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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編
87/158

87話 ブラックダイヤモンド


 ダークエルフの村からの帰り道。

 ダークエルフのムイムイという男が、変わった黒い石を知っていると言う。

 その場所に案内されて、調べてみた結果――目の前にあったのは、俺がずっと探していた石炭だった。


「うひょぉぉぉぉ! 産業革命確変リーチ突入か!?」


 ピッチャー投げました! 

 打った! 大きい! 大きい! これは入るか!? 入るか!? 入ったぁ、逆転満塁ホームラン~!

 こんな気持ちである。


 まあ、あくまでリーチなので、大当たりが確定するかはまだ決まっていない。

 実際の埋蔵量も不明だしな。 少し掘って枯渇したんじゃ、ぬか喜びだ。

 しかし、石炭は層になって埋蔵されているはずなので、それなりの埋蔵量はあるはずだ……多分。

 とりあえず、サンプルを持って帰って殿下に報告をしなければ。

 本格的に調査が始まれば、近くでも石炭層が見つかるかもしれないしな。


 俺は鞄から袋を取り出し、石炭を詰めると、袋の中は黒い石で一杯になる。 

 袋の大きさは、コンビニの袋程。

 荷物もあるし、こんなもんだろ。 殿下と工作師に見せるためサンプルがあれば良い。

 あ、ドワーフ達にも見せないとな。 鉄やその他金属の製錬にも関係してくるし。


 巨壁の下に広がる森を抜け川を渡り、街道へ出ると、重量軽減の魔法でスピードアップして帰路を急ぐ。

 休み休みでも、2時間もあれば到着するだろ。 魔法を使うと腹の虫が騒ぐけどな。


 途中、俺とフェイフェイが仕留めた、野盗の成れの果てが転がっている。

 すでに、装備は剥ぎ取られて、死体も野生動物等の餌食になり無残な姿を晒す。

 しかし、これがこの世界の掟だ。 一歩間違えば、俺があのような姿になるのだ。

 

 なさけむよう

 残虐行為手当

 しぬのはやつらだ

 

 ------◇◇◇------


 城下町プライムに着くと、すでに昼近く。 

 燦々(さんさん)亭で昼飯を食おうかと思ったが、先に武器屋に寄る事にした。

 盗賊が上物の短剣を持っていたので、それを武器屋に見てもらうためだ。

 短剣を見た武器屋のオヤジが言うのには、それに刻まれた屋号から、ファーレーンの商人が持っていた物じゃないかという。

 その短剣の持ち主らしい商人の屋敷を訪れて、家政婦に短剣を見せると、すぐに家の者が出てきた。

 奥方らしき初老の女性が語るには、行方不明になっている息子の物だと言う。

 俺の話を詳しく聞きたいと言うので、昼飯をご馳走になりながら、話し込んでしまった。

 涙ながらに――息子の仇と、形見をありがとうございます、と言われる。

 まあ、野盗がこれを持っていたという事は、やっぱりなぁ……。

 愁嘆場(しゅうたんば)は苦手なんだよなぁ。


 ちょっと寄り道をしてしまったが、やっとお城に戻ってきた。 既に、夕方近い。

 それにしても、久々の我が家だよ。 何日留守にしてたんだ? え~と、8……9日かな?

 工房のドアノブに手を掛けると、鍵は掛かってない。

 中へはいると……。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」


 辺り一面ゴミだらけ! ゴミと食器、本と黒板プレートが山積み。

 俺のところにはこんなに沢山の食器はないので、多分お城の食堂から持ち込んだのだろう。


 頼むからちゃんと、戻してくれよ……。


 しかも、俺のベッドで誰か寝ている。 金髪の巻き毛なので、多分フローだと思うが……。

 惨状をの当たりにして途方に暮れていると、隣の離れから声が聴こえる。

 行ってみると――。


「あ! ロクデナシが帰ってきた!」

「誰がロクデナシですか。 なんで2人して、こんな早くから酒を飲んでるんですか」

 ステラさんだけじゃなくて、師匠まで酒を飲んでいる。

 しかもこれ、全部俺の酒じゃん!

