88話 エルフとダークエルフ
ダークエルフのフェイフェイが俺のもとへやって来た。
俺が村で教えた博打やら、石鹸のせいでいざこざが起きて、その元凶――つまり俺を連れてきたとして村から追い出されたらしい。
なんだか、酷い話だ。
「ここがお前の工房か」
フェイフェイは、目を輝かせて、辺りを見回している。
まあ、あの村の建物や設備からすれば、ここは別世界だろう。
「まあ基本一人部屋だから狭いけどな。 そこに座ってくれ。 何か飲み物でも作ろう。 ピコかお茶があるが」
「ピコで」
フェイフェイが椅子にも座らずに、窓ガラスを手で触って、ガラスに移る自分の姿を不思議そうに眺めている。
「これは透明だが、水晶なのか?」
「それはガラスだよ」
「これがか?」
俺が、コーヒーを入れるサイフォンを用意すると、一体何をするんだろうと、覗きこんでいる。
そして、コーヒーが出来上がってくると、その仕組みに驚く。
「これは、魔法ではないのだな?」
「温めは魔法を使ったけど、普通の火でも同じ事ができるぞ」
彼女は、立ったままでコーヒーを一口飲むと、ベッドの脇を通り過ぎて、工作室へ向かう。
どうも、好奇心を抑えられないようだ。
「そっちは工作室だ」
工作室に入った、フェイフェイは立ち止まり、並んでる加工機械達を興味深そうに見渡している。
「これらは何をする物なのだ?」
「金属を削ったりして加工する機械だよ。 こちらは、鉄を鍛造する機械。 動かす力は、そとの水車から取っている」
本当は水車で発電機を回して、モーター駆動なんだが、説明しても解らんだろう。
俺は、旋盤に取り付けた照明用のエジソン電球を点灯させてみせる。
「これも、魔法ではないのか……」
「まあ、作るのに魔法を使っているけど、これ自体は理で光を出しているんだよ」
電信の実験に使っていた機械は、天守閣に作られた電信室に移動したので、すでにここには無い。
ミルーナに、個人的な連絡用に作ってくれと頼まれているのだが、それはちょっと拙いだろう。
変調が出来ないので、全部通話を見られてしまう。 変調可能な送受信機が作れれば、作っても良いと思うがなぁ。
いや、そういう問題じゃないか。
フェイフェイは並んだ機械をまじまじと見て、さらにその奥へ。
奥は、倉庫と風呂なんだが……。
その風呂をみたフェイフェイが風呂に入りたいと言い出した。
エルフもそうだが、どうも欲求がストレートで面食らうな。
日本人なら遠慮しろとか、空気読めとかあるんだが、この世界の人々はストレートに訴え掛けてきて、交渉等を持ち掛けてくる。
「風呂なら夕方になると、お城にある女専用の風呂が沸くぞ」
「女専用ってことは、そこにはエルフも来るのだろ?」
「ああ、そうか。 お前をみたら、フローやステラさんが大騒ぎをするかもな」
というわけで、彼女に風呂の使い方を教える。
「そこを回すと、水が出るから。 一杯になったら教えてくれ、魔法で沸かすから。 温度調整はそこの釜でやるが、1人なら要らないかもな」
「石鹸もあるな……水は何処から来る?」
「外の矢倉に溜めてあるんだよ。 髪の毛を石鹸で洗うとゴワゴワになるから、そこの液体を髪に塗って、水で流せば良い」
「こんな便利な物が……」
そういえば石鹸は作ったが、リンスは作らなかったな。
「それからこれは、身体を拭く専用の布だ」
「柔らかい……。 これもお前が作ったのか?」
フェイフェイは、俺の渡したタオルを頬に付けて感触を楽しんでいる。
「いや、俺の生まれ故郷にあった布を再現した物だが、それをお城で売りだしたんだ。 少々高くて高級品だけどな」
この世界に、普通の家で風呂がある所は滅多に無い。
湯船に浸かる風呂があるなんて、王侯貴族か大店の商人、もしくはお湯を沸かせる魔法が使える奴か。
