98話 アマテラスに届くかな?
よく晴れたある日――ロケット打ち上げ祭りが催された。
場所は、お城の東側に広がる古戦場跡の無人地帯。
攻城戦に使われた土塁が昔のまま残されているので、それを安全のための遮蔽物として、そのまま転用した。
これで、いきなりロケットが爆発したりしても、観客に被害はでないだろう。
発射地点は土累に隠れてしまいロケットの頭しか見えないのが、観客にはちょっと不満かもしれないだろうが、安全のためだ仕方ない。
俺は、工房からバラックのまま持ってきた拡声器を設置すると、電源のための魔石をセットした。
電源が入り、真空管があたたまるまで30秒程時間がかかる。
そして、ゴムで被覆された電線が伸びるマイクを取ると――
『あ!あ! ただいまマイクのテスト中、本日は晴天なり本日は晴天なり、アメンボ赤いなあいうえお』
かなりくぐもった声だが、十分に聞き取れる。 地の声で叫ぶよりはかなりマシだろう。
いきなり、スピーカーから聞こえた得体のしれない日本語に観衆は、身構えた。
そして観衆が静まり返ったのを好都合とばかりに、俺はスピーチを始めた。
「それでは、我が国のライラ・ミラ・ファーレーン・スォード妃殿下からのご挨拶です」
「うむ――これより、アマテラスへ願いを届ける龍勢祭りの開会を宣言する!」
殿下の宣言に、観客が一斉に沸いた。 地面を揺るがす大声援だ。
いったい何万人集まったのか不明だが、街の人口ほとんど集まってないか? そんな気がするぐらい大勢の人々が古戦場跡に、押しかけている。
いつもの祭りと違うところは――大抵の場合バラバラなのだが、今日は、獣人は獣人同士など、知った顔や住んでいる場所を中心にして集まっているようだ。
それに、数は少ないが、この祭りの噂を聞いてやって来た他国の観客も若干いるようだ。
その中でも多いのは、隣国のファルキシムからだろう。
この大勢の観客がひしめき合う光景を見て、俺の脳みそにはフラッシュバックが起きていた。
元世界の東京競馬場で行われた、日本ダービーへ行った時の記憶だ。
身動きするのも大変なぐらい人が集まった、東京競馬場――あそこに満杯に人が入ると20万人みたいな話を聞いた事があったので、それに近い感じか……。
帝国との関係が不穏なので、お城主催の祭りも控えられていて、住民に鬱憤が溜まっていたのだろう。
ここぞとばかりにそれを吐き出しているようにも見える。 そして、このチャンスに商人達も黙ってはいない。
あちこちに、露店をだして、商売をしている。
この街にある露店もそうだが、誰でも好き勝手に出店して良い物ではない。
事前に商工会に登録して、売り上げの何割かを商工会に納めるのだ。
商工会は、それを纏めて、お城に税として納めている。
商工会に登録出来ないような商人は、街道沿い等で小規模な商いをするか、僻地回り等をするしかない。
話は逸れたが、殿下の挨拶の後、再び俺がマイクを取る。
「え~、空に打ち上げる龍勢の魔法を作りました真学師のショウでございます。 予めお断りしておきますが、すべての魔法が成功するわけではございません。 中には失敗する物もあるかもしれませんが、その中に願いを入れてしまった方は、運が悪かったと諦めてください」
それを聞いた観客から、失笑が溢れる。
まあ、本気で願いが叶うとか思っているやつは少ないだろう。 住民達は、祭りにかこつけて騒ぎたいだけなのだ。
「それでは、準備が整いましたので、第1便の打ち上げでございます」
お城の鼓笛隊が演奏する、長いラッパと簡素な太鼓でファンファーレが荒れ地に流れる。 ますます、競馬の発走直前のようだ。
「発射5つ前 シンク、スォード、セス、イル、ナス、ファーエル!」
俺が、ロケットに内蔵された火石に魔力を送ると、長い白煙の尾を引きながらロケットは大空へ打ち上がった。
真下から見ると、ウネウネと蛇行しているように見える。
「ナナミ、前のより高度高くないか?」
俺は、右手を翳しロケットの行方を見守る。
「はい、目測で1643m」
「ちょうど1リーグか」
火薬を増量したのが少々心配だったが、問題なく燃焼しているようだ。 そして、頂点に達したロケットは勢いを無くし、ゆっくり森へ落下していく。
落下したロケットは、獣人達がその高性能な鼻を生かして、回収に当たる手筈になっており――。
ロケットを持ってきたやつには、銀貨1枚(5万円)の手当を出すと言ってあるので、獣人達は我先に手柄を立てようと張り切っている。
1号機が無事に打ち上がったので、俺はほっと胸を撫で降ろしたが、それもつかの間――。
2号機は少し上がったところで、機体の上下から白煙を吹き出して、近場に墜落。
