お泊まり会 ⑦
♢19♢
買い出しも無事にすみ、タワーマンションまで帰ってきた。エレベーターがあるというのはズルいね。楽だしダメになるね。
「ずいぶん買い込んできましたね……」
「ユッキーただいま! 寂しかったよー、イジメられたよー、こわかったよー」
「雅、引っ付かないで。鬱陶しいから」
「そんなこというなよー」
……なんか、後ろから冷ややかな視線を感じる。
亜李栖ちゃんではない。なんか嬉しそうだし。
「……さっきの話を聞いたあとだからか、あれがわざとらしく見える」
「過剰なスキンシップで、タッチをしているように見えると?」
「うん」
志乃ちゃんと雲母さんか。
「猫被ってるから裏は無い。あれが素だとさっきのような反応になる。ミヤビちゃんは素になると分かりやすい反応になるから、あの状態なら放置して大丈夫だ。すき──」
「──だから何を口走ろうとしてるんだーー!」
ちょっと目を離すとこれだ!
本人が目の前にいるんだぞ?
「と、こんなふうに反応するのが素だ。それに、おそらくいざとなっても何も出来ない。だから、いろんな意味で放置して問題ないよ。それより買ってきた物を冷蔵庫に入れないとな」
……分析されている、だと?
もしかして、あたしは雲母さんに勝てないのか?
「ユウキ、これ冷蔵庫に入れてくれ」
「お酒は向こうに、自分で、入れてください。姉さんしか飲まないんですから」
「……はい」
そして雲母さんはユッキーに勝てないらしい。
つまり、ユッキーに勝てばあたしが最強か。
「雅、姉さんの言った、すき、とは何でしょうか?」
「──ぶっ、げほっ、げほっ?! な、なんのことかな?」
「なんと続くのか気になって。雅は知っているんでしょう?」
あのダメ姉めー。
自分は隣にレジ袋持っていなくなるし。
どうしよう。なんて誤魔化せば……。
志乃ちゃんは助けてくれそうにない。
ずっと冷ややかな視線のままだから。
亜李栖ちゃんは、もっと助けてくれそうにない。
何故、あの子は携帯電話を構えているんだろう……。
「……雅?」
自分で乗り切るしかない!
すき、好き? ちがう違う!
──そうだ!
「すき焼きだよ。すき焼き。今日はすき焼きだよ! いいお肉貰ったからね!」
「なるほど。食べ物の話でしたか」
あぶねー、あたしナイス!
「……それは誰が作るんですか? シノ、それともアリス?」
ユッキーもあたしという選択肢がないらしい。
みんなどう思ってんだよ。あたしのことを。
♢
「しらたきは買い忘れたからない。我慢して食べてね」
「本当に雅が作るなんて……」
「──うん、すごく失礼だね。卵が欲しい人は自分で割ってね」
「本当にな。これで料理上手とは思わなかったな」
「こっちはもっと失礼! ネギしかよそってやんないからな!」
「すき焼きの予定じゃなかったのに、本当にすき焼きが出てくるとは思わなかったな」
「しらたきが無いのは忘れたからではなく、元からすき焼きじゃなかったからですからね……」
「きみたちは何を言ってるのかな? すき焼きだったんだよ今日は。最初から。ね?」
「まぁ、美味しくなったんだから良しとしよう。それじゃあいただこうか」
「「いただきます」」
「そうだね。食べよう!」
♢
すき焼きは好評だった。
これで、みんなの評価も改まったはずだ。
洗い物は、何も調理を手伝わなかったからと、ユッキーがやってくれた。
志乃ちゃんは食器を用意したり、あたしのフォローをしてくれたりした。
亜李栖ちゃんは下ごしらえを手伝ってくれた。
みんな手伝ってくれたんだ。1人を除いてはね……。
「んっ、それは余ったのか?」
「そんなわけないじゃん。フウちゃんの分だよ」
「アレは好きに食いたいものを食う。ほっとけよ」
「そんなわけにはいきません。ここにいる間は、何一つ手伝わなかったダメな姉に代わり、あたしが食事を管理します! この機会に改めなさい」
ご飯の用意をしている間から、買ってきたビールを飲んでいた雲母さんは本当にダメ。
「食事に関しては御見逸れした。明日からもよろしく! ただね、フウはキミらの前には出てこないぞ? アレの人見知りは筋金入りだ」
「でも、食べ物を取りに出てはくるよね? なら、あたしは人数分作るし、残しておくよ。フウちゃんの分だよって書いてね」
「……そうか。なら、止めまい。朝そのまま残っててもショックを受けるなよ?」
「そんな豆腐メンタルじゃないから大丈夫です。それに美味しそうな匂いと、楽しそうな声は聞こえたし届いてたはずだよね? その内ひょっこり出てくるんじゃないかと、あたしは思う」
「そうなってくれれば御の字だけど……」
「フウちゃんーー! すき焼き残してあるから早めに食べてねーー!」
よし。これでいい。
好き嫌いは分からないけど、食べてくれるよね?
