表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/111

 朝練

♢15♢


 志乃(しの)亜李栖(ありす)。彼女たちが早朝から水神 雲母(みずがみ きらら)のマンションを訪れたのは、当然理由がある。

 手に入った魔法。その扱いを教えてもらうためだ。


 昨日7月25日。風神 雅(かざさみ みやび)が気を失ったあと。

 裏東京から脱出し、雅をそのまま病院へと連れて行くつもりだった彼女たちは、それに反対する水瀬 優姫(みなせ ゆうき)と揉めた。


 それはもう手がつけられないくらいにだ。

 すでに雅は、ただ寝息を立てているだけではあったが、それをそのままは信じられないからだ。


 互いに平行線のまま、らちがあかず時間だけが経過する。そこで呼び出されたのが雲母である。


 一応保護者であり大人である彼女は、いがみ合う女子3人をなだめ自宅へと招いた。

 その自宅とはタワーなマンションであり、志乃たちには想像もつかない場所だった。


「彼女は退院したばかりだろう? 昨日の今日で、また病院に運ばれては、いろいろと問題が生じる。そこでだ。私、水神雲母が責任を持つということでどうだろうか?」


 水神に水瀬。その名前には覚えがあった。

 風神と同列にして医療分野で有名な家だったから。


「ミヤビちゃんはこれでいいとして、あとは好きにやりたまえ。何、友達のことで喧嘩できるのは悪いことではない。キミたちは仲良くなれるさ」


 そう口にした以降、移動中の車の中でさえギャーギャー言い争うのを雲母はただ眺めていた。

 マンションに到着してからも互いに譲らず、折り合いをつけ両方が納得するのには時間がかかった。


 だけどその甲斐はあったのだ。

 志乃たちはユウキと呼ぶし、優姫はシノ。アリス。と呼ぶようになっているのだから。


「……なにそれ。あたしは? ねぇ、あたしは?! その間も1人だけずっと寝てたの? 起こしてよ! 誰か1人くらい声をかけてよ!」


 蚊帳の外だった雅は、聞かされた空白の時間の一部に憤慨した。


 ♢


 朝練。なんだか運動系の部活みたいだ。

 運動部には入れなかったし、そもそも部活はやってこなかった。


 だから……友達とこうして例えごっこ遊びにすぎなくても、部活みたいなことができるなんて思ってなかった。


「部活といえば朝練。今は夏休み中。しかし部活はある! 内容はちょっとアレだけど……──いいと思う! やろうぜ!」


「なんだ。ミヤビちゃんは部活もやってこなかったのか? 本当に虚弱だな」


「みんなで魔法を極めて全国制覇だ! やるぞー!」


「……その虚弱が無くなればこんなものか。本当にどうなってんのかね……」


 ユウキの姿が見えない。

 その訳は彼女は日課の鍛錬に行っているから。


 その鍛錬に加わるつもりだった志乃(しの)亜李栖(ありす)。そして、何故だか付いてきた(みやび)雲母(きらら)


「2人とも寝てればいいのに……」


「何で雅さんは急に元気に? それに水神さんも起きてくるなんて……」


 ユウキは屋上だ。

 眠い雲母は雑に言い放ったが、何か思いついたらしく雅に声をかけた。


 その結果。雅は何故だか盛り上がり、誰より先に歩いている。屋上へ向かって。


「そっちじゃない。そっちに行ってもヘリポートにいくだけだそ?」


「「「……えっ?」」」


 屋上というからヘリポートに行くもんだと思っていた3人は困惑する。

 雲母は立ち止まり一番端の部屋の鍵を開ける。


「──こっちだ」


 一見すると他の部屋と同じ形。

 だが、階段がある。上に続いている階段が。


「変だよな」「変ですね」


「変なの? 家の中に階段あるよね?」


「ここマンションだぞ。一軒家じゃないし、それに最上階なんだけど、ここ」


 ここより上はヘリポートしかない。

 それなのに階段がある。

 不思議というか不気味。その感覚に間違いはない。


「──早く行こう! 時間なくなるよ?」


 雅は階段を上っていく。

 彼女が大丈夫だと判断したのなら、それにも間違いはないのだ。


「そうだな。時間は確かに無いしな」


「ですわね。何より雅さんが何も言わないですし」


 3人は階段を上がる。

 階段から見上げた上は天井ではなく暗闇。その暗闇に近づくにつれて光が差す。


 一気に開ける視界。

 目に飛び込んできたのは、やはり屋上。間違いなくヘリポートだった。


「ここ……昨日の場所に似てる」


 雅が口にした昨日の場所とは、裏東京。


「そう、裏東京。キミらが昨日行ってきた場所だ。私が繋げた!」


 雲母の言っていることが理解できなかった。


「最初はユウキの練習用に空間をねじってスペースを作ったのが始まりだ。しかし7月20日以降、この空間、裏東京に繋げることに成功したんだ。便利だぞ?」


「便利なの?」


「ここはぶっ壊しても19時になれば完全に修復する。おまけに元の場所の性質を引き継いでいるらしく、誰もここに気づかない。ここには来ようと思わず、風景の一部でしかないというわけだ。おかげで捗る捗る」


