7月27日
♢20♢
今朝も昨夜と同じメニューをやりました。
やっぱり全然ダメでした。
コントロールは付かないし、ユッキーにも負けました。昨日の今日じゃ仕方ないよね。
今日学校に行けば土日は休みです。
きっと鬼コーチは更に厳しくなるでしょう……。
しかし、ユッキーの他の衣装も見れるかもしれないので頑張ります。そして次こそはできるなら勝ちたいです。
「今日は学校終わったら買い物に行く。雲母さんは急用で行けないそうだ」
「だから今日は私が一緒に行きます。姉さんも夕方には用事が終わるようなので、帰りは車で荷物を運んでもらいましょう」
「なら、買い物は順番をきちんと考えないとダメですね。やはり衣類からでしょうか?」
学校が終わったら、そのままお出掛けの予定です。
お金はユッキーが持っています。ほら、強盗とかこわいから。
「じゃあ行ってきまーす! ユッキーあとでねー!」
「雅、ちょっと」
「なに?」
若い衆の車が下に来ているんだけどな。
「美味しかった。そう言ってましたよ?」
……それは良かった。
「朝ごはんも取っておいたから、フウちゃんによろしくね。あたしらは夕方まで帰らないからねーー」
「出ては来ませんよ。これから寝るんでしょうからね」
なるほど。朝まで起きていて、昼間寝てるタイプか……。
ダメな姉には似ないでほしいな。
♢
若い衆の車に揺られ、学校まで行く車内。
昨日までは分からなかったけどね、明らかに周囲の車はひいてる。もうまったく近寄ってこない感じ。
「土日は休みだけど1回、家帰るわ。夜には戻るから」
「私もそうした方がいいでしょうか?」
「自由じゃないか? 朝と夜しか魔法は教えないって言ってたし」
流れていく景色を見ているんだけど、いつもとは違うね。なんというか我が物顔って感じ。
「……なんか雅はさっきからご機嫌だな。どうしたんだ?」
「いやね。フウちゃんがね、すき焼きを食べてくれたらしい。作った側としては嬉しくてね」
「奥の部屋にいるという女の子ですわね。そういえば……今朝がた元音を聞いたした気がします。雲母さんかと思ったのですが、あれはそのフウちゃんだったのでしょうか?」
「座敷わらしみたいなもんか。ウチらは邪魔じゃないよな……」
「大丈夫だと思うよ」
部屋の中に踏み込むとかしない限りは、大丈夫だと思う。
生活のリズムは異なっているし、人見知りということは人の気配にも敏感なはずだ。
あたしがまるで気づかないくらいだからね。
亜李栖ちゃんが、物音を聞いたのだってたまたまだと思う。
「そろそろ学校着くね。放課後のために頑張ろう!」
楽しいことの前には試練があるものだからね。
♢
雅たちが出掛けたマンション内。
一気に静かになってしまった部屋に、用事とやらで出掛けることになった雲母と、昼までは留守番のユウキの2人が会話をしていた。
「伝え忘れたことは無いと思うけど、何かあれば連絡しろ。あとは下でシャットアウトしておく。もし誰か来ても出なくていい」
「分かりました」
「帰りは夕方だ。早く終われば連絡するから。あと、重い物は最後に買うように言えよ?」
「今日は服で終わりでしょう。買い物より遊びに行くのがメインになっていますから」
その服すらちゃんと買うのかとユウキはあやしく思っている。
「遊びだと言うなら、それはそれでいいさ。ユウキも遊んできな。こんなのは初めてだろう?」
歳の近い。自分と1つしか違わない友達と遊びに行く。ということがだ。
姉役の彼女は嬉しく思う。
ユウキに他の時間の使い方が出来たことを。
「はい。フウを連れて出掛けた以外では初めてです。どんな格好していけばいいんでしょうか?」
「そうか。すっかり忘れてたな。行く前に、あの自堕落を起こして服を選んでもらえ。それにいい機会だから、お前も服を買ってこい。自分で選べないなら、選ばなくてもいいようにマネキンが着てるのをそのままとか……いや、ちょうどいいのが3人いるから大丈夫か」
姉の言っていることが分からないユウキは、小首を傾げるだけだった。
