お泊まり会 ②
風神 雅にとっての空白の時間。
その空白の一部。タワーマンションでの一場面。
「ミヤビちゃんは寝かせたし、ユウキは買出しに行かせた。キミたちには……ここで帰るという選択肢もあると思うが?」
風神 雅は絶対に口を開かないだろう。
彼女はゲートに関わる一切を、誰にも何も話すつもりがない。
「知りたい。雅に何があったのか……。あたしは、こいつの友達だ」
その言葉は今日を体験してなお発せられた。なら、そこに偽りはない。
「私に普通に接してくれた雅さんを、私は友達以上と思っています。そんな彼女が隠している、苦しんでいることを知りたい。そして、できるなら力になりたい」
何のことはない。
悩みさえ口に出さない親友の力になりたい。
ただ、それだけのことだ。
「ははっ、キミたちの気持ちはよく分かった。話そう。7月20日にあったことを。それと、それに付随する遠くない未来に訪れる危機を」
雅が知らなかっただけで、志乃も亜李栖も知っている。だから今朝マンションを訪れた彼女たちのお説教は、次からはちゃんと相談しろというものだったのだ。
♢
空っぽの部屋。
あったものは何もなく、備え付けの家電にダンボールが2つだけしか部屋の中にはなかった。
「こ、これはね……アレだよ、アレ! 断捨離。断捨離したんだ!」
嘘をつき誤魔化そうと試みる。本当は必要なくなるだろうから、自分で捨てた。
「……まったく、何も全部捨てんなよ。だけど夏休みだしな。買い物くらいは付き合ってやるよ」
「──はっ!? みんなでお買い物……。それもアリですね! 行きましょう、明日にも行きましょう!」
2人は何も無い部屋を見ても驚きもしない。
何で……?
「ミヤビちゃんは友達をみくびりすぎだな。なぁ、ミヤビちゃん。そういうのはもうやめにしな。彼女たちは知ってるよ。私が教えたからな」
……何で。何を勝手に。
「──何勝手なことしてんだよ! 誰がそんな話をしてくれって言ったんだよ!」
ここへは戻れないかもしれない。そう思ってた。
いくら安全性を説明されようと、じゃあ大丈夫だと思うことは出来なかったし、誰にも話すことも出来なかった。
家族は頼りにならず、要らない子を心配する人はいないと思ったから。
「何だ。そんなに怒るのか? でもな、自分じゃ言わなかったろう……絶対に。向こうのことはいいさ。それはミヤビちゃんの自由だからな。だけどさ、聡いキミはもう分かったろ?」
「……分かんないよ。全然分かんない……」
「なら、それも言葉にしてやろう。キミは──」
「──やめろ! そんな話を聞きたくない! 勝手なことしやがって! もう、帰って。みんな帰ってよ!」
志乃からはデコピンを、亜李栖からはチョップを、それぞれ雅は頂戴する。
「いたっ、何すんだよ!」
「バーカ。お泊まり会やんだろ? 誰が帰るか!」
「そうです。もう決まったことですから。今更のドタキャンは許しません!」
何で? どうして……。
「ウチらは頼まれて友達やってんじゃないんだ。自分で決めて、自分で好きでやってんだよ」
「雅さんを捨て駒にしようとした奴らは消します。もれなく全員。この世から。それは雅さんのためであり、自分のためです」
「ミヤビちゃんは愛されてるねぇ。私は知ってることを全て話した。それでも今朝、彼女たちは家に来た。それが彼女たちの答えだ。それでもキミはその手を払いのけるのかい?」
いつのまにか理由がなくなってしまった。
声を荒げたのは、半分本気で半分嘘だ。
言うつもりはなかった。自分からは絶対に。
けど、お節介な人が話してしまったようだ……本当に嫌い。
制服に教科書。筆記用具にノート。
それと学校のプリントやテストの答案。
これらは捨てられなかったんだ。
ゴミに出す機会はあったはずなのに、ゴミに出せなかった。
1人きりの家にあったものなんて、苦もなく全部捨てられたのに。
自分の居場所だった学校のものは、何一つ捨てられなかった。友達との思い出は捨てられなかった。
