あの人とこの人がデートをしてみた
本日、「教室 ~いじめ~」が二周年を迎えました。
ありがとうございます。
これはそれのほんのお礼です。
ふざけてますが気にしないでください。
片原純香、事情により現在中学二年生。今日はデートです。
……って、んなわけあるか! なんで私がデートなんぞをしなければならない! 私男子嫌いだし、そもそも相手がいねえよ!
デートと言っても、付き合ってるわけじゃない。相手はきっとなんとも思っていないだろうし。私だって、あの人のことは小動物ぐらいにしか思ってない。そう、あのちっこい感じが小動物そのものだ。
でも、男女が出かけるって、それデートの定義なんでしょ? いや、定理? どうでもいいけど、そうなんだろ!?
でも、こんなこと私が希望や香華にでも相談したら、どうなるかは目に見えている。
「えー純香ちゃんがデート!? 誰と誰と!?」
……うん、これだな。絶対この反応だ。言わないでおこう。
でも、デートって、何の服着ていけばいいんだ……? いや、デートじゃなくただのお出かけか。まあ、それはいいとして。
やべえ、まともにかわいい服を持ってねえ。ひらひらしたものなんて着たこともないしな。……わからん、どうすればいいんだ。
結局、小学校を卒業したあとに買ってもらったワンピースを着ることにした。ちょっと丈短いかもしれない……か? ま、いっか。
お気に入りのかばんを肩から提げ、そっと玄関を出る。希望は出かけてるみたいだから、帰ってこないうちにさっさと出よう。
「いってきまーす」
私は小声でそう言うと、玄関のドアの鍵を閉めた。
待ち合わせ場所に着くと、まだ相手は来ていなかった。私は近くにあったベンチに座ってそいつを待つ。
……くそ。だいたいなんで男子嫌いな私がデートなんぞ! これも作者の無茶な考えのせいで……おっと危ない。
「ごめん、待った?」
「おうかなり待ったな」
ついに、そいつが現れた。ファンサービスのように笑顔を振りまいている。
こいつの名前を、桧原奏音という。私は年末に例の特別企画で一度会ったきりなんだけど、なんでかこんなことになっている。
「純香さんごめんね、直前まで服が決まらなくて」
「服が決まらなくて遅れるって女子かよ……」
手を合わせて謝るカナを見下ろしながら、私はため息をついた。
なぜ私がよりによってこんなやつと二人で出かけなければならないのか。その理由は、一つ。私に彼女のプレゼント選びに付き合ってほしいらしい。つーか、誘った方が待ち合わせ先に来いよな。
「あ、あと、さん付けやめて」
歩きながら、私はそう頼む。するとカナはちらっとこっちを見て「じゃあ、純香?」と首を傾げた。いちいち上目づかいするんじゃない。
「ま……それでいいんじゃない」
なんかこいつ、私好きじゃないわ……。調子狂う。上目づかいやめてほしい。
私たちが向かったのは、まあまあ近くにあるショッピングセンター、アリアスモール。私は人ごみ好きじゃないからあんまり来ない。
カナは入るとさっそくプレゼントを探し出した。早いな。
っていうか、彼女ってあのツインテールの女の子だっけ。あの子もたしか、年末の企画の時に会ったよな。
そうか……彼女か。私には縁のない言葉だ。
「っていうか、なんでわざわざ私を買いものに付き合わせたの?」
「え、なんとなく、純香……なら、引き受けてくれるかなって」
「いやいやいやいや」
どう考えても私、引き受けるようには見えねえだろ! こいつ……私をなんだと思ってる。
まあ、別にいいや。どうせ暇だったし、断ったら作者がうるさいし。
「で、何にするかだいたい決まってるの?」
「うーん……文房具かストラップみたいなものにしようかと思ってるんだけど」
文房具かストラップ……か。雑貨屋行けばどっちもあるかな。
「じゃ、どこ行く?」
「えっと、それを純香に決めてほしいかな」
「え、私?」
めんどくさいな。私知らないぞ、雑貨屋なんて。
あ、たしか二階に『ORANGE』って店があったような。それから、そのすぐ隣には『share』って店もあった。ORANGEはなんかよくありそうな感じで、shareはちょっと大人っぽいイメージだったなあ。