「優姫。ミヤビちゃんは変化してる。もう、あの子は以前とは違う。真に大事なものに気づいたからだ。優姫にもそれが必要だよ? でなくては使えない……今のままではね。持つことは出来ても、抜くことは出来ない。それは弱いからじゃない。足りないからだ。1人で鍛錬もいいが、お前はもう十分に強い。欠けているのはもっと違うものさ」
答えは教えない。
答えは自分で手に入れなくては意味がないから。
昔、自分もそう教えてもらったから。
自分で見つけて、自分で気づいてほしい。
そうすることがこの子のためであり、無くしたものを取り戻すのに必要だと思うから。
「じゃあ、行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
♢
新宿に現れたボスキャラに名前は無かった。
呼ばれ方は様々ではあったが、ひとつとして的を得ていない。
何故なら誰もそれが何なのか、何者なのか理解していないからだ。
影は、もう影とは呼ばれない。影ではなくなったから。
漆黒は減り続け、身体は輪郭をはっきりと表し、その影であったものは大男であることが判明した。
2メートルは優に超える男。その身体は鍛えあげられている。一切の手抜きなしで。妥協なしで。
そして男は目に移るものを、いちいち殺しにも行かなくなった。
男は手下に任せ。座して待つ。
自分の前に人間が現れるのを。
自分の前に来ることができる者を。価値のある強者を。
この男にプレイヤーたちは幾度も挑み、幾度も敗北をきっする。
それでも彼らは情報を共有し、仲間を集い、役割を決め挑み続けた。
魔法という理解を超えるものを、さらに超える存在があるのが面白かった。
ボスキャラの即死攻撃を少しずつパターンとして覚え、一撃で倒されることもなくなってきていた。
──もう少しで勝てる!
最前線のプレイヤーたちは、そう思っている。
自分たちの物差しだけで相手を測っているからだ。
ボスキャラは全力であり、自分たちは追いつきつつある。そう勘違いしている。
それは間違いである。男が全力だったのは、力の足りなかった始めだけ。
男は己を取り戻すにつれ、自分が冷めていくのが自覚できていた。弱者を殺し力を奪うのも飽きてきたのだ。
それでも目の前に現れ続ける雑魚を殺すのには理由が存在する。もう少し力があれば、目障りな枷を壊し探しに行けるからだ。この前の強者を。
そして、────を。
自分が枷を壊すのが先か、強者がここに来るのが先か。
♢
「カイアス。見張りは切り上げていいぞ。アレは大人しくなったようだしな」
新宿より外。建ち並ぶビルから監視を命じられていたカイアスに、ようやく休みが言い渡された。
「やったー! では、ワタクシは遊びにいきますから!」
「──待て。誰か好き勝手していいと言った?」
「冗談キツいですよ、お父上様。寝ずに見張りをしていたのに。これ以上どうしろと?」
罰の延長線であり、否応なくやらされた見張り。
やっと許されたと思ったら違うらしい。
「お前は1人だと何をしでかすか分からないと判明した。彼女を連れて行け。それなら外出も許可しよう」
「……じゃあ、やめときます。少し寝ることにします」
あからさまにカイアスのテンションは下がり、本当にこの場所で寝始めようとする。
「こないだ言ってた店に行きましょうよ?」
「──!」
SNSで見てからどうしても気になっていた。
1人で行こうと思っていた。そのお店に反応する。
「あんたは気にしないでしょうけど。男1人で入る店じゃないわよ? どう、一緒に行く?」
「背に腹はかえられぬ。ということで……──行きます! ぜひ食べてみたかったので!」
「じゃあ決まり〜。チクったことをいつまでも根に持ってないで、仲良くしましょうよ。仲間でしょう? ワタシたちは?」
父親にチクった女をカイアスは快く思っていない。
だから、背に腹はかえられぬと口にしたのだ。
「分かってると思うが、次何かしでかしたら殺す。キミもそいつが不要だと判断したら殺していい」
「ひどっ、でも笑える〜。その時は背後から刺すからよろしくね〜」
「絶対に仲間ではない。そう思います」




