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 チュートリアル

 出来損ないの勇者の表側の話になります。

 合わせて読んでいただけると嬉しいです。


 こちらだけでも違和感ないように努力しますが、分かりにくいところがあったらすいません。


♢1♢


 空にあったゲートと呼ばれたモノ。

 それが現れた時は騒いで、それが消えた時もまた騒ぐ。


 ──ただ、それだけだ。


 あれが何であって、どうして存在したのかなんて、誰も気にしない。

 結局、何も起こらなかったんだから。


 だけど本当は……。


 ※


 7月20日。時計は18時40分を示している。

 この場所は東京都内のどこか。

 大通りから一本入ったビルとビルの隙間。

 そこは袋小路になっていて、入れても出られない。

 唯一の出口である場所を、人為的に塞がれてしまっていては。


「お友達は逃げたなぁ? おまえは見捨てられたんだよ!」


 少年が1人暴行を受けていて、その相手は複数人いる。


 その内訳は、この場所への道を塞ぐ4人。

 それより中に7人。計11人。

 あと少年のお友達こと、逃げたのが3人。


 最初は4対1だった。

 始めに絡んだのは暴行を受けている少年。数は勝っていたのだ。


 1人きりで歩く同年代の少年と肩がぶつかった。

 事の起こりは、そんな些細なことだ。


「──学校に行ってんのがそんなに偉いのかよ! ええっ!」


 付け加えるなら学生服は1人だけ。

 つまり学生は暴行を受けている少年1人だけ。


 残りの彼らは学校に通っていない。

 そんな彼らは横のつながりが強かった。

 短時間で10人も仲間が集まるくらいには。

 ここが、少年たちが集まる街であるのも理由だろう。


「おいおい、殺す気かよ? そいつは明日から夏休みなんだぜ?」


「じゃあ、その夏休みの間何にもできなくしてやるよ。病院のベッドから外を眺めてるくらいしかな!」


「毎日が夏休みのヤツは言うことが違うねー」


 この空間にあるのは数と暴力。

 死角であるこの場所には、助けも救いもありはしない。


 いやらしい笑みを浮かべる少年たちと、怒りを見せる少年と、自分のしたことを後悔する少年しかいない。


「ナイフまで出すのかよ。本気だねー」


「マジかよ、──こわっ」


 そうするだけの理由があるのか無いのか。

 そんなことはどちらでも同じ。


 このままでは赤い水たまりができるのは避けられない。わかるのはそれだけだ。


 ……なんてつまらない。


 彼らは知らないのだろう。

 人は殺したら死んでしまうのだと。

 その言葉も、その意味も、理解しているはずなのに。


「誰か止めろよ。本当に刺すぞ、あいつ」


「オマエがやれよ。オレは関係ないだろ」


 この場の誰もが、自分は関係ないと言う。

 目の前で起きようとしている出来事に。


 それは世界の縮図だろうか?

 きっと、自分ではない誰かがやってくれるだろうと思ってる。


 その誰かとは誰なんだろう?


「おやおや……何やらお取り込み中。ワタクシ、そちらに通り抜けたいのですが?」


 不意に聞こえた声。その言葉。

 一瞬。この場の全員が無言になる。


「……えー、この注目はいったい?」


 自分に視線が集まる意味が分からない男は、そんなことを口にする。


「なんだ。コイツ」


 言えることはそれだけだった。


「──お前、どっから現れた!」


 1人の少年が全員が思ったことを口にした。

 だって、ここより奥は無いのだ。

 あるのはビルの側面だけ。

 見える高さに、窓もドアも存在しない。


 それなのに自分たちより奥の暗がりから、急に人が出てきたのだ。


「ここはちょっと暗い。あー、ここなら多少明るい。18時45分? ……少し早かったですかね」


 明るい場所。少年たちの近くまで歩いてきて、男は懐中時計で時間を確認している。


「ぶさけた格好しやがって。ピエロヤロウが!」


 ピエロと言われればそう見えるかもしれない。

 派手な色のスーツに帽子。

 顔にはメイクであろう模様が描かれている。


「おまけに厨二病かよ……」


 ピエロの何を見て、少年がそう言ったのかはすぐにわかる。


「チューニビョウ。それはいったい何なのでしょう? よろしければご教授ください」


「そのカラコンだろ。どういうセンスしてんだ。片目だけ赤にしてよ」


「カラコン? また、わからない言葉が……」


「カラーコンタクトだよ。入れてんのに知らねーのかよ」


 今の説明で理解したのか、男はポンと手を叩く。

 いちいち身振り手振りでを交えるのが、この男の癖のようだ。喋らなければ本当のピエロのように見えるかもしれない。


「コンタクトレンズ! あー、あれは怖ろしい。何故あんな真似を平然とできるのでしょう? 理解できません。ところで……」


 飄々としている男の雰囲気が変わる。

 少年たちは皆、男から嫌なものを感じとる。


「この目は自前でして、イジってはいないのですよ。 ──それからワタクシはピエロというよりサンタ! この袋が見えませんか?」


 しかし、すぐに男の雰囲気は元に戻る。

 こいつは何かがおかしいと少年たちは思う。


 そして言われて気づいたが確かにその手には、いつの間にか大きな袋が握られている。

 ただ、最初から持っていたのかも分からないのだが。


「この夏の時期にか?」


「ワタクシ、これを配りに行かなくてはならないので失礼します」


 急に態度を変え、男は去って行こうとする。

 おそらく思い出したのだろう。当初の目的を。


「──待てよ。こんな現場を見られて素通りさせられるわけないだろ。警察でも呼ばれちゃたまらないからな」


 少年たちは、倒れている少年からピエロ男に標的を変え取り囲む。


「えー、なんなんですか? ワタクシ忙しいのですが……」


「知らねーよ。そんなこと」


「困りました。別に誰にも言いませんから、ね?」


 そんな言葉を信じられるはずもない。

 だが、男の言葉には続きがあった。


「こんなつまらない事をしているなんて、格好悪くて、くっくっ……言えませんよ。今時珍しい生き物ですよねー。集団で1人をいじめてる。流行りません。時代遅れ。さっきから可笑しくて、可笑しくて」


 ピエロは必死に笑いをかみ殺す。


「──そうだ! そんな残念な皆様に良い物が! これなら最先端にして未知の領域。時間は……──チュートリアルを始めるにはよろしい時間!」


 18時50分。それはゲーム開始の10分前。


 ※


 18時50分。

 とあるアプリ上にメッセージが表示される。


 『ゲート運営より』


 18時50分現在まで残っているプレイヤーの皆様へ。


 現時点で残りのプレイヤーは約100名。

 本日までテストプレイに参加いただき誠にありがとうございました。


 本日19時より、ゲートは正式に稼働いたします。

 これまでは東京都の一部のみのフィールドしか存在していませんでしたが、19時より東京都全域がフィールドに追加されます。


 尚、順次フィールドは追加されていきますので、ご期待ください。


 ここまで残ったプレイヤーの皆様への報酬ですが、ここまで培った、スペル、スキル、レベル、それらを報酬とさせていただきます。


 フィールドの追加により、これまでとは比較にならない大量のプレイヤーがなだれ込んで参ります。

 レベル差がある皆様にはこれも報酬となるでしょう。


 次レベルを目指して新規のプレイヤーを狩るのもよろしいかと思います。


 ゲートのこの先の予定ですが、強力なボスキャラに、新アイテム、新フィールドと順次追加してまいります。


 皆様どうぞお楽しみくださいませ。


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