♢
晩ご飯のあと。リビングのテレビを見ていたあたしたちに、雲母さんから集合がかけられる。
「全員集合。食休みもしたし、そろそろ始めるよ」
ダメな姉は、ダメな感じをなくして呼びかけてきた。
「……なにを? ゲームでもするの。みんなでトランプでもやる?」
「ここへは何をしに来たんだ。ただ遊びに来たのか?」
「お泊まり会でしょ?」
「もう1つあったろう」
もう1つって強化合宿?
今からやんの? もう外真っ暗なのに。
「強化合宿。今からやんの?」
「ヘリポートは灯りがつくし、どうせ裏側でやるんだ。時間はさした問題じゃない。ミヤビちゃんの現状の方が遥かに問題だ。早急に手を打つ。だから、時間は無駄にしない。1時間くらいだから各自着替え上に集合」
本当に部活みたいな感じなんだ……。
もっと、ゆるーくやると思っていた。
「ミヤビちゃんは、これ着な。さっき買っておいた」
雲母さんに呼ばれたあたし以外は、みんな着替えに行ってしまう。
あたしは真新しいジャージを手渡される。
スーパーには衣料品も少しあった。
そこで買ってきたんだろう。気づかなかったな。
「ただ……明らかに子供用なんだけど? これ、サイズ合うの?」
「それと男用しかなかったんだ。だぼだぼよりはいいだろう。女しかいないし多少見えても問題ない」
それはそうだけどさ。
「せめて学校のジャージでもあればなー」
貧弱だったあたしは体育関係は全部見学だった。
なのでジャージは持ってない。
「着替えて集合な。先行ってるから」
「はーい」
さて、着替えるか。ここで。
みんなのように荷物があるわけでも、部屋に着替えがあるわけでもないしね。
……ちっちぇえ。
ジャージはこんな感じなんだろうか? ……違うと思う。
「……雅、ちょっと来なさい」
「あれ、ユッキー早いね?」
一番早くユッキーが部屋から出てきた。
あぁ、ちなみにあたしたち3人は雲母さんの部屋。
昨日、あたしが泊まった部屋に寝泊まりします。
部屋は余ってるようだが、3人で構わないと言いました。
「どう見てもサイズが合ってない……。私のを貸しますからちょっと来て」
そんなに? 確かにジャージの前は閉められそうにないけどさ。
「それはフウにあげますから。まったくサイズも考えず買ったんですね」
「あたしじゃないよ?」
「分かってます。それより、これ着てください」
あたしとユッキーは背格好が似てる。
サイズは問題ないだろう。
つーか、ユッキーの部屋に侵入してしまった。
「みんな待ってるでしょうから、早く行きますよ」
……何もない。余計な物がか。
あたしの部屋と大差ない。
ベッドとタンスと机と本棚。備え付けのクローゼットしかない。
「どうかしましたか?」
「いや、何もないなーと思ってさ」
「必要なものはありますし、あまり興味もないですから」
志乃ちゃんのように可愛いものにあふれても、亜李栖ちゃんのようにお嬢様ふうの部屋でもない。
本当に最低限のものしか置いてない部屋だった。
「私も先に行ってますね。靴も出しておきますから、サイズは問題ないと思うけど……雅?」
「うん。先行ってて。すぐ追いかけるからさ」
この家自体にそれほどものが多いわけではない。
それにしても、これはどうなんだろうか?
明日は買い物に行くらしいし、ユッキーにも少し買おう。つーか、お揃いで揃えよう。




