出会い
初めての連載ということでいつもより少し緊張しております。この作品からはじまる優しさと切なさの物語を共に追っていければな、と思っております。
死神って知ってるかい?
そう、死を司る神様。それが死神、僕のことさ。簡単にいうと僕が触れればどんな生き物だって皆ぱったり死んでしまう。だから皆僕らのことを嫌って勝手に気味の悪い、恐ろしい奴らだって思ってるんだけど……実はそんなことないんだ。一人前の死神は君たち人間とそう変わらない容姿をしているし、なにより無闇に命を奪ったりしない。案外明るくて楽しいやつもいっぱいいるんだ。
そして、もし君が今どうしようもなく暇で僕の昔話を聞いてやってもいいよっていう気分ならこのまま僕に付き合ってほしい─。
今からだいたい70年前、僕は偉い神様に死神として初めて仕事を任された。想像してくれ、この世界に存在してから初めて人の生命を奪うんだ。緊張して、少し怖くてでもどこかわくわくして……。そんな高揚感と共に僕はどこか憂鬱そうな薄暗い路地を訪れた。
「こんばんは。お嬢さん」
見知らぬ声に怪訝な顔をしながら振り返った彼女の瞳は、あちらに送ってしまうのにはもったいないほどに透き通っていて思わず見とれてしまった。
「……なんですか?」
不審そうな彼女の声にはっと我に返ると、自分でもわかるほど胡散臭く笑って僕は続けた。
「私、死神のルーチェと申します。残念ながらあなたは今夜この場所でこの世にお別れを告げなくてはなりません」
まあ、こんなことを言ったところで信じる人などいないだろうが。
「あら、それは本当に残念だわ。だって私これから会いに行く人がいるんですもの」
ほら、思った通り。彼女は僕を頭のおかしいお気楽な人だとでも思ったのか、さっきまでの緊張感はどこへやら。おかしくてたまらないというように笑いながら言った。
「……だから、私を殺す前に彼に会いに行かせて。お別れくらい言わせてよ」
そうかと思えば、全く信じていないというわけでもないらしい。彼女は急に声の調子を変えて困ったように笑顔を崩した。こんな胡散臭い男に突然"私は死神だ、お前はこれから死ぬのだ"だとか言われて素直に信じる奴がいるとは……驚き過ぎて心配になる。まあ、これから死ぬ奴を心配したところでなんの意味もないのだが。
「まさか信じているんですか。私を」
「え?ええそうよ。そんなことより私のお願いはきいてくれるの?死神さん」
ガラス玉のような瞳が僕を茶化すように見つめた。ああ、記念すべき初仕事だったのにな。
「お別れを言ったらすぐあちらへ送りますからね」
絶対バレたら怒られるなぁ、これ。散々言われてきたけどやっぱり僕は死神に向いていないらしい。
「あら、優しいのね」
死神なのに。と彼女は笑っていたが、笑われるのも仕方ない。本当に帰ったらどう言い訳しようか─。
最後まで読んでくださりありがとうございます!まだまだ拙い文章ですが続きも覗きに来てくだされば幸いです。