かき氷 ②
せっかくの美味しいかき氷だったのに……。
まぁ、みんなから一口ずついただいたし。
どれも美味しかったし。満足はしたけどさ。
「おまえ、なんでこんなところにいるんだよー。目障りだからきえろよー」
「別に、どこで何をしようとワタクシの自由。風神のお嬢さんの指図など受けません」
隣のテーブルのピエロ野郎が目障り!
派手なスーツはダメになったらしく普通の格好。ざまぁ。
ただ、女の人とデートとか。
軽く殺意がわくよね。
「風神……」
ピエロの連れの桃色の女の人と目が合う。
「風神なんていうの?」
「雅。隣が亜李栖ちゃん。奥がユッキー。その隣が志乃ちゃん」
「丁寧にどうも。ワタシはアイリよ。よろしくね、風神のお姫様」
……こいつも油断できない。
ふわふわ感に騙されないようにしないと。
「ところで、そのかき氷はどうだったの? 美味しかった?」
「……えっ、それはもう。ただね。個人的にはマンゴーが一番だったかな?」
「マンゴーか。たしかに気にはなったわね。あんたは?」
あんたとは、新たなかき氷を食べているピエロ野郎のことだ。あたしと同じ季節の桃を。
「ワタクシはジンジャーですね。あれが印象的でした」
「おまえ、ジンジャーいったの? どうだった?」
「それほど甘くなく風味もしっかりとあり、飽きさせない味でした。やはり甘いやつはとことん甘い!」
「なるほど。次はあたしもジンジャーにしよう」
ピエロ野郎は5種類食べている。
空になった器が5つあるから。
「ねぇ、雅。ワタシと席代わってくれない? 奥の子と、ユッキーと話がしたいの」
「──ムリ。ピエロ野郎と相席とかしたら、うっかりスプーンがそいつに刺さるよ」
「それでいいから代わって?」
いいんだ……。
スプーンは刺さらないからかな?
一応、目だけ動かしてユッキーの方を見ると、ユッキーは首を縦に振る。これは代われってことだよね。
「いいよ。スプーン刺さるか試してみるよ」
「ありがとう。あなたいい子ね。可愛いし」
「…………」
褒められた。
褒められたことなんてほとんどないからムズムズする。
「雅はどうしたんですか? 何か変な動きをしていますけど……」
「あいつは褒められるのに弱い。もう、驚くくらいな」
「ええ、野郎に騙されないかと心配になるくらいです。今いるクソ野郎の前には、私が一緒に行きますのでご心配をなく」
そんなわけで席替えされた。
ピエロ、あたし、亜李栖ちゃん。
ふわふわ、ユッキー、志乃ちゃん。となった。
ふわふわお姉さん。アイリ。
油断はできないが、いざとなればスプーンが火をふくぜ!
♢
ピエロ野郎の顔を見ていてもしょうがないので、亜李栖ちゃんと半分こでかき氷を注文した。
ジンジャーを推したかったけど半分こなので、互いに納得のいくベリーベリーにした。これも美味しそうだったんだ。
「次は何にしましょうかね」
このピエロ。これだけ食べて、まだかき氷食べられるとか人間じゃない。
「まだ、食べるんだ……」
「死ぬ前にやめた方がいいですわよ」
これは優しさではなく、やるなら自分でということかなー。こわっ。
「そうですか? ならやめましょう。ラーメンも食べたいですから」
こいつ。まだ食べる気なんだ……。
それもラーメン。
胃袋とかどうなってんだよ。
「そういえば使われてないんですね。せっかくお父上様が差し上げましたのに」
「……なんの話?」
「エッグですよ。そういえばお嬢さんは寝てましたね。ひょっとすると知らなかった?」
知らなかったけど必要はない。
初心者ではないし、武器も別に欲しくない。
ユッキーのように技術もないし。
「あれはユウキさんが持ってますよ。自分の分と合わせて2つ。ですが、必要ないのではないですか?」
ユッキーも貰ってはいるが使用してないと。
やはり必要ないからだろう。
「ワタクシも必要は無いですが使っていますよ? 無くても困りはしないですが、あって困ることもありません。何よりあちらではあった方がいい。プレイヤーの皆様は恩恵を受けた方がよろしい」
「恩恵。あの場所でのダメージが人体に影響しないやつだね。どうなってんの。あれ?」
血が流れない。
傷もつかない。
痛いだけ。
「水の加護というところですかね? 人の身体は多量の水を含みます。その水を利用した術式。エッグによる自己強化。ゲートをくぐる際の付加効果。そして、フィールド内に充満する魔力による相殺効果。それらによりプレイヤーの安全は守られている」
水ってことは水分が対価なのかな?
