96話 街で話題の(挿絵あり)
――ある日、街で露店を出している、ダークエルフのミルミルのところへ顔を出してみた。
相変わらず、露店の裏でムイムイが下働きをさせられている。
「ショウ! 丁度良かった、ショウに相談したい事があったんだよ」
「ミルミルの相談なら、幾らでも乗るよ。 その綺麗な耳と引き換えにな」
それを聞いた彼女は、パッと耳を隠した。
「はは、冗談だよ」
「ショウが言うと、冗談に聞こえないんだけど……」
「俺ってそんなひどい男に見える」
「見える。 実際、フェイフェイに酷いことしたんでしょ?」
彼女は腕を組んで、横目で俺を睨んでいる。
「まあな。 フェイフェイはいまだに怒ってるよ」
「そりゃ、そうよ」
ミルミルの話というのは、売り物になる変わった商品が欲しいと言う。
「ダークエルフしか採取できない、森の深層に生息する動植物は十分に変わっているじゃないか」
「そりゃ、そうなんだけどさ。 採れたり、採れなかったりするから、収入が不安定なんだよね。 もっと安定して売れるものはないかな?」
「そりゃ、難しいな」
他の露店で買った、フライドポテトを頬張りながら、ミルミルと話した後――。
「それじゃ、水はどうだ?」
「水ぅ? 真面目に考えてくれてる?」
「いや、真面目な提案なんだが」
この世界、井戸水だろうが、川水だろうが、基本生水は飲めない。 水を飲むときは、お湯か湯冷ましなのだ。
食事の時も水が飲めないから、普通はワインを飲む。
「ダークエルフなら、浄化の精霊魔法が使えるだろう? 森の泉から汲んできた水を精霊魔法で浄化して、そのまま飲める美味しい水として売り出す」
「そんなの売れるのかな? ただの水でしょ?」
「食事の時や、喉が乾いた時に綺麗な美味しい水が飲みたい人もいるだろう。 皆がワインを好きな訳でもないし。 まあ、水をわざわざ買うって人なら、経済的に余裕がある人に限られるとは思うど」
「う~ん」
「水運んで、精霊魔法掛けるだけだろ? 失敗しても損はしないと思うぞ」
商売の基本は売り物の確保だ。 それが確実&簡単に手に入るのだから、商売として『水』は良い手だと思うのだが。
「そう言われればそうだね。 やってみる」
「くれぐれも、森の泉から運んでくれよ、それが付加価値になるんだから、井戸の水や川の水を使うなよ」
「それは、大丈夫。 あたしは、ムイムイとは違うから」
「なんで、そこで俺が出てくるんだよ!」
俺とミルミルの会話を傍目に聞いていた、ムイムイがつっこみを入れてきた。
なんでって、やっぱり普段の行いだろうなぁ。
半信半疑で、ミルミルが売り出したダークエルフの清水だが、潜在的な需要があったようだ。
最初は、物珍しさだけで売れていたのだが、口コミで大店商人や貴族達に固定客が出来たらしい。
ワインが苦手な女性や、子供達が飲んでいるという。
元世界でも、ペットボトルに詰めたタダの水が売れているんだ、ここで売れてもおかしくはない。
「ショウ! ありがと~! 適当な事言ってた訳じゃないのね」
ミルミルが俺に抱きついてきた。
「俺ってそんなに信用ないかな?」
「ごめんね。 お礼に少しだけなら、耳を触ってもいいよ」
「ほんとに? それじゃ、ミルミルの気が変わらないうちに……ムニムニーーふふふ、思った通りだ」
「あっ……」
俺がミルミルの長い耳に触れると、彼女は身を捩らせた。
「な! なんだよ! 俺だって、そんなのしたことがないぞ!」
俺とミルミルの行為を見ていたムイムイが叫んだ。
「うるさい、この穀潰しが! 黙って働け!」
相変わらず、ダークエルフの女は怒ると怖い。
完全な女系社会だよな。
ついでに、ミルミル達に村の事を色々と聞いてみる。
「ダークエルフって長生きだけど、あの村に、ミルミルやフェイフェイの両親とか祖父母もいるんだろ?」
「え? いないよ」
家族がいないと言われて、ダークエルフの慣習について突っ込んだ話を聞く。
ダークエルフ達は、成人(50~100歳ぐらい)すると、生まれ故郷を離れて他の集落へ渡り歩くのだと言う。
この事から、村にいるのはすべて他人で、身内は全くいないのが、普通らしい。
