87話 ブラックダイヤモンド
ダークエルフの村からの帰り道。
ダークエルフのムイムイという男が、変わった黒い石を知っていると言う。
その場所に案内されて、調べてみた結果――目の前にあったのは、俺がずっと探していた石炭だった。
「うひょぉぉぉぉ! 産業革命確変リーチ突入か!?」
ピッチャー投げました!
打った! 大きい! 大きい! これは入るか!? 入るか!? 入ったぁ、逆転満塁ホームラン~!
こんな気持ちである。
まあ、あくまでリーチなので、大当たりが確定するかはまだ決まっていない。
実際の埋蔵量も不明だしな。 少し掘って枯渇したんじゃ、ぬか喜びだ。
しかし、石炭は層になって埋蔵されているはずなので、それなりの埋蔵量はあるはずだ……多分。
とりあえず、サンプルを持って帰って殿下に報告をしなければ。
本格的に調査が始まれば、近くでも石炭層が見つかるかもしれないしな。
俺は鞄から袋を取り出し、石炭を詰めると、袋の中は黒い石で一杯になる。
袋の大きさは、コンビニの袋程。
荷物もあるし、こんなもんだろ。 殿下と工作師に見せるためサンプルがあれば良い。
あ、ドワーフ達にも見せないとな。 鉄やその他金属の製錬にも関係してくるし。
巨壁の下に広がる森を抜け川を渡り、街道へ出ると、重量軽減の魔法でスピードアップして帰路を急ぐ。
休み休みでも、2時間もあれば到着するだろ。 魔法を使うと腹の虫が騒ぐけどな。
途中、俺とフェイフェイが仕留めた、野盗の成れの果てが転がっている。
すでに、装備は剥ぎ取られて、死体も野生動物等の餌食になり無残な姿を晒す。
しかし、これがこの世界の掟だ。 一歩間違えば、俺があのような姿になるのだ。
なさけむよう
残虐行為手当
しぬのはやつらだ
------◇◇◇------
城下町に着くと、すでに昼近く。
燦々亭で昼飯を食おうかと思ったが、先に武器屋に寄る事にした。
盗賊が上物の短剣を持っていたので、それを武器屋に見てもらうためだ。
短剣を見た武器屋のオヤジが言うのには、それに刻まれた屋号から、ファーレーンの商人が持っていた物じゃないかという。
その短剣の持ち主らしい商人の屋敷を訪れて、家政婦に短剣を見せると、すぐに家の者が出てきた。
奥方らしき初老の女性が語るには、行方不明になっている息子の物だと言う。
俺の話を詳しく聞きたいと言うので、昼飯をご馳走になりながら、話し込んでしまった。
涙ながらに――息子の仇と、形見をありがとうございます、と言われる。
まあ、野盗がこれを持っていたという事は、やっぱりなぁ……。
愁嘆場は苦手なんだよなぁ。
ちょっと寄り道をしてしまったが、やっとお城に戻ってきた。 既に、夕方近い。
それにしても、久々の我が家だよ。 何日留守にしてたんだ? え~と、8……9日かな?
工房のドアノブに手を掛けると、鍵は掛かってない。
中へはいると……。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
辺り一面ゴミだらけ! ゴミと食器、本と黒板が山積み。
俺のところにはこんなに沢山の食器はないので、多分お城の食堂から持ち込んだのだろう。
頼むからちゃんと、戻してくれよ……。
しかも、俺のベッドで誰か寝ている。 金髪の巻き毛なので、多分フローだと思うが……。
惨状を目の当たりにして途方に暮れていると、隣の離れから声が聴こえる。
行ってみると――。
「あ! ロクデナシが帰ってきた!」
「誰がロクデナシですか。 なんで2人して、こんな早くから酒を飲んでるんですか」
ステラさんだけじゃなくて、師匠まで酒を飲んでいる。
しかもこれ、全部俺の酒じゃん!