じゃあ、一般人はどうするのか? 街に一般人用の銭湯があるのだが、それはサウナに近い。
浸かれる湯船もあるのだが、かなり高い料金を払わないと駄目なのだ。
師匠の家に風呂があったので、この世界にも普通に風呂があるんだ~と思っていたが、風呂は結構贅沢品だったというわけだ。
「それにしても、石鹸でいざこざになるとは思わなかったな。 村の女って30人ぐらいか? そこに数個の石鹸じゃ少なかったか……」
「まあな。 全く下らない事だが」
「でも、フェイフェイだって石鹸を欲しがっていただろ?」
「お前に教えてもらった方法で、1ヶ月程待てば皆の石鹸が出来る。 それを待てば良かったのだ」
「でも、目の前に良い物があると、欲しくなるのが人の性……。 でも、俺が石鹸を沢山作って、フェイフェイが持って帰れば、皆も仲直り出来るのでは」
「いっぺん関係が拗れると、修復には時間がかかる。 普段から仲の悪かった者も居たから、石鹸が引き金になってしまったな」
「まあ、狭い村で数百年も一緒にいるのに、俺なんてよそ者が訪れて、余計な事をしてしまったか」
「別にお前が、気に病む事ではない。 お前は立派に村を救ってくれたのだから」
「フェイフェイは村から離れて寂しくはないのか?」
「心残りはあるが、お前と少し話しただけで、たまに外に出て見聞を広めるのも必要だと思った」
人間の寿命なんて数十年。 ダークエルフのフェイフェイが人間の俺に付き合って、そのぐらいの寄り道しても一瞬の出来事なんだそうだ。
彼女達からすれば、人間なんてあっという間に年食って死んじゃう生物なんだろうな。
フェイフェイが風呂に入っている間、ベッドに寝転がる。
彼女がお湯を流す音を聞きながらゴロゴロしていると、ふと、彼女が持ってきた大弓に目が止まる。
それを手に取ってみると、透明な弦に気がついた。
何の糸だろう? まさか、ナイロンテグスって訳はないしな……。
俺の爺さんはテグスのことを『すずいと』と呼んでいたんだが、気になってネットで調べてみると、絹糸のことを『すがいと』と呼ぶことがあるらしく――どうやら、テグス代わりに使っていた『すがいと』がナマって『すずいと』となったらしい。
今は『すずいと』なんて言う奴はいなくなったけどな。
故郷の事を思い出しながら、フェイフェイの弓をみていると、彼女が風呂から出てきた。
バスタオル一枚を身体に巻いて、滴を褐色の肌から滴らせている。
褐色の肌と濡れた長い銀髪、そして白いバスタオルの組み合わせは、実に官能的だ。
「すまん、お前の弓を見せてもらっていた」
「構わん」
「その前に、服を着てくれないか」
「女の裸に恥ずかしがる歳でもないだろう?」
彼女はクスクスと笑っているが、この状況はちょっとな。
「いや、そういう意味じゃなくてな……」
彼女に背中を向けてもらい、魔法で髪を乾かしてやる。
「精霊魔法で風は起こせないのか?」
「ちょっと苦手だが、出来ないこともない」
彼女に風を起こしてもらい、同時に乾燥の魔法も使うとあっという間に、髪がサラサラになる。
「石鹸の後に、あの液体をちゃんと使ったみたいだな」
「こんなに効き目がある物とは……。 これも村で作ったら、さらに収拾がつかない事になったな」
「ここで俺が初めて作った時も、女たちに次々にねだられて、とんでもないことになったんだよ」
「さもありなん」
「フェイフェイ、そろそろ服を……」
――と俺が言ったところで、フェイフェイにベッドに押し倒された。
「おいおい」
バスタオル一枚で包まれた、彼女の柔らかい胸を押しつけ、濡れた唇を近づけてくる。
「すまんが、お前に嘘をついた」
「嘘? なにが嘘だ? 村が滅茶苦茶になったというのは嘘なのか?」
