表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/111

 冷たい炎

♢28♢


 辺りに放出される冷気は、ユウキの立っている場合から、徐々に冷たさの及ぶ範囲を広げている。


 冷たいはずなのに、この現象を起こしているのは炎だ。もう少しで完全に蒼くなるだろう炎。

 燃やし焼く尽くす炎ではなく、冷たく凍らせる炎。


「……えーと、ユッキーさん? でしたよね。これはいったい、何事なんでしょう?」


「…………」


 ピエロ男ことカイアスの言葉が、ユウキに届いているのかは分からない。

 流していた涙も止まり、ただ立ち尽くす彼女は、この世のものでは無いような炎だけを見つめている。


 猪の外装魔法を燃やしている炎を。

 それは炎であるようで氷。なのに燃えているのだ。


 外装は凍てつき、中の少年は声すら上げられない。

 それでも炎は少しずつ外装を燃やしている。

 熱いのか冷たいのかどちらなのかは分からない。


 触れれば氷。浴びれば炎。どちらもが起こる魔法。


「……このままだと中の少年は、焼き死ぬのか、凍え死ぬのか、どちらでしょう?」


「…………」


「声の届く範囲にいて無視されるのは、意外とツラいですよ。聞いてます?」


 ようやく視線がカイアスに向けられる。

 しかし、彼女の視線を追うように、意思でもあるように、カイアスに向けて地面を炎が走る。


「──ちょっと?! 先ほど一緒にかき氷を食べた中じゃないですか。いきなりこれはヒドくないですか?」


「貴方と話すことなどありません。燃えるか、消えるかしてください……」


「やっと喋ったと思ったらそれですか?! ……仕方ないですね」


 (みやび)が怖いので手を出すつもりはなかったカイアスだが、掛かる火の粉を払うため、仕方なく大剣を振るう。

 叩きつけた剣は、真っ直ぐにユウキまで届くだろう衝撃を生む。


 炎は衝撃で消え。衝撃はユウキまで到達する。

 ──ガッシャーン

 そう音がして、猪を燃やしていた氷も砕け散る威力。


「やりすぎた……。つい、本気でやってしまいました。だって不気味だったし……」


『──助けてくれ!』


「……おや、外装の中身はアナタでしたか。最初にお会いした時に言いましたが、何でワタクシが? 偽善はしないと言ったじゃないですか。今ので氷は割れたんですから、自分で勝手に助かってください」


 こんなものに構っている場合ではない。

 初めこそ見所がある気がしたが、結局はこんなものだった。感じたものは、ただの黒だったのだ。


 それも自分には出来ないこと……。

 こんなものにさえ出来ることが、使える力が自分には使えない。


 これがこの男。カイアスの欠陥。

 飄々としている男の闇である。


『──くそっ! 助けを求める相手を、助けさえしないのか!』


「自身のことを棚に上げて、何を言っているんでしょう。助けてくれと言われたのに、その相手を撃ち続け、終いにはワタクシにさえ銃を向けたアナタらしくない。流石にないわーー。そう言うしかない。それより邪魔です……」


 動かない猪の体の下に大剣を差し込み、力任せに振り上げる。宙に舞う巨体は、上から大剣に殴られて下に落ちる。


「外装は壊さないといけないんでした。これでよろしい!」


 クレーターのようになった落下点。

 叩きつけられた少年は、外装もろとも酷い有様になっている。


「あれは私の獲物だったのに……」


 ギョッとした時には、冷たさが隣にあった。

 カイアスは、初めてユウキを見た時から不思議だった。何の力も感じないことに。


 普通はどんなに上手く隠しても、微量に力は漏れるし、意識が乱れればあらわにもなるはずなのに。

 ユウキからは薄い。もしくは感じない。何もだ。

 目視して見ていなければ、存在すら希薄なのだ。


「アナタ、幽霊か何かなんですか?」


「……? 足はあるでしょう?」


 膝下まであるスカートをユウキは持ち上げる。

 膝の上まで。足が見えるように……。


「──ちょ、そういうのやめて! ……ください。刀がない?」


 ユウキは両手でスカートを持っている。

 当然、その手に刀は握られていない。

 カイアスの攻撃で破損したのか、あるいは飛んでいってしまったのか。


四閃(よんせん)陽炎(かげろう)


