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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編
89/158

89話 コンパウンドボウの素材を求めて


「畜生ぉぉぉぉ! やっぱり、駄目かぁぁ!」


 長い触角をピュンピュン動かしながら、森の中を超スピードで迫り来る黒光りする奴から逃げ回る俺。

 俺はフェイフェイと一緒に、自作のコンパウンドボウに使う材料を採取しに、森の深層へ来ていた。

 フェイフェイの話だと、そのデカい甲虫の羽が俺の求める物に近いらしいが、そいつは、体長2mを超えるデカいG()だと言う。

 俺は、まさかそのまんまって事はないだろう――ちょっと似ているだけだよね? と、ちょっと楽観視していたのだが、実際に目の前に現れたのは――。


 それは、紛れも無く奴さ!


「んなろ!」

 俺は、Gの足元に圧縮弾を展開して、爆発の威力で奴をひっくり返そうとしたのだが、失敗。

 

 呆気無くクリアされてしまう。

 黒々とした棘の生えた脚を脇差しで切りつけたりしてみたのだが、傷が少々付くだけでまったく歯がたたず。

 フェイフェイの話だと、傷はすぐに自己修復するという。

 外側への魔法攻撃はまったく効き目が無いように見えるし……矢も通らない。


 こいつはお手上げだ。


「フェイフェイ! 一旦仕切り直しだ。 作戦を練り直した方がいい」

「解った」

 俺は、草むらに乾燥の魔法を掛けて水分を奪うと、すかさず魔法で火を付けた。

 モウモウという煙が舞い上がり、そこへフェイフェイの精霊魔法で風を起こし、Gの方へ煙を誘導する。

 動物でも魔物でも、火を恐れる。

 Gは煙に追い立てられるように、森の中へ消えていった。


「ふう……コイツは強敵だぜ。 ダークエルフ達は、こんなのを数人で狩りをしているのか?」

 俺は火を消しながらフェイフェイに話しかけた。

 


「いや、村をあげて大人数で取り囲み、網で押さえこんだりして急所を突く」

 急所というのは、脚の付け根に呼吸する穴があるらしい、そこは攻撃が通るという。


「それじゃ、2人じゃ無理じゃね?」

「スマン、お前とならなんとかなると思った」

「俺のことを評価してくれるのはいいが、ちょっと過大評価だぞ」

「……」

 フェイフェイは俺のことをじっと見つめている。

 

「とはいえ、このまま引き下がるのは、ちょっと癪だな」

 倒すだけなら、火で囲めばいいかもしれんが――アイツ等()()よな。

 何かいい方法は……。


 そんな魔物退治に四苦八苦している、俺とフェイフェイが訪れている場所は――巨壁の上に広がる森。

 この大陸には、東西に巨壁が走っているが、俺が日頃、植物採集したりして探索している森は、巨壁の下側。

 今回、俺とフェイフェイがやってきた場所は、巨壁の上側になる。

 ファーレーンの西を流れている川の上流を遡り、そこから巨壁を登る。

 登るポイントは何箇所かあって、そこら辺はダークエルフ達の長年の経験が頼りになる。

 普通の人間じゃ、まずコレが難問になる。

 