同じ地域に留まることで血が濃くなるのを防ぐ仕組みかは解らないが、それがダークエルフ達の昔からの慣習だという。
そうしないと、長寿のダークエルフ達は、延々と同族で占められる事になってしまうわけだ。
その話を聞いて、俺はなるほどなぁと心の中で膝を叩いた。
ダークエルフの村は何か淡泊なんだよ。 愛情が無いというか……長老達も、積極的に若い連中を纏めている感じはしなかったし。
所詮他人だし――そんな感覚があるのかもしれない。
それに引き換え、エルフは3~4代、同族で暮らすこともあるという。
色々と生活様式も違うし、考え方も違う。 これじゃエルフとダークエルフ、双方対立するのは無理も無い。
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伯爵領のミルーナが、俺の作った車を買って、量産化しようとしているが、中々難しいようで、進捗状況はよろしくない。
そりゃ、ナナミが精密加工した部品等を多用しているし、あんなチートアイテムをイキナリコピーしようとしてもかなり大変だろう。
俺の作った車に比べて、大幅に簡略化したタイプを作ってるようだが、それでも一筋縄ではいかないようだ。
そればかりか、蒸気エンジンを生産するにあたって、現在の伯爵領には、加工機械や機械を生産する等のノウハウ等がまるで無い。
ミルーナが雇ったという数人の工作師と共に、毎日のように俺の工房を訪れて、俺の工作機械を調べたり、技術を学んでいく。
「俺に聞くより、お城の工作師に聞いた方が早いと思うんだが……」
「工作師同士では柵もありますし、殿下もいい顔をしませんでしょ?」
ミルーナはそんな事を言うのだが、やはりライバル意識みたいな物もあるのだろうか?
「また、来おったな!」
「ほら」
殿下が俺の工房へ飛び込んでくると、ミルーナはやっぱりでしょ? みたいな顔をした。
「ショウは妾の物だぞ、いい加減に諦めるがよい!」
「殿下、違いますよ。 伯爵領で生産する機械についての、打ち合わせと勉強会をですね」
「其方も、ミルーナに肩入れし過ぎであろう!」
「しかし、もうお城の工作師も余裕がありませんし、他の領で生産出来るものは、任せないと。 他領が儲かれば税で国の収入が増えるではありませんか」
「それはそうだが……」
俺の言葉に口ごもる殿下。
「これは、真学師同士の親睦を深める勉強会なのですから、殿下は執務にお戻りになられて、お茶でも飲んでくださいまし」
「ぐぬぬ……」
「それにしても――」
ミルーナは、ナナミが持っている技術と知識に舌を巻いたようだ。 そりゃ彼女、人間じゃないしな。
「慰みの為に彼女を雇ったのでは、無かったのですね」
「俺は、そういう事には金は使わないよ」
「少しは使って頂きたいのですが……」
ミルーナは少し――というか、かなり残念そうだ。
「世の中にはもっと面白い物が沢山あるし、ミルーナはどっちを取るんだ?」
「う~ん……、両方」 「両方に決まっておる!」
ミルーナと殿下が一緒に答えた。 なんで、殿下まで……。
両方欲しいなんて、女らしいというか、何というか。
欲張りだな。
ミルーナに一緒に付いてきていた工作師達も、いつも仕事をしている彼女と趣が違うのだろう、驚いた顔をしているのが印象的だった。
殿下とミルーナの言い争いを笑って見ているが……一つの疑問が俺の頭を掠めた。
そういえば、蒸気エンジン等の製造に必要な鉄はどうしているのだろう?
伯爵領にはドワーフも居ないし、高炉も無い。
「ミルーナ、鉄は何処から手に入れてるんだ? 商人から粗鋼を買っているのか?」
「何処からだと思いますか? うふふ」
殿下の相手を止めたミルーナが、なにやら、含み笑いをするのだが、ヒントは磁石だと言う。
その話をされて思いだした。 以前、ミルーナに俺の作った磁石を見せた時に、高くても良いから譲ってほしいと言われた事があった。
彼女なら良いだろうと――白金合金製の磁石を、10個程彼女に売ったのだ。
磁石なんて、何に使うのかと思っていたが――鉄に関係ある? 砂鉄でも集めているのだろうか?