 雅が見ることがなかった四閃。

 姿が陽炎のように揺らめき二重に見えるユウキ。


「……刀が見えない?」


 そして見えない刀。見えない斬撃が放たれる。

 気づいた時には斬られている……四度。


「──冗談ではない!」


 姿が揺らめいた瞬間に感じた気配。

 冷たいほど無機質に。しかし、一方では炎のような殺意を。

 それを頼りに三つ斬撃を止められた。


「少し浅かったですね。腕の一本くらいは、斬ったはずなのに……」


 一太刀。剣を持っていなかった方の肩から一撃。

 何とかくっついているというくらいに、カイアスは斬られている。


「少し……冗談ではないですよ。もう少しズレていたら真っ二つじゃないですか。応急処置くらいは自分で出来ますけど……」


「──陽炎」


 エッグにより水の魔法を手に入れたカイアス。

 先日使用した回復擬きの魔法に、これまで得た技術の全てを使って、斬られた箇所をくっつけた。


 傷口は血が流れている。

 血とは、水と同じ液体であるから出来たこと。

 現在、左腕が動かない男に、再び四つの斬撃が迫る。


「少し真面目にやります!」


 宣言の直後、太刀音だけが響く。


「……?」


 見えない斬撃を、見えない壁が防ぐ。

 後はどちらが強力かという話だが、宣言は遅く、カイアスはもう一歩も動けない。


 痛いとか死にそうとか考えている場合でもない。

 精密にコントロールし、傷を塞がないとどうしようもない状態に陥っている。


「殺人は犯罪ですよ? コレ、普通なら死んでますからね?」


「……壁がある? 強固な壁だけど……」


 防御の魔法である障壁。

 物理も魔法も防いでくれる防御の魔法。

 魔法使いが自身を守るために使う魔法。


 その強度は術者により違う。

 力量が問われるし、才能も絡んでくる。


「うつつのみを斬る。これなら壁は関係ないですね」


 だが、その壁をすり抜けられるとしたらどうだろうか?

 (うつつ)のみを斬る。それが可能な技があるならば。


「捕まりますよー、血が溢れますよー。もう少し待ってくださいよ。くっついたらお相手しますからー」


 にこりと笑ってユウキは刀を構える。

 鞘に戻された刀。抜刀の一撃が振られる直後、誰かがユウキとカイアスの間を通っていった。


「──ミヤビちゃんキーック!」


 そう声がした。


 勢いよく通った(みやび)が、外装を壊され、叩きつけられた少年に飛び蹴りを浴びせた。


「もうボロボロだから、ユッキーを撃ちやがった分は今ので許してやろう。あたしは優しいからね」


「雅……」


「──風神のお嬢さん、ヘルプ! ユッキーさんに殺される!」


 助けはしないが助けてくれとは言う男。


 ユウキの言葉に、本当に障壁の中の自分だけを斬れると確信した。

 それを回避するには、何だろうと利用しなくてはならない。


「やっぱり……おまえなのか。嘘であって欲しかったな。同じ日に2回も、その顔を見たくないんだけどな……」


「それはお互い様ということで。それより助けて!」


「ユッキーは何をしてるの? ピエロが死んでも別にいいけど。そこのやつが死んでも別にいいけど。ユッキーに、そんなことしてほしくない」


 僅かに炎が色を戻す。

 蒼炎から僅かに赤く。


「雅。私はどうして……弱いのでしょう。なぜ、貴女のように強くあれないのでしょう。どうして……」


 弱い自分に負けないように、ユウキは強くなりたかった。無いものを無いままに、受け入れられるだけの強さが欲しかった。


 戻ることはないのだと思いながら、時折戻るそれをどうしても諦めきれなかった。

 幻は自分が強くなれば消えると思った。封じ込められると思った。だから、ひたすらに自分を鍛えてきた。


 けれど、どれだけ剣を振るおうと幻はなくならず、どこまで行こうと追いかけてくる。


「ユッキーが弱いとか言いだしたら、あたしはもっと弱いし、そこのピエロはもっともっと弱いし、倒れてるやつは、もう驚くほど弱いことになっちゃうよ?」


「──バカなこと言ってないで、彼女を止めてください!」


 叫ぶカイアスを無視して雅は続ける。


「何に怯えているの? 1人で悩んでたって、答えは見つからなかったでしょう? なら、あたしたちを頼りなよ。友達でしょ」


 先行した。1人で突っ走っていった雅に遅れ、友達が更に現れる。


「なんで……1人で走っていくんだよ」


「どうして待ってられないんですか……」


 現れた友達を見て、冷たい炎が揺らめく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