「いや、それは本当だ」
「じゃあ、何が……」
「村から追い出されたというのは嘘だ」
彼女が言うには、そう言った方が俺を受け入れてくれる確率が高いと打算を弾いたらしい。
ダークエルフの教義には、目的達成のためには手段を選ぶなというのがあるみたいだが、それを実践したのか。
「別にそんな嘘をつかなくても、フェイフェイならいつでも大丈夫なのに」
「そうか……村が混乱したというのに、その責任をお前に押しつけた長老衆に愛想が尽きてな。 だが、私の夜這いを、お前が袖にしてくれたおかけで村に居づらくなったのも事実だ」
「それに関しては全くもって申し訳ないと思ってる。 だが、あのときは本当にフラフラでな」
「解っている。 あんなに消耗するまで、村のために尽くしてくれたというのに……あのような事をしていては、我々もエルフを馬鹿にできぬ」
「それは解ったんで、そろそろ退いてくれないか?」
「お前は、また私に恥をかかせるのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……お城でこういうのは拙いんだよなぁ。 ここには師匠もいるしさ」
「師匠? 魔女か。 あの魔女が何だというのだ。 それとも、街の噂通り、お前は魔女の小鳥なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「それなら、いったい何が問題だ。 その女……お……」
フェイフェイの言葉が徐々に淀んでくると同時に、彼女の体臭がみるみる変わっていく。
「おい、私の後ろに何かいるのか? 一体、何が起きているんだ?」
フェイフェイは後ろを振り返る事が出来ずに、冷や汗タラタラ流している。
「ああ、いるねぇ。 すごい怖い顔をして睨んでいる」
「フェイフェイと言いましたね」
突然、耳元で魔女の囁きを聞かされたフェイフェイは俺の上から飛び上がり、ベッドから転げ落ちた――その弾みで彼女の身体からバスタオルは外れて、豊満な胸がこぼれ落ちる。
いつの間にか、師匠が俺たちの後ろに立っていた。
「あなたはそんなことをするために、殿下に雇われたわけではないはずですよ」
「いや、これは」
フェイフェイは突然の出来事に、対処することが出来ずに、顔をひきつらせている。
「それに、私の弟子があなたの村人に少々悪事を教えたみたいですが、それで起きた混乱はあなた達で収める案件でしょう。 ダークエルフの長老衆が統率力の無さを露呈させ、責任を全部、彼に押し付けたように思えますが」
「私も……同意見だ」
「私が、あなたの部屋に案内してあげますから、服を着なさい」
「え? 師匠がですか?」
話を聞くと――。
裏門がなにやら騒がしい。
すげぇパ○オツのダークエルフが来た。
門番達から、ダークエルフとショウが話していたと聞く。
そのダークエルフはショウが殿下のもとに連れていった。
殿下を訪ねると、ダークエルフを雇ったという。
ショウのところへ行くなら、件のダークエルフを部屋へ案内してやってくれと頼まれる。
そして、あの女はショウを狙っている、行くなら早めの方が良いぞ――と殿下に言われる。
そして、慌ててやって来た。 ←いまここ
――という事らしい。
師匠に連行されるフェイフェイに手を振る。
「スマン」
師匠が振り返ると、俺の腹に師匠のロッドが襲ってきた。
「ぬおお」
俺は痛そうに腹を押さえるが、実はそんなに痛くない。
でも、痛そうにしないと、師匠の追撃が来るので、ちょっとオーバーに痛がっているだけだ。
これぞ、生活の知恵ってやつ。
こうして、お城に新しいメンツが増えたが、フェイフェイには殿下の護衛の仕事が無いときには、狩りをしてくれるように頼んだ。