観客からは、ため息が漏れた。
3号機は、高度800m程しか上がらなかったが、拍手喝采。
4、5号機は、つつがなく1600m前後まで打ち上がった。
そして、最終の6号機。
「発射5つ前!」
カウントダウンを覚えた、見物客達による、大合唱が始まった。
「「「「「「4、3、2、1、ファーエル!」」」」」」
最後のロケットが、無事に青空の中に白い軌跡を残した。
空高く飛ぶ龍勢を見て、殿下も嬉しそうに、はしゃいでいるが――。
最近、大人っぽくなった感じがしていたが、こういう姿をみるとまだまだ子供っぽいところも残っているように見える。
「ショウよ、これはもっと高く飛ばす事は出来ないのか?」
「そうですねぇ、もっと大型の物を作れれば、可能だと思いますが……」
俺は、殿下の質問に答える。
「人が乗ることは?」
「それは、ちょっと無理だと思いますよ。 翼を付けた鳥のような理を作れば、飛べなくはないとは思いますが……空を飛ぶとなると、ちょっとの失敗でも落下しても死んでしまいますから、命が幾つあっても足りません」
「ううむ……そうか」
この世界のテクノロジーで、空を飛ぶのは難しいだろう。 可能性があるとすれば熱気球の類か。
しかし、ナイロン布などは存在しないし、それに特性が近いのは虫糸シルクだが、シルクなどの高価な物で熱気球などを作ったら幾ら費用が掛かるか解らん。
ちょっと現実的ではないだろう。
それに、熱気球の原理を見せると、殿下が作りたいと言い出すかもしれない。
今は、蒸気機関と鉄道にリソースを割くべきで、余計な寄り道をするべきではないと思う。
この祭りの様子を、黒と白のローブを被った、師匠とステラさんも見ていた。
「ステラさん、どうです? この龍勢は」
「はは、凄いねぇ」
「でも、元始のエルフ達は、もっと凄い乗り物で、星の海を航海していたんでしょ?」
「よく知っているねぇ。 そんな話も確かに聞いた事があるよ」
「何? 星の海とな? ショウ! 妾達はいつになったら、そんな事が出来るようになる?」
確かに、元世界ではロケットで宇宙まで行っていたのだから、このままテクノロジーが進めば、そういう事も可能になるかもしれない。
「そうですねぇ、俺の持っている知識と技術をこの大陸中に広めると仮定して、200年先か、300年か……」
「そんなに掛かっては、妾はもう死んでいるではないか」
「そりゃそうですよ。 国は1日にして成らずと言うではないですか」
「正にその通りだが」
「それに、俺の知識を世界中に広めたら、これを他国にも作られるという事ですからね」
「これは、兵器に転用できるしね……」
さすが、ステラさんだ。 これを、兵器に転用できると、一発で見ぬいたようだ。
今日、観客の願いを書いた紙が詰まっているカーゴスペースに火薬を充填すれば良い――。
「でしょ?」
ステラさんは白いローブの奥から、俺の顔を窺っている。
「これが、何十リーグも飛んで、敵を吹き飛ばすと言うのか……」
「それどころか、ここから直接帝国を狙うことも可能になりますよ」
「何?」
殿下は驚きの表情を見せている。
「それ故、この知識は秘匿しなければなりません。 もし、広まれば、兵士も騎士も居ない戦場で、こいつだけが、飛び交うという戦に……」
俺の語るもしもの未来に、殿下は頭を抱え、また騙されて悪魔に手を貸してしまったなんて、嘆いている。
「ああ、恐ろしい……、我が母が天に召されていて、本当に良かったわ。 ――もしかして、あの自動車も兵器になるのか?」
殿下は、下を向いていた顔を上げると、俺に問いただしてきた。
「無論なります。 あれを鋼鉄で囲めば、敵の弓や槍を跳ね返す屈強な乗り物に。 そして、装備した弩砲や迫撃砲で、敵の陣地や騎馬をなぎ払いながら進軍するという具合に使えます」
「妾は、そんな恐ろしい物を、製作する許可は出さんぞ!」
「殿下は、私の作った物で、敵対する王侯貴族を排除してお喜びになっていたではありませんか」
「妾の敵は、あくまで腐った王侯貴族共で、民ではない。 そのような奴らだけを選んで屠れる兵器なら、喜んで許可を出すがの?」
「そんなのデキッコナイス……」
「そうであろう? 其方は黙って、国のためになるものを作れば良い」
しかし、蒸気機関の技術を開示してしまったので、他国でも同様の物が作られるはず。
そうなると、いずれは戦車のような乗り物が作られてもおかしくはない。
そのためにも、一応基礎研究だけはしておくべきと、殿下に意見具申しておいた。
だが、戦車となるとキャタピラを作るのが大変そうだな。 あれ? キャタピラって登録商標だっけ?
