白い天井 ②
ユッキーに、あんな顔をされるとは思わなかった……。
あれはどんな気持ちだったんだろう?
今日の寝床となった部屋に1人。
ベッドに寝っ転がって考えている。
この部屋も天井が白い。
四角い部屋。あたしが空域として区切るのと同じ形。
「やっぱり、お風呂入ろうかな……」
着替えたしいいかなと思ってたけど。
やっぱり女子だし、毎日お風呂くらいは入らないとね。
「明日も学校。そういえばカバンはどこに? いったんだろう……か?」
いちお部屋の中を見渡すが、カバンなどあるはずがない。
自分でもどこから持ってなかったのか覚えてない。
持ち物といえば、着ていた制服しかない。
つーか、洗濯したってどういうこと? バカなのかな。
「カバンのことは明日考えよう。最悪手ぶらで学校行こう」
家の鍵とか財布とか携帯とか入ってるけど、無い物は仕方ない。
落し物として届いてるかな?
交番というのは何時からやっているんだろう?
くよくよしても、無い物のことを考えてもはじまらないのでお風呂に行こう!
「──あれっ、誰か入ってる?」
洗面所の横のバスルームには明かりがついてる。
可能性としてはユッキー。
突撃したら怒られるかな……。
女の子同士だし、別にいいよね?
「ダメだ、ダメ。流石にそれはダメだと思う。仕方ないな……」
玄関には行かず、不自然なところにあるドアを開ける。本来なら隣のマンションの部屋のはずの場所は、雲母さんのオフィス。
中々に散らかっている部屋へと繋がっている。
ヤバい仕事をしてる雲母さんはヤバい。
マンションのこの階を丸ごと買ったらしい。
ここは最上階。上には屋上があるらしいです。
そこも含めて水神 雲母が所有している。
……いくらするんだろう?
一部屋あたりウン千万円だとして、──ちょっと分からないな!
これがボロいアパートとかであるなら、まぁ何とか理解しよう。しかし、ここはかなり高い。2つの意味でね。
窓からは夜景も見えるし、有名なアレとかアレとかも見える。いい眺め。夜景を独り占めできるよねー。
……そうじゃなかった。
別に夜景に興味は無いし、今はお風呂の話だった。
「──お風呂貸してください」
部屋の主人は、21時台と変わらない姿でパソコンに向かっていた。
「んっ、ミヤビちゃんか。風呂ならそっちにあるだろ」
「ユッキーが入ってる」
「あー、そうなのか。悪いがここに風呂はない。邪魔だからぶっ壊した。水場は台所とトイレしかないんだ」
マンションなんだから部屋の作りは同じはず。
さっきは分からなかったけど、確かに隣と内装が違う。
「えー、じゃあ他の部屋のお風呂貸して」
「他の部屋は侵入禁止だと言ったろう。エレベーターから一軒めと二軒目以外は立ち入り禁止です」
「──今入れないと分かったら、無性に今すぐお風呂に入りたくなった!」
「ユウキがいてもいいから隣の風呂にいきな。女同士だし、それにユウキは怒りゃしない」
なん……だと?
お風呂に突撃しても怒られない?
いや、浅はかに行動して血を見るのは嫌だ。
「雲母さんがいいって言ったと言うよ?」
「大丈夫だ。私は忙しいんだ。これを仕上げんといかん。さっさと風呂入って寝ろ!」
姉からの了解も得た。
あとは突撃するだけだ……。
♢
……とはいえ、裸で脱衣所に入るわけではいので、曇りガラスからは人影が見えるだろうし、服を脱ぐのにガサガサしていれば気配も感じるだろう。
声をかけるのは避けられない。
ここで拒否られる可能性は大いにある。
「ユッキー、あたしもお風呂入りたい。雲母さんが一緒に入っちゃえよ! って言ったんだけど……」
……返事がない。
──もしかしてユッキーじゃない?
この家には4人住んでいます。正確にはいるらしい。
あたしは、ユッキーと雲母さんしか会ってないからね。
何故かというと、部屋の前にそれぞれプレートがぶら下がっていてね。
キララ、ヒメ、フウちゃん、ツッチーとなっていた。
ちなみに、あたしはキララさんの部屋にいます。
男は長兄だというツッチーだろう。
これも何故、ツッチーだと分かったかというと部屋がね……1人だけ続いてないんだ。
それに家の中を見る限り(隣のオフィス以外)は、綺麗に片付けられている。
女性が多いからだと思う(雲母さんは含まない)。
そこから推理するとフウちゃんも女の子。
姿は見てないけど、家にはいるのだろう。
……つまりお風呂の中はフウちゃん?