 倉庫の結界は師匠製なので、師匠が開けたら意味ねぇ。

 勘弁してくれよ。


「9日も何処へ行ってたんだよ」

「何処って、ダークエルフのところですけど……」

「ダ、ダ、ダークエルフだぁ! よりによってダークエルフ! 死ねぇぇ! コノ!」

 ステラさんから、酒瓶が飛んできて、俺の腕輪に弾かれた。

 

「あ、危ない! 何するんですか」

「うるさい! このおっ○いせいじんめ!」

 ステラさん、完璧に酔ってる。

 

「なんですか、ソレ?」

「ダークエルフの乳にたぶらかされた奴は、原始の時代からそう言うんだよ!」

「ショウ?」

 今度は師匠だ。

 

「はい?」

「ダークエルフのおっ○いを見に行ったの?」

 半分、興味本位でダークエルフを見たかったとか、口が裂けても言えない。


「違いますよ、ダークエルフが困っているって話をしたじゃないですか」

「私のおっ○いとどっちが良い?」

「師匠、酔ってますね?」

「酔ってません。 ねぇ、どっち?」

 絶対に酔ってるだろ。

 

「……もちろん、師匠ですよ」

「そう、どうやって比べて、その結論出したの?」

「うっ! それは……」

 さすが師匠。 酔っていても、論理的なツッコミだ。


「そんなの揉んで、舐めて、しゃぶって、挟んだりして比べたに決まってるじゃん! ケケケ!」

 ステラさんが酒をアオリながら、そんな台詞を口走る。

 

「そう……」

 師匠から何やら、黒いもの溢れでてくる。 これ、どう見ても肉眼で見えるんだけど、魔法なの?

 つ~か、酔っ払っても出せるんだ。


「え~あの~その~、さいなら~!!」

 俺は、ダッシュでその場から逃げ出した。

 

 後ろで叫び声が聞こえるが、三十六計逃げるに如かず――である。

 だいたい、酔っぱらい相手に話し合いなんて無理だし、酔っぱらいを相手にする時間ほど、この世に無駄なものはない。

 

 装備を下ろす暇も無く、また街に逆戻りだよ。

 とりあえず、今日は駄目だな。 滝上の秘密基地に行くか……いや、疲れたし面倒だ。

 マリアのところは拙いなぁ。 となると……。


 俺は、獣人食堂オニャンコポンを訪れた。

「よう! こんばんは」

「あれ? 真学師様、こんな時間に珍しいですね」

 ここの女主、ニニが微笑む。

 

「悪いが、泊めてくれるか?」

「え……?」

 彼女が固まる。

 

 ニニの反応を見て察した俺が、否定する。


「違う、違う! 上だ、上」

 俺が、この食堂の宿になっている2階を指さす。

 

「なんだ、焦りましたよ。 こんな子持ちに何をトチ狂ったのかと」

「そんな事はないだろう。 ニニを狙っている男が沢山いるって聞いたぞ」

「まあ、居ることは居ますけど」

 ニニが客席を見ると男共が皆、目を伏せてしまった。

 

 ニニに、お城でトラブルがあり、ここに泊めてくれるように言った後、疲れているので、誰も上げないようにしてくれと頼む。

 獣人の女達が目を輝かせていたので、コレはヤバいと思った。 俺はソレを見逃さなかったのだ。

 俺が寝た後、バタバタと下がうるさかった気がするが、気にしないことにした……。


 ------◇◇◇------


 ――翌日。

 俺の工房へ戻り、ドアを開ける。

 暗い顔をした、師匠とステラさんが向い合ってテーブルに座っていた。


 まだ、いたのか?!


「おはようございます」

「……」 「……」

 2人共沈黙して、テーブルの何処を見ているか解らないような目をしている。

 

「もう、酒は抜けましたよね?」

「ショウ……」

「はい?」

「せめて、私に相談をしなさい」

「相談しましたよ? ダークエルフが困っているって」

「その後の事です」

「それは、ステラさんにバレたりしたら、とんでもないことになるからですよ。 ねぇ、ステラさん?」

「ダークエルフなんて、そんなの――面白可笑しく邪魔するに決まってるじゃん」

 ステラさんが微かな声でつぶやく。

 