 巨壁の上にある森は、滅多に人も入らないし、魔物も多い。 危険極まりない場所だ。

 ハンターやら、特殊な職種の奴らしかこんな所は訪れない。

 その森を、数百年~千年に渡り、庭としてきたのがフェイフェイ達ダークエルフだ。

 彼等の助け無しでは、この森へ脚を踏み入れるのは不可能と言って良いだろう。

 こんなG()みたいなのが、ウヨウヨしてたんじゃ命がいくつあっても足りやしない。


 この素材集めに一応、師匠も誘ったのだが、最初は乗り気だった師匠も獲物がGだと解ると一気にトーンダウン。

 なにやら昔、単独で森に入って、Gの大群に襲われてトラウマになったらしい。

 咄嗟にGを纏めて吹き飛ばすような大魔法を使うと自分も危ないからな。

 通常は2人組になって、片方が攻撃しているときは、もう片方は防御をするのが普通だ。

 師匠が、どうやって逃げ延びたかは聞かなかったが……。


「フェイフェイ、師匠が奴等の大群に襲われたと言っていたんだが、それは大丈夫なのか?」

「それは、巣の近くだったのだろう。 巣の近くは危険だぞ。 子供を守ろうとして、大群で襲い掛かってくる」

「なるほど……ぞっとするな」


 フェイフェイと打ち合わせの結果、とりあえず、ひっくり返すなりして腹を出させれば矢が刺さるだろうという。

 そうすれば、俺が作った爆発ボルトが力を発揮するはずだ。

 

 う~ん……。


「フェイフェイ、ちょっと大きめのけものを獲ってくれ、そいつを餌にしてみよう。 餌を食っている最中なら動きが止まるかもしれん」

「よし、解った」


 作戦は――。

 デカい樹の下に、餌を置いて奴等を惹きつける。

 樹の上には俺が待ち受けていて、Gの頭上から俺が急襲する作戦だ。

 フェイフェイは、少し離れた所で待っているが、精霊魔法で緩い風を起こせば、獲物に近づくには風下から――というのを、思い通りに出来るわけだ。

 

 フェイフェイが獲った獲物を置いて、樹の上でしばし待つ……黒い奴が来た。 長い触角で、獲物を確かめている。

 まだよ~まだまだ……いまだ!


「おりゃぁぁぁぁ!」

 俺は、満を持して樹の上からGの上へ飛び降りた。

 

 そして、すかさず自分に重量増大の魔法を掛ける。

「はは、お前らに魔法は効かなくても、魔法で重石になった俺が乗っかったら潰れるだろ! どうだ、この説明ゼリフ!」

 Gは重さで脚を潰し、ジタバタしてキーキー鳴く。 そうだ、コイツ等鳴くんだよ。

 しかし、重量増大している俺もかなり辛い!

 何せ、イキナリ自分の体重が1t近くになるんだから、潰れるぅぅぅ! 中身でちゃうぅぅ!

 そんな冗談をやってる場合じゃねぇ。 Gの羽を掴むと、片側に体重を掛け、めくり上げてコイツの腹を出させる。


「フェイフェイ! どうだ?! いけるか?!」

「任せろ!」

 彼女が素早い動作で、俺の作った爆発ボルトをつがえると2連射する。

 その着弾の感触を手で感じ取った俺は、すぐさま魔法を反転させて、Gから飛び退く――と、同時に爆発ボルトに内蔵された火石に魔力を送り、起爆させた。

 2発同時に爆発した衝撃で、Gはひっくり返って動きを止め、爆発で出来た穴から黄色の体液を吐き出している。


「やったか?」

 フェイフェイが近づこうとするが、俺は止めた。

 

「いや、まだ生きてるぞ」

 Gの脚を脇差しでポンと叩くと、トゲトゲの脚をワシャワシャと動かした。

 甲虫が死ぬと脚を閉じるが、こいつは開いたままだ。 ネットで見た、蝉ファイナルの見分け方ってやつが、こんなところで役に立つとは。


「とりあえず、頭を落とそう。 いくらしぶとくても、頭を落とせば、身体は止まるだろう」

「わかった」


 俺は、Gの頭近くを足で踏みつけると、装甲の繋ぎ目に脇差しを立てた。

 ギギ――という音と共に、刃が食い込んでいき、勢い余って脇差しが地面に突き刺さると、黒い身体と長い触角が動いている頭が泣き別れになった。

 すると、胴体の方はゆっくりと脚を閉じて、動きを止めたが、頭の方はまだ動いている。

 触角と口をワシャワシャと動かして、何やら抵抗しているが、無駄な足掻きってやつだ。

 俺は、頭の切り口から見える白い臓器に冷却の魔法を掛けると、動きを沈黙させた。

 この白いのは脳みそだろう。

 動きを止めた長い触手を触ってみると、凄い弾力がある。

 これは、ヒゲゼンマイに使えるかもな! 元世界じゃ、鯨のヒゲでからくり人形のゼンマイを作ったとか聞いたことがあるし、これでも似たような事が出来るかもしれない。


「フェイフェイ、コレ凄いぞ」

 声を掛けた俺を彼女が制した。

 