カタピラ、クローラー、無限軌道――やはり、名付けるとしたら無限軌道だな。
ちなみに、元自衛隊の知り合いがいたのだが、戦車ってのは大型特殊免許で乗れるらしい。
そして、免許には――『ただし大特車はカタピラ車に限る』 という限定が付いていると言っていた。
話が逸れたが、皆の会話にも加わらずに、師匠は黒いローブを被ったまま黙っている。
ローブの中を窺い知る事は出来ないが、恐らく良い顔はしていないだろう。
そんな話をしている間に、落下したロケットも、獣人達によってすべて回収された。
どっちが先に見つけたとか、そんな些細な揉め事もあったようだが、たいした事ではない。
それよりも、回収されたロケットは分解して、どのように燃焼したか解析する必要がある。
それによって、改修するべき点は、改修する。
そうしないと、次につながらないからだ。
ロケットをすべて打ち上げた後も、観客達によりお祭り騒ぎは、暗くなるまで続いていた。
やっぱり、ロケットにかこつけて、単に騒ぎたいだけのような……。
そして、龍勢打ち上げ祭りの幕は閉じた。
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祭りが終わった後、俺は自分の工房で思案していた。
ロケットや迫撃砲が遠くまで飛ぶようになったので、遠方を確認する手段が欲しいところだ。
――となると、やはり望遠鏡が必要か。 戦況の確認等でも、望遠鏡は使えるだろう。
ガラスを作った時から考えてはいたのだが、レンズを作るには緻密な設計と精密な加工が必要になる。
円形の凸レンズは正確に光を曲げ、一点に焦点を結ばないといけない。
元世界の100均レベルの凸レンズでも、この世界では作るのは難しいのだ。
だが今は、ナナミがいる。
設計も加工も彼女に任せれば良い。
早速、彼女にレンズの設計図を描き出してもらう。 そのための設計式も必要だ。
計画では、倍率10倍ほどの固定式の望遠鏡――これは、城壁の上にある矢倉からの監視用として。
そして、倍率5倍ほどのコンパクト持ち運びタイプ――これは、殿下に献上する予定。
大型の円形をした砥石を加工して、レンズの加工機を作る。
砥石をすり鉢状に加工して、その上でガラスをすりこぎ運動をさせて、レンズを凸型に加工していくのだ。
いままでは、このような機械の動力には手製のモーターを使っていたのだが、今回初めて蒸気動力を使用してみた。
普通の蒸気機関では、起動に時間がかかるが、この世界には魔法がある。
魔法でお湯を沸かせば、時間は掛からないので、ストレスは感じない。
工作機械のような止めたり、動かしたりするならモーターは便利だが、ずっと動かしているなら蒸気動力の方が良いだろう。
燃料さえ入れれば、ずっと動いているからな。
水車から動力を取っていた発電機、杵臼、碾臼等は、全部蒸気動力に繋がれた。 もう水車の出番は無くなるだろう。
これは俺の工房だけの話ではない、この世界の津津浦浦で、このような光景が見られるようになるはずだ。
もっともそれには、20~30年は掛かるかもしれないが……。
機械でレンズを荒削りをした後に、ナナミによる仕上げ加工が施される。
紙に正確に格子を描いた物をレンズを通して見ながらの歪みの補正など、細かい修正作業。
ナナミの能力も使えば、もっと高度なレンズも作れるはずだが、俺や工作師が再現出来ないオーパーツを作られても困るからな。
あくまで、この世界の技術でギリギリ実現可能な物を作ってもらう。
だが、今回のレンズ加工機もそうだが、設計図があったとして、これと同じ物がナナミ無しで作れるだろうか?