カナにそれを伝えてみると、じゃあそこに行こうと笑顔で言った。なんだこいつ、かわいいじゃないか。
一階から二階に上がるエスカレーターに乗る。降りる時に、見栄を張って履いてきてしまった慣れない靴のせいでこけかけてしまった。
そんな私の手をカナはさりげなく引いて「大丈夫?」とか言う。なんか、余裕を見せつけられたみたいでちょっと敗北感。
そっか、カナって一応私より二つ年上なんだっけ。
「……ありがと」
少しだけ手を握り返してお礼を言うと、彼は嬉しそうにした。……お前、この状況を彼女に見られたら即刻ふられるぞ。
「手、離せよ」
「あはは、ごめん」
私は無言でそいつから少し離れた。
「ねえ、純香って彼氏いる?」
「は?」
雑貨屋ORANGEで文房具を見ている時、急にカナがそんなことを言い出した。
いたらこんなとこお前と来てねえわ。つか彼氏とかいらねえし存在意義も感じない。
自嘲ぎみにそう返すと、なぜか「ごめん」と謝られた。
……こ、これだからリア充は嫌いなんだ! さっさと誰かに恨まれて水銀混ざった水でも渡されてそれを飲めばいいのに。たしか水銀って毒……だったよな?
「いや、でもよかった」
「よかった?」
よかったってなんだ。人の不幸を喜んでんのか。お前最低だな。
そう思ったけど、まあ、カナがそんな性格悪いはずないよな。うん、知ってる。なんとなくだけど。
「え、だって彼氏さんいたら、一緒にどっか行ったりできないじゃん」
「そういうのは彼女とやれよ。なんで私と一緒にどっか行く設定なんだよ」
「か、彼女のプレゼントとか買いに行く時、一緒に来てくれる人がいた方がいいから」
こいつに彼女のプレゼントを買いに行く回数は一体何回あるのだろう。じゃあお前、プレゼント選びのたびに私を連れ出すってことか。最低だな!
やめろよ、勝手に私巻き込むのやめろよ。他にもっと引き受けてくれそうなやついただろ。年末企画の時、女子いっぱいいたじゃねえか。
っていうか普通に友だちと行ったらいいじゃん! なんでわざわざ年下の私を! ……もうなんか疲れたからこれ以上ツッコむのやめよう。
「で、どうでもいいけどいいの見つかった?」
「……うーん、あんまり。佐野さんペンとかいろいろ持ってるから、同じのあげちゃいそうで怖くて」
「ならストラップにするか」
別に消しゴムでもノートでもメモ帳でも、文房具はペン以外にもたくさんあるけど、面倒なのでストラップにすることにした。ストラップの方が楽そう。……楽で選ぶなとか言われそうだけど、別に私に関係ないからいいんだ。
ストラップはshareにいいのがあった。ような気がする。というわけでshareに向かった。すぐ隣だけど。
「あーあったこれこれ」
「あ、なにこれかわいい」
店内に入ってすぐ、私が手に取ったのはまふまふというキャラクターのストラップ。ふわふわの小さなまふまふがついている。
まふまふというのはゆるキャラみたいなやつで、まあたぶんなにかのキャラクターなんだろう。結構かわいい。
「へー、純香こういうの好きなんだ?」
「は? いや別に好きとかじゃ」
「いーよそんな隠そうとしなくても」
本当に好きなわけではないんだけど、なんか誤解されてしまった。好きなものわざわざ隠さねえよ。
「私じゃなくて、カナの彼女が好きそうだったから」
「え?」
カナは不思議そうに首を傾げた。いちいちそういう動作をするな。
イライラしながら、私はもう一度言う。
「だから、私が好きなんじゃなくて、あんたの彼女が好きそうだったからどう? って言ってんの!」
なんで自分の好きなもの買わせなきゃいけねえんだよ。かぶるじゃねえか。私はまふまふよりさかさまぱんだの方が好きだからな。
「え、じゃあわざわざ探してくれたの? 佐野さんが好きそうなストラップ」
「た、たまたま見つけてあの人持ってそうと思っただけ! 私がわざわざ探すわけねーだろ!」
そう、たまたま。ほんとたまたま。まじでたまたま。決して必死に近くの店にあるか探してたとか、家でネット通販で探してたとか、そんなキモいことしてねえしな!
