外装魔法
♢26♢
「やったね、勝ったーー!」
豚を見事倒したあたしたちは喜び。ハイタッチし合う。
たった1匹ではあるけど、モンスターを倒した。
友達……仲間と。チームワークでだ。
「お見事。素直に褒めよう」
雲母さんも褒めてくれた。
「志乃さん見ましたか! 私の勇姿を!」
「みた、見たよ。いつまで言ってんだよ……。進もうぜ?」
嬉しさを隠さない亜李栖ちゃんに、嬉しいくせに気にしないふうを装う志乃ちゃん。
「ユッキーも見てた?」
「ええ……。まさか雅たちが、あれを倒すとは思いませんでした」
「……ユッキー。どっか具合い悪い?」
「そんなことないです。先に進みましょう」
どこかが、何かが……変だ。
そう心臓が脈打つ。
温度が感じられないのだ。今の言葉に。
口では違うと言いながらも、本当は具合い悪いんじゃないのかな……。
ユッキーにそんな違和感を感じながら、先へと進む。
「仲が良いだけあって、即席チームとは思えなかったな。ミヤビちゃんも、よくフォローできていた。よしよししてやろう!」
歩き始めてすぐ、雲母さんはそう言って頭を撫でてくる。
「やめっ、やめろよーー!」
えへへ、また褒められてしまった。
今日はよく褒められる日だ。
「やめろよ。に全然説得力がない」
「もっとやれと言わんばかりですね」
辛辣な友達たちも気にならない。
あー、ユッキーにもされたい。
「…………」
一番前を歩くユッキーは、こちらに振り向いてくれさえしなかった。
♢
そして雅の違和感は現実となる。
雲母の使用していた追跡の魔法が、対象者を捉えた。少年は隠れることもせずに立っていた。
道幅の広い道路の真ん中に。
辺りは争ったのか、あちらこちら壊れ、この場所で何かがあったのは間違いがない惨状だ。
「お前、その魔法はどうした?」
少年は、投げかけられる質問には答えない。
「待ってたよ。実を言うと、一度負けた事をかなり気にしていたんだ。だって……君らみたいなのに負けるなんて、ありえないだろう? 優秀で、将来の約束されている自分に、そんな汚点はいらない。残らず消さなくてはいけない。いいストレス発散になっていたんだ。最初は……。だけど、魔法にゲームに、のめり込んでいく自分を止められなかった」
いい学校に通う自分の価値。
そこから先に進んでも、約束されている将来。
それらだけでは満たされなかった。
ゆえに力にのめり込み、溺れていった。
「それが貴方の理由ですか?」
それが理由なのか。
ユウキは答えを聞いておきたかった。
「理由だった、だよ。もう……違う。これは素晴らしいものだった。底の見えない力であるこれは……」
しかし、もう理由すら無くなった。
今はただ使いたいだけだ。得た力を。
「──もういい? 別にね。おまえの理由とか興味ないんだ。もう、ごめんなさいしても許さないからね。やるならさっさと来いよ。卑怯者くん」
ユウキが話しかけたから待っていた雅は、もう準備できている。
「傲慢だな」
「それはおまえだろ?」
カタチが見えない魔法である天叢雲剣。
多量の力。内の力と、外の力を必要とする大魔法。
「天叢雲剣」
「──チームワークはどうした! いきなり何をやってんだ! さっきのは褒め損か?!」
もう誰の静止も聞かない。
やると決めていたし、やらなくてはならない。
その自惚れだか勘違いだかは、砕かなくてはならない。
「シノ、盾を前に出せ。全員盾の陰に避難だ! ミヤビちゃんは本気だ。馬鹿娘め!」
一度も発現したことのない魔法が、その姿を見せる。
剣という文字が入るせいか、形は剣。材質は風。大きさは10メートルを超える。
何もかもを壊し、跡形も残さないような気配。
「……まだ不完全? これじゃ、ただの魔力の塊でしかない?」
しかし、発現したが、今にも崩壊しそうな大魔法。
理由は欠けているのだろう。何かが。
「いいね! 力比べといこうじゃないか。面白いものを見せてあげるよ!」