ちょっと不安だが、俺の代で作れなくても、数代後の人達が実現してくれるかもしれない。
そのためにも、データーを残しておくことは必要だ。
そして、完成したのは10cmと5cmの対物レンズと、2枚3群のケルナー式という接眼レンズを持つ望遠鏡。
中を黒く塗った竹の筒の前方と後方にレンズが嵌っている。 望遠鏡の前に付いてるのが対物レンズで、目で覗く所が接眼レンズだ。
そして、前筒と後筒には螺旋状に溝が彫ってあり、筒を回転させる事によって、筒を伸縮させる事ができる。
これによって、焦点を合わせるのだ。
早速、出来上がった小型の望遠鏡を覗いてみる。
意外とよく見える。 当然、屈折式の望遠鏡なので、上下逆さまな像なのだが、中心の結像は結構綺麗だ。
ガラスの原料を木灰から、精製した炭酸カリウムに切り替えて、透明度が上がっているのが、効いている。
中心から周囲にいくほど、色が滲み七色にぼやけてしまうが、これでも十分に実用になるだろう。
この色滲みを防止するために、アクロマートやアポクロマートという、凸レンズと凹レンズを接着した物を使うのだが、製作が難しいということで、今回対物レンズには使用していない。
接眼レンズの方には、合わせガラスを使っているが、2枚の凹凸レンズをピタリと合わせるのは、大変な技術が必要だ。
このレンズを接着する際には、師匠から教わった草の汁を数種類合わせた物を使用している。
これは白い乳液で、乾くと透明になり、汎用のボンドとしても利用価値が高そうだ。
望遠鏡が出来上がったので、殿下に見ていただくことにした。
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「なんだ、この筒は?」
望遠鏡を見た、殿下の第一声である。
「これは、望遠眼鏡――望遠鏡と申しまして、遠くの景色を覗けるからくりでございます」
城下町側の城壁の上に、簡易の3脚と出来上がった大きい方の望遠鏡を設置している。
「こうやって、覗くのでございますよ」
俺が、試しに覗いてみせる。
「ほう、どれどれ……何か、もやもやが見えるだけで、何も見えんぞ」
殿下が、可愛いお尻を突き出し、スカートのフリルを揺らせて、望遠鏡を覗きこむ。
「手前の筒を回して、よく見える位置を探すように調整してください」
「なに? こうか……おっ! おおおっ! 見えるぞ! 妾にも見える! しかし、なんで逆さまに見えるのだ?」
「それは、構造上仕方ないので、ございます」
「ふむ、普通に見えるようには、出来ないのか?」
鏡を2枚使うか、プリズムを使用すれば、正立像を結べる事と――、
そして、この望遠鏡は、軍事用に哨戒や敵軍の監視等に使える旨を殿下に伝える。
「あそこの見張り台に設置すれば広範囲を見渡す事が出来るでしょう」
俺は、城壁の4隅に設置された、木造の見張り矢倉を指差した。
「なるほどのう」
「これは、軍事用なので、売らないでくださいよ」
「解っておる。 しかし、これは売れるだろうのう……」
「これ以上、工作師の皆さんを働かせたら、過労死してしまいますよ。 蒸気機関や、製鉄所が終わった後にした方がよろしいかと。 それと、この小さいのは、殿下用に製作した物でございます」
懐から、殿下への献上用に作った小型の望遠鏡を取り出すと、片膝を突き殿下の前に掲げた。
ここには他の兵士達もいるからな。 適当な作法は出来ない。
兵士達も、何を見ているんだろうと興味津々なのだが、殿下がいるのに職務放棄は出来ないだろう。
「おお! これなら、携帯出来るな!」
殿下は、俺が渡した小型の望遠鏡を覗きこむと、その先を街の方へ向け、大型の望遠鏡と見比べたりしている。
望遠鏡の中に映る光景に、殿下は大はしゃぎだったのだが、それをテルル山へ向けた。
「凄い、テルル山が近くに見えるな! ショウ! 山腹にワイバーンが見えるぞ! ええい、逆さまに見える故、見ているのと反対方向へ動かさないと駄目なのが、もどかしいの!」
「え? 本当ですか?」
「見てみよ!」
