだが、そのハンバーグはいい出来だった。美味しかったし、ユッキーの初料理を雲母さんも喜んでいた。
しかし、今日ここまでの感想を述べると、なんだか今日は朝からずっと料理してるな……。である。
暇だー、こんな無駄なことを考えるくらいには暇だ。お昼ごはんのあとも、やはりする事ないのでテレビを見て過ごした。
姉はお昼寝すると言ってオフィスに引っ込んでしまうし、ユッキーも同じくお昼寝すると部屋に戻ってしまった。
ユッキーもあたしのように眠れなかったようだし、引き止められんかったのです。
あたしは眠れない……。
テレビもつまらない。
せめてドラマの再放送とかやってくれたらなー。
「買い物に行くか? いや、ユッキーに食べたいもの聞いてないや」
1人というのはこんなに退屈だっただろうか?
これが環境の変化というやつか。
いつもならゴロゴロして、テレビ観てたら幸せだったのにな。身近に誰かいるからかな?
テレビがつまらないのもあるけど、それだけじゃないと思う。なんかモヤモヤしてる。
「いろんなことがありすぎたのも関係あるか。1週間の間にいろいろありすぎたな。そして、その全部にゲートが関係してる。無くなったはずなのに、あった時より影響してる」
始まりの日。7月20日。
きっとあの日から始まったんだ。
ゲートが無くなったからあたしはユッキーと会えたし、友達というものを真に実感できた。
いい事もいっぱいあったし、悪い事もいっぱいあった。
現状、流されてる感はあるけど、風は流れるものだからね。この流れに乗って世界を守ろうと思う。
そのためにはクソゲーに挑まないといけない。異世界ではなく、現実世界のクソゲーに。
まずは、あの黒ブタマンをなんとかしなくては。
「──そうだ! 情報収集しよう」
ボスキャラの情報が欲しい。実物を見たわけだけど、あれが全てではない。あと、ゲートというアプリも欲しいと思っていたんだ。
亜李栖ちゃんに言われて志乃ちゃんも入れてた。あたしもダウンロードしておこう。
「マップは必要だし、周囲の人間も把握できる。これだけでも価値はある」
一発でアプリを発見しダウンロードを開始する。
容量が大きいな。下手なスマホゲームより大きい。これにも何かがあるんだろう。
何故かと言うと、昨日のバトルの中でゲートのアプリが入ったスマホは一台も壊れていなかった。このアプリが生命線と考えると頷ける。
きっと、これは絶対に必要なツールなんだ。
ゲームを進めるのにも、強くなるのにも。
「攻略情報とかもあるんだ。クソゲーなのに……」
モンスターがポップする時間と場所。
手に入る経験値の目安。攻略指南。
モンスターは、昨日の猪以外にもいるんだね。
姉によるとフィールドに充満する魔力により、モンスターは無限に復活する。
しかし、一度に現れる数には限りがある。
当然。独占したい人はいるよね。ゲームだし。
そこではプレイヤー同士で争いになるというわけだ。
「モンスターとプレイヤーは、どっちが多く経験値をくれるんだろうか? レベル上げがより捗るのはどちらなのか? そもそも、ミヤビちゃんは現在なんレベル?」
アプリに自己のレベルを確認する機能はない。
現実ではレベルという概念が分からないし、戦って強くなるのは当たり前だ。
なら、やはり魔法が強くなるんだろうか?