伯爵領でたたら製鉄が行われているとは聞いたことがないのだが……。
「降参だ、教えてくれ」
「ふふ、ショウ様でも知らない事がありますのね」
「そりゃ、そうだ。 森羅万象知らない事だらけだよ」
ミルーナの話では、彼女の国ファルタスにある大きな湖の底に鉄の鉱脈があると言う。
クロワッサンの皮のように、薄い板状になった鉄が、かなりの層で積もっているらしい。
「ああ、それを磁石でくっつけて採取しているのか」
「その通りです」
ミルーナはニコニコと笑って話しているが――。
湖は、結構水深があるようで、潜ったりして簡単には湖底の鉄を採取する事が出来ない。
今までは、網で掬ったりして、少量が利用されていたが、俺の作った磁石を使って大量に採取できるようになったらしい。
それを、ファルタスで地金に加工したものを、伯爵領へ持ち込んでいるという。
「なるほどなぁ」
磁石にそんな使い方があったとは。
俺が作った磁石のおかげで、何も産業が無かったファルタスにも、立派な産業が出来たと、ミルーナはもちろん――。
国王陛下や王妃様も喜んでいるという。
「ショウ様のおかげでございます」
「俺の作った物が人の役に立てたなら、良かったよ」
「それで、お願いがあるのですが……」
彼女の話では、もっと磁石が欲しいと言う。
まあ、フリフル峡谷の金鉱山からは、白金が追加で送られてきているので、減ってはいないのだが。
ちなみに、磁石の値段は、同じ重量の金の値段の倍だ。
高い値付けだが、この世界で強力な磁石というのは、俺が作った物しか存在していない。 故に、かなり高価だとしても妥当な値段だと思っている。
もっとも、その値段でも欲しいなんて言うのは、ミルーナぐらいしかいないのだが……。
彼女も、その価値を理解しているので、金を払っているのだ。
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蒸気エンジンを汎用動力として売り出すために問題が一つ上がった。
汎用動力として使うためには、定回転で延々と運転しなければならない。
止めたり、動かしたりするなら、運転手が必要なのだが――例えば、ポンプに繋げた汎用エンジンなどは、ずっと定回転で回しっぱなしだ。
そんな回しっぱなしエンジンに、運転手は必要ないのだ。 そのためには、安定的に定回転で運転させる仕組みが必要となる。
「なんとかなりませんか?」
――とミルーナに泣き付かれて、調速機の仕組みを彼女に教える。
この調速機という仕組みは、動画サイト等で見たことがあるので、俺も構造を知っていた。
昔の、焼玉エンジンや灯油エンジンなどに使われたりしていた物だが、蒸気エンジンにも同様の仕組みが使えるはずだ。
蒸気機関で動くトラクターの動画の中で、クルクルと回る傘のような部品――調速機の仕組みとは。
傘の先に錘が付いていて、これがエンジンと連結されている。 エンジンの回転が上がり過ぎると、遠心力で傘が開き上に上がる、すると、連動してバルブ等が閉まる――。
こんな仕組みで定回転を維持するのが調速機で、これを伯爵領で生産される汎用の蒸気エンジンに組み込んだ。
紆余曲折の果て、汎用の蒸気エンジンはなんとか目処が付き、伯爵領での販売を始めた。
伯爵領での機械の生産方式で、他の国と違う所は、一般人が製造に関わっていることだろう。
今までは、物を製造するとなると――工作師という職業の人間が1から10まで一貫して、加工組立を受け持っていた。
だが、人手不足の伯爵領では、一般人が出来る簡単な加工や作業などは、ドンドン一般人に回している。
そして、最後の仕上げや、高度な技術が必要な加工等の作業だけを、工作師が受け持っているのだ。
このような事情から、一般人に回す仕事を斡旋する、内職斡旋業や派遣業のような仕事も見られるようになった。
これは、伯爵領だけではなく、城下町にも広がっている。
これは、果たして良いのか悪いのか。
元請け、孫請け、曾孫受け等々、元世界でも見られた光景が、この世界でも繰り返されている。
底辺では、浮浪児を集めて過酷な作業をさせて金をピンはねする――そんな話が聞こえてきたりする。