「待て、浄化の魔法を掛ける」

「コイツは何か、病気とか持っているのか?」

「たまにな。 念の為だ」

「解った」

 Gの胴体と頭、そして俺、まとめて浄化の魔法を掛けてもらう。

 こういうのも必要となると、益々魔物刈りなんてダークエルフの手助けが必要って事だな。

 浄化の魔法を持っている魔導師がいれば良いが……。


 早速、仕留めた獲物を解体する。

 

「フェイフェイ、このデカい前翅ぜんしを本当に貰って良いのか?」

「ああ、それは厚いし、加工が大変なんだ。 鎧に使うなら、柔軟性がある腹の方が良い」

「へぇ、なるほど。 この脚なんて、腕甲にピッタリだぞ。 トゲトゲも付いているし」

 そういえば、アニメで虫の甲を使ったロボットが出てくるのがあったな。

 軽くて丈夫だし、熱に弱いのを除けば、優れた材料かもしれない。


「そういうのも好む者もいるな。 その大きいはねは、家具の天板などに使われたりするぞ」

「確かに、こいつをテーブルに貼って、磨いたら綺麗かもしれないなぁ。 鼈甲べっこうみたいなものか」

「べっこう?」

「海にな、甲羅を背負った動物がいるんだよ。 その甲羅を剥がして加工すると、美しい材料になる」

 フェイフェイは亀を見てみたいと言うが、この世界に亀がいるかな?

 まあ、Gがいたんだから、亀もいそうな気はするが……。

 

「お前と一緒だと、見聞が広がるな」

 骸を解体しながら、フェイフェイがそんな事を言う。

 

「それは、俺も同じだぞ。 フェイフェイと一緒じゃないと、こんな森深くの探索なんて出来ないだろうし」

 フェイフェイは解体を続けているが、俺はGの頭を眺めていた。


「その頭がどうかしたのか?」

「いや、この頭に何か魔法の刺激を与えれば、自在にコイツを動かせるんじゃないかとな」

「そんな物を動かしてどうする?」

「ファーレーンを巣だと思い込ませれば、侵入者を攻撃させる事が出来るだろ? 上に乗って、自在に乗り回したりさ」

「まったく、真学師というのは呆れるな。 どうやったら、そんな事を思いつくのだ」

「だめか?」

「おおよそ、正気だとは思えん」

 フェイフェイはそう言うが、家畜を飼い慣らすと然程変わらないと思うんだがなぁ。

 ちょっとドン引きされてるので、ここら辺で止めておく。


「まぁ、聞かなかった事にしてくれ」

「そうする」

 ドン引きされたので、ちょっと機嫌を損ねてしまったかな? と思ったが、フェイフェイを見る限り杞憂きゆうだったようだ。

 

「やはり、私の目に狂いはなかった」

「なにがだ?」

「お前と2人なら、コレを仕留められると」

「おいおい、獲物をコレ以上大きくするなよ。 ドラゴンを仕留めようとか言われても無理だからな」

「いや、お前の知恵と勇気を使えば出来る!」

「止めてくれ~!」


 ステラさんと違う意味でちょっと厄介かもしれない。

 しかしドラゴンか……。 火薬が出来たから、無反動砲かロケット弾を作って、成形炸薬弾頭(H E A T)にすれば、ドラゴンの鱗だって――。

 いやいや、アホな事は考えるな。 命がいくつあっても足りないぞ。


 フェイフェイと2人、解体をしながら話し込んでいると――突然ガサガサと茂みが動く。

 咄嗟に、剣と脇差しに手を掛けて構える2人の前に、茂みから出てきたのは――ダークエルフのミルミルだった。


「え~? なんか変な音がしたな~とやって来たら、フェイフェイとショウ?」

「ほ、ミルミルだったか」

 胸を撫で下ろす俺。

 

