烏の脱出
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わたしの部屋には3つほど、常に鍵がかけられている。執事長と侍女の数人、そしてアギオ家以外には渡されていない鍵で、 安易にで入りできないようになっている。
それゆえ、誰かしらが来る時にガチャガチャと扉がうるさく揺れ、少し時間がかかってしまう。
扉が開くのを待っている間に、部屋に異変が無いかどうかを確かめる。
あ、わたし折角荷造りしたのに、
隠し忘れているわ...
解除が終わるまでにいつものように
少し時間はかかるだろうし...
どうせなら、
異空間の収納魔法を試してみようかしら!
隠すよりも異空間に移動させてしまえば、後々楽よね。
うーん、異空間のイメージ...
無限に入るクローゼットみたいな感じ。だだっ広くて、無限にモノを置いておける。時間の流れも無いから、腐ったり、壊れたりすることも無い。
「 きっと冷蔵庫みたいにすぐ出し入れできる、真っ白な広い空間ね。」
すると、目の前に、わたしが前世で使っていた冷蔵庫の取っ手の部分だけが現れた。
あ、そういう感じなのね…
掴んで、手前に引いてみると、
パカっと目の前の空間が空いた。
そしてそこには想像した通りの真っ白な空間が広がっていた。
取っ手だけ見た時は拍子抜けしたが、中身はしっかりしたアイテムボックスだったみたいだ。
さて、荷物を入れてしまおう。衣類やら、ブランケットやらを次々に入れていく。この少し豪華な表紙の本たちも持っていこう。
ヨルは後ろで、いつ扉が開いてしまうのか分からず、涙目で、早くしないと見つかっちゃう!と訴えている。
大丈夫、いつもかなりの時間をかけて解錠しているから。
全てを入れ終え、ヨルの横に座る。ヨルがじと目でわたしのことを見る。心配してくれてありがとうね、と撫でた。そんなところもかわいい...
ヨルの背中を撫でていると、扉はいつものように乱暴ではなく、静かに開いた。
そしてそこに立っていたのは、朝食を運んでくる召使い、では無く...お兄様とお姉様だった。
なぜお兄様とお姉様がここに?
いつもならお昼頃に誰かしらの召使いを連れて、いらっしゃるはずなのに...
ヨルのことがばれたのだろうか?
お父様が何か仰ったのだろうか?
何か朝から嫌なことでもあったのだろうか? それとも、わたしは殺されてしまうのだろうか...?
...お姉様もお兄様も苦虫を噛み潰したような顔してらっしゃる。
どうせ「良くないこと」なのは確かだろう、と腹を括った。
お姉様は予想を裏切る発言をした。
いい意味で。
お姉様は、一つの花のペンダントをわたしに差し出しながら、
「あなたには...
ここから出ていってほしいの。」
と言った。
おどろおどろしい雰囲気の中、
出ていって欲しいと言われた。
意味が分からない。
理由も経緯も説明して欲しいが、わたしもそうしたいところだ。というか、そうするところだった。
死んでくれ、とかそういう事では無くて、ひとまず安心する。
「このペンダントで、あなたの魔力を隠せるわ。これをかけて、この家から、王都から出ていって...!」
焦るお姉様だが、お兄様は落ち着いていた。
「今日と明日くらいなら、誰もこの部屋に立ち入らないよう口添えできる。
出来り限り遠くへ...逃げてくれ。
父上が諦めるまで...」
わたしは素直にペンダントを受け取って、首から掛けた。
お姉様は嘘なんて言わないから、本当にこのペンダントには魔力を隠す効果があるのだろう。このペンダント、普通にかわいいな…
「...分かりました。」
丁度いいタイミングで脱出の助けが入ったのは嬉しいが、何故だろう…。
"わたしを逃がした" とばれてしまえば、お兄様もお姉様もひどい仕打ちを受けることになる。
そして何より、お兄様とお姉様はわたしのことを煙たがっていて、恨んでいるはずなのだ。「殺してやる」、ならわかるが、「消えて欲しい、逃げて欲しい」と思うのかが特に意味が分からなかった。
わたしたちは血は繋がっているが、家族とは言えない関係だ。まさか家族だから、なんて生ぬるく気持ちの悪いことは言わないだろう。
「なぜそこまでして、わたしを逃がして下さるのですか?」
美しいお姉様の目には涙が溢れている。
