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 朝練 ②

「キミらは今日は見学だ。魔法を教えるのは明日から始めようと思う。服装も制服じゃあれだから、明日からはジャージ必須で頼む。着替えには下を使っていいし、シャワーなんかも好きに使ってくれて構わない。だから、今日のところは見ておきたまえ。キミらが出会った偽物たちではなく、本物の実力をな」


 見学。それは見て学ぶこと。

 この場合は何を? もちろん魔法に決まっている。


 誰の魔法を見て学ぶのか?

 それは魔法というものが世間に認知されるより前から、魔法に触れてきた2人をだ。


 欠陥品で出来損ないであった彼女と、出来損ないであったが立ち止まらず進んできた彼女とをだ。


 この対戦カードは中々に希少である。

 表だって魔法を使っていい場所など世界には存在しないし、使える彼ら彼女らは使えない者に、それを披露しはしないのだから。


 そして魔法を担う家が、こうして人目に触れて闘うことなどあり得ないのだから……。


「素人2人は何も出来ないと分かっているし、ユウキにしても実力は把握している。しかし、ミヤビちゃんに関しては何の知識も情報もない。そこで、少しユウキとバトってみてくれ。何ちょっとした遊びだ。気兼ねなくやってくれ!」


 ♢


 足元が青い床。

 青くはあるが透けていて遥か下には公園がある。

 ここはタワーマンションの最上階。ヘリポートである。


 ヘリポートから広がる、マンションの敷地内の一定範囲を使った空中にある足場が、あたしたちの闘う舞台。


「ミヤビちゃん。思いっきりやって構わない。昨日は見れなかったんだろう? ……自分の底を。なら、今日は思いっきりやって試してみるといい。自分を」


 雲母(きらら)さんの言葉に、昨日のことを思い出した。

 今日は昨日よりずっと調子がいい。

 いや、今まで生きてきた中で一番調子がいいと言っていいと思う。


「部活感覚でやっていいのか分かんないんだけど。ユッキー、いいの?」


 洗濯され乾燥された制服を見に纏う雅。


「来なさい。実は、少しばかり興味がありました。風神(かざかみ)の後継者であった貴女の力に」


 対するユウキはトレーニングウェア。その手には刀。


「──わくわくするね!」


「……そうですね」


 対照的な2人。合図はこのやり取りだった。

 2人は使う魔法も対照的。

 1人は魔法使いのように。1人は剣士のように。


空域制御(くういきせいぎょ)


 (みやび)が唱えるのと同時に、半径20メートルほどの緑色の箱が出現する。

 それは魔力の可視化により見えるようになっている魔力の色であり、そのことにより魔法の範囲や軌道も見えるようになっている。


「──両断!」


 雅が放った蹴りの軌道に、横向きに緑色の刃が飛んでいく。昨日までとは比べ物にならない速度と威力で。


「……あれ? ──ユッキー!」


 ──避けて!

 雅はそう言うつもりだったのだろうが、言葉より風の刃の方が速い。


 自分の予想を上回る結果。もし当たれば、当たった人間は真っ二つになるであろう風。


 ユウキは回避などするつもりはない。後ろには3人がいるから。


 ──ギィン


 そう音を立てて刃と刃がぶつかる。

 速いし、重い風の一撃。この風は本物の刀と打ち合うより、ずっと強い。


「はぁっ──!!」


 それでも、後ろに押されながらもユウキは雅の風を斬った。それに驚いているのは3人。


「ユッキーすごい!」


「……ビビった……」


「何で、2人はこっち向いてやっているのでしょう……」


 防いだことへの称賛と、助かったーと思う彼女たちとの温度差。そして雅たちとはまた違う温度差のユウキたち。


「……ユウキ。武装しな」


「舐めていたわけではなかったんですが、ここまでとは思いませんでした……」


 手に残る痺れに素では勝負にならないと悟った。

 膨大な魔力量に、魔法の発現までの速さ。


「欠陥品からその欠陥が無くなれば、ただの天才だったわけだ。今のはほんの軽く。ただのジャブだ。ミヤビちゃんの底は深いよ」


 雅の機能不全は解消されている。

 生まれ持った欠陥が消えて無くなり、魔法のように直されている。


 昨日、彼女はそのスイッチを入れた。

 結果。雅は自分の魔法に振り回されている。


「姉さん。危ないと思ったら止めてくださいね」


「あぁ、遊びで死人を出すわけにはいかないからな」


 ユウキは何処からかカードケースを取り出す。

 それにはベルトが付いていて、本来は腰に巻く仕様であることが分かる。


「──ミヤビちゃん。ちょっとタイム! ユウキが変身するまで待って!」


 雲母(きらら)の言った、変身という単語に雅は反応する。


 変身……魔法少女!? ユッキー、魔法少女に変身するの! と叫んでいる。


 言葉としては間違いではない。

 ただし変身するのは魔法少女ではなく、魔法を使う剣士とでも呼ぶべきものにだが。


 カードケースから1枚の赤いカードが引き抜かれ、魔方陣が宙に浮かぶ。

 浮かぶ魔方陣は人が潜れるくらいの大きさに広がり、ユウキはそこを通る。


「まぁ、魔法少女ではないんだがね。ミヤビちゃんが喜んでるし、それでいいか……」


「何だっていいです。じゃあ、 ──お願いしますね!」


 魔方陣を通ったユウキは、トレーニングウェアではなくなっている。

 服装はトレーニングウェアから、赤い戦装束に代わり、可視化された魔力は赤に変化する。


「さて、私はどちらを止めることになるのかな?」


 天才か凡才か。

 果たして、どちらを止めなくてはいけなくなるのか?


