外装魔法 ④
♢27♢
また、何かを思い出しそうになった……。
何か大事なことを。とても大切なことを。
いつだったか、同じようなことがあった気がした時から。
あの時から、自分の中で熱をもたない部分が多くなるにつれ、記憶のようなものが甦ってくる。
自分の背後で誰かが倒れていて、私はその人を守ろうとする。けれど、子供に過ぎない自分にはどうすることも出来ずに、あっさりとやられてしまう。
流れる涙と、燃える景色……。
そんな光景が浮かぶ。
これは、いつの出来事なんだろう?
自分の目の前に一振りの刀が落ちている。
それは燃える光景を生み出したもの。
それを知りながらも、私は手を伸ばす。
触れることすら出来ない様子を見ていたはずなのに、何故だか触れられる気がして。
何より、ころされてしまったりょうしんのように、じぶんもしんでしまえるかもしれないから……。
『──優姫!』
あの時、私をそう呼んだのは誰?
♢
──これがさっきと同じやつ?!
何か様子が違うとは思った。
だけど、どうなっている……。
「それが貴方の理由……。約束された将来……優秀な自分? どこからそんな言葉が出てくるの?」
刀を持っているのは知っていた。
戦う技術が上だとも。でも、魔法は使っていなかった!
一度だって。今、だって──。
「薄汚いものに身を落としてさえ、その程度だというのに?」
大した力も感じない。
魔力なんて無いも同じなのに……なんだ、なんなんだ?!
「ストレスの発散。そのために何人殺してきたの? それでは足りずにまだ殺すの? ……そうするということは、自身もそうされることを覚悟しているのでしょう……なら、貴方も一度死んでみるといい……」
あの炎はどこから出ている?
何故、たかだか火に負ける?
何より、この冷たさは何だ……。
火が熱いのは当たり前。けど、熱さよりはるかに冷たいものを感じる。この魔法のせいか?
凍てつくほど、何かが冷たくなっていくのを確かに感じる。
「一閃・火天」
心なしか炎の色が変わってきている気がする。
最初はもっと赤かったような気がする。
そして、これは防げない。
『ぐっ……ぁぁぁぁ────」
いつの間にか刀は身体を通り抜け、斬った相手は後ろにいる。速さもこれまでと違う。
走ればこちらの方が速いだろう。だけど、密着している状態では捉えることすら難しい。
なら、これを解いて銃で応戦するか?
……無理だ。こいつは弾丸を刀で防いで見せたじゃないか……。
「また外れましたか……なら、もう一度」
『ふざけやがって……』
その気なら大きさなど関係なく斬れるはずなのに。
こいつは一太刀ずつしか斬らない。
少しずつ、少しずつ、削がれていく……。
「巫山戯ているのは貴方でしょう? もう少し真面目にやってほしいです」
逃げることもできないだろう……。
逃げる? 自分はもう、この女に勝てないと思っているのか?
「今、諦めましたね。もう、無理だと。そこが貴方の限界であり現実です。案外早かったですね」
限界? ……仕方ないじゃないか!