それとも血とか? 急にグロい……。
ゲート。固定のやつと、日替わりのやつ。
あの移動するための裂け目にも意味があるんだ。
「そしてダメージは無効化ではなく、肩代わりされているんですよ。ちゃんと斬られ撃たれ、しているものは存在している。ゲートを通った者はそれの恩恵を受け、ダメージは肩代わりされている。しかし、痛覚は自身のものだから痛みだけはある」
肩代わりって、そんなことできるの?
だって、何回死んでるのさ……。
「死なないですよ。生き物ではないですしね。それは無限といえる力を持っています。フィールド内に充満する魔力は、それから溢れている分なんですよ?」
無限。それなら無茶も無理も可能になるのか?
つーか、もっとピエロに喋らせよう。
しゅうしゅう。収集。情報収集。
「あれって何するゲームなの? サバゲー?」
「サバゲーってなんでしょう?」
「サバイバルゲームだろ。どうなのさ?」
「サバイバルではないでしょう。生き残りをかけてはいないし、そもそも死なない。ゲームはゲームですが諸々はオマケです」
オマケか。
争わせるのが目的じゃないのかな?
命を守る仕掛けが大掛かりすぎる。
聞く限り本当にゲームみたいだし。
「あのゲームは武器を作らせるゲームですよ。もちろん、ワタクシ的にはですよ? 他の人たちがどう思ってるかは分かりませんし、興味もない。お父上様は人間自体にも強くなってほしいようですが、ワタクシはそこまで望みません」
「武器を作らせる? それは中々に斬新だね。作った武器で何するの? やっぱサバゲーになるんじゃないの?」
使いたくなるでしょ。
亜李栖ちゃんとか特に。実際よく我慢してると思う。
「……それが危機に結びつくんですね」
「おや、どちらでそれを? 勿体つけて最後に言おうと思ってましたのに。残念です」
「亜李栖ちゃん。危機って何?」
昨日、誰かそんな話をしてたような気もする……。
「東京の、日本の、最後には世界の危機です。消失すると、最後にはみんなゲートの向こう側に消えると聞きました」
…………はっ? それが危機。
「この場合のゲートとは、下にあるゲームに使うゲートではなく、空にあった方のゲート。空の向こうにある世界から発生するゲートの方を指します。次は日本ごとバックリいかれる予定になっています」
「──おまえ今すごいこと言ってない?! 大丈夫なの? そんなにベラベラ喋ってさ。喋れとは思ってたけど、ちょっと口が軽すぎると思う!」
なくなんの。日本が? そんなバカな──。
「じゃあ黙ります。もう喋りません」
「そして本当に喋らなくなる?!」
ゲートの向こうに消えるって……どう消えんの?
自分たちだけ。それとも地面ごと?
地面ごとだった場合ヤバくない?
かなりの高さだった。
あの高さから地面に落ちたら死ぬよ。
自分たちだけだとしても、落下したら死ぬか。
「こちらベリーベリーになります。お客様?」
かき氷が到着したけど。それどころじゃない。
美味しいけど。それどころじゃない。
これは誰かが何とかしてくれるの?
♢
アイリという女が正面へと移動する前に、ユウキは志乃に黙っていてくれと頼んだ。
だから、彼女は黙って話を聞いていた。
その会話の一部はこうだ。
「ねぇ、ユッキー。あなた面白いモノ持ってるわね」
「なんのことでしょうか」
「それ。見せてくれない?」
「見ての通り私は手ぶら同然です。それなのに何か持っているように見えるんですか?」
「──視える。あたしの役割は後方支援と鑑定。あたしは誤魔化せないわ。ねぇ、いいでしょ?」
「何も持っていません」
「あら、怖い。本当にスプーンで刺されそう。そんなものでも魔力1つで凶器に変わるものね」
「貴女たちこそ。武器など作らせてどうするつもりなんでしょうか?」
「武器なんて戦うため以外に使い道ある? 運営はあなたたちが鍛え上げた武器を買い取る用意がある。また作ればいいし、何よりお金は魅力的でしょ?」
「……人を集い。ゲームと称し戦わせ。その中で武具を鍛えさせる。その果ては何ですか?」
「嫌われたくはないから少しだけ教える。過程で人を育て、過程で戦いを実感させ、万が一に備えておく。かしらね?」
──起きるかもしれない戦争に向けて。




