お泊まり会 ⑥
♢18♢
志乃ちゃんは教えてくれなかったことを、雲母さんは教えてくれた。すげー、衝撃的だった。
そんなのはテレビの中だけだと思ってきた。
でもさ、今思うと魔法があるんだから、他は何があっても不思議じゃないよね……。
それに今日まで気づかなかった。
部屋にいるときは、だいたいテレビを観て過ごす。
あたしはかなりテレビ好き。
バラエティもドラマも夕方のアニメも好き。中でも料理番組が一番好きかな?
そんな中でさ、あまりニュース番組は観ない。
天気予報と朝の占いくらいしか見ない。しっかり見ないと言った方がいいのかな?
だからなのか、単に無知だったのかは分からないが知らなかったんだ。今日まで。
そういう人はテレビの中の作り物だと思ってた。
幽霊とかUFOとかと同じように……いや、魔法があるんだから幽霊もUFOもいるのか?
警察の番組ってあるじゃん? あれって観たことないんだよね。裏ではバラエティとかドラマとか料理番組とかやってるからさ。
……長くなるな、これ。
つまり、何が言いたいのかというとね──。
「──亜李栖ちゃんの家ってヤクザ屋さんだったの?! そんな人たち本当にいるの? フィクションじゃなくて? 現実に実在するの!」
「はい」
マジか……。
つまり若い衆は、ドラマとかに出てくるような若い衆だった?
やべー、あとで写真撮ってもらわなくちゃ。
そして亜李栖ちゃんパパはいわゆる組長。
普通のおじさんだと思ってたのに。
そんな裏の顔があるだなんて……。人間って怖いね。
「じゃあさ、じゃあさ、拳銃とか家にあるの! あるなら見せて!」
「いい──」「──無い! そんなものは無い!」
盛り上がるあたしに志乃ちゃんが割り込んでくる。
「……だから、なるべくここへは来たくせになかったんだ。いつかは雅が気づくとは思っていた。けど、それをあの人は──」
あたしに簡単に教えてくれた雲母さんは、亜李栖ちゃんママと会話中。
2人の世間話は長くて、暇になったあたしたちは家宅捜査中。
「ねぇ、亜李栖ちゃん。事務所はどこなの? ちょっと乗り込んでみたいな」
「それじゃあ、今度行き──」「──行かない! バカなのかお前らは?!」
志乃ちゃんはどうやらヤクザ屋さんが嫌いらしい。
だから、いつもあんな態度だったのか……。
「もう車に戻るぞ! 雅は先に連れて行くから、急いで支度してきてくれ」
「そうですね……ところで雅さんは?」
「何言って。ここに……」
♢
家の中に若い衆を発見した。
さっき学校に来ていた、雲母さんにやられた人の数人を。
亜李栖ちゃんがいいと言っていたことを試してみよう。
「おい、お前らちょっと自販機まで行ってコーラ買ってこい。分かってると思うけど、振るんじゃねーぞ? もし、開けた時にこぼれたりしたら……」
「──おまえは何をやってんだーーーー!」
──スパン!
と、いい音がして頭が痛い。
志乃ちゃんに叩かれたらしい。
「いたい……突然何すんだよぉ……」
「何してんだは、お前だ! 本当にさっきから何やってんだ? そして何を言ってんだ?! 心臓止まりそうになるからやめてくれ……」
何故だか志乃ちゃんはまいっている。
まるで車の中でのあたしたちのように。
「わかったよ。コーラはいいよ。その代わり記念撮影するよ。志乃ちゃん撮って、若い衆は並んで」
「いや、それも……あー、やるんだ……」
ノリのいい若い衆たちは、あたしの周りに並んでくれる。ポーズも付けてくれる。いい写真になったと思う。
「早く携帯に送って! アイコンに使うから!」
「やめろ。頼むからやめて」
それでも志乃ちゃんは、携帯を操作して写メを送ってくれるようだ。優しい。
自分も携帯の画面を見ていると、ポンポンと肩を叩かれた。若い衆の1人が手にコーラを持っている。
「瓶コーラだと? ……いいと思う」
冷蔵庫にあったやつらしい。
なかなか売ってないよね。ところで……。
「栓抜きは? このままじゃ飲めないじゃん! 気が利かないなー」
「お前が気を利かせてくれ! 頼むから! もう誰か代わってくれーー」
♢
アリス宅からタワーマンションへの車内。
キャッキャしている後ろの2人に対して、また助手席に座ったシノは顔色が悪い。