これ以上があるとして。これ以上の力が存在するとして。
『──どうすれば良かったんだ!』
「知りませんよ、そんなこと。私は、力との付き合い方を考えろと言ったはずです。貴方はそれをしなかった……ただ、求めるままに行動した。それだけです。さあ、続けましょう。貴方が死ぬまで……」
本物の刀で斬られたらどうなるか。
魔法でも、ゲームでもない現実の武器。
フィールドの恩恵では防げない。斬られたら死ぬ……。
「怖いですか? 今更、恐ろしくなりましたか? 何もないまま戦って殺してきた報いです。空っぽでは駄目だと言ったじゃないですか……中身が必要だと言ったじゃないですか」
『強くなりたい……。それだってあれば空っぽじゃないはずだ!』
「貴方は違いますよ。貴方は強くなりたいなど思っていない。自分の方が優れている、自分の方が強い。だから自分に従え。自分を讃えろ。貴方の中身はそんなものです……そんなものでは届きません。絶対に」
二度、新たに刀が身体を通り抜ける。
また速さと冷たさが増す。
やはり、炎の色が変わっている。
紫色に、赤ではなく青に近い色に変化している。
熱量は増すのではなく、凍てつくほどに冷たい。
背筋に感じる冷たさより、斬られた箇所の冷たいの方が強い。
「どうして。私はこんなにも弱いのでしょう……」
自分を圧倒する相手がもらした言葉。
馬鹿にしているような言葉なはずなのに……。
何故、こいつは泣いている……。
一筋、流れる涙が下へ落ちる。
涙は落ちた際にコツンと音を出した。
──凍ってる。
雫だったはずの涙は、地に着く時には固まっていて、感じていた冷たさは本物だったのだと分かった。
「おやおや、何やらお取り込み中? ワタクシ、そちらの猪に用事があるのですがねーー」
派手なスーツに身を包んだピエロの声がした。
♢
「──いかん。発作か! ミヤビちゃんたちでは、荷が重いな……」
外装を一撃で、粉々になるくらいに壊した水神 雲母。
彼女が察知した妹分の異変。そんな気はしていた異変に、彼女は表情を変える。
「そんなことはない。クイーンのお嬢さん」
「私は、お嬢さんと呼ばれる年齢じゃないんだけどな。舐めてんのか?」
声のした方を振り向いて彼女は驚く。
そこにいた男の姿に。
「オレからすると、十分にお嬢さんと呼べる年齢だ。人間全体に言えることかもしれないがな」
「お前が、ウサギ男か……」
黒いウサギ。2メートルはある身長に真紅の眼。
手には本を持ち、服装は神父とでもいうような格好。
「なんと呼ばれても構わないが、今はレンと名乗っている。遊戯という体裁もあることだし、レンと呼んでもらおう」
「……お前に興味はあるが、今はユウキだ。退け、邪魔だ」
「退くわけにはいかない。出向いてきたのは、お嬢さんに何もさせたくないからだ」
「邪魔しようというのかい?」
「──その通りだ」
直後に放たれた、外装を破壊した一撃。
鉄のような硬度の右拳を、レンと名乗ったウサギは軽く受け止める。
「器用なものだ。四属性それぞれの魔法を扱うだけでなく、並以上に使いこなす。あのカードは興味深い」
「──いいから、退け!」
「それでは困る方がいるのだ。カイアスもいるし、面白いものが観れるだろう。それまでここで足止めさせてもらうよ。クイーンのお嬢さん」
硬化による攻撃を、ウサギは難なく受け止め続ける。
レベルの違う攻防がしばらく行われる。
その後、雲母は思わぬことを口にする。
「……やめだ。お前は強いし、私は無駄なことはしない主義だ。大人しく足止めされてやるよ」
「それは助かるが、急にどうした。クイーンのお嬢さんらしくないのではないか?」
「会ったばかりのヤツに何が分かるんだ。いいだろ別に……。それよりクイーンとは、どういう意味だ?」
大人しくなった雲母を訝しみながらも、ウサギ男はその問いに答える。
時間を割いてくれるなら、願ったり叶ったりだから。
「トランプの絵札。それ以外にあるか?」
「ミヤビちゃんがエース。ユウキがジャックだったか? そして私がクイーンか……これが何だと言うんだ?」
「初めに配られた5枚のカードはハイカードだった。さて、それを最高の役に変えるにはどうする?」
「質問に答えろよ……」
「答えているさ。数字の10、ジャック、クイーン、キング、エースにするにはどうすればいい?」
「ブタなんだから、全部チェンジするしかないだろう」
「そんな確率に賭けるなよ。答えはイカサマすればいいだ。欲しいカードが手札に来るように。何せ、相手からは手札が見えはしないんだから。そしてコールさせればいい。カードが全て表になった時、初めて分かっただろう? ゲートの向こうに消えたのが、最高の手役だったということが」
「そういうことか……」
「そう、絵札には上下に1人ずつジャックとクイーンとキングが存在している。こちらのクイーンはキミだが、向こうのクイーンはキミの血縁者というように。此度の絵札には血の繋がりがある。これがキミに対するクイーンの意味だ」
──分かったか? クイーンのお嬢さん。