なにせ、大食らいが多いので、肉でも用意してくれるとありがたい。
それに、フェイフェイに狩りを頼むと、下ごしらえが済んでいるので、調理が楽ちんだ。
――〆て、内臓出して、血抜きして、毛を毟って、毟り残した毛を火で炙ってから持ってきてくれる。
肉屋で買うのと同じ状態なので、凄い楽。
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――数日後。
「フェイフェイ、お前の弓に張られている弦は素晴らしいな。 どうやって作るんだ? 俺にも作ってくれないか?」
「おやすいご用だ」
そう言って、彼女が捕まえてきたのは何かのデカい緑色の幼虫。
大きさは、丁度手のひらサイズ。
玄関から出ると、工房の前で、フェイフェイと一緒に幼虫を見ながら話し込んでいる。
「何の幼虫だ? 蛾か何かか?」
「そう、蛾の幼虫だ」
「そう言えば、俺の爺さんが蛾の幼虫から釣り糸を作った事があると言っていたような……」
「酢と塩はあるか?」
「リンゴ酢で良いか?」
「それで大丈夫だ」
フェイフェイは、俺が用意した木のボウルに水を張ると、舌で味をみながらリンゴ酢と塩の濃度を調整していく。
「ほら、お前も舐めてみろ。 この味だ」
俺がボウルに出来上がった液体の味を確かめると、フェイフェイは、その中に幼虫を漬け込んだ。
そして、幼虫の口から吐き出される糸を手繰るように集めていく。
絹糸のような細い糸ではなく、太い一本の糸で、よくよく見ると少々飴色掛かっている。
「そうやって糸を取るのか……上手いもんだな。 まさに匠の技だ」
「何を大げさな。 村なら、このぐらいのことは子供でも出来る」
彼女の手から、出来立ての光り輝く糸を貰う。
「おお……すげぇ。 虫から取ったとは思えないな」
しかし、元世界でも一番強力な糸は蜘蛛が出した糸って話もあったし、虫の力は侮れない。
「ありがとう、助かるよ。 お礼にフェイフェイにこれをやるよ」
俺は、工房に干してあったハーピーの羽を持ってくると、彼女にプレゼントした。
「こ、これは、ハーピーの羽じゃないか! こんな貴重な物を良いのか?」
「ああ、素人の俺が使うより、弓矢の達人であるフェイフェイが使ったほうが、役に立つだろ?」
「感謝する」
彼女は、羽をクルクルと回したり、掲げたりして状態を確かめている。
実は俺も弓を作ろうとしているが、普通の弓ではない。
元世界で、コンパウンドボウ――化合弓とか複合弓とか呼ばれていた物だ。
弓を強力にしていくと、弦を引くのに大きな力が必要になる。 そこで、滑車を使って弦を引く力を軽くしたのが、コンパウンドボウだ。
原理的には、中学で習う滑車の原理と同じ。
引く力が1/2になると、引く距離が2倍になる。 引く力が1/3なら引く距離は3倍で、テコの原理とかと同様だ。
まあ引く距離が3倍になってしまうと、矢より長くなって引けなくなってしまうので、2倍以下が妥当だろう。
「しかし、ハーピーの羽など、どうしたのだ? 買ったのか?」
「いや、俺が仕留めたんだよ」
「なに? そうか……お前は私が思ったより勇者のようだな」
「ええ? 勇者とか止めてくれよ。 街の住人を助けただけで、背中が痒いぜ」
「真の勇者は、皆そう言うのだ。 大した事はしてない、皆を助けたかっただけだとな」
そんな2人の楽しげな会話を遠くから見ている白い影。 ステラさんだ。
実は、ステラさんと少々揉めてしまったのだ。
ダークエルフのフェイフェイがお城にやって来たので、彼女達と仲が悪いというエルフ達の反発はある程度あるだろうなぁと思っていたのだが。
フローはフェイフェイを無視してるだけなので、問題無い。
だが、ステラさんのフェイフェイに対する嫌がらせが少々度が過ぎていて、それに対して俺が切れてしまったのだ。
