強化合宿
あたしとユッキーがトレーニングウェア。色違い。
志乃ちゃんと亜李栖ちゃんは学校のジャージ。
雲母さんは普通に私服。姉はコーチなので服装は関係ないらしい。
「強化合宿と言っても別に筋トレしたりはしない。私が教えてやるのは扱いと制御までだ」
ヘリポート内は今朝のように魔力が可視化されている。
これは初心者への配慮であり、今からやるであろう特訓を楽にするためだろう。
「まず、初心者2人は今使える魔法を完全なものにする」
「……ウチら魔法なんて使えないけど?」
「はい。まったく。だから強化合宿なのでは?」
いや、もう2つ使えるんだよ?
「武器の出し入れ。これはもう魔法だ。キミたちはそのままでは普通の人だが、創り出した得物を手にする、呼び出すことで魔法使いとなるんだ。やってみな」
何も持ってない2人の手にそれぞれ、剣と盾が現れる。
発現まで3秒か……遅い。
「よろしい。それなら今まで見えなかったものが見えるな? 何が見える?」
魔法使いちゃんとなったから分かるはず。
「雲母さんからは青い光が」
「雅からは緑色の光が」
「よろしい。今朝は見えなかっただろうが、朝も同じ状態ではあったんだ。これはヘリポート内の魔力を可視化しているためだ。これを自分の眼でやるとなると時間が掛かる。そこを省いて短縮するためと、教えるのにも役立つからキミたちのために行っている」
魔力には色がある。
赤、青、緑、茶色。
四色。四属性。
「ただし。キミたちが見えるのは、あくまでもこの場所でだけだ。会得には私が教える扱いを全部覚える必要がある。じゃあ次ね、その得物を仕舞ってくれ」
「えっ、出したのに?」
「──そうだ。早くやれ」
今度は2人の手元から武器が消える。
消えるまでの時間も現れた時と同じ秒数か。
「一度ずつでは分かりづらいだろうが、出し入れには力を使ってる。まずはこれを繰り返す。出来なくなるまでやってくれ。それで今日は終わりだ」
「もう……シノとアリスは私が見ますから。これは2人の今の限界を知るために必要なんです。姉さんは言葉が足りてません」
「わざと言わなかったんだけどな……まぁ、いいか。さて余裕で今のを見ていたミヤビちゃん。次はキミの番だ。可視化は2人のためだけじゃなく、主にキミのために行っている」
あたしのため?
あたしは見えてるけど……。
「ミヤビちゃんの力はリストバンドにより、きっかり半分抑えられている。それはそういうものだからだ。ミヤビちゃんには51パーセントの力を制御できるようになってもらう」
「つまり1パーセントだけ魔力を使えるようにしろと?」
「そう。賢いじゃないか。じゃあやってみ」
……無理じゃね?
1パーセントって何? どのくらいなのそれ?
「そのための可視化だ。1パーセントだけ自分を魔力で覆えたらクリアだ、──始め!」
なるほど。見えるか見えないかくらいの力の制御というわけだね。だから無理じゃね?
♢
説明しないとは思わなかった。
だって、彼女たちは本当に知らないのにだ。
知らずにやるより、知っている方が意識も違うと思うのだけど?
