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 お泊まり会 ⑤

 火神 亮司(かがみ りょうじ)の口にした、風神 雅(かざかみ みやび)との関係性。

 それは雅がまだ欠陥品と判断されるより前までの話。不出来な孫娘にはもったいないとして、とうに消滅している関係性。


 当人たちが知らないところで決められ、当人たちに直接告げられた事柄。2人の間には何もなかった。時折顔を合わせる程度の関係性でしかなかった。


 亮司と五つ歳の離れている雅にはよく分かっていなかった話だ。

 これは、あったかもしれない物語ではない。そんな未来はあり得なかった。


 雅の欠陥は生まれついてのものだし、亮司の出来の良さも生まれついてのものだから。


 この話を聞いた彼女たちの反応は様々だった。

 雲母(きらら)は腹を抱えて笑い、志乃(しの)は唖然とし、亜李栖(ありす)は何か凶器になるようなものはないかと探した。


 それ以上、いうな、いうな、いうな、いうな──。

 その心の中で願った雅は、届かなかった願いに落胆した。


「──そうか! そんな面白い間柄だったのか! 全然知らなかった。内々の話にしてもひじょうに驚いたな」


 笑い。


「許嫁って今時そんな……」


 唖然とし。


「何か丁度いいものはないか……アイツをここで殺しておかないと……」


 抹殺を図ろうとし、それぞれに反応を見せた。

 表だって反応しなかったのは雅と亮司。言われた方と言った方。


「亮司。面白い話だったよ、ありがとう。ただな……このことを二度と口にするな。この子の価値が下がる。私は更に腹が立ったぞ。アリスに協力してやっていいと思うくらいにはな。ジジイたちは言うに及ばずだが、お前も同じくらい最低だ。お前なんかにこの子は勿体無いない」


 今まで笑っていた人間と同じ人間だとは思えない、その迫力に彼女たちは息を呑んだ。

 そのあとは黙っているしかないほどだった。


「えぇ、分かってますよ。貴女に言われなくてもね」


 意に返さないのは言われた男だけ。

 呑まれることなく自分の意思を口にする男。


「私たちにぶっ殺されない内に消えろ。お前を見逃すのはこれが二度目だ。次はない……」


「えぇ、それも理解しています。今日はニアミスしてしまいました。以後気をつけます」


 言葉を切ったタイミングを見計らったように、アパート前の駐車場にスポーツカーが入ってきた。

 亮司の側に助手席がくるように走り、停車する。


「あれ、あの人。昨日の?」


 運転している男の顔を見て、そう口にしたのは志乃。


「──なに?」


「昨日、裏東京から戻ってきたあとさ。雲母さんが来るまで時間があったろう? その間にあの人がウチらのカバンを持ってきたんだ」


 そのカバンを届けた男は一瞬迷ってから車から降りてきた。


「亮司。帰りは自分で運転しろ」


「えぇー、手痛いんですけど?」


「──いいから、やれ」


 うっかり利き手で雅の魔法を阻止した亮司が痛めているのは本当のこと。

 そうしなければ、駐車場は跡形もなく大破していただろうから。


水神(みずがみ)か。彼女は任せていいんだな?」


「あぁ、そうしてくれ。それより火神(かがみ)さん。あんた……まだ日本に居たのか?」


「今や俺は役人だ。その様子だと知らなかったらしいな。せっちゃんは教えてくれなかったのか?」


「──あんた、例の対策部署にいるのか? それじゃあ、情報なんて何も出るわけないな」


「なら、それ以上は聞くな。来る途中で風神の連中とすれ違った。この場は亮司が治めたようだが、次は期待するなよ。風神 雅はしばらくここへは近づけるな」


「分かってるよ。ミヤビちゃんに力の使い方を教える。構わないよな?」


「俺に聞くな。と言いたいところだが、身を守るためにも必要だ。風神は昨日の出来事を把握している。使えると判断したんだろう。だが、易々とくれてやるわけにはいかないんだ」


