モンスター ②
豚が止まらない。10匹の大豚の突進が止まない。
直線にしか動かないみたいだけど、気を抜いたら轢き殺される。
追尾はしてこない。
トップスピードで走り抜け、急停止。
そこからトコトコ歩いて、狙いを付けて急加速。
豚はそれを繰り返す。
「空域制御」
対象者の空域内の補助。
対象者以外の空気圧縮。空気抵抗増。
「旋風」
足止め。ううん、──斬れるならぶった斬る!
「豚足になってしまえーー!」
真正面から魔法をぶち当ててみた。
旋風。竜巻の小型版。フリスビー状に回転する風の魔法を。
「──全然ダメだ!? ビクともしない!」
ぶつかったのに、そのまま突進してくる。
デカイし、固いし、速い! 豚なのに!
「指示はどうした! ふざけてないで、シノたちに指示しろ。轢かれたら即死だぞ!」
「分かってるよ。いけるかなー、と思ったんだよ!」
諦めて、みんなのフォローに回ろう……。
少しは動きを遅くしたし、あとはどう倒すのかか。
『志乃ちゃん狙われてるよ。右に回避!』
『亜李栖は左に回避!』
『ユッキーは正面注意!』
疲れる……。
「ミヤビちゃん。急停止に必要な距離を測れ。足を止めたところを狙う」
雲母さんは何で自分でやんないの?
人を頼りやがってー。
「そんなの自分でやってよ。あたしばっかじゃん」
「いいから、やれ」
はいはい、やりますよ。
近い亜李栖ちゃんのところの豚でいいや……。
ブレーキかけてから、トコトコするところまでの距離を測ると。
この豚、トップスピードになるのは一瞬なのに、ブレーキかけて止まるまでは距離がある……10メートル? いや、もっと長い。
『20メートルくらい。それと避けられたと思ったら、すぐにブレーキかけてるよ。だから豚が通った自分の真横から20メートル』
『──よし! 全員聞いたな。足が止まっているところを狙え!』
『どうやって20メートル先にいくんだよ! 追いかけてる間に、こっち向くわ!』
そうだねー、無理だね。
豚より速く動くか、遠距離攻撃するかだね。
志乃ちゃんも亜李栖ちゃんも、どっちも出来ないね。
「ふふふ、それは先ほどまでの話。レベルの上がった私にはできます!」
亜李栖ちゃんはヒラリと豚を躱し、振りむきざまに聖剣を振るう。青い光が剣に集まり放たれる。
「──ほう、いつの間にそんなことを覚えた?」
アレは覚えた。ではなく見てただね。マンガを。
マンガよろしく、離れたところの相手を斬るつもりみたいだけど……。
──パシャパシャ
現状、水かけ遊びくらいの威力だね。
「えーーーーっ! そんな馬鹿な?!」
「やりたい事は分かったが、いきなりは無理だ。魔力を使うだけだから以後禁止な」
だね。聖剣への道は遠い。
「シノ、アリスは回避に専念。私とユウキで殺す」
……ミヤビちゃんは含まれてない?
このリストバンドのせいかな。だよね?
♢
これは生き物ではない。
生きているように見えても、生きてはいない。
それなら、──手加減はいらない。
「真横から20メートル……」
雅の分析結果を信用し、真横を通る猪を追う。
猪より先に20メートル先に到達し、停止位置で斬り捨てる。
「加速中は強力でも弱点が分かれば、ただの肉……」
それにこれなら──。
「残りは容易い」
雅の空域内は、私たちに対して風の恩恵があるようだ。意図してそうしているのだろう。
逆に猪たちには負荷がかかっている。最初より動きが遅くなった。
「一閃」
一匹。真横に刀を構えて、止まっているところに刀を突き立て、閃きのままに斬り裂く。
肉質はかたくない。突進力はあるが、動いてなければこんなものだろう。
……次はシノのところの二匹。
「三閃」
猪が狙いをつけている間に、距離を詰める中距離用の斬撃で斬る。
これで三匹。
『ユウキ。私に近寄るなよ』
「はい」
直後の爆発。炎は猪を四散させる。
姉さんが、炎で二匹。炎そのものも有効。
つまり猪は風の属性。
なら、戦装束はこれでいい。
火の性質の武器もあるといいのだけれど……。
この刀は魔法でも、鈍らでもない。
和泉守兼定。それも会津兼定。
私に遺された、ただ一つの物だ。
由来も知らない。歴史も知らない。
けど、この子のことなら解る。
自分は観賞用の道具ではなく、戦のための道具だと。
「爆炎……」
姉さんの魔法の余波が近くまで広がる。
爆発により運ばれてきた炎が、そこにある。
「兼定。少し熱いですよ」
雅とは違い。自分は戦装束の能力を使い炎を引き寄せ、集めた炎を刀に纏わせる。
炎に自分の力を与え、動きと形を操り制御する。