最初は余裕だった2人はすぐに根を上げる。
1時間くらいと姉さんは言ったが、説明も省いたし本当は10分もあれば時間は足りるはず。
ですが1時間はやらせろということでしょう。
「まだ、17回しか出来てませんよ? もう終わりですか?」
出し入れで1セット。
まだ、17回しか出来ていない。
しかし、シノもアリスも息は上がっているし、汗はだらだらとかいている。
「キツい。なんだこれ……」
「動いてないのに走った後のような疲労感がありますね……」
休憩を挟めば魔力は回復する。
この場所では特に早い。瞬く間に力は戻る。
空間自体に多量の力が充満しているから。
そしてアリスの言った、走った後という例えは正しい。これは今現在走れる距離を計測しているのだから。
「もう、無理だ……」
シノはそう言って座り込んでしまう。
18回。こんなところでしょう。
「私も、もう……」
アリスは19回。
少しだけアリスのほうが魔力量が多い。
わずかな差ではあるが羨ましい限りだ……。
「10分休んだらもう一度やりますよ?」
「そんな急には無理だろう」
「はい、正直言うと終わりにしたいくらいです」
「それならそれで構いませんが、雅の背中は更に遠くなりますよ? 見えない場所へと行ってしまうくらいに」
遊びなら終わりでいいだろう。
でも遊びでないのなら、この程度で根を上げている場合ではない。
私の言葉は2人にちゃんと伝わったようだ。
「回復が追いつかないでしょうから、私はそれをお手伝いします」
今朝は火だったけど、今度は水。
纏う戦装束は水。魔力の戻りを早くする魔法を使う。
これなら10分も休めば回復する。
「朝とは違う衣装になりました」
「フリフリで可愛い……」
♢
全然、コントロールできない。
そのくせ疲労は蓄積されていく……。
「80パーセントくらいは出てるな。51パーセントだと言ってるだろ? もっと抑えろ。自分の意思で」
そう無意識ではなく自分の意思で。
それがこんなに難しいなんて……。
「キミは今までは身体が使える力を制御していた。負担にならないように。機能を損なわないように。だが、それはもう無い。自分でやるしか、自分で覚えるしかない」
力が抑えられてなかったら、かなりマズい状態になっていただろう。
自分すらどうなっていたか定かではないと思う。
「もっと、もっと小さく。力を出すのは得意なようだが、そんな力馬鹿では話にならん」
力だけじゃ、技と速さであしらわれる。
今朝のユッキーとの一戦がまさにそれだ。
「60パーくらいか? しかし、まだだ。まだ──」
出力を上げるのは簡単なのに……。
必要な分だけ残すのは難しい。
「もう少し、──そこだ! そのままキープ!」
これもムズイよ。
キープするというのは更にムズイ。
「──うわぁ」
制御が外れて、あたしは自分で吹っ飛ぶ。
「下手くそ。もう1回だ」
「ちょっと休憩──」
連続しては無理!
どんだけ集中力を使うと思ってんだ……──何あれ?!
「ユッキーのあれは何? 朝と変身が違う! どうなってんの?!」
「どうって、水のドレスに変えたんだろ。あっちの2人の魔力の回復を手助けするつもり、──こら! どこ行くんだ! おい!」
今朝はピチッとした服だった。
だが、こんどはフリフリのドレス!
白と青。不思議の国のアリスみたいだ!
「ユッキー、あたしも治してー」
「サボりか」「飽きるの早いですね」
別に飽きたわけではない。
あっ、亜李栖ちゃんもアリスだったね。名前が。
「貴女は駄目でしょう。コントロールの練習をしているのに、回復したら分からなくなりますよ?」
「……そうか。回復したら分かりにくくなるね」
「だから、──早く戻りなさい!」
ユッキーは手に持っている錫杖を振る。
何もできないあたしは直撃し、元いた方に吹っ飛ばされる。
「──ぐふっ」
「はい、お帰り! 早く、もう1回やれ……」
雲母さんが怒っているので、その後は真面目にやりました。
♢
ヘロヘロになった志乃ちゃんたちはもう下に戻った。
残っているのはユッキーとあたしだけ。
鬼コーチも帰ったから、本当に2人だけ。
「本当にやるんですね。冗談だと思ってました……」
また勝負しようと言ったのを、ユッキーは冗談だと思っていたらしい。本日2度目だけど。
「やるよ。コントロールは効かないけど、ユッキーなら大丈夫だよね?」
水の戦装束。雲母さんはドレスと言った装いのユッキーと対峙する。
「これは錫杖ではなく槍です。当たると痛いですよ?」
錫杖の先に、辺りから集められた水が刃を作り出す。形状からも槍に見える。
「ユッキー、槍術もできんの!」
「出来ますよ。私にはそれしかないですから」
ほほう。剣術だけでも凄かったのに、槍も使えるとは。
「よし、やろう! ユッキーを倒して、あたしが最強だと証明するために!」
「懲りませんね。しかし、やるとなれば手は抜きません。いきますよ」
2人きりの屋上で今朝の続きをやりました。
♢
まぁ、結果は朝よりも簡単に負けてしまった。だが、面白かったから良しとしよう。
強化合宿はなかなか面白い。
何日日程なのか分からないが、こうしてみんなで魔法を習い始めました。
今日はよく眠れそうです。