「フェイフェイ! 突然村を出ていったと思ったら、ショウの所にいるなんて。 大体、ショウに振られたんじゃなかったの?」

「あの時は、本当に魔法の使いすぎでぶっ倒れて、俺は何もしなかっただけなんだが」

「そういう事だ」

 フェイフェイは、相手がミルミルだと解ると、彼女に構わず解体作業を続けている。

 

 俺は、フェイフェイがお城で雇われて、殿下の護衛の仕事をしている事を、ミルミルに教えると――。


「そんなのズルいじゃん!」

「別にずるくはない」

 フェイフェイの言うとおり、別にズルくはないな。

 

「それにしても、俺が色々と教えた事で、村の揉め事になってしまったのは悪かったな」

「そんな事、誰も気にしてないよ。 むしろ、長老達がもっと積極的に執り成してくれればいいのに」

「私もそう思う」

「まあ、フェイフェイが持ってた黒狼の毛皮3枚もやったのになぁ」

「そうだ! 思い出したぞ。 くそっ!」

 フェイフェイは舌打ちすると、乱暴に甲を引っぺがした。

 

 獲物を2人で解体しても、全部は持って帰れないので、余った分はミルミルに譲渡することにした。


「え? ホントに良いの?」

「ああ、脚とか持って帰れないし。 必要ならだが……」

「脚でも、売れると思うよ。 貰う貰う! ファーレーンに売りに行こう。 ついでに、あたしにも仕事紹介してくれない?」

「良いけど、お城にはエルフがいるぞ?」

「げ! そうだった」

「私も、エルフからかなり嫌がらせを受けている。 ショウが守ってくれているが」

「それじゃ、貴族とか大店でいいオトコとかいない?」

「貴族でか~? いい男って言えば、伯爵様かな」

 俺は、フィラーゼ伯爵の事をミルミルに教えた。

 彼女達も長年此の地に住んで、ファーレーンの事もある程度は知っているのだが、フィラーゼ伯爵が子爵から伯爵に変わった事は知らなかったようだ。


「じゃあ、その人の所を紹介してぇ」

 ミルミルが品を作って、俺にもたれ掛かってくる。

 

「そんなことをしなくても、紹介してやるよ。 でも、伯爵の下にはファルタスの王女様がお輿入れ前提でやって来ているから、口説こうとしても無理だぞ。 伯爵もかなり堅い方だし」

「もう、遊びよ、遊び。 人間なんてすぐに死んじゃうのに」

 