「ステラさんがそんな事をするなら、もう飯も作りませんし、酒も差し上げませんよ」
――と言ったら、いつもの如く、
「私に対する愛は無いのか!」
――と来たんで、
「フェイフェイとステラさんなら、フェイフェイを選びますよ」
――と言ったら、
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして呆然としてた。
いままで、ステラさんを面と向かって嫌いだと言ったのは俺の師匠だけで、同じ台詞を俺に言われた事がかなりショックだったようだ。
ステラさん的には――私は、優秀なエルフの人気者で、誰からも愛されるこの大陸でも無二の存在と思ってたらしい。
その根拠の無い自信が、いったい何処から来るのか教えてほしいのだが……。
まあ、俺に悪戯するのは良いけど――いや、ホントは止めてほしいが。
他の娘に嫌がらせするのは止めてほしいだけなんだよ。
当のフェイフェイは――あれがエルフだから、別に気にはしてない。
――なんて言うのだが、そんなの俺が見たくないし、腹立たしいだけなので勘弁してもらいたい。
というわけで、俺にそんな事を言われるとは、露程も思ってなかったステラさんはすっかり意気消沈。 彼女はぐぬぬ状態のまま、遠くからこっちの様子を窺っているわけだ。
最悪、俺がステラさんに嫌われたとしても仕方ないと思っているが……彼女を雇っているのは殿下だから、お城の業務には影響ないだろう。
また、俺を嫌いになったとしても、火薬の製法を漏らしたりとか、そういう仁義に欠ける行動はしない……と思う。
多分。
普段は滅茶苦茶な彼女だが、400年以上も真学師として最前線にいるということは、人として最後の一線は死守しているという事なのだから。
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コンパウンドボウの試作を繰り返す。
フレームは、軽くて丈夫なハーピーの骨。
その上下に板バネを設置して、滑車で引っ張る構造になっている。
滑車はただ円形ではなく卵型になっていて、弦を引き切ると軽くなり――これによって、狙いを定めるのが楽になる仕掛け。
問題は板バネだ。
俺は竹と鋼の板を張り合わせてボルトで固定した物を使っていたが、ぶ厚い上に性能もイマイチ……。
もっと、薄くて丈夫で、良くしなる素材は無いだろうか。
「なんだそれは?」
フェイフェイが俺の弓を見て一言。
「新しい形式の弓だよ。 これが上手くいったら、城壁上に設置されている弩弓の一部にも採用しようかと思ってる」
「変わっているな。 まったく真学師というのは、何処からこういう物を考えつくのだ」
「まあ、閃きってやつかな」
嘘です。
コンパウンドボウを見ているフェイフェイに、板バネの材料で困っていると説明したのだが。
「これはどうだ?」
彼女が、自分の鎧を指さす。
「それは、革じゃないのか?」
「表じゃなくて、裏側だ」
鎧の構造を詳しく観察すると、上側が革で下が黒い板状の物との二重構造になっていた。
革だけの鎧では、矢や槍が貫通してしまうらしい。
フェイフェイの説明だと、黒い板はデカい甲虫の羽だと言う。
俺は、以前作ったトランプを取り出し、そこに貼られた甲虫の羽を彼女に見せた。
「まあ、これと似たような物だ」
「ちょっと大きい板が欲しいんだが、そんなに大きいのか?」
「約2スタックぐらいはある」
「デカいな。 そんな虫がいるのか……聞いたことがないな」
「森の奥じゃないといないからな。 我々の鎧は内張りにコレを使っている。 これは魔法を遮断する効果もあるしな」
「へぇ、じゃあエルフの虫糸シルクと似たような物なのか」
「まぁ、そんなところだ」