「シノ、キミも大変だな。あの2人に振り回されて」
「さっきのはあんたのせいだけどな……」
「ミヤビちゃんが世間知らずだとは知らなくてな。まぁ、夕飯も豪華になったんだ。良かったと思おうよ!」
娘がご厄介になるからと高い肉を持たされた。
これまでなかった友人を家に連れてきたことを、母親は喜んでいた。
家があれでは、そこに行く好き者はいないだろうな……。
彼女たちくらいしか。
1人はテーマパーク感覚だが、シノは分かっていて行ったし、分かっていて友達をやっている。
これは中々に興味深いな。
私でいうところの、せっちゃんのポジションだな。
「ふふっ……」
「何、笑ってんですか?」
「昔を思い出してね。私にもキミらのような友人がいる。特殊な家だったのを気にしない、理解していて友達をやってくれるヤツラがね」
この3人で言うなら、私はミヤビちゃんか。
家柄も同じだし2人を振り回していたからな。
「それって今も続いてますか?」
「あぁ、続いてるよ。仕事絡みの付き合いが多くなったが続いてる。今でも友達だ」
「……そっか」
だからこそ憎い。
私たちを繋いだものを奪った奴らが。
それを知りながらその地位に就いた奴が。
次に顔を合わせる機会があれば、間違いなく殺す。
♢
昨日の夕飯も、今日の朝ごはんもコンビニの惣菜だった。
あの家の冷蔵庫にはレトルトばかりだった。
大量の冷凍食品にチンするだけ惣菜。
炊飯器はあったから米は炊けるんだろう。
別にお家それぞれだし、チンするのは簡単だし、あまり好きではないけど、不味くはない。
しかしねー、あれを毎日はいかんよ。いかん。
食べるなとは言わない。
あたしもめんどいときはカップ麺の日もある。
しかしねー、女性が3人いて、誰も料理しないのはどうかと思う。本当にどうかと思う。
お泊まり会兼強化合宿でご厄介になるし、亜李栖ちゃんママはいいお肉をくれたし、何よりユッキーに美味しいものを食べさせたい!
「だから、スーパーに寄るよ。肉だけ食べるのは感心しないし、栄養的にも問題がある。野菜も買いたいし今日以降の食材も欲しい。さっきの諭吉さんを使って買い物していくよ」
「……ミヤビちゃん。料理とかできるのか? 台所が爆発したりはしないか?」
「一人暮らしなめんなし! あたしは毎日お弁当を作っています。料理番組も好きです。見たやつは必ず作ります。調理実習的なやつは列ができます。どうだ! 参ったか!」
「自分の評価だろ、それは。実際どうなのよ?」
料理しない姉は、志乃ちゃんたちに聞きやがった。
あたしの言うことは信用できないらしい。
この姉は料理とかやりそうにはない。
オフィスも散らかってたしね。
「出来る。半端なく出来る。雅の女子力は高い」
「毎日のお弁当も手が込んでいて、正直言って羨ましいくらいです」
「……マジか。ダメな子じゃなかったのか」
「──どういう意味? あたしのことダメな子とか思ってたの?!」
そんな会話をしていたらスーパーに着いた。
♢
「亮司からふんだくった金は使わない。あれは本当にミヤビちゃんに使う。ここでの買い出しは私が払うから、いるものはカゴに入れなさい」
あたしは食料品を。
志乃ちゃんは日用品を。
亜李栖ちゃんは主にお菓子を。
それぞれカゴに入れていく。
もう、全員がカートを押している。
ダメな姉はひたすらにお酒をカゴに入れている……。
あとコーヒー類もか。
それと煙草も買うつもりのようだ。
一切、野菜とか見てない。
きっとスーパーは酒と煙草を買うところだと思っているに違いない。雲母さんはダメな女。
「──あっ、大根安い! 買っとこう。味噌汁にいいね。しかし、あの家に味噌はあるのだろうか……」
「雅、こっちは終わったぞ」
志乃ちゃんがカートを押してやってきた。
「タワーマンションに味噌はあると思う?」
「……知らないけど。雲母さんに聞けよ」
「ダメな姉は果たして味噌を知っているのか……。もう、調味料類とかも全部買ってこう。それなら間違いない。志乃ちゃんの方に入れていくね」
こうして必要そうなものは全部買った。
そして正解だった。あの家には何も無かった!
改めさせます。いろいろと。




