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 敗走と撤退

♢31♢


 ユウキと新宿のボスキャラ。TYPE 獣王との闘いは続いている。どちらも致命傷にできずにいるからだ。

 必殺の一撃は当たらないし、斬ってもすぐに傷が回復する。勝負はつかない。


 相性ではユウキが上。

 力と魔はボスキャラが上。


 風の魔法に対する対処はミヤビちゃんでやっている。それが闘いに生きている。

 ミヤビちゃんは刃だが、ボスキャラは爪状に風を飛ばしてくる。だが黒い風は目視できるし、ミヤビちゃんの風より難易度は低い。


 しかし、魔力量が膨大すぎる……。


 人間などとは比べ物にならない。

 こんな生き物がいるのか?

 それともゲームのために作ったとでもいうのか?


 それではウサギ男の説明がつかない。

 あのウサギは人間のようだった。

 対してこの猪顔は人間とは言い難い……。


 動いてはいるし殺意も感じる。

 でも生きてはいない。

 生きているものの気配ではない。


 ──こいつは何だ?


 こんなのがワラワラと出てこられては調査どころではないし、もし一般人が遭遇しようものなら死ぬぞ。

 やはりこのゲームは危険過ぎる……。


「カイアスくん。キミはこのゲームの運営側なんだろう。あんなものを倒せるヤツがいると、本気で思うか?」


「倒せないなら倒せないでいいじゃないですか。アレは、この新宿より外には出ません。新宿に立ち入らなければいい。自信のないプレイヤーの皆様はすでにそうしていますよ?」


 その情報は知らなかったな。

 ボスキャラは東京都内どこでも移動するわけではなく、あくまで自分のテリトリーがあるのか。


「それじゃあ、あのボスキャラはどうしてユウキだけを狙う? 私たちには見向きもしないじゃないか」


「手を出さないからじゃないですか。あんなものの思考は分かりかねます。最初よりはずいぶんと強くなりましたし、姿もハッキリした。でも、アレはもっともっと強くなりますよ? プレイヤーを倒し、魔力というエサを得てね」


 ……冗談だろう。


 再生する身体。尽きない魔力。

 鉄を貫く拳に、あの速さ。


 それが、まだ成長すると言うのか……。


「付け加えるなら成長ではなく、元に戻る。自分を取り戻すと言った方がいいでしょう」


「自分を取り戻す?」


「いずれ分かるでしょうからお教えします。あの怪物は、ゲートの向こうから輸入しているのです。フィールド内の魔物たちと同じくね。たとえ倒されても、フィールド内に満ちる魔力により復活します。いくども幾度もね。ゲームとはそういうものでしょう?」


 おいおい、そんなクソゲーがあってたまるか。


 ♢


 何度斬ろうと傷が修復される。

 修復するたびに魔力は減っているけど、終わりは見えない。まるで雅のよう……。


 スズメの涙ほどの魔力量しか無い自分とは比較にならない。

 これまで会った誰より自分は劣っている。


 志乃より、亜李栖より、姉さんより、フウより、プレイヤーと呼ばれるゲームの参加者たちより。ずっと劣っている。


 自分の中から現れる炎が無ければ、とうに魔力は底をつき私は死んでいるだろう……。

 その炎も終わりが近い。ならば大技で決めるしかない。


「はぁぁぁぁぁぁぁ──」


 怒りと冷静さ。


 表は怒りに満ちていても剣筋は澄んでいて、怪物を斬り殺す算段をこうして考えている自分がいる。

 怒りは本物だ。けど、この冷静さも本物だ。


 一つミスをすれば死に繋がる状況でも、氷のような部分が私を保っている。

 割れるくらいの頭痛がした。あの後からだ……。

 冷たい部分とほのかに熱を帯びた部分が、自分の中にある。


 この熱は何。どこから来るの?


『今なら聞こえるか』


(……誰?)


『誰だっていいさ。もうすぐ消えるしな』


(この炎?)


『……あぁ、そうだ。お前の仇だ』


(そう。でも、何も分からないから……)


『燃えちまったものは戻らない。だから謝ったりはしねぇ。けどよ……残ってるものもあった。全部が全部、燃えちまったわけじゃないんだな。片割れにも炎があったんだ。それが消えんのを感じた』


(片割れ?)


『時間切れか……。次の一撃で終いだな。まぁ、お前なら斬れる。もし、次会うことがあったなら好きに使え。せいぜい炎に呑まれないようにしな』


(──待って、片割れとは何!?)


 炎が消える……。

 もう残り時間は少ない。


 一度の剣撃では駄目。深く、鋭く斬るには──。


「贈る言葉もありませんがこれで終わりです。せめて、ひと時咲き誇る花。その最後のように散りなさい」


 組み合わせにより、山茶花(さざんか)の花の色ように違う姿を魅せる技。

 三つ斬ることに違いはないが、組み合わせは無数にある。


三閃(さんせん)山茶火(さざんか)


 剣速は最大。炎は存在しない蒼色。

 自分の中で交わった炎と氷。

 最後にして最大の太刀。


 ──ひとつ。


 ──ふたつ。


 みっ、──躱した。


「えっ……どうして……」


 見切れるはずなどない。

 この怪物は一太刀だって躱せなかった。だから、私の攻撃がずっと当たっていたから、今まで闘っていられた。


 そうでなければとうに死んでる……。

 そして、もうこの一撃を私はどうすることもできない。


「──シネ」


 動いた唇の言葉が分かった。分かってしまった。

 もう終わりということなんだろう。


優姫(ゆうき)────」


 幻の中の、無くしたはずの記憶の中の誰かのように、私を呼ぶ姉さんの声が聞こえた。



♢30.5♢


 欲しいものをイメージしろ。

 より正確に。本当にそれが存在するように。


 亜李栖(ありす)ちゃんの聖剣は、マンガと寸分違わぬものだった。あの子はイメージを狂いなく形にしたんだ。だから欲しいものを、望んだものをちゃんと手にした。

 志乃(しの)ちゃんの盾は、守りたい、助けたい、そんな想いから姿を決めたのだろう。想いだけあれば形にしてくれもする。


 でも、あたしは剣も盾も銃も要らない。

 そんなことは魔法でどうにでもなる。

 自分でどうにかできる。


 なら、あたしは今の自分が出来ないことを。

 自分にしか出来ないことを望む。

 それがあれば、きっと誰かを、友達を、大切なものを守れるし助けられる。


 どうせならそんな魔法が欲しい。


 本気で欲しいものなんて無かったのに。

 心の底から欲するものなんて無かったはずなのに。

 もう違うらしい。このことに自分でもビックリする。


 あたしは、ユッキーの力になりたい。

 あの炎の記憶の中で、ユッキーを守ろうとしたあの子のようになりたい。


 志乃ちゃんも亜李栖ちゃんも、必要かはわからないけど雲母(きらら)さんも。

 あたしをあたしとして認めてくれる人たちを守りたい。


 ──それを出来るだけの力が欲しい!


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