「……そうですか。どうぞ」
──返事があった!
そしてユッキーだった。良かった……。
顔も知らない人のお風呂に突撃するところなのかと思ったー。
「お邪魔します!」
予想通りのものが目の前にあり大変満足しました。
──肌白! そして湯船に浸かっていて全身は見えない……。
テレビじゃないからタオルも巻いてないというのにー。
「立ってないで入ったらどうですか? 私はもう上がりますから」
「えっ!?」
ユッキーは立ち上がろうとしたのだろう。
浴槽に手をかけ、動いたからバシャとお湯が溢れた。
「もうちょっとそのままで。ほら、裸の付き合いというやつだよ!」
「2人で浸かるには、この浴槽は狭いと思うんですが……」
「まぁまぁ、ちょっとお話しようじゃないか」
「分かりました」
どうやらユッキーは立ち上がるのをやめたようだ。
やったぜ!
改めて見るとユッキー細いな。
華奢だし色白だし……もうちょっとお胸はあった方がいいかな。
「……貴女、何しに来たんですか? 体洗うなりしたら?」
そうだった。つっ立ったままでした。
早く、洗い物を済ませて湯船にダイブしなくてはいけない。ユッキーが出て行ってしまう。
「シャンプーはどれを使ったら? というかユッキーはどれを使ってるの?」
好みが違うのだろう。
女性物のシャンプーが3つある。
「真ん中。雅は髪乾かすの楽そうですね」
「逆にユッキーは大変そうだね。ずっと伸ばしてんの?」
「いえ、ここ何年かです。元は雅と同じくらいでした」
「へー、雲母さんも髪長いしユッキーもだし、もしかしてフウちゃんも?」
シャンプーでわしゃわしゃしながら手早く済ませようと頑張る。
あっ、あたしは上から洗っていく派です。
「あの子に会ったんですか?」
「いんや、部屋の前のネームプレートを見ただけです。 ……フウちゃん女の子だよね?」
「見てないようでちゃんと見ているんですね。フウは女の子ですよ。小学生です。人見知りなので簡単には会えないでしょう」
予想は当たったらしい。
ただ、小学生とは思わなかった。
小学生の女の子。人見知りか。
……引きこもりというやつだろうか?
気にはなるが、雅ちゃんでも他所の家のことを根掘り葉掘り聞きはしないのです。どこかの姉と違ってね。
「次はボディーソープをと」
「雅、ゲームに参加しようと言ったら手伝ってくれますか?」
「……ゲーム?」
「裏東京を舞台としたゲームです。私はあれの正体が知りたい。いえ、知りたくなった。本当は貴女は巻き込まないつもりだったんですが、気が変わりました」
つまり、ユッキーはあのやらしい男たちが闊歩する場所にまた赴くと……。
「貴女が気を失ったあと、志乃と亜李栖はレベルを1つずつ上げています。彼女たちもゲームを続けると聞きました。雅は関わらせないと一致したんですが、あれはチームの方が立ち回りやすい。どうでしょう?」
──ゴシゴシゴシ
「……みんなであたしを仲間はずれにしようとしてたんだね……」
ジャーーーーーーー。
「違っ、貴女を心配して……──きゃ!」
からの、──ドボン!
「みんなしてひどいよ! 仲間はずれはいけないんだよ? あたしもやるよー」
「ちょ……いきなり飛び込むなんて。お湯が……けほっ……けほっ……」
浴槽にダイブしました。
「ユッキー、大丈夫?」
「もう、心配して気を遣って話したのに、全然意味がなかったみたいですね。もう上がります」
「……お、怒った?」
無言でユッキーは立ち上がる。
あたしもだけど隠そうとしない。いろいろと。
おぉー、そんな感想を浮かべていると、あたしの視線はそこで停止する。
ユッキーの白い肌に1箇所傷がある。
お腹の辺り。何かの手術痕かと思ったけど違う。
「ユッキー。それ何のあと?」
綺麗な体にあるその傷痕は、ひどく歪で火傷のようにも見える。
「昔、刺されました……兄に……」
…………なんだと。
「姉さんたちは湯船には浸からないので、上がったらお湯は抜いてください」
そう言い残してユッキーは脱衣所に行ってしまった。