さすがに、そんな話を聞いたら、殿下やミルーナも黙っては居られないので、すぐに摘発に動くのだが……
元世界の産業革命期でも、鉱山などの過酷な労働についた年少労働者が沢山存在していたという。
産業が発達して、国がデカくなる。 人口が増えれば、格差は広がる。
頭が痛く、難しい問題だ。
金に余裕があれば、福祉にも力を入れてほしいと、殿下に進言してはいるのだが――この世界は施しをすれば足を掬われるという概念が強いからか、中々難しい。
そんな色々な問題を巻き込みながら生産される蒸気エンジンだが、ミルーナは、この蒸気エンジンが世界の主流になるはずだと断言する。
そりゃ、元世界でも、一時代を築いたから可能性は大だろう。 この世界で石油が見つからなければ、しばらくは蒸気機関の時代が続くと思われる。
様々な困難を乗り越えて、伯爵領で完成した汎用の蒸気エンジンのお値段は1台金貨50枚(1000万円)程。
ミルーナの話では、この値段では儲けがあまり無いという話なのだが、オプションや、その他のサービスで儲けを出すビジネススタイルらしい。
エンジン1台に金貨50枚(1000万円)、高いように思える。
奴隷を1人買っても500万円ぐらいはする。 だが、感情無く回り続ける鉄の塊は、人間の奴隷と違い、疲れを知らないし、飯も食わない、病気にもならない。
奴隷2人分の値段を払っても、1日中酷使しても疲れない蒸気エンジンを導入するメリットはあるだろう。
例えば、灌漑用の揚水水車を回すのに蒸気エンジンを使えば、水を大量に揚水出来て、いままで、開墾できなかった土地も利用できるようになる。
灌漑用水だけなら、水車で揚水する仕組みがこの世界にもあったのだが――突然の大水等に対応できず、破損する事故が多々ある。
鉱山などの排水も、いままでは全部人力で汲み出していたのが、それが蒸気エンジンに置き換われば、その分の人手を掘削に回す事が出来るだろう。
金貨50枚、100枚の出費など、すぐに元が取れる――その先見性に目を付けた庄屋や商人によって、蒸気エンジンは結構需要があるらしい。
蒸気エンジンは完成したが、車が出来るのは、もう少し先になりそうだけどな。
自動車が完成すれば、金貨250枚(5000万円)という値段になるというが、高級馬車と同じ値段で売れるかどうか……。
「皆が馬車で乗り付けている舞踏会等に、自分で馬なしの自動車を華麗に運転をし、颯爽と乗り付ける。 皆の度肝を抜きますよ?」
それに大金を払う価値があると考える王侯貴族が絶対にいるはずだ。
ミルーナの言葉である。
なるほどな。
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街へ出てみると、最近よく見かけるようになった商売がある。
新聞――というか、元世界のかわら版に近い物が道ばたで売られている。
A4程の大きさの紙に、各出版元によって趣向を凝らされた、ユニークな記事が色々と載っている。
定番のニュース――街や他の国であった出来事や、買い物情報、森で出没する魔物等が載っているミステリー系、そして当然の如く、エロ系もある。
もちろん、ダークエルフ達が売っている、森の清水の事も載っている。
精霊魔法で浄化済みという、街で今話題の――なんて見出しから始まる具合だ。
文盲率が高いので、もちろん飛ぶように売れているわけではないのだが――何人かで金を出し合ってそれを買い、字が読める奴に読んでもらう。
――というのが、街のスタイルらしい。
これだけみると、元世界で売っていたインチキ○○水みたいだが。
伯爵領で売り出した蒸気エンジン、俺が乗り回していた自動車の事も面白おかしく書かれている。
――とまぁ、こんな感じで中々多彩な記事が載っていて、値段は一枚銅貨2枚(1000円)也。
元世界の感覚からすれば、少々高いような気がするが、出版物があまり無いこの世界では貴重な情報源だ。
印刷の特許はお城が持っているので、それを開示した技術が使用されている関係上、出版元は売上の2割程を税金として納めなければならない。
