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 乱入者 ②

 エッグと呼ばれるソレについて少し話そう。

 それを使用して使用者に異常は起き得ない。


 安全はオレが保証する。

 エッグがなんであるか……か。


 あまり語ることに意味がないんだが、その始まりは罪滅ぼしのために作られたもの。

 救えなかった者たちに、犠牲にした者たちに。


 己が過ちに気付いた者が、何年、何十年、何百年と時間を掛け一つ一つ作った。


 用途は魔力の流れを正常に。

 使用者を正常に回復させるためのもの。


 異常がない人間が使用すれば、与えられる効力はご存知の通り。

 見習いレベルからのスタートとなるが、魔を扱えるようになる。


 当初の目的とは違ってしまっただろうが、製作者の意図は汲み取っているつもりだ。


 魔法とは己が想像。

 残りの全ては、その想像を事象とするためのモノにすぎない。


 スペルに武器を使用するにも理由がある。

 魔方陣。呪文。これらの習得は容易でないからだ。これこそ才が必要になる。


 エッグに習得過程は必要ない。

 代わりに武器に魔法が限定されてしまうが、必要なら欲するなら、魔法の習得は後付けで可能だ。


 スキルを最初に習得する者は、スペルを最初に習得する者より内包する力が多い。

 それこそ肉体だけで闘えるくらいに。


 ただ、あまりオススメはしない。

 得物はあった方がいい……。


 お嬢さん方にはスペル。

 得物を最初に手に入れてほしい。


 欲しいと思うものを思い描け。

 イメージは明確な方がいい。


 ……そちらのお嬢さんは武器と言われてもピンとこないか……。


 なら、何のために力を欲する?

 誰のために魔法が欲しい?

 それを手にしてどうしたい?


 それならあるか?

 なら、あとはエッグがやってくれる。


 願い。欲しろ。


 ♢


『悪くない出来だ。盾に剣。属性は土に水か。土属性の盾とは、属性的にも相性が良いな。付加効果も与えやすい』


「……盾。こんなので(みやび)を何とかできんのか?」


『それは使い方次第。持ち手次第だな。今のところは攻撃を受けられさえすればいいだろう」


「……こ、こんなことが」


亜李栖(ありす)。お前はどうしたんだ? 何か変だぞ……」


「──だって見てくださいよ! 本当に思った形になりました! これこそ聖剣!」


『……聖剣?』


「そう、これこそ聖剣エクスカリバー! あー、なんて美しい」


「漫画か……。そんなに好きなのか、あの漫画」


「もちろん! 志乃(しの)さんだって嫌いではないでしょう?」


「まぁ、そうだな」


『成る程。具体的に例が存在したわけか。確かに可能だ。その武具はやりようによっては、本当に聖剣となるだろう。水の癒しに慈しみか……悪くない』


「付加効果とおっしいましたよね? それも想像を形にすることは可能でしょうか?」


『あぁ、大抵のことは可能だろう。レベルが必要になるが……』


「おい、急ぐぞ。話は後でやってくれよ」


 ♢


 いつも間に合わない。

 大事な時に自分はその場にいない。


 最初はいつだったか、その事に気がついた。


 たとえ自分に何が出来たとして、その場にいなくては意味がない。力があろうと意味がない。


 果てには存在する意味すら無い。


 だけど……一度くらいは間に合った。

 その事が私は嬉しかった。


 ♢


「────(みやび)!」


 誰かがそう叫ぶ。

 呼ばれた彼女。風神 雅(かざかみ みやび)は両手に花。


 左右からの友人2人の攻撃に気を取られて、気付いていなかった。

 接近にも。放たれた魔法(じゅうだん)にも。


「うわぁ!」


 引き寄せられた横を魔法が通る。

 雅は、ドンと引き寄せられた相手に倒れこんでしまう。


「……ユッキー。なんで……」


 ユッキーと呼ばれた彼女は息を整えてから口を開いた。


「貴女を心配してに決まってるでしょう。雅、意地を張るのをやめなさい。掴めるはずの手を自分で届かなくしてどうするんですか? その意地は親友(だいじなもの)より価値があるんですか?」


「意地なんて……」


「つつけば倒れるくせに……これを意地と言わずに何と言うのでしょうね」


 ユウキは軽く雅を押す。

 雅は自分の重心を保つことが出来ずに倒れる。


「彼女を頼みます。直ぐに戻りますから」


 押した先には受けとめる2人がいた。

 やっとその手が届いた2人が。


「雅、覚悟はいいな」「ふふふ……」


「ユッキー、助けて!」


 呼ばれた彼女は振り返らない。

 狙撃者はもういないし、集まってきているから。


 ♢


 鬼ごっこは始めたカイアスが抜け、次いで鬼になった(みやび)が脱落している。


 それでも集められた最初の鬼であった少年たち。

 雅によって捕まえられなかった彼らは、集合していた。


 残る人数を集めて、やられた奴らの敵討ちと称して。数に勝るものは無いと信じて。


「……撃つだけ撃って逃げるとは卑怯ですね。あの魔法は、当たればあの子を殺していたかもしれない。それも許せないのですが、女3人にこの数をけしかけるのも許せない。その勘違いは改めた方がいい。少し身の程を教えてあげましょう……」


