白き鎧 黒き鎧 わさび味
こちらは、つづれ しういち先生の作品、『白き鎧 黒き鎧』の二次創作になります。
作品のURLはこちらです。http://ncode.syosetu.com/n7314cw/
つづれ しういち先生に許可を得て書かせていただいております。
Aパート:馨子さん Bパート:原作準拠
内容を簡単に説明しますと、私の普段している読了をこじらせた感じです。
そして、本編を読んでいないとわからないような内輪ネタです。
雰囲気を損なわないように、文体を可能な限り似せています。
注意1:世界観が崩壊しています。
注意2:ライトなBL要素があります。
注意3:鎧ファンの皆さん、ごめんなさい。
注意4:サー様ファンの皆さん、ごめんなさい。
白き鎧 黒き鎧、完結おめでとうございます!
そして、つづれ先生ごめんなさい┏(<:) ペコチョン♪
※短編はそのままではあらすじが出なかったので、前書きにも記載しておきます。
A1 馨子さん異世界へ
はっと目を開けると、馨子は見知らぬ洞窟の中にいた。
周囲は薄暗く、人の気配も無かった。
(……着替え、持ってくるの忘れてたわ。)
ほんの数秒で、ここまでに起こった事を反芻する。
あまりに突然の事だったので、準備よりも先にこちらへ来る事を選んでしまった。
馨子は、ちょっとため息をつきたい気持ちになる。
(……煌ちゃん、福神漬け食べてくれてるかしら。)
馨子は、特に体に異常も無かったので、そのまま洞窟を飛び出した。
そして、関節をコキコキと鳴らすと、周囲を見渡した。
(何かしら、あの巨大な惑星……。ウミウシがいそうな気配がするわ。)
外界はまだ夜のようだったが、地球で見られる夜空よりは随分明るく、紺色の中に一部薄桃色がマーブル模様に混ざり込んだようになっていた。
星々は、それにまき散らされるようにして輝いている。
その惑星に恒星からの光が反射して、地球とは異なり宇宙空間を真っ暗に見せる事ができないのだろう。
(絶対ウミウシがいるわ……。)
馨子は、とりあえず、周囲を探検する事にした。
そして、その途中で見つけた檜とよく似た植物の幹を手刀で切断し、ちょっとした武器として携帯した。
◇
A2 異文化コミュニケーション
少し眠くなった馨子は、木陰にもたれかかって休んでいた。
《ね。あれ、なんだろうね……? マール》
小さな少年の声がする。
《なに? なにがあるの、オルク?》
次は、小さな少女の声だ。
馨子イヤーは、どんな小さな声でも、子供の声を聞き逃す事は無い。
《ねえ、あれ……人じゃない?》
少年の声が、また何か言っている。
《わ、ほんとだ……。背が高い! 綺麗!》
そしてまた、少女の声。
小さな者達が、恐る恐る近寄ってくる気配がした。
彼らが発しているのは、ちょうど煌之が小学生ぐらいで天使だった頃の、子供の声のようだった。
(もちろん、煌ちゃんは今でも天使……、いいえ、むしろ大天使……。)
馨子は、一人ごちた。
《ねえ、ちょっと! 大丈夫? ねえ……!》
私に呼び掛けているようね……。馨子は少し、目を開けた。
《あ、目をあけたよ! 生きてるよ! この人》
《あたし、だれか呼んでくる!》
一人が、慌てて駆け去ってゆく。
ゆっくりと視線を動かすと、小さな可愛らしい子供が目に入った。
それは、燃えるような赤い髪をした、くりくりおめめの少年だった。
(……耳が尖っているわ。可愛い。)
あえて細かい事を言うならば、小学生の頃の煌ちゃんの方が天使だという事と、煌ちゃんも耳が尖っていたら可愛さが増すということぐらいか。
《ねえ、あんただれ? どこから来たの?》
少年は、おめめをさらにくりくりさせて、何事かを馨子に尋ねた。
《地球という惑星の、日本と言う国から来たのよ》
《うわ、喋った!》
馨子は仕事柄、あらゆる世界の言語をマスターしている。
異世界言語であっても、それは例外ではない。
やがて、遠くから多くの人々が駆けてくる音が聞こえてきた。
先程のもう一人が、仲間を連れてきたようだ。
《あなた達の住む集落に案内してちょうだい。これ、名刺》
