かき氷
♢21♢
実はどうしても行きたいお店があった。
そこは行列のできる、かき氷屋さん。
たとえ並んででも食べたかった。
「この暑い中、よく並ぶよな……」
「そういう私たちも並んでますけどね……」
天気の良い今日。外に長時間並ぶのは堪える。
もう1時間くらいは、こうして並んでいる。
この暑い中で涼しい顔しているのはユッキーくらい。
「かき氷。わざわざ並ぶほどの価値があるんでしょうか?」
「……あるよ。きっとある。でないと、あたしはとけるかもしれない……」
もう無理。そろそろ限界。暑いのはムリ。
「来たいと言ったやつがこれだ。やっぱりファミレスとかでいいんじゃないか? かき氷ならファミレスにもあるし、かき氷は昼ごはんにはならないだろう」
「いやだー、せっかくここまで並んだんだから食べる! 絶対に食べるー!」
「頑なですね。私たちの順番まであと数人ですが、回転率がよくないので時間が掛かりますね」
みんな映える写真を一生懸命に撮ってるからだと思う……。
かき氷溶けるから早く食べなよ。って思う。
まぁ、あたしも撮るけどさ。
「おっ、グループで出てきたぞ! これは順番来たんじゃないか?」
そしてこれも原因だね。
みんな1人じゃなくて友達たちと来てるからだね。
しかし──
「──ようやくだ。学校から真っ直ぐここに来たのにようやくだ!」
何食べよ? 事前に調べてはあるが目移りする。
全員被らないようにして4種類は食べられるとして、お昼ごはんだとするともう1種類ずついけるだろうか?
「雅は急に元気になりましたね」
「もうメニューのこと。もしかしたら、その先まで考えてるかもな」
「あれもいい、これもいいと言ってましたからね。1人でいくつ食べるつもりなのか……」
お店の人があたしたちを案内してくれる。
店内は満席なので、空いたところに次の人が座るようだ。
席は1人ならカウンター席。
2人以上ならテーブル席みたいだね。
あたしたち4人はテーブル席に案内されるようだ。
カウンター席に座って、目の前でかき氷が作られるのも見たかったな。
「ほら、いくぞ。他にも待ってる人たちがいるんだからな」
「今日のところはテーブル席で我慢しよう……」
「ああ、作ってるとこ見たかったのか」
次はカウンター席に座ろう。
先に歩いていったユッキーと亜李栖ちゃんは、もう席についている。
これは……どっちに座ろうか?
ユッキーの隣も捨てがたい。
亜李栖ちゃんの隣も捨てがたい。
どちらにせよ、手前ではあるのだけれど。
「早く座れよ……」
そう言う志乃ちゃんが先に。
ユッキーの隣に座ってしまったので、あたしは亜李栖ちゃんの隣になった。
「これは本当にかき氷なんですか?」
メニューを見ていたユッキーはこんなことを言う。
確かに、かき氷のイメージからは遠くなっている。
もう山みたいに氷がなっているし、シロップも多様だし、トッピングもあるし、何より映える。
「今のかき氷はこうなんだよ。お値段もはるが量も多い。さて、みんなどれを頼むのかな? 一口くれるよね?」
「言うと思った」「ですね」
そりゃあ言うでしょ。
こんなの沢山食べられないし。
でも、いろいろ食べたいし。
「みんな被んないようにか。なら、雅が最初に決めろよ」
「──えっ! それは……ちょっと迷う」
みんなのを見てから選ぼうと思ってたのに……。
イチゴか? やっぱりイチゴだろうか?
基本はイチゴだと思う。
しかし、季節のとか付いてると気になる!
季節ものもありだ。
あとマンゴーもいい。マンゴーか?
ジンジャーというのも食べてみたい。
「あれはダメだな……。ウチらが決めるしかない。ユウキはどうするんだ?」
「これにしようと思います」
「イチゴですね。やはり鉄板ですからね。私は──」
ユッキーがイチゴ。
これでイチゴは確保された。
ならば。やはりマンゴーが安定かな。
「──私は抹茶にします」
亜李栖ちゃんは抹茶。
あれも美味しそう。アイス部分が他にはないしね。
「志乃ちゃんは?」
「マンゴーかな。果肉入ってるし」
「えー、あたしがマンゴーにしようと思ってたのに!」
「──じゃあ先に決めろよ!」
だけど志乃ちゃんにマンゴーを選ばせれば、あたしは違うのを選べる。
どうしよう……悩む。
んーーっ、今回は……。
「季節限定の桃にする。志乃ちゃんがマンゴーでお願いします」
「よし、全員決まりだな。すいません!」
これで4種は食べられる。
イチゴ、抹茶、マンゴー、ピーチ。
あと気になるのは、メロンも時期ものだしスイカもある。やっぱりジンジャーというのも気になる。
通えればコンプリートできるけど、行列はムリ。あたしがとける。
♢
……桃がこない。
みんなはもう食べ始めているというのにだ。
全部写真は撮った。
「美味しい……」
そう驚いているユッキーも撮った。
しかし、桃がこない!