倉庫の結界は師匠製なので、師匠が開けたら意味ねぇ。
勘弁してくれよ。
「9日も何処へ行ってたんだよ」
「何処って、ダークエルフのところですけど……」
「ダ、ダ、ダークエルフだぁ! よりによってダークエルフ! 死ねぇぇ! コノ!」
ステラさんから、酒瓶が飛んできて、俺の腕輪に弾かれた。
「あ、危ない! 何するんですか」
「うるさい! このおっ○いせいじんめ!」
ステラさん、完璧に酔ってる。
「なんですか、ソレ?」
「ダークエルフの乳に誑かされた奴は、原始の時代からそう言うんだよ!」
「ショウ?」
今度は師匠だ。
「はい?」
「ダークエルフのおっ○いを見に行ったの?」
半分、興味本位でダークエルフを見たかったとか、口が裂けても言えない。
「違いますよ、ダークエルフが困っているって話をしたじゃないですか」
「私のおっ○いとどっちが良い?」
「師匠、酔ってますね?」
「酔ってません。 ねぇ、どっち?」
絶対に酔ってるだろ。
「……もちろん、師匠ですよ」
「そう、どうやって比べて、その結論出したの?」
「うっ! それは……」
さすが師匠。 酔っていても、論理的なツッコミだ。
「そんなの揉んで、舐めて、しゃぶって、挟んだりして比べたに決まってるじゃん! ケケケ!」
ステラさんが酒をアオリながら、そんな台詞を口走る。
「そう……」
師匠から何やら、黒いもの溢れでてくる。 これ、どう見ても肉眼で見えるんだけど、魔法なの?
つ~か、酔っ払っても出せるんだ。
「え~あの~その~、さいなら~!!」
俺は、ダッシュでその場から逃げ出した。
後ろで叫び声が聞こえるが、三十六計逃げるに如かず――である。
だいたい、酔っぱらい相手に話し合いなんて無理だし、酔っぱらいを相手にする時間ほど、この世に無駄なものはない。
装備を下ろす暇も無く、また街に逆戻りだよ。
とりあえず、今日は駄目だな。 滝上の秘密基地に行くか……いや、疲れたし面倒だ。
マリアのところは拙いなぁ。 となると……。
俺は、獣人食堂オニャンコポンを訪れた。
「よう! こんばんは」
「あれ? 真学師様、こんな時間に珍しいですね」
ここの女主、ニニが微笑む。
「悪いが、泊めてくれるか?」
「え……?」
彼女が固まる。
ニニの反応を見て察した俺が、否定する。
「違う、違う! 上だ、上」
俺が、この食堂の宿になっている2階を指さす。
「なんだ、焦りましたよ。 こんな子持ちに何をトチ狂ったのかと」
「そんな事はないだろう。 ニニを狙っている男が沢山いるって聞いたぞ」
「まあ、居ることは居ますけど」
ニニが客席を見ると男共が皆、目を伏せてしまった。
ニニに、お城でトラブルがあり、ここに泊めてくれるように言った後、疲れているので、誰も上げないようにしてくれと頼む。
獣人の女達が目を輝かせていたので、コレはヤバいと思った。 俺はソレを見逃さなかったのだ。
俺が寝た後、バタバタと下がうるさかった気がするが、気にしないことにした……。
------◇◇◇------
――翌日。
俺の工房へ戻り、ドアを開ける。
暗い顔をした、師匠とステラさんが向い合ってテーブルに座っていた。
まだ、いたのか?!
「おはようございます」
「……」 「……」
2人共沈黙して、テーブルの何処を見ているか解らないような目をしている。
「もう、酒は抜けましたよね?」
「ショウ……」
「はい?」
「せめて、私に相談をしなさい」
「相談しましたよ? ダークエルフが困っているって」
「その後の事です」
「それは、ステラさんにバレたりしたら、とんでもないことになるからですよ。 ねぇ、ステラさん?」
「ダークエルフなんて、そんなの――面白可笑しく邪魔するに決まってるじゃん」
ステラさんが微かな声で呟く。
「……死ねばいいのに」
「てめぇが死ね……」
師匠とステラさんの応酬の後、皆の間に沈黙が流れる。
「あ~!! ショウ! 帰ってきたっすか! 腹減ったっす! 何か作って!」
ベッドから起き上がった、フローが俺の姿を見て声を上げる。
「フロー、まだ俺のベッドで寝てたのか……材料が何も無いんだよ。 食料全部空にして外出したからな」
「も~腹減ったっす!」
「……くそ、バカの声が頭に響くぅ」
ステラさんが頭を抱える。
