白い天井 ③
「私は何て言えば、私はどこから叱ればいいんだ? ミヤビちゃん」
ユッキーが出て行ってしまったお風呂。
少し呆然としてしまったけど、気を取り直して雲母さんのところにやってきた。
「ユッキーを刺したヤツは、ツッチーはどこ? 同じ目に合わせてやる!!」
「ツッチー? あぁ……そういうことか」
「──1人で納得してないで!」
初めて雲母さんは立ち上がった。
やっぱり身長高い。は、そのまま近づいてきて、あたしの前で止まる。
右手を上げて──
──ゴン!
そう音がするくらいの力でゲンコツされた。
「痛い……」
「乙女らしく恥じらいとかないのか? 服着て。せめてタオルくらいは巻いて出てこい! 見られても減りはしないが、もう少し恥じらいを持て! ……ったく、どうなってんだ最近の子供は……」
「マジで殴りやがった……」
「そして、せっかく印刷した書類にビショビショで触りやがって。あー、あー、やり直しじゃないか! ──いつまで裸でいるんだ! さっさと服着てこい!」
確かに紙に両手の跡が、あたしの手形が付いている。紙はふやけてビショビショだし、勢いあまったのか破れているところもある。
「はい。ごめんなさいでした」
これは完全にあたしが悪い。
ついね。ついカッとなってね。
「床まで濡れてるし……。フウだって体くらい拭いてから出てくるというのに。まったく、高二にもなってこんなことしてんのか?」
小言が聞こえているけど、黙って服着てこよう。
♢
改めて雲母さんのところにやってきた。服を着て、髪も乾かして、歯も磨いてからやってきた。
「何か飲むか? ……と言ってもコーヒーか水しかないな」
「水で。コーヒーは不味い」
「子供だな。ほれ」
冷蔵庫から取り出した、ミネラルウォーターのペットボトルが放られてくる。
キャッチしたペットボトルは、ちょうどいい冷たさ。
「んで、ユウキの話だったな。どうしようかな……」
雲母さんも缶コーヒーを手に、ソファーの対面に座る。おそらくこれは来客用のソファーとテーブルなんだろう。
「ユウキには言うな。聞いたことは絶対に口外するな。約束するなら、知ってることは話そう」
「する。約束するよ」
「よろしい。ミヤビちゃんは好き嫌いがはっきりしてるな。嫌いなものも即答するだろ?」
「ちなみに雲母さんは嫌い。さっきのことをあたしは根に持っています」
──そうか! と雲母さんは笑う。
今の嫌いはマジなやつだったんだけどなー。
「つい、からかってしまったんだ。悪かったよ」
「しばらく様子を見てから、嫌い判定を取り下げるか決めます」
そうしてくれ。とまた雲母さんは笑う。
そして、少し間を置いてから真面目な顔で話始めた。
「ユウキの傷については本人が言う以上のことは知らない。実際にその場にいた訳ではないしな。本人が刺されたというならそうなんだろう」
ユッキーは嘘を言ってないし、雲母さんも嘘を言ってない。
「あの傷は、消す気があれば消せるんだ。跡形もなくな。だけどユウキはそうしない」
「なんで?」
「……あれが唯一残された、繋がり。だからかな?」
「……繋がり?」
何との繋がり?