 ♢


 ──すごい! すごい! すごい!! 魔法少女はすごい!


 あたしの制御が効かない魔法を、いとも簡単に斬る。

 空域が無かったら、自分でもどうなってしまうのか分からないくらいなのにだ。


「ユッキーすごいね! 本当に魔法少女だね!」


 蹴りによる縦横斜めの三連撃。3つの風。


 制御は効いていないので正確には分からないが、ピエロ野郎だって斬れそうな斬撃を、ユッキーはただの刀でぶった斬る。


一閃(いっせん)


 そしてぶった斬った剣とは違う。赤い軌跡を描く斬撃。

 魔力を使ったその攻撃。

 通常の攻撃とは比べなれないくらいに強力な一撃。


 ……だけど届かない。


 予測通りにユッキーの刀はあたしに届くことなく途中で停止する。


「あははっ、残念。それじゃあ届かないぜ!」


 悔しそうな表情はない。

 元からユッキーはあまり表情がないけどね。


二閃(にせん)


 赤い軌跡が一振り。

 だけどユッキーは二と言った……。


「うぇ……ちょっと──」


 横に斬撃は二つあった。

 斬撃は二つ重なっていて、一つしか見えなかったのだ。


 ──見えない! 目が追いつかない!

 ユッキー、一瞬で二回も刀を振ってる。


 一撃では届かなくても同じところに二撃。これなら空気の壁を斬れる。


「──圧砕」


 対応すべく、とっさに出した直上から押し潰す攻撃。その発生より速くユッキーは飛び退く。


 マジか……。

 魔力が可視化されてるから?

 違うよね。まだ、魔法は起きてないもん。


 ユッキーが回避してから、押し潰す一撃は発現した


「ビックリしたー。この強度じゃダメかー、それなら……もう少し圧縮してみようかな?」


 この相手なら大丈夫だ。

 もっと、もっと、もっと──、力を多く使用しても大丈夫だ!


「──えぃ!」


 壁はさらに濃く。より厚く。

 そして刃はより鋭く。速く。


 相性ではあたしが不利。

 だけど魔力量はあたしが圧倒的に勝ってる。


 ユッキーからは、魔法少女の衣装からしか力を感じない。それなのに互角の勝負をしている。


 ……どんな仕組みなんだろう? まぁ、今はいいや。


「これでもう、あたしには触れない。防御の魔法を使うまでもない……」


 よ? ……えっ?

 最後の一文字はビックリしすぎて、本当に驚いて止めてしまった。


 あたしとユッキーの間には大分距離があった。

 ユッキーが飛び退いた分の距離が。

 それに鋭く放った刃と、強固になった壁もあった。


 攻めも守りも完璧だった……のに。


三閃(さんせん)


 ユッキーの爆発的な速度の上昇。

 駆ける姿を追うのさえ困難なほどの速さ。


 振られる刀の赤い軌跡は線を引く。その数は3つ。

 ユッキーは軌跡が消えるより速く、あたしまで到達する。


 嘘……斬られる。空域を抜けられる。


 ──冗談でしょ?


 一閃で風の刃を。二閃目で空気の壁を。そして三閃

目であたしを……。


 恐ろしくて鳥肌が立った。

 そして同じくらい、嬉しかった。


 あぁ、彼女なら……きっとどこまでも自分に付き合ってくれる。きっとこれだ。

 彼女に、水瀬 優姫(みなせ ゆうき)にあたしが感じていたものは!


太刀風(たちかぜ)


 蹴りによって放つ風も太刀風。

 手に持って使う風も太刀風。


 刀を振った時に起こる風を太刀風という。

 本来ならそれを利用する技だけど、空域内なら関係ない。


 刀には刀を。ただ、ぶつけてみたくなっただけ。


「凄いね。空域内は体だって重いはずなのに。こんなに凄い人を初めて見たよ。やっぱりユッキーはいいね」


「次で仕留めます」


 闘いの中で直接交えた唯一の刃と言葉。


 そっか。次で最後か……。

 ──なら、最高の一撃で応えないとね!


四閃(よんせん)


 きっと四は死と読むのだろう。

 見たものは死ぬ。そんな閃撃だと思う。


 三閃でも凄かったのに、まだ上があるんだ。

 あははっ、いいね。そうじゃなくちゃ──。


「ストップ。そこまでだ。熱くなりすぎだよ、2人とも。遊びで死ぬつもりか?」


 雲母さんがあたしたちの間に現れる。

 魔力の可視化は解かれ、終了が宣言される。


「……えー、終わりなの? いいとこだったのにー」


 だけど、ここは彼女の場だ。

 あたしの空域と同じ。この場所の支配者は雲母さんだ。


「何がいいとこだ。自分の魔法に体がついていってないぞ、ミヤビちゃん。体力ないのに暴れ過ぎだ」


「そんなことないし……」


 あー、そうかも。

 息は上がってるし足は重い。

 ちょっと動いただけでこれかー。あたし、体力なさすぎる!


「ぶーたれるな。終わりと言ったら終わりだ。ユウキもいいね?」


 ぶー、不完全燃焼だよー。

 もっとやりたかったのに……。


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