この世界では、商売人が払う税金の他に税金は無いが、見方を変えれば、消費税に近いかもしれない。
このように街で売られている出版物は、全部お城へ届けられて、事後検閲される。
今のところ、何を書いても良いのだが、国の批判や、王侯貴族批判、公序良俗に反する物をお城としては認める訳にはいかないのだ。
公序良俗違反とは――デマをばら撒く、悪口などの個人攻撃、無限連鎖講などの悪質な商売勧誘等々……。
この世界で、国の批判などすれば、いきなり首を切られてもおかしくないのだから、こういう検閲に俺が口を挟む事は出来ない。
これは、ファーレーンだけではなく、どこの国でも同様で、思想の自由、信仰の自由、言論の自由等は、保障されていないのだ。
ただ、国の悪口は書いていないが、政策に対する提言を行っている出版物もあったりして、侮れない。
「あっはっは! ショウよ、コレは凄いぞ!」
殿下が、執務室にあるテーブルの上に集められた、かわら版を見て大笑いをしている。
全て、城下町で集められた物で、殿下は一通り目を通しているという。
「なになに? 希代のエロ真学師ショウが、今日もお城でご乱交。 獣人、エルフ、ダークエルフを従え、日夜ベッドの上で繰り広げられる酒池肉林――勘弁してくれよ」
俺はタイトルを読んで、がっくりと肩を落とした。
その下の段は、エロ文章で埋まっている。 文章自体は中々文学していて、読み応えがある。
素晴らしい。
後で、貰って帰ろう。
「事実だからな。 これは仕方あるまい」
エロ文学を読んでいると、殿下がそんな事を言う。
「そんな事実はありませんが……。 普段から街に流れている噂からしてこんな物だから、今更何も言いませんが」
「王侯貴族や、役人の悪口を書いて目を付けられたら大変だが、真学師ならこういうのには無頓着だからな。 いい玩具なのであろう」
噂なら、王侯貴族の悪口を言っても証拠は残らないが、出版物だと残ってしまうからな。 これは、仕方ない。
「とほほ……」
まあ、殿下に喜んでいただけるなら、コレも仕事だ。
しかし、王侯貴族の根も葉もない悪口などはもちろん駄目だが、不正などの告発等を書く道が閉ざされるのは拙い。
国民からの要望を受ける仕組みがあってもいいかもしれないな。
元世界、江戸時代にあった、目安箱みたいな物が……。
そこで、殿下に進言してみた。
「殿下、国民からの下意を汲み上げる仕組みがあってもよろしいのではないでしょうか?」
「ほう?」
殿下の表情からは乗り気のようだ。
「お城の前に投書箱を設置して、国民からの下意を募ってみたらいかがでしょう」
「しかしのう、色々と書いて罰せられたらと、本意を認めるかの?」
「事前に、投書に何を書いても、罰する事はないと御触れを出せばよろしいでしょう。 本当に、訴え出たい事があると言うなら、それなりの覚悟もあるでしょうし」
「うむ、我々が気づかないような、国の問題があるやもしれん」
殿下が腕を組み、天井を仰いでいる。
「その通りでございます。 私も、街の人々などから色々聞き込んでおりますが、お城の人間には直接話せないような事もあるかもしれません」
何事も鶴の一声で決まるのが、絶対君主制のいいところだ。
早速、お城表門の前に目安箱が設置されて、国民からの下意を募る事に。
最初は、恐る恐るだった国民からも、投書について本当にお咎めが無いと分かると、徐々に下意が入るようになった。
無論、文字が読み書き出来る人は少ないので、代筆を頼んでいる場合が多い。
投書で多かったのは、病院に関する事のようだ。
公立の病院も建てられてはいるが、今のファーレーンの人口20万人に対して、病院が少なすぎる。
この世界の医者があまり役に立たない、人材的な問題もある。
あまりに、魔導師の治癒魔法等に頼り過ぎてしまったので、医学が発達していないのだ。
そんな事から、人材育成からやらないと病院不足は解消できないだろう。
国がデカくなる程、問題が山積みになるが、政は殿下の判断にお任せするしかない。
ファーレーンでもこんな感じなのに、人口が100万もいる帝国ではどうなっているんだろうか?
いや、どうにもならんから、国が傾いているのだとは思うが。