大人しいと思ったら2人共宿酔いだったのか。
2人共怒っているらしいので、俺に飯を作ってくれって言えないようだ。
食うものなんて何もないから、鞄から俺が作った干し肉を取り出して、フローにやった。
その干し肉を食べたフローが、それを黒狼の肉だと見抜いたのには驚いた。
「もう、金がなかったから、何でも食ったすよ。 でも、これは美味いっすね」
コイツも苦労してるなぁ……。
部屋の中がゴミ&食器だらけで、このままラチが明かないので、何か食わせて追いだそう。
お城の食堂へ行き、スープとパンを貰う。 丁度、チーズが入ったというので、そいつもいただき。
玉子焼きを焼いてもらい、パンにチーズと一緒に乗せる。
こんなもんだろ。
とりあえず、皆に腹ごなしをさせて、早々に追い出す。
師匠とステラさんは、ブツブツ何か言っていたが、そんなのは知らん。
ニムを応援に呼んで、食堂の食器は全部返却してもらった。
工房の中をチェックすると、倉庫は見事に空。 水飴も味醂も空。
ここだけじゃなくて、隣の離れもグチャグチャだからな。
師匠1人なら、ここまで酷くならないはずだから、やはりステラさんが原因か。
早く部屋を片付けて、殿下に石炭の報告をしたい――その石炭を見せるためには、ちょっと準備も必要だというのに。
部屋のガス灯も使いたいので、メタンガス槽に家畜の糞をいれなきゃ――やる事が多すぎる。
そろそろ助手とか秘書が欲しいなぁ。
何でもかんでも、俺がやるってのはちょっと限界だわ。 雑用とかやってくれる人が欲しい。
能力的にはミルーナがピッタリだけど、まさかお姫様に秘書とか雑用させるわけにいかないわなぁ。
こんな事なら、工作師工房にラルク少年を紹介しないで、俺が直接雇えば良かったか。
まあ、そんな事を言っても後のカーニバル……ラルクも工作師の仕事頑張ってるしな。
------◇◇◇------
――掃除が終わって、数日後。
工作師工房に、お歴々に集まって頂いた。
「ショウよ。 妾の、傾いたままの機嫌を直してくれるだけの話なのであろうな」
どうも、俺の無断外泊に怒っていたのは、師匠達だけではなかったらしい。
「10日間も何処をほっつき歩いておるのかと思ったら、ダークエルフとは」
「殿下、領内にダークエルフの村があることはご存知で?」
「一応、報告は受けていたが、彼等は領民というわけではない」
「まあそれでも、一応領内ですし、無視は出来なかったので……すぐに帰ってくるつもりだったのですが」
「余程、居心地が良かったのであろう?」
腕を組んだ殿下にジロリと睨まれる。
「うっ……違いますよ。 時間を掛ければなんとかなりそうな事案でしたので……」
「ふん」
殿下の機嫌を直してもらうには、俺が拾ってきたこれを見て頂くしかないな。
「殿下、私が見つけてきた鉱石はこれでございます」
袋から石炭を取り出してみせる。
「ただの黒い石ではないか」
「これは石の炭と書きまして石炭、つまり燃える石なのでございますよ」
「なんだと! 石が燃えるだと! ショウ、其方以前もそのような事を申しておったが」
「やっと見つけたのです。 それも、意外と近くで」
俺は、石炭を砕いだ粉を皿に盛り、魔法で火を付ける。
すると、黒い粉は炎を上げて燃え始めた。
「おおっ! 魔法ではないのだな?」
「もちろんでございます。 これが山の中に埋まっていますので、鉱山を作り掘り出せば、もはや木を切り倒して木炭を作る必要は無くなります」
「真学師様よ、これが燃料になるってのかい?」
話に入ってきたのは、ドワーフの親方だ。
「木から木炭を作ると、森が無くなってしまいますが、これならドンドン掘っただけ燃料が使えるわけです。」
「す、凄いではないか……これで燃料不足も解消できる」
「家庭用の燃料にならこれでも良いのですが、不純物が多く含まれているので鉄の製錬等に使うなら、もう一工夫必要になります」
俺は袋から、石炭を加工した――コークスを取り出して、焼きごて等に使う小さい火床にコークスを投入した。
鞴で風を送ると、コークスは一気に赤熱化した。
「こいつは、すげぇ火力だぜ。 これなら、製錬に十分使えるな」
ドワーフ達が腕をくんで、おのおのに話し込んでいる。
「これは、石炭を蒸し焼きにして不純物を抜く加工をした物です。 この燃料が沢山あれば、鉄も沢山作れるわけです」
