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 チュートリアル ③

♢3♢


 いくつもの銃声が響いた。

 いくら撃っても弾は無くならず、1人も立っている者がいなくなるまで、銃声は続いた。


 その惨状にも関わらず、一滴も血は流れておらず死んでいる者も1人だっていない。これは遊戯(ゲーム)なのだから。

 撃たれた少年たちは倒れ、うめき声を上げる。


「……そういうご趣味が? この国ではそれは手に入らない。というか所持で逮捕されますよね?」


「モデルガンというのがあるんだよ。それに手に入らないだけで見ることはできるし、ドラマにも映画にもゲームにだって出てくるよ」


 スペルは凶器である。

 人間が凶器だと思うものは様々だ。

 アスファルトに倒れる少年たちは、イメージが足りなかった。


 凶器というのなら銃火器の方が強い。

 こうして立って、引き金を引くだけでいいのだから。


 そしてピエロは説明しなかった。

 仮に少年たちが銃火器をイメージしていたのなら、この結果にはならなかったはずだ。


「なるほど納得です。それではワタクシはこれで失礼いたします。いそがしい、いそがしい──」


 立っている者がいなくなったことで、大通りに出ることは簡単になった。

 塞ぐ者がいなくなったのだから。


 背を見せ立ち去るピエロに、銃口が向けられる。


「──あっ、忘れてました!」


 二度三度と銃声が響く。

 ビルの隙間であるこの場所は、よく音が反響する。


「……えっ」


 撃たれた方ではなく、撃った方が驚きの声を上げる。


 魔法という未知の技術で作られた銃ではあるが、弾も出れば発射音だってする。硝煙だって出ている。

 弾は貫通するし、壁に当たればその場所にめり込む。


 死を招かないだけで、手にしている物は本物と遜色ない。それどころか、殺さない代わりに痛みはキチンとある。そんな代物のはずなのに……。


「皆さん、帰り道はそちらです。ワタクシが来た方から帰られるのがよろしいかと」


 弾は男に届くことなく空中で停止している。

 何か見えない壁でもあるかのように止まっている。


「……どう、なってる」


「──んっ? 19時過ぎてますね。いつの間にかゲームが始まってます! でしたら、もう少し説明しないとですねー」


 自らに放たれた銃弾など意にも返さず、再び少年たちの近くまで行き遊戯について説明を始める。


 撃たれた少年たちにも意識はある。

 言葉も聞こえているだろう。

 体感したことのない痛みに、のたうちまわっているだけで。


「えー、このゲームは魔法を使ったゲームである。プレイヤーは魔法を使いライバルを倒したり、モンスターを倒したりしてレベルを上げてください。なになに……手に入る魔法は最低5つ。フィールド内にいる5人の調整役から、1つずつ手に入れることができる。この調整役とはワタクシですか?」


 ピエロ男は何か紙を見ながら、全文をそのまま読むのはめんどくさいから、嚙みくだきニュアンスだけ伝わればいいというような感じで言葉を続ける。


「尚、この内容はゲートアプリ内に全て記載されている。 ……この一文を最初に持ってきてほしかったです。そう、このゲートというアプリをダウンロードしてください。なんと無料! マップに運営からのお知らせ。攻略指南から掲示板まで。このゲームに必要なことは全部含まれおります!」


 いちいち説明してはいられない。そうピエロは考える。

 なるべく簡単に、次からはアプリを入れてとだけ伝えようと思っている。


「レベル? そんなゲームみたいなものがあるのか?」


「ワタクシ。プレイヤーには手を出さないと決められておりますので、コチラは特に咎めません。ヒヨコの魔法など避ける必要すらありませんしねー」


 そう言って、未だに止まったままの弾丸を掴み潰す。

 割れるような音がして粉が下に落ちる。


「レベルでしたね。ゲームなのだからレベルはあるでしょう。ヒヨコちゃんはレベル1。頑張ってレベル上げましょう! ステータスに、スペルとスキルが上昇します。敵を倒して経験値を稼ぎ、経験値が貯まるとレベルが上がる。そんな仕組みになっています」


「こんなふうに倒せば経験値が手に入るのか?」


「いえ、戦闘はあくまで動きを封じるだけ。倒した相手に印のある手で触れると経験値が手に入ります。お試しあれ」


 言われるままに倒れる敗者に少年は触れる。刻印のある左手で。

 すると刻印は輝き触れられた敗者は消える。跡形もなく。


「──なっ」


「そんな顔をしなくとも大丈夫です。彼はたださっきの場所に戻っただけ。死んでもいませんし、ゲームオーバーにもなっていない」


「さっきの場所?」


「おや、お気づきになってない? ここは先ほどまでいた場所と、そっくりではありますが別のところです。街の喧騒も無ければ、塞いでいた4人もいないではないですか。何より、あれだけ銃声がして誰もこないのはおかしい。いくら人が薄情であっても、自己保身のために警察くらいは呼びますよ」


 静まり返る街の声。

 聞こえるのは自分たちの音だけ。


 ここは遊戯のために用意されたフィールドであり実験場。レベルの低いプレイヤーの魔法は、フィールド内でしか機能しない。


 だからレベルを上げるのだ。

 フィールド外でも使えるように。

 そしてゲームの目的は、数多の中から一握りのプレイヤーを創り出すこと。


 最大とされるレベル10。

 それが意味するものは到達者。

 いったい……どこに到達するというのだろう?


 7月20日。こうして遊戯は始まった。

 瞬く間に参加者は増え、持つ者と持たざる者との差は広がる。

 街にはエッグを求めて人が溢れ、フィールドには何も分からぬままプレイヤーが増える。


 痛みでやめる者。恐怖でやめる者。様々いれど、それはプレイヤーの中のどのくらいの人数だろう?

 少なくとも増える人数を超えることはない。

 だって、ここは日本で最も人口が多い場所なのだから。


 ※


 少年たちの事の起こり。そこまで話は遡る。

 その時まで、彼らはちゃんと前を見て歩いていた。


 ぶつかったのは事故と言っていい。

 後のいざこざは、若さゆえの行動だと思ってほしい。


 その時、何があったのか?


 外にいた人間全員が空を見上げる現象が起きた。

 車は停止し、歩く人は歩みを止め、電車に乗る人は窓から空を見上げる。


 東京の空を見ることができた者は、皆そうしたのだ。

 理由は地上から空に昇る光を見たから。


 それは瞬く間に増え東京の空を埋め尽くす。

 そしてゲートと同じくらいの大きさの幾何学模様が出現する。


 幻想的な光景だった。

 昇る光も、描かれる模様も。


 まるで、魔法のようだった。


 見た者はそう感想を述べた。

 当たり前。だってそれは魔法だったのだから。


「アハッ、素晴らしい! 単独でこれだけの魔法を! 彼の地への道を閉ざし時間さえ操る術式。なんて……術者はあそこですか……」


 光の上がっていた地点を見て男はそう口にした。


「おっとー、お邪魔虫ですか?」


「────。────」


 強い風に言葉はかき消える。


「初めまして。ワタクシ、カイアスと申します。以後お見知り置きを。 ……以後があれば、お見知り置きを。ですかね?」


 この後、ゲートは消滅し男は少年たちの前に現れる。これはそれより少し前の話。


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