 冷たい目。氷のような声色。

 鋭い刀のような殺気。

 手にはその鋭さを写す鏡のような刀。


 雅はトモダチに任せていいだろう。

 あの男は指示しているはずだし、自分にはあの場所に入り込む余地はない。


 ──そして、これは自分の役目だ。


「日本刀か。でも、相手の人数と武器を見て喋った方がいいんじゃないか? あの化け物と違って、君からは何も感じない」


「雅のことですか。成る程。貴方は他よりもレベルが高いようですね。1では理解できず、2で捉えられるようになり、3で大小を測れるというところですか?」


「……詳しいな。でも、プレイヤーじゃない」


(ばか)がテストプレイとやらに参加していたので、概要その他、概ね把握しています。私が少しきつめに灸を据えてもいいとも。せっかくです、試してみなさい。勘違いしている自分の力と、数に頼った暴力を」


 安い挑発に、安いプライドを持つ彼らは反応する。

 プレイヤーでないと、何も感じないと。

 そう自分たちの中で一番レベルの高い少年が言ったのだ。

 彼らは、何もない少女に馬鹿にされ黙ってはいられない。


「あらかじめ断っておきますが、私は雅ほど甘くない……」


 数分で全員が地面にのたうちまわる。

 魔法は壊され、峰打ちは遠慮なく打ちこまれる。


 それでも少年たちの中で唯一、銃を扱う少年だけは最後まで立っていた。


 ♢


 力で負けようと、何の力も感じなかろうと、この結果が全て。

 力で勝り、数で勝り、それでも1人を倒せない。


「脆い。本来ならこの刀より強いはずの、貴方がたの魔法が負けた理由が分かりますか?」


 残る少年はわずか数人。

 剣筋を捉えることは出来ず、遠慮のない一撃が浴びせられる。


「貴方がたは(から)っぽです。器に何も入っていない。ただ手に入ったままに魔法を使っている。それでは届かない。空の器同士なら役に立つ魔法も、中身のある器には敵わない」


 前に出れる少年たちは特攻を試み、リーダーの少年は魔力が尽きるまで引き金を引く。


「貴方がたは雅を化け物と呼んだ。彼女の器の中身は決して良いものではないのでしょう。ですが、それだけで彼女は形成されてはいない」


 本物と変わらない魔法(じゅう)は当たらない。ただの一発だって。


「彼女はこれまで、一言だって言わなかったのでしょう。辛いとも、苦しいとも、助けてくれとも。7月20日でさえいつもと同じように、過ごし別れた。今生の別れとなるかもしれないのに。大事なものであればこそなのか、言ったところでどうにもならないからなのかは、彼女にしてか分からないのですが……」


 ユウキの言葉の大半を理解することはできない。

 理解できるのは、自分たちが想像できないくらいに目の前の少女は強いということだけだ。


「雅もですが、貴方がたも考えなさい。力の使い方を、付き合い方を。もう、それを手放すことはできない。強くなりたいという気持ちは分からなくはない。男の子というのは、そういうものでしょう?」


 全てが悪ではない。


 少年たちにも仲間がいて、理由はなくても手に入った力を使いたい。

 誰かのためではなくても使ってみたい。それを責めはしない。


 全てが善ではない。


 その力を邪まなことに使用するのは簡単だ。

 けど、それだけではないはずだとユウキは信じる。


「──貴方は何がしたいのですか?」


 その言葉は1人残る少年の行為を責めているわけではない。

 一発も当てられない少年を馬鹿にしているわけでもない。


「何故、力に固執するのですか? 卑怯な真似をしてまで、人を殺してまで力を欲する理由は何?」


「……なんで当たらない。銃弾を避ける? 刀で防ぐ? 冗談だろ……」


 ユウキの言葉は届いていない。

 当たらない現実を、防がれる現実を少年は受け止められない。

 今日まで1人だって逃れたヤツも、屈しなかったヤツもいないのだから。


「彼にお嬢さんの言葉は届くまい。魔力も尽きたようだしな。後は始末をつけるだけだがどうする? ジャックのお嬢さん?」


 与えるのか。奪うのか。

 それを道化師を引きずってきた男は委ねる。


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