……やめよう、なんか私ツンデレみたいだ。ツンデレ怖い。
「そっか……」
意味ありげにつぶやくカナ。その横顔をじっと見る。なんでこの人かわいいんだろうな?
すると彼は突然こっちを向いて、にっこり笑った。
「ありがとう。これにするよ」
「えっ、いや、早いだろ!」
もっと自分で探せよ! お前、私に頼りすぎなんだよ!
そんなことを言ったけど、カナは笑ったまま「だってせっかく純香が見つけてくれたから」とか言う。やめろ、惚れるぞ。
こいつ……絶対モテるタイプだよな。まあ彼女いるし。
彼は「ちょっと待ってて」と言いレジに向かった。
……まふまふ、買おうかな。せっかく来たし。あ、いや、やっぱ新作さかさまぱんだ買おう。
私は新作のさかさまぱんだを手に取り、レジに並ぼうとする。すると、会計を終えていたカナがそれを奪った。略奪!?
彼はそのまま会計をしてしまう。ちょ、ちょっ、待て待て! なにやってるんだお前!
「ちょ、なにしてんの? まじでなにしてんの?」
「今日のお礼」
カナはそう言って、私に袋に入れられたさかさまぱんだを渡してくれた。……やっぱり彼女に報告だな、これは。
いくら彼女のプレゼント選びのために来たからって、わざわざ私にまでプレゼントする必要ないだろ。ってか、むしろまふまふよりこっちのが高いし。
「ありがと。でも、返す」
「いや、返されても困る! 受け取って?」
「うぅ……」
なんで上目づかいしてくるんだよ。あ、背が低いからか。
失礼なこと言ってたな私。あれはわざとじゃなくて仕方なかったのか。不可抗力だったんだな。って、意味あってるっけ。
「お昼、食べよっか」
「おう。目的は果たしたし食べたら帰るか」
「帰るの早くない!?」
早くない。むしろなんで12時に集合したのか不思議だ。
だって目的はプレゼント選びだし、もう買ったし、昼ごはん食べたらもう帰れるよ。逆にそのあとこの二人でなにをするつもりだ。
だいたい、そういうお出かけは彼女と楽しめよな!
昼ごはんを食べたあと、結局帰ることになり私は送られていた。送るほどの距離でもないんだけど。
「あ、あのさ純香、気になってたんだけど」
「ん? はい」
「……あの、俺、彼女いないからね?」
「……?」
彼女、いない? なんか片言になった。
え、彼女がいない? 謎。待って、彼女いない?
「え、じゃあ今日のプレゼントは?」
「さ、佐野さんに! 佐野さんにあげるよ! でも、付き合ってないから、彼女じゃない」
「……ああ」
どうでもいいだろ。ってか、両思いだと私は思ってたよ。
付き合ってないから彼女じゃないのか。そっか。別にもうどうでもよくねえか?
「……だから、うん。彼女いないです」
「どうでもいい情報ありがとうございました」
「ひどい!」
そうだ、私はひどい人間だ。悪かったな!
「じゃあ、またね」
去り際そう言ったカナに、私は苦笑いで手を振った。またねって、またあんのかよ……。もう行きたくねえ。
部屋に入ってから取り出したかばんの中のさかさまぱんだは、財布の重みでつぶれていた。