「その通りだな」
殿下も頷いた。
俺は、利点ばかりではなくて、弱点も説明した。 元世界で産業革命が起こった時に問題になった環境問題だ。
「煙害とな」
「はい、しばらくは大丈夫だとは思いますが、国が隆盛期を迎え、大量の石炭を消費するようになれば、その問題が顔を出すはずです」
「して、その対策は考えておるのか?」
俺は、工作師工房にある、巨大な黒板に煤煙除去の方法を示す。
「煤煙を一旦水の中へ通します。 すると、煙の煤や毒が、この水の中へ溶け込みます」
石炭の煤煙で問題になるのが硫化水素だが、こいつは水に溶ける。
「その毒の溶けた水はどうする?」
「この水へ虫を投入します」
「なるほどのう。 虫か……」
「もう1つ、実現可能かは不明ですが、こんな物を考えてみました」
俺は、模型をテーブルの上に並べた。
「鉱石等を馬車に満載すると、重さで地面にめり込んでしまいますが、こうして――鉄の道、つまり鉄道を作ってその上を走らせば、重量物の運搬も容易に出来るようになります」
「鉄の道とな」
模型に鉄の固まりを載せて、土間で走らせると当然土にめり込む。
そして、テーブル上に設置した線路の上ではスイスイと走るのを、俺が実演してみせた。
「これは、考えましたな」
工作師の親方ラジルさんも唸り、工作師の面々と相槌を打っている。
「定点間の移動には、優れていると思いますよ。 これを作るには金と労力が掛かりますが。 でも、完成すれば経済効果は大きいはずです」
俺の実験と講釈を見ていた、師匠とステラさんが石炭を手に取って眺めている。
「ステラさん、それは金剛石と似たような物ですよ。 不純物がかなり多いので、金剛石にはなりませんが」
「ふん……」
ステラさんは、また機嫌が悪いようだ。 だが、鉱石の専門家として、石炭には興味があるらしい。
金剛石と言えば、この石炭は無理だが、黒鉛等を魔法で圧縮すれば、ダイヤモンドにならないかな?
元世界でも、熱と圧力で人工ダイヤモンドの製造が行われていたはず。
鉄道に関しては、実験的に城郭工房内と、第二工房との移動に敷設してみようという事になった。
人力や、馬での牽引になるが、重量物の運搬には効果を発揮するはずだ。
こういうところは、殿下からの鶴の一声で決まる専制政治の良い所。
まあ、トップが最低だと、とんでもないことになるが。
早速、石炭鉱山の調査隊が組まれる事になった。
鉱山を開くには、道路を整備して森を切り開き、そして橋も掛ける必要があり、多大な人員と金を使う大事業だ。
それを取り仕切る責任者も探さないといけない。 それプラス、鉄道敷設となればやる事が山積みだ。
鉄道敷設に関しては俺の知識も全く無い。 石を敷いて、枕木を置いて、レールを引く――コノぐらいの知識しかないしな。
場所によって、敷設の仕方が色々と違うとかあるだろうし、しばらくは試行錯誤が続くと思われる。
鉄でも転生してくれれば良いけどな。 しかし、この世界に俺以外の転生者っているのかね?
怪しいのは、ゼロって奴だけなんだが……そいつの手がかりは全くないし……。
まあ鉄道に関しては、全部殿下の仕事なので、俺はやるべき事をやらなくては。
後は、石炭といえば……蒸気機関か。
モーターとかは簡単だったが、往復運動をするスライダクランク機構とか、そう簡単にはいかないだろう。
模型ならなんとかなるだろうが、実物となるとなぁ――実用まで結構時間が掛かるかもしれない。
でも、ニューコメン機関も、ワット機関もすっ飛ばして、いきなりスライドバルブ蒸気機関とか、チートだよなぁ。
------◇◇◇------
石炭鉱山事業がスタートし、工作師工房や資材部は慌ただしくなっている。
そんな喧騒の中俺は、数日前に思いついた、黒鉛からダイヤモンドを作る実験をしてみようと準備をしていた。
中庭で魔法の実験をすると殿下に怒られるのだが、このぐらいは大丈夫だろう。
畑の中に鉄の棒を立てて、イリジウムの皿を置き、その上に黒鉛を乗せる。
これを魔法で圧縮してみようというのだ。
元世界のネットで、数千度の温度と数十万気圧の圧力があれば、ダイヤモンドが出来ると載っていた。
上手くいけば、光り輝く金剛石が手に入るかもしれない。
