お泊まり会
♢16♢
「ねぇ、志乃ちゃん。若い衆って何? 言うほど若くない人たちだったよね?」
亜李栖ちゃんの呼んだ車。運転していたのは若い衆。
何故だか前後にも若い衆の乗った車に挟まれて、学校まで送ってもらった。
「……雅、遅刻するぞ。早く行こう……」
「えー、亜李栖ちゃん。待ってなくていいの?」
亜李栖ちゃんは、そんなに若くはない若い衆とお話中。
「「──行ってらっしゃいませ!」」
そう声を揃えて若い衆が全員頭を下げている。
家の人だと聞いたけど、亜李栖ちゃんの家は何をやっているんだろう?
何回か家にも行ったし、パパとママにも会ったが分からなかった。
その時に志乃ちゃんに聞いても、今みたいな反応だった。
「ごめんなさい! あーでもない、こーでもないと話している内に……いえ、何でもないですわ。行きましょう」
「……うん?」
何て言うつもりだったんだろう?
気にはなったけど、遅刻はマズいし授業は集中しないといけない。だから、そのままで放課後になった。
「帰ろー、今日は真っ直ぐ帰ろう。昨日は散々だったからね」
「いえ、真っ直ぐは帰りません。というかタワーマンションに行きます。お泊まり会です!」
「……はっ? お泊まり会? 何で?」
志乃ちゃんの言う通り。
急になに? 何でお泊まり会。どっから出てきたの?
「……合宿と言い換えてもいいかもしれません。強化合宿と」
「な、なんだってーー?! それは部活によくあるやつだよね?」
「そう。おっしゃる通りです。雲母さんが泊まる部屋を提供してくれて、ばっちりコーチまでしてくださるそうです。いちいち集まるより全員で泊まり込んだ方が、効率よく魔法を習えるというわけです!」
「そんな楽しげなこと思いつかなかった……。それならしょうがない。やるしかないよ、お泊まり会。じゃなかった、強化合宿」
本当に部活みたいだ。
「いや、急すぎるわ! 亜李栖。お前、自分だけ事前に聞いてたな? 授業中もこそこそしてたし、さっき揉めてたのもそれだな?」
「そうです。すでに志乃さん宅には連絡してありますし、了承もいただきました。あとは雅さんさえ連れて行けばいいだけですわ!」
「いつの間に……──じゃなくてバカなのか? なに黙って勝手なことしてんだ!」
「だってー。どうせウチでやると言ったら、志乃さん来ないでしょう? 元から画策していたお泊まり会。そこに雲母さんからの申し出。これは渡りに船ということで、頑張りました!」
頑張るのベクトルがたぶん間違ってるね。
でも、お泊まり会か……。
タワーマンションということは、ユッキーも一緒……。
「雅だって嫌だって言うよな? こいつは自分の部屋大好きだからな。休みなんていったら、引っ張り出さなきゃ家から一歩も家出ないからな」
そんなこと……ある。
仕方なく買い物にでも行かなきゃならない以外は家に居たい。
「雅、言ってやれ」
だけど。今のあたしは……。
「やろう! お泊まり会。家でテレビ見てたい気持ちより、部活的活動の方が気になる」
「──雅?!」
「一回帰ってユッキーのところに集合だね」
きっと今までだったら、何か理由をつけて断ったはずだ。
なのに今日は、そういうのも悪くない気がしている。
なんでだろう?