大人と思われる人物に名刺を渡す。
《よ、読めないんですが……》
《佐竹薫子さん・じゅうはちさい》
《十八歳!? それにしては、成長が早いというか……大人びているというか……》
馨子は、しれっと間を開けて発音した。
おそらくそれは、間違ってはいないだろう。
相手が聞き間違えただけだ。
(……それにしても。)
二十歳。
さすがにサバを読み過ぎだろうか。
馨子は、それよりもウミウシの事が気になって、頭から離れなかった。
◇
B1 冬至の日
サーティークの予告した日がやってきた。
もちろん、その《門》は、すぐに開きはしなかった。
そんな事は想定内だったとはいえ、それでも待つのは、ナイト王にとって辛い時間だった。
佐竹、ゾディアス、ディフリード、ダイスさんは、ずっとナイト王と対面するようにして目の前に立っている。
ズールはナイトの座った椅子の脇に、もう少し小さな椅子を置いて、そこにちんまりと座っていた。
サイラスは、盆の茶を二十回ほどこぼしていた。
(……それにしても。)
二十回。
それは、「冷静」かつ「美丈夫」である佐竹にしてみれば、結構驚きを禁じ得ない数字だった。
さっきやったばかりのネタでも、気にしない。
やがて。
その時は、突然やってきた。
ナイトの背後に向かって周囲の空気が僅かに動き始めたのを感じ取って、佐竹はふっと目を開けた。
(……来たか。)
何の前触れも、違和感もなく、まるでそれが当り前であるかのように、その空間に割り込んで、真っ黒な皿をすうっと広げたようだった。
「……陛下。こちらへ」
佐竹は落ち着いた声でナイトに呼びかけた。
と。
「ハッピー☆ハロウィーン!!」
《暗黒門》から、若く張りのある男の声がした。
そして、次の瞬間、王の椅子の後ろに立っていた兵三人が、その場にばらばらと崩れ落ちた。
見れば、みな頭にカボチャを被せられており、ジタバタしている。
既にカボチャを自力で外している者もいたが、その顔には様々なイタズラ書きが施されており、何が起こったのかもわからずに、鏡で顔を見て引きつった声を上げている者もいた。
緑黄色野菜の臭いが、むっと鼻を突く。
次の瞬間、真っ黒い塊がその《門》から中に飛び出したかと思うと、佐竹ら四人を飛び越えて、ナイトの真横にひらりと飛び降りた。凄まじい跳躍力だった。
(…………!)
はみ出た漆黒の長い髪。カボチャのマスク。そして、ランタン。
黒いマントに黒い鎧のその男は、紛れもなく冬至とハロウィンを勘違いした黒の王その人だった。
手にした刃は、既にカボチャの繊維に塗れている。
(サーティーク……!)
佐竹は目を見開いた。
彼の姿は、恐ろしいほどにカボチャが似合っていなかった。
「さ、さっちゃんッ……!」
「ああっ、陛下……!」
隣に居たズールが、驚愕のあまりにその場にへたり込んだ。
頬を染めて、彼の腕をぎゅっと握りしめるナイトの耳に口を寄せ、サーティークは楽しい遊びでもしにきたかのように囁いた。
「トリック・オア・トリート」
そして、男は周囲をチラ見すると、にやりと口角を引き上げた。
「……お菓子をくれなきゃ、白き王に悪戯するぞ☆」
(……それは、性的な意味でか?)
ゾディアスもディフリードも、王の体を盾にされては手の出しようもなく、悔しげな目で彼に従わざるを得なかった。
ダイスさんは、屈んだ姿勢のままどんどんそちらに近付いてゆく。
そして、すっと懐に入ったのを見て、佐竹は思わず叫んでいた。
「よせッ……!」
が、間に合わなかった。
次の瞬間、ダイスさんはしかめっ面でばりばり頭を掻きながら歩み寄ると、ナイトを盾にしてはしゃいでいるサーティークに向かって、吐き捨てるように怒鳴りつけた。
「馬ぁ鹿! 冬至とハロウィンは違ぇよ!!」
そのまま、どかっと黒き王の背中に容赦なく蹴りを入れている。
(せっかく、皆気を遣っていたのに……。)
サーティークの腕は、だらりと下に垂れて、動かなくなっていた。
ぺしゃりと、彼が頭に被っていたカボチャが、まるで虫を潰すように床にたたき落とされた。
(…………!)