細かなこれらは、雅にはまだ出来ないことだろう。
しかし、優越感は無く。ただ、追われる焦燥感だけがある。
それは炎のように熱く。氷のように冷たくもある。
どちらが本当の自分なのだろう……。
「二閃、炎炎」
蓄えた炎は一気に燃え盛る。
これならば──
停止を待つ必要はない。
勝ち当たっても斬れる。
「これで残るは二匹……」
炎が放出されたからか、自分の中の温度が下がり、代わりに冷たさが増していく気がした。
♢
「──私も1匹くらい倒したい! 雲母さんもユウキさんも、あんなに簡単に倒しているというのに……」
ユッキーが無双し、雲母さんが爆破したので豚の数は残り2。このままだと残りも、ユッキーが斬ってしまうだろう。
「うーん……無理かな? 亜李栖ちゃんでは停止位置を狙えないし、遠距離攻撃は水かけ遊びだったし」
「それでも倒したいんです!」
豚の動きが速いからな……。
もう少し魔法を使いこなせれば、ユッキーみたいに瞬間移動みたいに素早く動けるんだろうけど。
「カウンターでやれないのか?」
「カウンター?」
「豚が走ってくるのに合わせて、こう剣を出せば、勢いで斬れんじゃないか。ってこと」
……それは無理。
「それです! 流石、志乃さん!」
「いや、無理だからね? その勢いのまま、腕取れるかもしれないよ。スポーンってさ」
「ぐぬぬぬぬ……」
力負けするのは明らかだ。
正面からぶつかれるなら、ユッキーがそうしているし、あたしだって……──そうか。そうだったよね。
あたしたちはチームだった。
亜李栖ちゃん1人で出来ないなら、あたしたちが手伝ってあげればいいんだ。
「やってみようか?」
「雅……今、自分で無理だって言わなかったか?」
「それは1人だった場合の話だよ」
「と言いますと?」
「だから、みんなでやってみようか?」
♢
息を合わせられるほど、チームとして成熟しているわけではない彼女たち。けれど、今求めたのは力を合わせるという点だ。
必要なのは仲間を信用するということだけ。
そして3人はそれを満たしている。
「志乃ちゃんよろしく!」
信じ。
「余計なことを言ってしまった。責任はとるよ……」
信じて。
「大丈夫です! 絶対倒します!」
それに応える。
ちゃんと思いが通じれば、結果など勝手についてくる。
『1匹。あたしたちで倒すから! 手、出さないでね!』
ここが終わりではない。
雲母はそう思い止めようと思った。
自分たちなら安全に確実に、仕留められるのだから。
……だけど。
残る2匹の内の1匹を正面から斬り。
今まさに、最後の1匹に向かおうと刀を構えていた優姫。その彼女が刀を持ったまま3人を見ている。
だから、口を挟むのをやめた。
優姫の心内までは分からない。
しかし、刀を止めるだけの理由があるはずだと。
「──よし! こっちだ!」
動けない2人に代わり、猪を誘導する志乃。
思考が簡単な猪は大きな音に反応する。
そのことに気づいていた彼女は、手に持つ大楯を叩き音を出す。
「亜李栖ちゃん。さっきみたいに力を剣に集めて。当たる側だけでいいから、可能な限り強くね」
雅は支える。未熟な聖剣使いを。
策を考え、指示し、成功に導く。
「力を……集める」
亜李栖は自分のワガママに付き合ってくれる2人を嬉しく思う。
この与えられた機会を無駄にしないため、必ず斬るとイメージを確かなものにする。
「入った! 雅、亜李栖、そっち行ったぞ!」
亜李栖が剣を構える方向。
そこに真っ直ぐ猪は突進する。
あくまでも剣の振られる位置への誘導であり、雅の補助があったが楽な仕事ではなかった。
「いくよ!」「──はい!」
後は突進を利用し斬る。
避けなければならいのは、力負けすること。
雅は、それをフォローする。
「空域制御」
魔法の範囲を絞り、中を押し固める。
それもタイミングよく行わなくてはならない。
「はぁ────!」
全霊を込めた一撃。今できる最高の一撃。
亜李栖の一撃は猪を斬る……薄皮一枚ほど。
このままでは押し負け、下手をすると腕だけ千切れ飛びもしただろう。
「──亜李栖ちゃんも踏ん張って!」
そこで雅が力を添える。
腕の位置に自分たちの足元から空気を固め、押し負けないように。
「チームと言いはしたが……」
雲母は、本当にやってのけるとは思っていなかった。
「やったーー! 豚倒した!」
「1匹だけ、だけどな?」
「何言ってるんですか。勝ちは勝ちです!」
倒した3人は喜び。そして、
「…………」
優姫だけは何も反応しなかった。
ただ、眩しいものを見たかのように目を逸らした。