あたしは、どうして……。
「そうと決まれば行動です! 実はもう車を待たせてあります! それぞれの家に寄って手早く準備して、お泊まり会の会場に向かいましょう!」
「あの車に乗るの、本気で嫌なんだけどな……」
「慣れですよ、慣れ。別にアゴで使ってくれていいんですよ?」
「無理に決まってんだろ」
「ふーん。なら若い衆に、おまえちょっと自販機まで行ってコーラ買ってこいよ。とか言っていいの?」
「はい」「──ダメだ。ぜってーやんなよ!」
……どっちなのさ。
♢
若い衆たちは朝のように校門前に来ていた。ただ、もれなく全員が地面に倒れている。
これはおそらくアレだね。
テレビでよくある、程なくしてサイレンが聞こえてきそうな感じだね。
「──よう、待ってたよ!」
若い衆を全員を倒した犯人は、右手を上げてあたしたちに話しかけてきた。
「なんでいるの?」
「なんでって、迎えに来たんだよ。わざわざな」
「……嘘っぽい」
髪を一つにまとめた雲母さんが、あたしたちを待ち伏せていた。
「早く乗りな。そろそろパトカーがやって来るぞ」
「そんで、どうしてこの人たちは倒れてるの?」
「ここで待ってたらね。こいつらが後から来たくせに、退けと言ってきたんだ。無視してたら、そのうち窓をバンバン叩き始めてね。それでイラっとして、ついね」
あー、なるほど。ついじゃ仕方ないね。
「ご迷惑をお掛けしました」
亜李栖ちゃんが雲母さんに頭を下げた。
「家の者がご迷惑をお掛けしました。きつく言い聞かせますので」
「なんだ。彼らも迎えだったのか。そうとは知らず、私こそすまなかった。うっかり全員やってしまった」
「いえ、堅気に迷惑をかけている時点で問題ですから。雲母さんに乗せていってもらいましょう。ささ、早く。私はちょっと──」
雲母さんは気にしたふうもなく。
志乃ちゃんはあたしをぐいぐい押して、それぞれ車に乗り込んだ。
「迎えご苦労様です。ただ、この件はしっかり反省していただきますからね。私はあちらの車に乗っていきます。この事はパパにも連絡しておきますのでご心配なく。それと、──1台もパクられんじゃねーぞ。さっさと撤収せんかい!」
倒れていた若い衆は、何故だか急に飛び起きすぐさま車で走り去った。
不可解。何で急に?
「ねぇ、志乃ちゃん──」
「──あたしに聞くな!」
えー、なんで志乃ちゃんはいつも、この話題の時こんななの?
「おまたせしました。さぁ、行きましょう! まずは志乃さん宅からですわね」
亜李栖ちゃんが乗ったのを確認した雲母さんは車を発車させた。
♢
久しぶりに志乃ちゃんの部屋に入った。
見た目に似合わず、可愛いもの好きな志乃ちゃんの部屋は可愛いものが溢れていた。
「これ欲しかったんだー、ありがとうね!」
志乃ちゃんからぬいぐるみをいただきました。
とても大きいクマさんを。
有名施設のキャラクターにして、このもふもふ感。
「あぁ、買ったはいいが正直邪魔だったんだ。返品は受け付けないからな?」
「返せと言われも返しません!」
いい抱き心地。
今日からこれを抱きしめて寝よう。
「……トランクに入れなさい。そんなの後ろにいたら、バックミラー見えないからな」
「えー、いいじゃん。トランクに入れたりしたら可哀想だよ」
「それじゃあミヤビちゃんが降りな。もしくはミヤビちゃんがトランクにいきな」
なんなんだよ。しょうがないなー、もう。
「しばしの別れだ。許せクマ」
──バタン!
とトランクを閉めて、車に戻る。
雲母さんの車は大きい車なのに、最後列には色々載っていて中は窮屈なのだ。
「次は……どっちが近いんだ?」
「あたしの方が近いよ!」
「ミヤビちゃんのとこか」
♢
あたしはうっかりしていたんだ。
きっと、お泊まり会が楽しみだったんだろう。だから忘れてた。
冷蔵庫の中身をせっかくだし、今日の夕飯に使おうとは思っていたのに。でも、部屋の中のことまでは頭が回らなかったんだ。
──あっ、これはマズい。
そう思った時には家の前まで来ていた。
鍵を開けたところで気がついた。
2人には家の中を見せられない……。
散らかっているとか、見られて困るものがあるとかじゃない。
見られて困るものどころか、何もないからだ。
制服と学校に必要なものが残っていたのは、ゴミの日にタイミングが合わなかったからだ。
分別は大事なんだよ?
よくここに来ていた2人に、これを見せるわけにはいかない。
「雅、早くしろよ?」
「ほらほら、パパッと用意しますわよ!」
「……安いアパートだな。セキュリティもカスだな。ミヤビちゃん、不用心だぞ。もっとセキュリティのちゃんとしたところに住め」
みんな好き勝手に言いやがって。
「あたし1人でいいから。みんな車に戻ってて」
志乃ちゃんと亜李栖ちゃんは、あたしの話を聞いていないのか、あたしを押し退けてドアノブを回す。
──な、なんで? ダメだって……。