しかし、色々とやってみたが、温度と圧力の調整が難しい。
空気中で圧力を高めようと、圧縮の魔法を二重展開したりすると、圧縮された空気で温度が上がり過ぎてしまう。
炭素でも、温度が5000度とかになると、全部燃えてしまい二酸化炭素になって消える。
悩んだ末、1m程のガラス球を作り、その中の空気を少々抜きながら実験を繰り返す。
この結果、圧縮率を高めても温度が上がりすぎる事は無くなり、圧力と温度の両立が可能になった。
そして苦労の末――米粒程の煌めくダイヤモンドが、俺の目の前で眩い光を反射している。
「うひょぉぉ!」
俺は実験の成功に喜んだが。
しかし、小さい。
これって、何か使い道あるかなぁ。
なんかすげぇ苦労したわりには、使い道がないような……。 せめてもう少し大きくなれば。
そんな実験の結果に悶々としている俺に客だという。
お城のメイドさんから連絡を受けて、裏門へ行ってみると、黒い革の鎧に忘れもしない巨乳! ダークエルフのフェイフェイが立っていた。
以前会った時と違うのは、荷物が多いのと、大型の弓を背負っている事か。
「よお、フェイフェイじゃないか。 どうしたんだ」
「どうしたもこうしたもあるか、この悪魔め! お前のせいで、村は崩壊寸前だ!」
フェイフェイが俺に詰め寄った。
なんだそりゃ? いきなりの詰問に俺は、目を白黒させた。
彼女の口から聞かされた村の惨状は――男達はチンチロリンの勝ち負けで支払いのゴタゴタ、女達は石鹸で揉めているという。
「なんだそりゃ、俺のせいなのか?」
「おまえのせいに決まっているだろう!」
「そんなぁ。 野盗に襲われたのは、野盗の武器を作った鍛冶屋が悪いって言ってるようなもんだぞ」
「うるさい! 責任を取れ!」
「責任って言われてもなぁ。 何をすりゃ良い」
人助けして村を救ってやったというのに、解せぬ。
散々な言われようだが――まあ確かに、博打を教えたのは失敗だったかもしれないが……。
「災いを村に引き込んだと言われて、私は村を追放されたんだぞ」
「ああ、解った。 住まいを提供してくれと言うんだな。 それなら任せろ」
「ほ、本当か?」
「ああ」
俺は、フェイフェイを殿下に紹介することにした。
「殿下は女性だろ。 護衛や警備にも女性じゃないと拙い場合が多いんだよ。 その点、フェイフェイの腕なら、適任だ。 人種や身分にもこだわらないお方だし」
「なるほど」
フェイフェイをお城の中へ案内する。
殿下に彼女を紹介すると、剣の腕を見たいという事だったので、近衛隊の数人と大広間で手合わせをして貰った。
勝負はフェイフェイの圧勝。
その上、彼女には魔法もあるし、精霊の加護とかいう防御魔法もある。 弓の腕も達人級だ。
これ以上の適任者は居ないだろう――と思ったのだが、何故か殿下は渋い顔。
なにやら、自分の胸を見たりしてるし。
そして、やられた近衛隊の連中も、打ちのめされたってのに、なにやらニヤニヤしていて、少々キモい。
これって――我々の業界ではご褒美ですってやつか?
ちょっと理解出来――いや、俺も殿下の御御足による攻撃なら、嬉々として受けてしまうかもしれん……コレは男としての性か。
「ショウ、その者の実力は解った。 で、其方との関係は?」
殿下の言葉に我に返る。
「は? ただの知り合いでございますが……それが何か」
「……の悪魔は、何人手を付ければ気が済むのか……」
殿下が何か言ったようだが、よく聞こえなかった。
「殿下、何かおっしゃいましたか?」
「いいや、なんでもない。 確かに、これほど良い人材なら喉から手が出る程欲しい、故に雇う」
「ありがとうございます」
殿下に一礼して、大広間から出る。
部屋とかは、後で通達がくる……はず。 まあ、メイドさんに聞けばすぐに解るし。
ハッキリ言って、お城の状態なら殿下よりメイドさんの方が詳しい。
「よかったじゃないか、すんなり決まって」
「ああ」
フェイフェイの顔を見ても、あまり嬉しそうには見えない。
まあ、俺のせいで村を追い出されて、とりあえず住むところが決まったからって、不安が先行するだけであまり嬉しくはないか……。
とりあえず、行くところが無いので、俺の工房へ案内する。
「ここが、お前の工房か」
俺の工房へ入ったフェイフェイは、目を輝かせた。