烏と魔法
お読み下さりありがとうございます。
桜が綺麗ですね
ブクマ・評価 ありがとうございます!
嬉しい限りです...
ヨルはただただ黙ってわたしの話を聞いてくれた。
話終えてから、喉の渇きと窓から差し込む光に気付く。
あ、わたし、こんなに誰かと話すの初めてだ...
1人で過ごしていた為か、少し時間の感覚がズレているのかもしれないな。
ただ、太陽が昇ってくる時間まで話し込んでしまったが、ヨルは大丈夫だろうか。
話した後で言うのもおかしいが、こんな話は嬉嬉として聞く者もいないし、退屈ではなかっただろうか。
後になって色々心配になってきた…
「ぼくたち似た者同士だね」
ヨルは不安そうなわたしの顔を覗き込み、ゆっくり微笑んだ。どうやらわたしの不安な顔をした理由を誤解したらしい。
そういうことにしておこう。
「そうね...」
わたしたち2人とも寂しい者同士だものね。心から信頼する者がいない、1人ぼっちたち。
そんなわたしたちは昨日から身の上を語り合った。なぜか自然と親近感が湧き、ずっと共に過ごしてきたかのような感覚がする。
「でも、これからはわたしにはヨルが、ヨルにはわたしがいるじゃない。」
わたしたちはもう運命共同体、一生離れないわよ!と笑顔で言う。
だってもうヨルに悲しい顔はさせたくない。これからは幸せになろう...
「ぼくもアリスになんて言われようとアリスを守るから...」
「ふふ、ありがとう。
でも、あんまり無理をしてはだめよ...」
ヨルが「守る」なんて可愛いことを言ってくれるけれど、わたしはこんなにかわいいヨルの方が心配だ。
ドラゴンというだけで狙われやすいのに、珍しい黒い鱗まで持っていて、しかも可愛い。
まずは、わたしがヨルの魔力を上手く隠せるように、魔力の隠し方やコントロールの方法も学ぶ必要があるだろう。
1人で「しなきゃいけないリスト」を考えてブツブツと呟いていると、
「心配しないで!
ぼく変身魔法できるから」
とヨルは驚きの魔法を口にした。
"髪や目の色を変えること"や
"姿を消すこと"は光の屈折を利用すれば、魔法で出来そうだな、などと考えてはいたが、"変身"は考えていなかった。
「変身魔法」はその変身したモノになれる魔法だ。見た目はもちろん、魔力もその変身したモノの最大値になる。
例えば、ウサギに変身したならば、魔力量はウサギの中の最大値まで引き下がる。だが、変身前の姿や魔力を完全に消せる。
この能力は隠密行動を生業とする者にとっては喉から手が出るほど欲しい能力であろう
しかし、この魔法は、過去に数人取得できた、と言われてはいるが記録も無く、今では失われてしまった魔法。だからこそ、本では伝説として描かれていたくらいだ。
まさか実在するなんて...
「ヨル、変身できるの...?」
「ドラゴンの身を守る方法の1つなんだ。生き物なら変身できるし、色も変えられるんだ」
「ヨル、変身してみてくれる?」
ヨルが目を閉じた瞬間、目の前にいたはずのドラゴンは猫になっていた。
グレーのふさふさしたの毛並みに緑の目をした猫。
わぁ...!すごい!
ふふん、と誇らしそうな顔するヨルを抱き上げて撫でてみる。
本物の猫になってる...ふわふわだわ!
「どうかな?」
「すごいわ!
一瞬で猫ちゃんになれるなんて!
あっ、このままで居てくれる?
もうすぐ朝食が運ばれてくる時間なの...」
流石にドラゴンを召使いや家族には見せられない。猫であれば大丈夫だろう。
なでなでしながら聞くと、
返事の代わりにニャア、と返ってくる。
本当にいい子だな...かわいい...
「そういえば、ヨルって異空間を使ってこっちの世界に来たのよね」
「そうだよ。それがどうかしたの?」
「異空間にモノを置いておけないかなって思ってね...」
考えていた 収納魔法 について細かく話してみる。異空間は時間の流れも無い上に、無限に広がっているなら、モノをそこに置いておいても大丈夫なのでは、と。
「よく、そんな考えまでたどり着いたね...。それ、出来ると思うよ。」
「本当に? この荷物さえ収納できれば、すぐにでも出ていこうと思って!」
あ、でもわたし...
まだ魔法使ったことないじゃない...。
「やっぱり、魔法を少し練習してから、脱走することにするわ...」
ヨルはわたしの腕から降りて、ベッドの上に座ると、興味深いことをするりと吐いた。
「大丈夫じゃない? 魔法に大事なのは頭の中で想像することだし。」
ヨルが言うには、イメージが大切らしい。
こういう風にしたい、というイメージが出来ていて、なおかつそれに見合う魔力があればいいのだそう。
へぇ...
人間は恥ずかしい詠唱をするけど、内獣はしていない理由がそれなのか。イメージがはっきりしているかしていないか。
「詠唱は必要ないってこと?」
「うん。ただ、詠唱すると、
使う魔法を鮮明に思い描くことがしやすいんだって。」
たしかに、詠唱だけ読んでいると
すごく"魔法" を使っている感じにはなる。
積み上げられた本の中から「基本、魔法の詠唱」と題された本を手に取った。
そしてペラペラと手馴れた指付きで 基本:初心者用 のページを開く。
初めての魔法にオススメの魔法、
ファイア (サイズ小)
小さな火を手のひらの上に出す魔法
詠唱 :
大地より承りし炎の力よ、
そして聖なる炎の精霊よ...
わたしにその力を貸たまえ。
我が手の上に小さき灯火を、
ファイア
うわ、恥ずかしい。それに長い。
こんなに長い詠唱をして炎1つしか出せないなんて意味が分からない。
詠唱している間に相手にやられてしまいそうな気しかしないではないか。
相手も魔法使いならいいが、騎士などであれば即効斬りかかって来るに違いない...
全く釣り合わない代価である。
元々その本のあった所へ戻し、
魔法の練習を始める。
わたしはライターをイメージして、
手を握りしめ、力を込める。
すると、体の中の魔力の流れが手のひらの方へ流れていくのが分かった。
ライターの火をつけるような感覚で、
ぱっと手を開くと、そこには小さな炎がちょん、と乗っていた。
すごい、熱くないんだ...!
「お見事!」
ヨルが嬉しそうに声をかけてくれた。
映画やアニメのお陰で、しっかりとしたイメージが持てている。前世の記憶のお陰だ。
この調子なら、収納魔法も本当に出来そうな気がする。
呑気にわたしが魔法の練習をしていると、ヨルが鋭い鳴き声をあげた。
「アリス、こっちに人が来るよ...2人」
「えっ、2人?
いつもは召使いの方1人なのに。
うーん...
ヨル、ずっと猫の内獣のふり
しておいて貰える?」
「わかった。」
なんだか嫌な予感がする。
いつもの和やかな朝は今日で終わりのようだ。
補足: 変身魔法で変身出来るのは動物のみですが、存在している個体がいれば、それと同じ色に変えることが可能です。
(蛍光色の兎などにはなれません)
☆
ネコはノルウェージャンフォレストキャットをイメージしています。
もふもふです