「女の子の体に傷があるってのは、本人は気にしなくても周りは気にするんだ。だが、私が言っても聞き入れやしない!」
「あの傷。刺し傷なの? 本当に?」
「……ほう。ミヤビちゃんの言う通りだ。ただの刺し傷じゃない。しかし、これ以上は私が勝手に話せる領分を超える。知ってることを話すと言ったが理解してくれ」
「わかった。あたしも全部聞けるなんて思ってはないから」
刺し傷か……。
何があったんだろう? そして──
「ツッチーは会ったら、ぶっ殺していい?」
「…………。 ──あぁ、いいぞ! 遠慮なくやってくれ! 仕事をほっぽり出して遊んでるクズだ。是非ぶっ殺してくれ!」
「よし。夏休みの目標に入れておこう」
夏休みの目標。ツッチーなるクズ男をぶっ殺す。
「ミヤビちゃん。今の話をユウキに言うなよ?」
「うん。それとユッキーは何でヒメなの? 実はお姫様なの?」
「ユウキのキという字は姫と書くからだろう。優しい姫とかいて、優姫と読むんだ」
「おぉー、姫! そっかー、ヒメだったかー」
確かに黒髪ロングだし、和風の姫と言っても過言ではないしな。
「……その反応。もしかして、ミヤビちゃんはユウキが好きなのか?」
「────ブッ!? 」
雲母さんの発言に口に含んだ水を吹いてしまった。
「なんだ。そういう趣味の人だったのか。聞かなければ良かったな……」
「──いきなり何を言うの? べ、別に好きとかじゃないし! 全然違うし!」
「誤魔化すの下手くそだな。本当のことを隠すのは下手なのか? 猫被って生きてきた割には純なんだな。いがーい」
「好きとかじゃないし。ちょっと気になるだけだし。それに……こんなの……初めてだし……」
「自分を嫌いな奴は他人を好きにはならないか」
あっ……そうなんだ。
だから、あたしは人を好きにならないんだ。
「自分で気づかなかったのか? ミヤビちゃんは好き嫌いははっきりしてるが、その好きはLIKEであってLOVEじゃないんだ。嫌いはみんな一緒なんだろうけどね」
「ライクとラブはどう違うの?」
「難しいな。例えば……」
字が違う。とかの話ではない。
どちらも同じ好きだけど、その意味は違うんだろう。
「今日、ミヤビちゃんを連れてきた2人。シノとアリスだったか? 彼女たちは好きか嫌いか。どっちだ?」
「好き」
間違いない。
「即答ということは好きに違いはない。じゃあ、その好きはLIKEかLOVEか?」
「…………んー」
ライクなの? ラブなの?
ねぇ、あたし。どっちなの?
「なら、ユウキはどっちだ?」
「──ユッキーは好きとかと違うし! 好きじゃないと言えば嘘になってしまうけど……」
「そこだ。両者の違いは。友達はLIKEだけど、ユウキのことはLOVEだと言うわけだ。 ……ちょっとひくわー」
「ラブじゃないし! ライクだし!」
「いいじゃないか。初めて好きになった人は1つ歳下の女の子でした。売れるぞ」
何が? 何が売れるの?!
「ちがーーーーう! 絶対に違うからな?」
この姉は本当に嫌なヤツだ!
もう本当に嫌。きらい! 嫌い! 嫌いだーー!
♢
駄目だ……。
何故だか魔法が使えない。現れるはずの銃が現れない。
他の奴らも同じだった……。
何故だ? どうして……何をされた?
「──まさか壊されたから?」
壊れたから現れない?
自分のレベルが下がったわけではない。魔力を感じる力はそのままある。
……どうしたらいい。どうすれば再び使えるように、どうすれば他人より強くいられる?
ふと目にした開きっぱなしのアプリ。
そのアプリ上に、新たに更新された項目が現れる。その項目は3つ。
1,ボスキャラクターの追加のためのメンテナンスの終了時間。
2,ボスキャラクター追加に伴うイベント開催!
3,壊れた魔法の再建方法。
「壊れた魔法……」
やはり壊れた魔法は使えないということなんだ。どうしたらいいんだ?
壊れた魔法の再建方法のページを開く。
そこに書かれた再建方法は以下のとおりだ。
♢
魔法を失ってしまったアナタ。
もう二度と、同じ魔法を使うことは不可能です。
新たに作るか。新たに手に入れるかしなくてはなりません。
1つ目の方法。
フィールド内か東京都内のどこかにいるエッグの配布者。彼らから手に入れる安全かつ確実な方法。
彼らは1人につき1つ、エッグを皆さまにプレゼントいたします。根気よく探しましょう!
2つ目の方法。
魔法を作成した材料は、アナタたちの中に存在するものです。
壊れた材料は使えないですが、材料を変えれば魔法を再び作成することが可能です。
その材料とはアナタを構成する何か。無くなった材料に代わる何かを差し出せば、新たに魔法を作成することが可能です。
詳細はこちらのページにございます。
3つ目の方法。
注意! この方法を運営は推奨していません!
魔法は奪うことも可能です。
実は両者の合意さえあれば、魔法は受け渡しが可能です。くれよ? いいよ! とさえなれば過程は関係ありません。
ただし全ては自己責任でお願いします。
運営は一切の責任を負いませんし、責任を負わせることは実質不可能です。
行う際は細心の注意と、人の心を重んじての行動を期待します。