次の瞬間。
サーティークは、さっと身を翻し、あっという間に《暗黒門》へと走り込んだ。
それは、一瞬の出来事だった。
誰にも、慰める事はできなかった。
《暗黒門》は、いつものように、出来た時と同じようにして、何事も無かったかのように消え失せた。
◇
B2 ズールさんの……。
『Dearサタケ殿
斯様に突然に、かかる文書を送りつける非礼を、どうかご容赦くださりませ。
貴方様がこれをお読み下さっているという事は、とりも直さず、わが身は既にNLのものではありますまい。
サタケ殿。
この身が、斯様なことを貴方様にお願い申し上ぐるにあたわざる事、重々承知いたしておりまする。
しかし何卒、どうか何卒、この爺いの最期の願いと思うてお聞き届け頂きとう存じまする。
この手紙を貴方様にお託し申し上げたのも、他の事ではござりませぬ。
あの『ナオミの新刊』を、手に入れて来て頂きたい。
そして、出来うる事なれば、それにサインをして貰って頂きとう存じまする。
無論の事、この事が貴方様方が元の世界へとお戻りになるに障りとなるようであれば、この限りではござりませぬ。
何よりも、そちらを優先して頂くは当然の事にござりまする。
その場合、出来ますれば、残された者共が、せめて前作の『ガンツ×ケヴィン』を購入する算段をつけるべく道筋を知らしめて頂くだけで構いませぬ。
かの武辺づれの黒の王ごときに揶揄されるまでもなく、今に至るまで、この国のあらゆる事は、『BL』に支配され、翻弄されて参ったのでござりまする。
「俺とユウヤの薄い本は無いか」と、あの男は申しました。
あの時、愚かにもわたくしは、初めて目を開かされたのでござりまする。
いかにも、エロい。
あのような物さえなければ、陛下は『BL』などという、性癖にとらわれることもなく、我ら歴代の宰相どもが退任を機にいちいちコミケの行列に立つ事も無く、国はより平和に治まったでありましょうものを。
否、陛下や我々だけではござりませぬ。この王国そのものが、その樹立の瞬間から数百年という年月を、ずっと『BL』の元に存在し続けて参ったのに他なりませぬ。
このズール、斯様な老境にして、初めてそれに思い至った愚かしさが、ただただ呪わしゅうてなりませぬ。
《『BL』は、守られねばならぬべきもの。》
《『BL』は、怠ってはならぬべきもの。》
《すべては、この世を『BL』せしめぬために──》
そう言い続け、我々を呪縛してきたものとは、一体何ぞや……?
サタケ殿。
どうか、伏してお願い申し上げまする。
『サーティーク×ユウヤ』の薄い本を。
そして、そのサイン本を──。
何卒、この老骨の最期の願いをお聞き届け願いたい。
伏して、伏してお願い申し上げまする──。
PS.わたくしは、オルク×ヨシュア派でございまする。
宰相ズール』
佐竹はその手紙を手にして、しばし目を伏せていた。
◇
B3 マールちゃんの決心
『たまにゃあ素直にもなっとかねえと、先々、いろいろ後悔すんぜ──?』
「………!」
マールは、目を見開いた。
女官服のスカートの裾を、千切れそうなほどに握り締める。
本当に、いいのか。
このままで、いいのか……?
「……どうした? マール」
いつもの落ち着いた声でそう問われて、マールはハッと我に返った。
「あの……、サタケっ!」
ぎゅっと、もう睨みつけていると言ってもいいほどの力を込めて、佐竹を見上げる。
無言で見下ろしてくる佐竹の瞳は、相変わらず静かなものだった。
マールはひとつ、深呼吸をした。
大事な時こそ、本当に大事な時こそ落ち着いていなければならないのだと、それを教えてくれたのも、この人だった。
「……サタケ」
どんなに、感謝している事か。
こんな気持ちを、くれた事。
「あたしね──」
辛い気持ちでもあったけど、
それでもやっぱり、楽しかった。
泣いて、笑って、ドキドキして。
こんな胸キュンはもう、二度とできない……。
「あたし、ゾディアス×サタケのカップリングが好き」
「……大好き」
きっと、二度とできないわ──。
「…………」
村の家並みの物陰で、何かを期待したオルクはそっと、二人のそんな様子を窺っていたが、やがてひとつ溜め息をつくと、村の小道を戻って行った。
鎧本編完結、おめでとうございます!