乱入者 ④
見せしめ。それが意味するところとは?
ピエロ野郎が持っていた大剣。
それを現在握っている、声だけだった男。
倒れている少年に振り下ろされる無慈悲な一撃。
それを目撃した彼女たちの反応は様々だった。
水瀬ユウキは無反応。
特に何も反応しなかった。
彼女は自分たちより先にこの場所にいたし、男は結論が出たと言っていた。
なら、彼女は知っていて黙っている。
志乃と亜李栖。
彼女たちは、その凶行を止めようとした。
フィールド内では死なない。
それは魔法を使った場合の話だ。
あの大剣はフィールドに入る前からピエロ野郎が持っていた。つまり、魔法では無いかもしれない。
万が一本物だった場合どうなるのか。それと見せしめという言葉。
止めなくてはと思った彼女たち。
しかし、風神 雅だけは、好きにしてくれと言われたピエロ野郎に襲い掛かった。
「「…………えっ?」」
親友2人が思わずそう言うのも無理はない。
雅は簀巻きにまたがりペシペシ顔を叩く。
「てめぇ、寝てんじゃねー。お前のせいで酷い目にあった! おとしまえつけんかい!」
「……いた、いた、いた」
「死んだふりでごまかされないからな! もう百発は覚悟しろ!」
ペチンッ、ペチンッと弱い往復ビンタが炸裂する。
((──何故、この状況で?))
そう思っているのは2人だけ。
「……雅、はしたないですよ」
雅はユウキによって引っぺがされた。
はしたないと言われても怒りは収まらず、雅は憤慨する。
「止めないでユッキー。こいつをシメないと気が済まない!」
「やめなさい。もう、十分痛めつけられてるでしょう。貴女も今ので我慢なさい」
簀巻きのピエロ野郎ことカイアスは、雅にやられた以上に傷だらけになっている。
可哀想になるくらいにはボロボロになっていた。
「構わない。エースのお嬢さんの気の済むようにさせてやってくれ。ご友人のお嬢さん方もどうぞ? その魔法を使っても構わん。遠慮なくやってくれ」
分からないことが多すぎる。
一番目についたことに反応したが、本当はもっと気になることも、分からないこともある。
やっと声のした方をちゃんと見たのだろう。
雅は、志乃と亜李栖が一番驚いたことを口にする。
「………………ウサギじゃん」
と、彼女は言った。
「愚息が迷惑をお掛けした。すまなかった」
黒い毛のカイアスより身長の高いウサギ。
謝られたことより、その姿が衝撃的だった。
「──ウサギが喋ってる──」
真紅の眼をしたウサギがそこにいた。
♢
服を着たウサギが目の前に現れた。
その瞳は赤いが、赤い眼をしたウサギは白い毛のやつだけのはずだ。
何よりウサギは二足歩行しないし、息子が人間にもなりはしないだろう。
なら、この黒い毛のウサギはなんなのか?
「……どうかしたか?」
ウサギが持っていた大剣は地面に刺さっていた。
少年にではなく、正確には地面にでもなく、少年の手に握られていた拳銃に。
「そいつを殺そうとしてたんじゃないのか?」
「誤解があるようだが、オレたちがプレイヤーに手を出すことはない。掛かる火の粉は振り払うかもしれないが、こちらから進んで手を出しはしない。だから、そこの愚息は粛清した」
片目だけ赤い男。
鎖に縛られ、雅からも粛清されている男。
「……なんかごめん。ピエロも苦労してたんだね」
ウサギが父親であること知り、実際に目撃し、なんだかカイアスが可哀想になっていた。
「余計なお世話。それよりどいてください、重い!」
カイアスはビンタで意識を取り戻したのか、再びまたがりペシペシしていた雅に抗議する。
「あぁん? 重いだとー。空域制御!」
「やめなさい」
雅は叩こうとした手を掴まれて、またカイアスから引っぺがされる。
「何でユッキーは止めるの?」
「もう……ちょっと黙ってなさい」
ユウキは手刀であろう一撃で意識を奪う。
「きゅう……」
そう謎の言葉を発し雅は気絶する。
「無理をしている意識が本人無い。まったく……」
自分と同じ身長である雅を抱き寄せ、どうやって運ぶかを検討する。
「いきなり何やってくれてんだ!」
「その声は、貴女がシノ。それと、そちらがアリスですか」
「聞いてんのはこっちだ。答えろよ」
喧嘩腰でユウキに掴みかかる志乃。
それは友人を思っての行動だが、ユウキの行動もまた雅を思ってのこと。
「雅は無理をしていると分からないんですか? 何で彼女を連れてきたんですか? 私は頼むと言いました。それは、貴女たちは彼女を案じて連れ帰ると思ったからです」
「……それは」
「──それは?」
感情の見えないユウキから微かに怒りの色が見える。呆れではなく怒りの感情が。
「カイアス、これも貴様のせいだろう。腹を切って侘びを入れろ。それがこの国の作法だ」
険悪な雰囲気になりつつある彼女たちに、黒いウサギが助け船をだす。
「お父上様は人の心が無いらしい。息子に死ねと平気で口にする……。確かに原因は全てワタクシ。大変申し訳ありませんでした」
自覚はあるのか、カイアスは謝罪の言葉を口にし頭を下げる。
「この場はこれで納得してもらえないだろうか? エースのお嬢さんは確かによろしくない。休息が必要だ……カイアス、そういえば貴様はエッグも勝手に使用していたな……」
「──なんでそのことを今?!」
身構えるカイアスに、父から予想とは違う言葉が浴びせられる。
「癒しの魔法を使え」
「水だから癒しの魔法が使えるわけじゃないのくらいご存知では?」
「オレが力を貸してやる」
ウサギの手に一冊の書物が現れる。豪華な外装の本。
「体力を戻す必要はない。外傷があるわけではないからな。必要なのは自己回復力の底上げと魔力の活性化。あとは腐った魔力の浄化といったところか」
本のページはひとりでにめくれていく。
本からいくつもの文字が飛び出し宙に浮かぶ。
文字に記号。線が合わさって、何かが描かれていく。
「こんなところか。速記ではあるが手は抜いてない。これを使用しても構わないか?」
息子にではなく、彼女たちに言葉を投げる。
その答えは聞くまでもないと知っていて。
「癒しの魔法? そんなことできるならやってくれよ!」
「魔法とは本当に魔法なんですわね……」
ユウキに言葉はなかったが3人ともが頷いた。
それを見て、ウサギは宙に浮かぶ魔方陣を使わせる。
「カイアス、あとは貴様の仕事だ。しくじりは許さん。上手くやれば今日のことは大目に見なくもない」
「──本当に?」
「嘘は言わん」
浮かぶ魔方陣がカイアスの手に吸い込まれ、再び現れる。青い光を纏い輝きながら。
♢
似ていない。
だけど、青い色……。
それが流れ込んでくる。
不純物が取り除かれていく気がする。
さっきまでとは、また違う軽さを感じる。
……なんだか変な気分だ。
身体中のなんかが澄んでいく。
寝て起きたら、また病院かもしれないな。