望遠鏡を覗くと、テルル山の中腹に白い鳥の様な生き物が飛んでいるのが見える。
この距離から見えるって事は、かなり大型の生物だ。
「見えますね。 アレが、ここら辺までやって来るという事は無いのですか?」
「あのワイバーンは、寒いところが生息地域らしいからの。 下まで降りてきたというのは聞いたことがない」
望遠鏡の使用法について、1つ注意点を申し上げた。
「ああ、それから、それで太陽は見ないようお願いします。 目が焼けますよ」
「真か?」
「はい」
レンズの威力を理解していないようだったので、俺の工房からレンズを持ってきて、殿下の目の前で紙を焼いてみせた。
白い紙に太陽光が集中すると、瞬く間に煙が出て、紙が火を吹いた。
「太陽を直接覗くと、目玉がこのような状態になります」
「なんと! それは魔法ではないのか?」
「違います。 この膨らんだ水晶ガラスで、アマテラスの光を一点に集中させたのです」
「なるほどのう」
殿下にレンズを手渡すと、俺と同様に紙を焼いて、それを興味深そうに見ている。
口で危ないと言っても、よく解らないだろう。 実際にやってみせるのが一番だ。
それからあれこれ一通り眺めて、殿下は満足したようだが、別れ際、殿下からの個人的な注文を受けた。
大型になっても良いので、正立像が見える望遠鏡を作ってほしいという。
どうやら、暇な時に、執務室の窓から街を覗きたいという事らしい。
それって、覗きなのだが……。
その後、城壁南側2箇所の見張り矢倉に望遠鏡が設置されたのだが――。
警備の連中が、哨戒を全然しないで、城下町の方を望遠鏡で覗きまくっていたのがバレて、殿下の雷が落ちた。
覗いてた連中は、全員、平に格下げになった後、望遠鏡の使用は厳にせよ、という通達が下った。
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ロケットを打ち上げた龍勢祭りの騒ぎを聞いた帝国は、パニックになったという報告が、ミズキさんからの電信でもたらされた。
この世界の常識では魔法は100スタックほどしか届かない。
だが、その常識を破って、数リーグも届く魔法をファーレーンの悪魔は完成させたというのだ。
しかも、今度は噂ではなくて、ファーレーンの住民十数万と他国の観光客が目撃している。
強力な軍拡を続けるファーレーンに対抗策を模索するが、すでに国庫は底をついており、皇族や帝国貴族達は右往左往している状態らしい。
俺や殿下に言わせれば、なにを今更なのだが。
実際、帝国に見切りをつけた住民達が多数、ファーレーン内へなだれ込んでいるのだ。
勝負で負けが込んでくると、一発逆転をねらってくるのが常なのだが、帝国は何か手を打ってくるのだろうか?
それすらままならない状態に陥っていると思えるのだが。
――と、そんな事を思っていたら、もっととんでもない事になった。
それは、ある日――。
「ショウ! ショウ!!」
工房にいた俺は、外からの大声で作業中の手を止めた。
何事かと外へ出ると、殿下がスカートの裾を持って走ってくる。
「殿下、そのような格好で……」
「そのような事を申している場合ではない! ハァハァ――ショウ! ドラゴンだ! ドラゴンが来る!」
殿下が、荒い息を吐きながら、とんでもない事を言った。
「え? ドラゴンですか? ドラゴンって、あのデカくて羽が生えてて、空飛んで、火を吹くやつですよね?」
「――っそれ以外に何がある!」
「……」
「……」
2人で、しばし無言で見つめ合う……。
「ええええええええええ!! マジですか?」
「こんな嘘を付いてどうする、マジじゃマジじゃ、大マジじゃ!」
殿下の話では、帝国がドラゴンに襲われたという連絡が、帝都にいるミズキさんからの電信によってもたらされたという。
しかも、帝都は炎上中だと――。
「その後、西に飛び去ったというのだ!」
「帝国の西って、もしかして……ここですか?」
「だから! 慌てておる!!」
殿下は渾身の力で、大声を上げた。
「ええええええええええ!!」
マジですか? 何がどうして、こうなった?