 何が? と雅は言わなかった。

 何故なら、それは、かなり、ヤベーことだと思うからだ。


「ふーん……ところでユッキーは?」


 ヤベーことには触れずに、雅はユウキ探す。

 広いヘリポートにはあちこちに物が置いてあり、見える範囲にユウキがいないからだ。


「いるだろ」


 雲母が指差した先に確かにユウキはいた。

 明らかにヘリポートから外に出てはいるが。


「──えっ、浮いてる? 雅、あれも魔法なのか?」


「違うよ。足元にはガラスみたいな足場がある。見えないのは志乃ちゃんが使えてないからだよ、魔法を」


「それを習いに来たんだよ……」


「そうだったねー」


 雲母と雅はユウキの方に歩いていく。

 躊躇なく空中に踏み出す2人を追いかけたくても、志乃たちは躊躇ってしまう。


「うぉ、やっぱり高え……」


「落ちたら一巻の終わりな高さですわね。それに遮るものがないから風が強い」


 彼女たちから見れば風が吹き付ける高層マンションの屋上に過ぎない。


「どうした? あぁ、そこに踏み出すには勇気がいるか。どれ……」


「ユッキーがなんだって?」


 後ろをついてきてない2人を不審に思った雲母は振り返り事情を察した。そして2人に見えるように配慮する。


 透明だった床が青く染まる。これなら足場は見える。


「これならいいだろう。ついでに魔力も可視化しておくか……。ほれ、行くよ?」


「ねぇ、ユッキーが何? また仲間はずれ? ねぇってばー」


「なんでもない! くっつくな!」


 志乃と亜李栖。彼女たちは青い床に一歩を踏み出した。


 ♢


 魔法を奪った少年に非難が集まる。

 それは当然であり、当たり前だ。


 少年は退がるのではなく進んだ。

 自分たちの入ってきたゲートには戻らずに、違うゲートから脱出するために。


 固定ゲートは出入りがいつでも可能ではあるが、可能性としてあとをつけらるし、顔も覚えられてしまうかもしれない。


 今日のランダムなゲートの出現場所の1つは新宿駅。人混みに紛れれば追跡は不可能。


 彼は計算して、ことに及んでいる。

 非難する者が追ってくるパターンもあるだろう。

 その場合は、数と力を計算して考えるつもりだった。


 続けのか、止めるのかを。


 魔法を奪われた少年には仲間がいた。

 彼はチームでゲームに臨んでいる。

 その仲間は見ていた凶行に怒り、犯人の少年を追う。


 数は4人。おそらく新規のプレイヤーではない。

 魔法を使いなれているし、まとまりがある。


「1つは奪ったんだ。満足するしかないかな……」


 少年は止めることを。撤退を選ぶ。


 ♢


 新宿駅のゲートが見えた。

 後ろを追われながらでも逃げ切れる。


 確信し残りの距離はわずかになった時、どこからか漆黒が現れた。


「──えっ?」


 声を出したのは、追われる少年ではなく、追ってきた少年の1人だった。

 その胸には漆黒が突き刺さり、身体は宙に浮く。そのまま払われ消える。


「……安全装置が作動した? それじゃ、こいつが?」


「──来るぞ!」


 強制的にフィールドから消える。

 これは安全装置が作動した証。


 経験値になったわけでも、フィールドから脱出したわけでもない。それなのに消える。

 それはダメージが限界を超えた証であり、ゲームでなければ死んでいることを意味する。


 与えられたダメージが、人間の正気を保つことができる限界を超えたことを意味している。


 漆黒は残りも同じようにフィールドから消す。

 彼からしたら殺すと言っていいだろう。

 この影であったものはプレイヤーを殺している。


「…………くっ……」


 あと少しだったのに……。


 少年が奪った魔法は持ち帰らなくてはいけない。

 経験値と同じで、ゲートをくぐるまでは自分のものになっていないから。


 佇む漆黒は少年を見ていた。

 その漆黒には黒が薄れ、口らしきものが現れていた。


「────」


 漆黒の、かつては影であったものは口を動かしている。

 少年に唇を読む技術はない。だから、何と言っていたのかは分からない。


 ……その言葉はこうだ。


「オモシロイ」


 そう漆黒は口にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