 そんなことを言いながらケラケラ笑う彼女だが、そりゃエルフとかダークエルフから見れば、人間なんてすぐに年食って死んじゃう生き物だろう。

 こんな事を言う不老の彼女等を、鼻持ちならない連中と言って、嫌う人間もいるのもうなずける。


 ミルミルもたまには、村の外に出たいという事だったので、そのままお城へ同行することになった。

 村に知らせなくても良いかと聞いたのだが、誰かがふらりと居なくなるのは、村でもよくあることで、ダークエルフ達は余り気にしないようだ。


 そんなものなのかねぇ。

 なんか、長年生きてて、些少の事はどうでも良くなっているようにも感じる。 

 やる事が無くなって、つまらない遊びに命を懸けたりする、ダークエルフの男達を見たが、アレもそうなのか。


 ミルミルと一緒に、森を抜け、川を下る。

 途中、エルフやダークエルフ達について、色々と話を聞く。

 彼等は、元々一緒の世界に住んでいた種族で、大本は同一の先祖を持つらしい。

 だが、彼等の元世界に居た時から仲が悪く、別々の大陸に住んでいたという。

 そして、エルフ達の内戦で、彼等の世界が滅んだ時に、文明を全て捨てるという約束で、アマテラスに導かれてこの世界へやって来たという話なのだが……。


「随分と詳しく、伝承が残っているんだな」

「だって、人間にとっては、80~100世代前の事かもしれないけど、あたし等にしてみれば、数世代前の事だからね。 あたしが子供の頃は、元始のダークエルフを知ってる長老がいたから」

「そりゃ、そうか。 そう考えると、長寿ってのは凄いな」

「全然、凄くはない。 こんなものは、呪いと一緒だ」

 ミルミルとの会話にフェイフェイが割って入りそんな事を言うが、以前、同じような事をステラさんからも聞いたような気がするな。

 まあ、エルフとダークエルフが、仲悪いってのは解ったな。 そりゃ前世から万年イガミあっているのに、いまさら俺がどうのこうの言っても、無理だろう。

 しかし、こんなに克明にアマテラスって存在が伝承されているという事は、アマテラスってのはマジでいるって事なのか。

 俺をこの世界に連れてきたのも、そのアマテラスなのか?


 う~む。


 プライムに帰ってきた俺たちは、素材を買い取る店を探して、ミルミルが運んできたGの脚を売った。

 銀貨2枚(10万円)也。

 ちなみに全部揃っていると、金貨3枚(60万円)程になるという。

 命がけで戦って、金貨3枚は高いのか、安いのか。

 蘇生とか出来るゲームの世界ならともかく、俺なら、そんな仕事はやらないな。

 ダークエルフの美女2人を連れて、デカいGの前翅ぜんしを抱えた俺は、街の注目の的だ。


 また、変な噂が街中に流れるな。


 ミルミルと一緒にお城へと戻ってきた。

 彼女のためお城に入る手続きをしていると、殿下がやって来て羊皮紙の証文を一枚渡してくる。

「なんだ。 今度はそのダークエルフを雇えと申すのか」

 ダークエルフ達を見て、殿下が一言。

 

「いえ、彼女は伯爵領へ行きたいそうです」

「そうか。 それからな、ショウ。 面倒を見ろと申したが、甘やかせとは申してはおらぬぞ」

 そんな言葉を残して立ち去った殿下を見送り、改めて証文をよく読むと――。


「なんじゃこりゃ!」

 俺は思わず、その証文を破きそうになった。 まあ、羊皮紙なんて簡単には破れないが

 

「どうした」

「いや、私事わたくしごとだ」

「そうか」


 くそぉ! あいつめぇ。 


 ミルミルを俺の工房に招き入れると、彼女は目をきらめかせて、窓にはまったガラスを見ている。

 こういう反応は、皆同じだな。

 それは良いのだが、腹が減ったので何か食わせろという。

 フェイフェイの時も感じたのだが、どうも欲求がストレートだな。

 しかし、エルフと元が一緒だと聞かされた後なので、なるほどな……と、思うところもある。

 だが、エルフと違って、悪意のある悪戯をしないだけ、かなりマシだ。

 日本人みたいに空気読めとか察しろとか言うよりは、ストレートに言ってくれた方が解りやすくていい。


 さて、何を作ろう。

 う~ん、フレンチトーストにしてみるか。

 牛乳にぶどうから取った砂糖、バニラ香料を少々、卵を入れて、パンを漬けて、魔法で減圧すると、パンに素早く染み込ませる事が出来る。

 ソレを魔法で加熱。 簡単にフレンチトーストの出来上がり。


「とりあえず、コレを食っていてくれ」

「柔らかくて、甘くて美味い……」

「美味しい!」

 フェイフェイとミルミルにも好評だ。

 