フェイフェイに甲虫の名前を聞くと『ゴキ』という名前だという。
「ちょっと待て! 今、不吉な名前が聞こえた気がしたんだが……まさか、ゴキ○リって言うんじゃ……」
「違う、ゴキだ」
「まさか、ひょっとして――こういう形をしてないか?」
俺が、黒板にGの絵を描くと――。
「その通りだ、よく知ってるな」
「やっぱりかぁぁぁぁ! どうせ、そんな事だろうと思ったよ! 畜生!」
この世界に来て、良かったと思ったのが――Gがいないことだったのだが。
やっぱり居るのか……しかもデカいやつが。
俺の故郷、北海道にはGはいなかったからな。 内地へ来て初めて目撃した時のGのデカさに恐怖してからトラウマだ。
俺のトラウマは、カマド○マだけだったのだが、それにGが追加された瞬間だった。
「ひょっとして、こんな虫もいないだろうな」
おれは再び黒板にカマド○マの絵を描いて説明をした。
「なんだ、この不気味な虫は……イグルではないのか? 何故、背中が丸い?」
「イグルじゃないぞ。 暗い所に住んでいて、目が見えず、この長い触角を使って徘徊するんだ。 それに肉食だ」
「私は見たことがないが。 暗い所なら……洞窟の中などにいるかもな」
「ああ、洞窟には入らないようにしよう」
しかし、巨大カマド○マか、考えるだけで鳥肌が立つわ。
ガキの頃、廃屋探検をして、カマド○マの大群に襲われたトラウマ場面がフラッシュバックしてくる。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「どうしたのだ?!」
「はぁはぁ、スマン。 タダの発作だ、気にするな……」
それにしても、巨大Gか……。
素材としても優れているみたいだし、欲しい。
フェイフェイに採ってきてもらう手もあるが――彼女に勇者とか言われちゃってるし、やっぱり行かないと格好付かないよな。
対G戦に備えて、武器を作る。
Gも魔物らしいので、魔法があまり効かないと言うし――それなら、フェイフェイ達の鎧に使われている素材が、魔法を遮断するのも当然か。
まずは、火薬を少々ちょろまかして、爆発ボルトを作った。 要は、火薬を使った爆発する矢尻だ。
コイツを目標に打ち込んで、火石で起爆させる。
効果は、俺の圧縮弾+竹槍剣と同じだが、火薬の爆発は魔法じゃないので、魔法に耐性がある魔物にも効き目はあるだろう。
火薬の私的利用だが、爆発ボルトの効果があれば、対魔物兵器として殿下に提案するつもりなので、これは実戦データを集める絶好の機会だ――ということにする。
真面目な話、ハーピーみたいのに襲われる事もあると解ったので、ソレに対する備えも必要だろうし。
もう1つは、フクロナガサ。
これは短刀だが、柄の部分が袋状になっているので、この名前で呼ばれている。
「フェイフェイ、これを使ってみないか?」
彼女にフクロナガサを差し出す。
「変わった短剣だな」
「柄が先細りの筒状になっているだろ? ここに棒を挿すと――こんな具合に槍として使えるわけだ。 獲物にトドメを刺すときに超便利」
「なるほど。 さすが、トドメが結構危険なのを解っているな」
そうなのだ、獲物にトドメを刺そうと近づくと、獲物が暴れて襲い掛かってくる事が結構ある。
この事から、トドメを刺すのは槍が便利なのだ。
これを持っていれば、適当な棒や枝で短剣が槍に早変わりの、便利グッズだ。
「ありがたく使わせてもらう」
フェイフェイは、フクロナガサを気に入ってくれたようだ。
それにしても、Gか……。 まあ、これだけ元世界に似ている世界だ、奴らが存在してても不思議ではない。
やはり、Gと人類は戦う宿命に定められているのか、それはまるで、白い奴と3倍速い赤い奴のように。