どうなってんだ? 文句言いにいこうかなー。
「──ちょっと文句言ってくる」
「やめなさい。ほら」
そう言ってユッキーはイチゴをスプーンですくい、こちらに差し出してくる。
あたしには桃のかき氷が到着していないので必然的にそうなる。スプーンもないからね。
だが、これは間接キスというやつ。
恥ずかしくてそんなことできない……。
「あー、ユッキーのイチゴより、亜李栖ちゃんの抹茶が食べたいなー」
ユッキー。ごめん。
それは志乃ちゃんにあげて。
「……ガチな反応だな。ウチらなら遠慮なく食うくせに」
「まぁまぁ。はい、あーん」
隣からあーんされた抹茶をいただきました。
ほら、ユッキーは斜めにいるし、食べようと思ったら身を乗出さなくちゃいけないから。危ないから。
「お待たせしました。こちら季節のピーチになります」
──やっときた!
「はいはい! あたしです!」
「はいはい! ワタクシです!」
誰かと台詞が被った。
「「──んっ?」」
それに、聞いたことある声がした。
隣から……。
「──げっ、クソピエロ。何故ここに……」
「なっ、風神のお嬢さん。何故ここに……」
派手なスーツではない格好のピエロ野郎が、隣のテーブルにいやがった。
あたしたちは思わず立ち上がり警戒しあう。
どうしてこいつが、かき氷屋さんに?
「雅、離れろ!」
「性懲りも無く現れやがったな。覚悟はできてんだろうな、テメェ……」
亜李栖ちゃんが手に持っているのはスプーンだけど、銀色だからか刃物に見える気がする。
志乃ちゃんたちも臨戦態勢なようだ。
「他の人の迷惑ですし、店員さんが困ってますよ。全員座りなさい」
「そうよ〜、ここで何かしようなんてナンセンス。ここはお菓子屋さんよ。暴力沙汰は似合わない」
ユッキーとピエロ野郎の前の席にいる女の人が、立ち上がっている全員を諌める。
隣もテーブル席。1人では混み合う店内でテーブル席に通されはしないだろうし、相席というわけでもない。
──何も気づかなかった。
こんなに近くにいたのに、違和感すらなかった。
感じられなかった? それとも……。
「そのかき氷はそっちでどうぞ? あんたは少し待ってなさいよ」
スマホから顔を上げない女の人。
桃色のふわふわした髪の女の人だ。
ピエロ野郎があたしたちに気づかなかったのは、かき氷に夢中だったから。
あたしたちがピエロ野郎に気づかなかったのは、この桃色ふわふわのせいだ。
「もう少々お待ちください!」
店員さんが大声をだし、少し注目を集めてしまった。しかし、何ごともなかったようにみんな視線を戻し、それぞれの会話なりかき氷なりに集中する。
注目が一瞬で途切れた。
興味が自分たちのことに戻った。そんな感じだ。
「貴女ですね。今のをやったのは」
「正解。これなら喋っても大丈夫よ。周りからは普通の会話してるようにしか見えないから」
ユッキーと桃色の女の人が何やら……桃?
──そうだ! かき氷!
「ピエロなど。どーーでもいい。今はかき氷。あたしの桃の方が大事。優先」
……考察はやめよう。溶けてしまう。
「それはワタクシの!」
「いいと言われたからにはあたしのだ! おまえは大人しく待ってろ!」
こんなのに構っているくらいなら、かき氷食べた方がいい。
「みんなも食べなよ? 溶けるよ?」
最初は映える写真撮影からだね。
4回目だし一発で決めよう。
「そうです。偶然居合わせただけ。気にせず食べましょう」
「──ちっ」
ユッキーによって志乃ちゃんは納得したようだが、亜李栖ちゃんは舌打ちするくらい気に入らないらしい。正直言って、あたしも気に入らない。