 残りはシチューでも作ってみるか。

 まずは、芋や野菜の皮を剥く。


「私達も手伝うよ」

 

 ここら辺はエルフと違うところだな、エルフなら絶対に手伝ったりしないし。

 鍋に野菜と肉、脂を入れ、塩を加え、魔法で加熱しながら炒めかき混ぜる。 昆布だしも足す。

 小麦粉を足しつつ、ひたすらかき混ぜながら、炒めていく。

 ミルクを足して、トロみがついたら、一度魔法で減圧しつつ、具材への味の染み込み具合を見て完成。

 

「なにこれ? 白いスープ?」

「牛乳のスープなのか?」

「見たことないか? 美味いぞ」

 俺が手本に食ってみせると、彼女達も恐る恐る、シチューを口に運んだ。

 

「なにこれ? 美味しい!」

 シチューを食べたミルミルは、目を丸くさせている。

 

「美味いな……」

「パンに付けて食べても美味いぞ」

「ショウっていつも、こんな美味しい物食べてるの?」

「まあな」

 シチューを食べたミルミルは、ここに住みたいとか言い出した。 ここにはエルフがいるって事を忘れてるだろ?

 そんな事を話しながら食事をしていると、ドアが勢い良く開いた。


「なんか、美味そうな匂いがするっす! ショウ、腹減ったっす! なにか……ぎゃー! なんで黒いのが増えてるっすか!?」

「フロー丁度良いところに来たな。 おい! 俺の所にこんな証文が回ってきたんだが」

「ぎゃー! なんで、それがショウのところにあるっすか!? あいつら、もう少し待ってくれるっていったのに!」

 俺が、フローに差し出したのは、フローの借金の明細書だ。

 たぶん、各国商会の集まりがあったので、商人たちが直接殿下に訴え出たのだろう。

 だが、問題はそこではない。 問題なのは、借金の証文に書かれた裏書(保証人)が俺になっているところだ。

 無論、俺がフローの借金の保証人になった覚えは全くない。


「呆れたエルフだな。 真学師であるショウの名前を騙ったのか?」

「す、すぐ返すつもりだったっす! っていうか、お前らには関係ないっす!」

「金貨100枚(2000万円)の借金なんて、お前の稼ぎでどうやって返すつもりだよ!」

「少しずつ返すっす……」

 俺の追及に、徐々にシオシオになっていくフロー。

 

「エルフに少しずつ返されたら、俺なんて爺になっちまうだろ!」

「エルフの典型的な借金踏み倒しの手法だな」

 フェイフェイがつぶやく。

 

「お前らは黙ってるっす!」

 フローが激昂するって事は、これは図星なのだろう。 そうはいくか。


「あ~、もう面倒だから、フロー。 お前を奴隷に売っていい? ツラだけは良いんだ、買うやつもいるだろ」

「ショウ! なんて事言うっすか!? あたしに対する愛は無いっすか!? だいたい、エルフの奴隷なんて聞いたこと無いっすよ!?」

「そんな事はないぞ、エルフが放蕩三昧の挙句借金まみれになって、経済奴隷として拘束されるのは、たまに聞く」

「へぇ~、やっぱりあるのか」

 俺の問に、黙って頷くフェイフェイとミルミル。

 

「余計なことを言うなっす!!」

「さあ、フロー。 どうするんだよ」

「うううう……。 ふぎゃ~~~~!」

 フローは、ドアを勢い良く開けると、外へ逃げ出した。

 

「おい!フロー! マジで逃げたら、指名手配するからな!」

 俺は、ドアから首を出すと、ヤツに叫んだ。

 