感じる力の気配に、少年は自らの力で答える。
誰しもが素養は持つであろう。その力で。
「──ミヤビちゃん! それでいいから、そいつを止めろ!」
雅も感じた力。
それは、真紅の目をした男たちと同じ力。
濁っているとすら言えない色。黒の力。
「1つ言い忘れていたよ。実は仲間というやつができたんだ。あの不良たちとは違う。同じだけの力を持つ仲間がね」
新たに2人が、雅の前に現れる。
2人は地を蹴って移動しただけだが、接近に雅は気づけなかった。
「遅い」
その言葉が聞こえた時には、身体は宙に舞っていた。
「──天叢雲剣」
自分が攻撃を受けたことにより、いよいよ崩れていく魔法を無くなる前に少年に投げる。
魔法の形は失われ風へと戻る。
辺りに、あらゆるものを斬り裂く風が吹き荒れる。
「無防備よ……」
裂かれるのも構わずに、空中の雅へと攻撃が飛んでくる。武器はなく素手による攻撃であるが、破壊力は相当なものだろう。
とっさの防御ごと、地面に叩きつけられるのだから。
「──がはっ……何だ、今の……」
雅は受け身すら取れなかった。
その上、相手は更に攻撃を繰り出す。
やはり素手。今度は空中でクルクル回転し、かかと落とししながら落ちてくる。
「はぁ……避けなくちゃ……」
もう1人は雲母たち。志乃の盾に隠れた方に向かう。ここはもう1人で十分だと言わんばかりに。
「……空域制御」
箱を使い相手の攻撃を少なくとも遅らせ、出来るならそのまま防ぎきり、反撃にさえ繋げるところまで雅は考えている。
しかし、風の壁で相手は止まらず。なんとか横に移動したから直撃こそ避けたが、女が地面に落下した衝撃で砕けたアスファルトが、まともに直撃する。
「──痛……火なのか、こいつ。だから風が破られる。だけど赤くない……」
目に見えるのは、たゆたう黒。
赤でもオレンジでもなく黒。
それなのに火の性質を持ち、火のようにゆらゆら揺れている。
「トドメとしましょう……全力で」
雅の前の少女がそう口にする。
敵であろう少年が2人。少女が1人。
凶行の犯人の少年の前にユウキ。
少女の前に雅。もう1人の少年の前に雲母たち。
それぞれが目撃する。
たゆたう黒が大きく動き、包まれていく。
覆い尽くしていく。自らの身体を。
膨れ上がっていく。嫌な感じが。
「……なんだ、これ?」
今まで人間の姿であった3人ともが、その姿を変化させる。雅たちが、ついさっき戦った猪の姿に。
「──ブォォォオ」
そして、鳴き声のような声を上げ走り出す。
先の黒い猪たちのような速度で。
♢
術者が黒い力に包まれて、その姿すら変える。
これも魔法。それも水神 雲母の得意とする魔法。
自分が作り出したドレス。あれと同一の魔法。
「外装魔法……だと? それも自らの姿を変える」
「外装魔法ってなんでしょう?」
「ユウキのドレスと同じだ。そう見えるだけの魔法。だが、纏う外装はちゃんと存在するものである。使用者の魔力が尽きない内は、存在することと同義……」
「それって、アレは本物ってこと?」
「──そういうことだ!」
つまり人間から変化したのではなく、変身したということであり。中身は人間。
先ほどの猪とは、同じなようで違う。
「猪突猛進の奴らとは違うぞ! 見た目に騙されるなよ。知恵もあるし、下手すると喋るかもな」
「……マジで?」
「完全に豚になっているというのに?」
「まだ豚だと思ってんのか? あれは猪だ。いろいろ違いはあるが、間違いなくな。2人で離れないように行動しろ。最悪……2個目のエッグを使え」
現状では志乃にも、それよりレベルの高い亜李栖にも黒い猪の相手は難しい。
なら、自分を強化するのは必然。
本当はもっと鍛錬を積んでからの方がいいのは明白だが、実戦には鍛錬では手に入らないものがある。そう雲母は知っている。成長を加速させることだって可能だとも。
ボスキャラのいる新宿での戦いが始まる。