 使えないなら要らないが、使えるなら必要。そんなヤツら。

 同じ血が流れているはずなのに、その血によってではなく、有能か無能かで全てを判断する。

 それは風神に限った話ではなく、四家と呼ばれる全てに共通する事柄。

 そんなのが嫌で会話をする2人は家を捨てた。


「……上手くいってるのか?」


 何が、どう、そんな部分を抜きにしても伝わる。


「いや。1人は脱落し、1人は反応が途絶えた。その上、術者は行方不明だ。おまけに都内に向こうの魔物が現れるという現象にも見舞われている。手は足りないし……水神どうだ? 協力する気はないか? 報酬は約束しよう」


 1人はと言った時、火神さんと呼ばれた男は雅のことを見ていた。


「遠慮するよ。亮司の顔を見てると殺意が湧く。今だって、この子らがいなかったらそいつを生かしておいたか分からない」


「そうか」


「あんたこそ、どうしてそいつといるんだ?」


「必要だからだ。火神の内情は知れるし、後ろ盾にも使える。殺すのはあとからでも出来るからな」


 利用できるから。それ以上の意味はない。


「ちょっと酷くないですか? ちゃんと聞こえてますからね!」


 やはり亮司は意にも返さない。

 口する言葉は聞こえるだけの意味しかもたない。

 

「そろそろ行くか……。彼女から目を離すなよ?」


「大丈夫だ。今日はいないが、ミヤビちゃんには騎士がついてる」


 水神 雲母(みずがみ きらら)の言葉に男は初めて素の表情を崩し、これ以上はない驚きの表情をする。


「そうか。間の悪いのは相変わらずのようだが……良かった」


 一瞬ではあったが男の瞳が潤んだような気がした。


「そんなことはない。昨日ね、私に言ったんだ。間に合ったと。そのことが嬉しかったと。昔は私が教えられる存在だった。けど、今や私が教える側だ。そしてこの子らなら変えられる」


「そうでなくては困る。俺はそれに賭けたんだからな……」


 男は賭けをした。きっと変えてくれると。自分たちには出来ずに諦めたことを。

 今がその時なのだ。隠されていたものが明るみに出た今が。


 かつて諦めた彼ら彼女らは大人になった。

 その下には、かつての自分たちくらいの彼ら彼女らがいる。そしてチャンスも訪れた。

 戦う以外の力を得て大人となった彼ら彼女らに、今はまだ戦う力しか持たない彼ら彼女ら。役者は揃った。

 

 ♢


火神(かがみ)さん。帰る前にひとつ。実はこっちに帰ってくるとは思ってなかったミヤビちゃんはな。家財道具一式を全部捨てたんだ。金がいる。今あるだけ寄越せ」


「俺は着の身着のまま出てきたからな……。財布には大してないぞ? カードでいいか?」


「足がつくだろ。現金がいい」


 2人の視線はスポーツカーの運転席にいる男に向かう。


「なぁ、亮司(りょうじ)。お前だって少しくらいはミヤビちゃんの役に立ちたいよな?」


「良かったな亮司。金持ちのボンボンが役に立って」


 先の展開を読みスポーツカーを走らせようとした亮司だが、進行方向は塞がれる。

 すっかりおいてけぼりだった少女たちによって。


「わざわざ下ろして来いとは言わないよ。黙って恵まれない子供に寄付しろ。さもないと、あのブロックが車のフロントガラスに突っ込むぞ?」


 そこら辺に置いてあったブロック塀のブロックを少女の1人は手に持っている。たぶん躊躇いなく車に投げつけるだろう。


「フロントガラスは高いぞ。黙って言われた通りにした方がいいな。キレさせたら手に負えないぞ。水神もあの少女もな」


 自分には関係なくなった男は、そう言いながら助手席に乗り込む。


「女の子は金がかかるんだ。百万は出せ。それならあのブロックはやめさせよう」


「早く戻るぞ。やる事などいくらでもあるんだ。俺の時間を無駄にするな……」


 仲間でも友達でもない。利害関係しかない間柄に助けはない。だから、火神 亮司に助けを出す人間は1人としていなかった。


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