筋力とかはレベル関係なさそうだし。
亜李栖ちゃんは魔法が強くなっていた。
扱える力の量が増えてたし。
つまり魔法を扱える人のレベルは高い。
でも、レベルイコール強さ。ではないな。
エッグによる武器が加わるから。
クソピエロは武器を作るゲームだと言った。
これは強さの差を埋めるために必要なんだろう。
誰と誰の? ……ボスキャラとプレイヤーのかな。
死なない世界じゃなかったら、とんでもない人数死んでそうだし。
「なになに……エッグは最低5つ手に入るか。配ってるヤツが5人いると。クソピエロにふわふわ。黒ウサギ。いや、ウサギは配ってないのか? あんなの歩いてたら騒ぎになってるし。残り3人いると思った方がいいな」
果たして運営は敵なのか味方なのか。
クソピエロは敵だが、ふわふわは敵と決めつけられない。ウサギも分からない。
現状、クソピエロだけが敵か……。
「──んっ? なんか更新された」
急に、読んでいた部分からトップページまで戻された。タイトル画面には更新ありとなっている。
再びアプリを開くと、更新のためのダウンロードが始まった。
「……動画?」
追加された部分。その項目にはNEWと表記されている。
「──なにぃ?! こいつら何をやってんだ!」
動画が大量に追加されていて、その全部がボスキャラへの挑戦。と書いてある。
動画の長さはまちまちだが一目で分かる。全員負けていると。
「あーあー、ミヤビちゃんの頑張りを無駄にしやがって……」
長くて数分。短いのだと1分以内。
そんな時間で黒ブタマンは倒せない。
それより問題は倒されているヤツが多いという点だ。これでは黒ブタマンが回復するのは時間の問題だ。
「チャット。さっきチャット機能ってのがあった。黒ブタマンに関する情報を書き込んでやめさせないと」
早打ちで文面を作成し投稿する。
「──よし!」
リアルタイムで流れているので見てるヤツは多い。
しかし、あっという間に運営により削除されました。ってなった……。
「──何!? 運営の対応が早い! ……それに削除するってことは、知られたら困るってことだ」
ボスキャラを守ろうとしてる? なんで?
でも、なんとかしないと。
黒ブタマンが昨日以上になってしまったら、手に負えない……。
♢
「……しくしく……──うわぁぁん」
夕方になりお昼寝から起きてきた雲母の目に飛び込んできたのは、ソファに顔をうずめて泣く雅の姿だった。
それをとりあえず無視して彼女は冷蔵庫へと向かう。
「──なんか言えよ! どうしたの? って聞けよー」
「寝起きでミヤビちゃんに付き合うのとか無理だ。1人でやってくれ」
ペットボトルのお茶をコップについで飲みほした雲母は、また自分のオフィスへと戻っていこうとする。
「雲母さんだって困る話なんだよ。聞いてけよー」
「……はぁ、なんなんだ。短く話せ」
「運営がクソ」
短くまとめた雅だが、これでは何も分かるはずがない。
「もういい」
「自分が短く話せと言ったのに?! ゲートの運営が邪魔するんだよー」
「──何? 詳しく話せ」
ゲート。運営。その単語に雲母は反応した。
雅は、チャットも掲示板も書き込んだそばから削除されると、頑張ってみたが注意喚起できなかったと説明した。
「ボスキャラに関する書き込みは全部削除か。それに対して、動画はバンバン上げてくると。矛盾してるな。倒して欲しいのか、倒して欲しくないのか」
まるで、どちらの意思も存在しているかのように。
「ミヤビちゃん。諦めな。書き込みが削除される以上、注意喚起も情報共有もできない。どうしてもやりたいなら、ゲートのアプリではないところでやるしかない」
「呟いたりってこと?」
「そうだ。しかし、中の情報を外に持ち出すのをプレイヤーたちは良しとするのかという問題がある」
「どういうこと?」
「裏東京。あの場所に関する情報は一切出回ってない。エッグを手に入れた場所はすぐに分かるが、手に入れたあとのことは分からないんだ。誰も持ってないヤツに教えようとしない。フィールドがどんな場所で何をするのかも、魔法を持っていないヤツは知らないんだよ」
その雲母の話に、雅には思い当たることがあった。
「ふわふわが、そんなことをやってた」
「運営に何かしら人間に干渉できるヤツがいるのは間違いない。これは厄介だぞ。魔法が流行ってはいるが、詳細は不明。唯一の情報源は自分とアプリ。だが、そのアプリもエッグ無しでは使えないときてる」
プレイヤーたちは一切を、プレイヤーでない人間に教えていない。
中の情報はアプリ上でだけやり取りされている。だから、アプリには様々な機能が含まれている。
魔法を持っているとは答えるが、魔法を使って何をするのかは誰も答えない。
まるで何かにそう操作されているように……。
♢
「じゃあしょうがないから買い物に行く。車出して」
「そうだな。今日は徹夜が確定だから、さっさと晩めしにしてほしいな」
「夜更かしして何やんの?」
「ユウキのドレスを直すんだよ。火の装備無しであんなののところに行かせられるか!」
「……止めないんだね」
「止めないよ。だから万全にして送り出すんだ」
「何か隠してるよね?」
「当然、隠してるとも」




