乱入者 ③
残された風神 雅はピンチに陥っていた。
はっきりと覚えてると言い切れるのは、ピエロを前に膝をついたところまで……。
あとはボンヤリとおぼろげに何となく。しか覚えていない。
何か魔法が使えるようになった! のが楽しかったとしか自覚がない。
「やめてー、ゆるしてー」
再び鬼ごっこを始めたのも、少年たちを切り刻んだのも自分ではないと言ってみた。
『あたしの中の悪い雅が顔を出した……』
あながち間違いではないと思ったのだが、友人たちの反応は冷たかった。
カッコつけたのが悪かったのかもしれない。
「──何が悪い雅だ! 全部お前だろうが! 心配させやがって!」
「志乃さんのいうとおり。誤魔化されませんからね!」
友人たちは、そう口にはしても雅はフラフラで、またおぶられている。
彼女たちは一刻も早く脱出しようと帰り道を急ぐ。
「──ユッキーのところに行く。ユッキーが心配」
「暴れんな! 心配って言ってもな……どこいったか分からないんじゃ探しようがない。そして人の心配してる場合じゃないだろ!」
「痛いー、もっと丁寧に扱ってよ」
「とにかくお前は外に置いてくる。心配ならウチら2人で探してくるから。亜李栖もそれでいい……」
隣を歩いていたはずの亜李栖は、携帯の画面を見たまま停止している。
また、撮影してるのか……。
雅と志乃はそう思ったが様子がおかしい。
口を開き呆然としているように見える。
「どうかしたのか?」
近づいて覗き込んだ携帯電話。
その画面には地図が表示されている。赤い点が沢山見える。
「……なんだ、それ?」
亜李栖は、──ビクッと反応し携帯電話を後ろに隠す。
「な、な、なんでもないです。早く行きましょう。こっちからの方が近いみたいですわ」
「なんでこっちなの? 亜李栖ちゃん。道知ってるの?」
雅はカマをかける。
反応を観察して裏を読み解く。
「今調べたら、こっちからの方が出口まで早く着きます。だから早く──」
「地図の赤い点々は何?」
──ビクッ、ビクッと反応し後ずさる。
目ざとい雅は亜李栖が何か隠していると確信する。
「何か隠しているね。正直に白状したまえ」
「コレは気にしなくていいからな……」
「コレっていうのは、あたしのことかな? かな!」
「動くな、暴れんな、大人しくしてろ」
言うべきか言わずにおくべきかを、亜李栖は考える。
見落としていた見落としてはいけない事柄。
しかし、この場を誤魔化してもいずれバレる。
雅は勘づいているし、志乃にも嘘は言いたくない。
「実は、これの機能を把握しきれてなかったようで……」
「亜李栖ちゃんまで、あたしをコレ扱い!」
「そうではなく……このゲートというアプリの機能でして」
そんなのあったね。
あまり役に立ってなかったな。
2人はそう感想を述べた。
ただし、それは間違いだ。
このアプリはフィールド内で使って、プレイヤーが使って、初めて全ての機能を発揮するものなのだから。
♢
ゲートというアプリには、東京都内の地図が全て収められている。
地図には、小さな建物も細かい道も表示されている。
先ほどまではなかったはずの赤い点は、フィールド内のプレイヤーを表している。
黒い点は脱落した、フィールドから消えたプレイヤーを表している。
フィールドである裏東京から出る方法は、出口から脱出するか、フィールド内で倒されるしかない。
中では経験値が蓄積されるが、倒されれば全ておじゃん。
ゲーム的には、フィールド内で成長するか、経験値を持ち帰るかしなくてはいけない。
そこで重要になるのが地図アプリであるゲート。
脱出場所の確認と近くの敵の位置。
この2つは最も重要なポイントである。
先ほどまでプレイヤーではなかった志乃と亜李栖は、アプリに映らなかった。
彼女たちは今はアプリ上に映っている。
近くには大量の赤い点。
その点は動いていたはずなのに、赤い点のまま動かなくなる。身動きが取れない状態であるのだろう。
例えば、動くことが不可能なくらいの攻撃を受けて倒れているとか。
赤い点と黒い点を始め、プレイヤーにしか見えない機能がゲートには多様に搭載されている。
ゲートは遊戯において使用を推奨するとなっているが、実際には必須。なくてはゲームにならないだろう。
♢
亜李栖は気づいたことと、いつの間にか見えるようになったことを説明した。
先ほどまでは気づかなかったと。
「つまり、まったくアプリを使いこなせていなかったと。そういうことだね、亜李栖くん?」
「おっしゃる通りです。フレンド機能は使えないにしても、他の機能は気づくべきでした……。ごめんなさい」
「……んー、亜李栖ちゃんが魔法少女になったから、機能が使えるようになったんじゃないかな?」
「分かるように言えよ。つーか、魔法少女ってなんだよ……」
「志乃ちゃんも魔法少女だよ? どうせならヒラヒラしてる衣装に変身したらいいのに」
志乃はおぶっている雅の太もも辺りをつまむ。それなりの力を入れて。
「──いたい! ほんとのこと言っただけなのに……」
「ふざけてないで分かるように言え」
「魔法が使えるようになったから、アプリの機能が正しく使えるようになったんだと思います」
「……それ関係あるのか?」
それで何が変わるのか。変わったのか。
実感が足りない志乃には、いまいち理解できてない。
「魔法。試してみたら? 教えたげるからさ。その集まってる点をシメに行こう」
「帰るって言ってるだろ……」
「早くしないとユッキーが! あたしのユッキーが!」
駄々をこねる雅をなだめることはできず、通りがかるだけとそれぞれ落としどころを見つけ、納得した3人は赤い点の場所へと向かった。
その目に飛び込んできたのは動かない赤い点の正体。雅より酷いそのやり方。
武器は粉々。倒れている少年たちはのたうちまわっていた。
魔法によるダメージは軽減されている。
スペルによる攻撃も軽減されている。
武器でも魔法でも死なない傷つかない。
これは遊戯であるのだから。
しかし、彼女の峰打ちは物理攻撃。魔法など含まれてはいない。
体を覆う魔力があれど、同じく魔力を纏う刀が相手では相殺されてしまう。
少年たちは生身に近い状態で刀で殴られていた。
その痛みは想像を絶するはずだ。
「おや、お嬢さん方が勢ぞろいとはな。今、結論が出たところだ」
志乃と亜李栖は、その声に聞き覚えがあった。
姿は見えない声だけだった男だ。
それに黒い鎖で簀巻きのように拘束されている、まったく動かないピエロ野郎。
「あぁ、これは好きにしてもらって構わない。気の済むようにしてくれ」
これと言われた簀巻きのピエロ野郎は転がされて、近くに転がってくる。
「見せしめは必要だろうとなった。しかし、うら若きお嬢さんにやらせるのは忍びない。結論は奪うとなった。彼は少々やりすぎた」
無慈悲な一撃が振り下ろされる。