「……なん、なんだよぅ。なんか涙出てきた……」
人前で涙など見せたことはなかった。
そんな弱さを他人に見せるつもりもなかった。
それなのに……。
「風神 雅は一回死んだ。もうここにいる風神 雅は以前とは違う人間だ。そう思ってこれからを生きな。それは弱さなんかじゃないし、彼女たちには涙だろうと見せてやりな」
「……うぅっ……」
どうしてだか涙は止まらなかった。
「風神の家なんて出てしまえばいい。同じようにそうして、好きにやっている人間は少なくない。要らないと言われた奴らより、こうしてミヤビちゃんを気にしてくれる人間を大事にしな」
「ほら、ダンボール2つしか無いんですから早く行きますよ! 冷蔵庫の中身は……どうしましょう?」
「クーラボックスなら車にある。私が取ってこよう。キミらはミヤビちゃんを、ぎゅーっとしてやりなさい」
……なにそれ。恥ずかしいからやめて。
「──いいんですか?!」
「あぁ、弱ってる今がチャンスだ。滅多に見せない姿だろうからな。チャンスは十二分に利用しなさい」
「……いや、何言ってんだ。亜李栖も何をしようと……」
「──志乃さんもですよ!」
そう言って、亜李栖ちゃんは本当に抱きついてくる。無理矢理引き寄せられたあたしと志乃ちゃん。
お節介な雲母さんは、それを見て笑いながら車にクーラボックスを取りに行った。
♢
ぎゅーーっとされた後、再びのお説教。あたしは、今朝は眠くていまいち聞いていなかったからだ。
「──と、いくら言っても言い足りないな。だけど、雅に説教し続けてもしょうがないから、そろそろ終わるか」
「ですわね。雅さんも反省したでしょうし、座布団の1枚もないのに、ずっと正座でしたからね」
あ、足が痺れて……。
この2人。どんだけ怒ってるんだよ。
きっとこれからも少しずつ怒りをぶつけてくるつもりなんだ……。
「終わったか? 口を挟まんでいたが退屈だった。まぁ、ミヤビちゃんの泣き顔も見れたし、学校の成績なんかも知れた。中々に面白かったから良しとしよう」
雲母さんは学校のいろいろが入ったダンボールを勝手に開けて、中身を物色していたらしい。
「大人しいと思ったら何してんのさ! あ、足が……」
「フローリングの床で、あれだけ正座してたら痺れもするだろう。ダンボールは私が持つから、クーラボックスとミヤビちゃんをそれぞれ運んできてくれ」
あたしは物と一緒の扱いなのか?
そしてこの流れは断らなくてはならない。
「おんぶは却下で! 自分で歩くから。くっ……いたい……しかし自分で歩く」
「なんだ、しおらしいのはお終いか。普段からああしてたらどうだ? 可愛いかったぞ。ミヤビちゃん」
「なーーっ! 黙ってるばかりだと思うなよ。その内やり返してやるからな! 嫌い、本当に嫌い!」
「「はいはい」」
言いたい事はキリがない。
だからそれを飲み込み、また始めるのだ。
人同士の関係は1日にしてはならないが、1日あれば変化するし前進する。
♢
思ったより時間を食ってしまった。だけど、あの時間はミヤビちゃんにも2人にも必要な時間だった。
知って知られて、互いに距離は近づいただろうからな。
いいね。青春だねー。
しかし、いい気分で車まで戻って来たところでゾロゾロと6人現れた。
そして……無粋だね。空気が読めないと見える。
「雅さん。私たちと一緒に来ていただきます」
さっきは喧嘩のプロだったが、今度は魔法のプロか。何処かでは捕まるとは思っていたが間が悪い。
「前回のように大人しくついて来てくれますよね?」
女ばかり6人。
これを配慮とか思ってるあたりがクソだな。
「悪いようにはなりません。ですから──」
「ミヤビちゃんはこれから友達とお泊まり会なんだ。キミたち邪魔せんでくれるか?」
「……ですから、我々と一緒に風神の家に行きましょう」
なるほど。あくまでも用があるのはミヤビちゃんだと。
「い、行かない。もう風神の家には行かない」
本人は拒否し友人2人はご立腹。
さて、これはどうしたものかな……。




