外装魔法 ②
現れた3匹の黒い猪。
風、火、水の、術者の魔力を黒く反映した魔法。
外装魔法と呼ばれるものにより生じた現象。
この黒い力により、術者のレベルは上増しされている。数字にすると3というところだろう。
3であったなら6へ。
4であったなら7へ。
全プレイヤー中、最大のレベルである7が存在している。
メッキであれ、インチキであれ存在している。
レベル6から現実での魔法の行使が可能になる。
可能になるというだけで、殺傷能力等については魔法の種類によって違うだろう。
例えば剣であったなら、切断はできなくても薄皮一枚くらいは切れるかもしれない。
最も、殴打すればいいだけかもしれないが……。
それなら繰り返せば相手は死ぬだろうからな。
自動拳銃を完全に再現するとなると、より上のレベルか、細部にまで自らの力をコントロールする必要がある。
交差点での発砲は音こそ本物であったが、起きた事象は裏東京での魔法と変わらなかった。
これは、単なる不足だ。才能の。
才能の無いものが行なったから、あんな程度で済んだ。もし凡人でない者がアレをやった場合、死傷者はかなりの数になっていただろう。
「……さて、眷族まで創り出すとは思わなかったな。どうするか。オレが出向くのは出来るなら避けたいな……」
「それはもう、ワタクシに行けと言ってるんですよね?」
「なんだ。行ってくれるのか? なら、任せよう」
「いや……拒否権とかあるんですか?」
「どうだろうな。嫌だと言われれば、アイリに頼むかもしれん」
これも遊戯に含まれることではある。
しかし、負の力では何処でつまづく。
できるなら、彼女たちには自分を確かなものにしてもらいたい……。
染まるのは、踏み外すのは簡単だ。
だが、そうではない力があるのだと知った。
黒く染まり果てた己ですら、そう思うのだ。
「ワタシは嫌です。痛い思いとかしたくないです。したがって断固拒否します。認められないなら、辞めますので」
「……だそうだ。やはり貴様が行くしかないようだ」
「普段との、あからさまな態度の違いとかはスルーなんですね。分かりました……ワタクシもあまり顔を合わせたくないんですが、行ってきます」
「カイアスは雅が気になるのね? そういう話なんでしょ?! 教えてよ〜」
単に似ているからの同族嫌悪だとは言うまい。
女のこの手の話に付き合って、良かった試しがない。
「外装は破壊しろ。二度と使えないように」
「はいはい……うけたわまりました」
「無視しないで教えてよ〜。ああいうタイプが好きなの? ね? ねぇってばーー!」
オレは自分の仕事に戻るとしよう……。
「アイリ。引き続き監視を頼む。何かあれば知らせてくれ」
「あーっ、無視したまま行っちゃった! あいつ本当に刺そうかしら……」
「聞いてるのか?」
「……何? 何か言った?」
♢
外装である黒い身体。
阻まれずに走り抜けるパワーに、人間ならではの知恵。
「──この黒豚! ちょこまかしやがって〜。黙って豚足になれよ!」
すでに三度。相手からの攻撃を受けている雅。
彼女にはあまり時間がない。
無限とも思えた自分の魔力の底が見えてきたからだ。
原因は、魔法の失敗。
完全な姿で発動しなかったばかりか、多量の力だけを失ってしまった。
肉体の損傷は、腹に最初に1回。
打ち付けられて全身で1回。
避けたのに砕けたアスファルトが直撃し1回。
軽微とは言えないダメージを受けている。
辺りに溢れている魔力が無ければ、死んでいても不思議はないダメージ。
雅は酔ってしまうくらいに、居心地のいい場所だと裏東京を表現した。
ここにいる間は、彼女は封を付けられる前のように、無意識で行なっていた魔法を使えている。
これはプレイヤーたちと同じくらいの防御力を持っているということに他ならない。だから、雅は今も立っている。
「相性が悪い……。ユッキーみたいに、変身して弱点もつけないし……困った」
「──ブオォォォォ」
「コミュニケーションを取れないのも困った。それでも、ちゃんと攻撃してくるし……困った」
空域を使い、相手の動きを読み取り、回避して反撃しているが傷すら付かない。
外装が炎。黒い炎で出来ているからだ。
雅の風では相性が悪い。
「逃してもくれないし、簡単に逃げたくもない。困ったなぁ……どうやって倒そう?」
避けるたびに辺りは瓦礫と化していく。
誰もいないのが幸いというか、それをやったのも雅たちなのだから何とも言えない。
「エッグを使って自己保険という選択肢もなくはないけど。何も思いつかないしなーー」
フィールドの加護があれば死にはしない。
だが、彼女はイメージできずにいる。武器を持つ自分を。
「杖……杖かなぁ? 魔法使いといえば杖。誰も杖を持ってないのは、魔法使いはいないからだろうし。他とは被らない。目立てる。でも、邪魔だな……」
雅の戦闘スタイルでは、手に持つ武器は相応しくない。彼女は自らの動きを魔法に合わせるからだ。
これが杖を構える魔法使いであれば、杖あるいは槍でもよかっただろう。
「ブオォォォ──」
「ずいぶん遠回りしてきたね……──何だそれ?!」
戻ってくるのに時間が掛かっていた猪は、器用に突進を躱す雅を仕留めるために、用意して戻ってきた。
黒くあっても性質は同じ。
火の性質のひとつである熱。
それを利用し、突進を当てるために。
「……熱による幻。横に5匹いるように見えるけど、本体はひとつだけ。見極めないと──」
走った分だけ温度は増し、幻を作るに至った。
横並びになって走る猪。
「──旋風。当たったヤツが本物だ!」
無数の風が猪へと襲いかかる。
炎で無効化されるのは予測済み。
だから雅は、数で押す。
風の全てを消しされはしない。
いくつかは、当たるかすり抜けるかする。
「──見えた」
避けられはした。
しかし、通り過ぎる際の熱までは防げない。
「熱……」
避けようとダメージを与え、避けられなければ即死する。野生の獣とは違い、二手三手と仕掛けを用意する。
「豚よりターンも速い……──ダメだな。逃げよう! 丸焼きも、魅かれるのもお断りします!」
変なプライドは捨て、撤退を選択する。
間違いではない。ただし、相手が見逃すつもりがない以上は……。
「戻ってきたのを避けて、雲母さんのところに逃げよう。水で冷やしてもらお」
同じように風で本物を判別しようとする。
どれかは本物のはずだから……。
「……えっ……全部、すり抜けた?」
ターンをして戻ってくるのを雅は確かに見た。
スピードが緩まったところで、幻は消え1匹に戻り。再び走り始めて、また5匹いるように見えるようになった。
手品でもない限りは、真ん中が本物。
だが念には念を入れ、雅は全てに攻撃を加えた。
結果は全てハズレ。
なら、本物はどこにいったのか?
「まさか……」
気づいた時には遅かった。
選択肢は2つ。右か左。
どちらに避けるか。
どちらがアタリで、どちらがハズレか。
もう、感で避けるしかない。
「──あぁぁぁ……うわぁぁぁぁぁぁ──」
……結果はアタリ。
だけど完全には避けられなかった。
かすった腕は抉られ、傷口は発火する。
雅は痛みとも悲鳴とも分からない声を上げる。
「ブオォォォ──」
再びその声が迫り来る。