小さく震えていて、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうだ。
「お父様はあなたが死んでは、悲しむでしょう…。
でも私たちは、あなたに消えて欲しい。
だって、楽しかった毎日が突然無くなって、お母様は倒れて、お父様はおかしくなって。
それもこれも、あなたが生まれてからよ。
そう...この家にカラスは要らない、要らないのよ...。」
震える声で言い切ると、お姉様は顔を手で覆った。お兄様はそっとお姉様の肩に手を添える。
「早く、出て...行くんだ...」
少し声を荒らげ、お兄様は左の通路から裏口へ行けと続けた。お姉様の涙を流す姿を見せぬ為に、急かしたのだろう。
流石お兄様...紳士だな、と赤の他人事のように関心しつつ、部屋を出た。
わたしは言われた通り、ヨルを抱え、左の通路をまっすぐ、全速力で走った。こんな物置のあるところまで召使いの方たちはこないが、もしもの為に、走って左通路奥の裏口まで行った。
なんだがスパイ映画に出てくるワンシーンのようで、ドキドキする。
裏口の扉はあまり人が使わないせいか、ドアノブが錆びているようだ。キィ、と音がするドアノブを回して押せば、そこは、庭の端だった。
実は、これが初めての外出と言っても過言ではない。何も知らない頃のわたしであったら、初めての外出が"逃亡" だとは考えもしなかっただろうな...。なにか冒険みたいな感じがしてかっこいい気もするが。
そこから、細い道が続いており、裏門へと繋がっているにが見えた。
わたしは運動のしたことの無い体に鞭を打ち、早歩きで歩き続けた。普通の人が歩けば、わたしの半分の時間ほどで裏門へとたどり着くのだろう...。
やっとの思いでたどり着いた裏門は見張りは居らず、鍵までは開いていた。
お兄様もお姉様も手際が素晴らしい。
周りから秀才と言われるお兄様と、周りが我儘をすぐに叶えてくれるお姉様なら簡単なことだったのかもしれないな。
そこから外へ出れるのか。
わたしは小さなゲートをくぐる。
アギオ家の敷地内から出れた...?
思ったより、すんなり出られた。このペンダントとお兄様、お姉様のお陰だ。
そんなお兄様とお姉様の為...
ではないが、早くここから離れよう。
やっと...
やっと!
自由になれたのだ...!
少し歩き、離れた所でヨルを腕から降ろした。わたしが急ぎ足で駆け巡る中、ヨルをかなり揺さぶってしまった。しかしヨルは文句や不満を一切言わず、ここまで何も言わなかった。
「ヨル、ありがとう。ここまで来れば、大丈夫だと思って。たくさん揺さぶってしまって...痛かったり、気分悪くならなかった?」
「これでも一応ドラゴンだからね。頑丈なんだ!その、アリスたちの話は展開が早すぎて、よく分からなかったかな...」
あはは、とヨルは照れ隠しに笑った。その姿が可愛くて、ついわたしも笑顔になった。ヨルが来てくれてから、まだ一日も経っていないのに、ヨルはわたしを笑顔にしてくれている。
ヨルってわたしの幸せの神様なのかもしれないわね。
さて、いつまでもここで突っ立っているわけにはいかないわね。
だが、まずは見た目をどうにかしないといけない。髪を紺色に、目をオレンジ色に見せるよう魔法を施した。ヨルにも見てもらい、確認してもらう。うん、これなら王都でもすぐには見つからないだろう。
"王都に行ってやらなければいけないこと"... それは少しお金に変えられそうな本などを、売ることだ。王都は物価が高いはずなので、少しはお金になると信じている。そしてお金次第では買い出しもできる。
ヨルにこれからの話をすると、ご機嫌な声で、ニャァと返事をした。
元気よく、1人と1匹は歩き出した...
が、
わたしは完全に勢いだけで歩いてしまったせいで、どこを目指していいか分からず、迷子になったのだ。
王都ってどっちかしら...
初めて外に出た人が道案内を出来るはずはなかった。
結局、ヨルに鷲に変身してもらい、城のある方へ、道案内をしてもらう事になった。
ヨルがいてくれて本当に良かった...
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☆
ヨルは、天然に見えてしっかり者
アリスは、しっかり者に見えて天然
やはり2人は魂の友なのですね...