「あぃぃぃぃ!」

 奴が、何か叫んでいるが、無視だ。 もう10年ぐらいタダ働きをしてもらうしかない。

 同時に、フローが借金出来ないように各国の商会に通達を出す事にしよう。

 通常なら、真学師の名前を騙るだけで首が飛んでもおかしくない事案なんだからな。

 指名手配されれば、マジ犯罪者だ。 何をされても文句を言えない。

 エルフとはいえ、へなちょこ魔法しか使えないフローには追手を退ける力は無いだろう。


 つ~か、金貨100枚も払うのかよ……いったい何に使ったのか。


 ミルミル達が、シチューを食べている間に俺が書いた紹介状を持って、彼女は候爵領へ向かった。

 彼女を見送りながら、どうなるかちょっと心配だったのだが……。


 2ヶ月程で、ミルミルは候爵領を辞めて帰ってきてしまった。


「ミルミル、どうしたんだ? なにか揉め事でもあったのか?」

「え~? あのお姫様、可愛い顔して凄い人使い荒いんだよ。 でもお金は貯まったし、商売の仕方も覚えたからさ」

 なんとも、現金である。 エルフもダークエルフもあまり従属するって感覚が無いみたいだな――自分の欲求優先、そんな感じ。

 とはいえ、それなりの仕事はしたようで、彼女の報酬は金貨6枚(120万円)。

 その金で馬を買って、行商をするという。


「森で採れた物を、街で売るんだ。 いい考えでしょ? そうしたら、ショウのところにも遊びに来れるしさ」

「森の深部で採れる物は、ダークエルフじゃないと無理だからな。 買う奴はいるだろう。 中々良いかもな」

「でしょでしょ! またショウに美味しい物を食べさせてもらおうかと思ってぇ。 お代は身体で払っちゃうからさぁ」

 そんな事を言いながら、俺に身体を寄せてくるミルミルの間に、フェイフェイが割って入った。


「なによ! フェイフェイが独り占めなんてズルいでしょ!」

「別に独り占めなどするつもりはない ショウは忙しい身だ、仕事を増やすな」

 そんなミルミルに刺激されたのか、他のダークエルフ達も、チラホラプライムで見かけるようになった。

 ただ、女達の評判は良いのだが、男達の評判はすこぶる悪い。

 金も無いのに、女をナンパするので、嫌われているらしい。 この世界は顔よりも、やはり経済力が物を言う。


 ------◇◇◇------


 珍しく師匠と街へ買い出しに来ていた。

 彼女と一緒に商店などを物色していると、なにやら見かけた顔が……。

 銀髪と浅黒い肌で、黒い装備を着込んだ、優男。 ダークエルフのムイムイだ。


「ムイムイじゃないか。 お前も街へ遊びに来ていたのか?」

「おお! ショウ!」

 そう叫ぶと、ガッチリと肩を組まれる。

 

 はっきり言って、こんな風に男に慣れ慣れしく触られるのは嫌なのだが。 これが、見知らぬ相手なら、殴っているかもしれん。


「まだ、博打をやっているのか?」

「大丈夫だ。 総計トータルでは勝ってる」

 

 案の定、博打ってのは何故か最初勝てる事が多い、すぐに負け越すのだが……。 それを認めたくなくてこんな台詞を吐く。

 村の事やら、色々と一方的に話していたムイムイだが、俺の師匠に目を付けたようだ。


「これは、これは、美しいお嬢さん。 ダークエルフに負けず劣らずの豊満な胸なんて、初めてお目にかかりましたよ。 どうでしょう、私と一緒にベッドの上で、この世に生きる喜びと悲しみについて語りあうというのは……ぎゃー! いだだだぁ!」

 師匠に迫って、彼女の腰に手を回そうとした瞬間、ムイムイに師匠の痛い魔法が炸裂したらしい。


「ムイムイ、その人は俺の師匠だよ」

「え? ショウの師匠と言うと、ファーレーンの魔……ぎゃぁぁぁー!」

 

 転げ回るムイムイに、100スタック(メートル)離れるようにうながす。

 ムイムイは、叫びながら一目散に逃げていった。


 あ~あ。 これじゃ、嫌われるよなぁ。 

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