「……死ねばいいのに」

「てめぇが死ね……」

 師匠とステラさんの応酬の後、皆の間に沈黙が流れる。


「あ~!! ショウ! 帰ってきたっすか! 腹減ったっす! 何か作って!」

 ベッドから起き上がった、フローが俺の姿を見て声を上げる。

 

「フロー、まだ俺のベッドで寝てたのか……材料が何も無いんだよ。 食料全部空にして外出したからな」

「も~腹減ったっす!」

「……くそ、バカの声が頭に響くぅ」

 ステラさんが頭を抱える。

 

 大人しいと思ったら2人共宿酔いだったのか。

 2人共怒っているらしいので、俺に飯を作ってくれって言えないようだ。


 食うものなんて何もないから、鞄から俺が作った干し肉を取り出して、フローにやった。

 その干し肉を食べたフローが、それを黒狼の肉だと見抜いたのには驚いた。


「もう、金がなかったから、何でも食ったすよ。 でも、これは美味いっすね」

 コイツも苦労してるなぁ……。

 

 部屋の中がゴミ&食器だらけで、このままラチが明かないので、何か食わせて追いだそう。

 お城の食堂へ行き、スープとパンを貰う。 丁度、チーズが入ったというので、そいつもいただき。

 玉子焼きを焼いてもらい、パンにチーズと一緒に乗せる。

 こんなもんだろ。


 とりあえず、皆に腹ごなしをさせて、早々に追い出す。

 師匠とステラさんは、ブツブツ何か言っていたが、そんなのは知らん。

 ニムを応援に呼んで、食堂の食器は全部返却してもらった。

 工房の中をチェックすると、倉庫は見事に空。 水飴も味醂みりんも空。

 ここだけじゃなくて、隣の離れもグチャグチャだからな。

 師匠1人なら、ここまで酷くならないはずだから、やはりステラさんが原因か。


 早く部屋を片付けて、殿下に石炭の報告をしたい――その石炭を見せるためには、ちょっと準備も必要だというのに。

 部屋のガス灯も使いたいので、メタンガス槽に家畜の糞をいれなきゃ――やる事が多すぎる。

 そろそろ助手とか秘書が欲しいなぁ。

 何でもかんでも、俺がやるってのはちょっと限界だわ。 雑用とかやってくれる人が欲しい。

 能力的にはミルーナがピッタリだけど、まさかお姫様に秘書とか雑用させるわけにいかないわなぁ。

 こんな事なら、工作師工房にラルク少年を紹介しないで、俺が直接雇えば良かったか。

 まあ、そんな事を言っても後のカーニバル(祭り)……ラルクも工作師の仕事頑張ってるしな。

 

 ------◇◇◇------


 ――掃除が終わって、数日後。

 工作師工房に、お歴々に集まって頂いた。 


「ショウよ。 妾の、傾いたままの機嫌を直してくれるだけの話なのであろうな」

 どうも、俺の無断外泊に怒っていたのは、師匠達だけではなかったらしい。


「10日間も何処をほっつき歩いておるのかと思ったら、ダークエルフとは」

「殿下、領内にダークエルフの村があることはご存知で?」

「一応、報告は受けていたが、彼等は領民というわけではない」

「まあそれでも、一応領内ですし、無視は出来なかったので……すぐに帰ってくるつもりだったのですが」

「余程、居心地が良かったのであろう?」

 腕を組んだ殿下にジロリとにらまれる。

 

「うっ……違いますよ。 時間を掛ければなんとかなりそうな事案でしたので……」

「ふん」

 

 殿下の機嫌を直してもらうには、俺が拾ってきたこれを見て頂くしかないな。


「殿下、私が見つけてきた鉱石はこれでございます」

 袋から石炭を取り出してみせる。

 

「ただの黒い石ではないか」

「これは石の炭と書きまして石炭、つまり燃える石なのでございますよ」

「なんだと! 石が燃えるだと! ショウ、其方以前もそのような事を申しておったが」

「やっと見つけたのです。 それも、意外と近くで」

 俺は、石炭を砕いだ粉を皿に盛り、魔法で火を付ける。

 すると、黒い粉は炎を上げて燃え始めた。


「おおっ! 魔法ではないのだな?」

「もちろんでございます。 これが山の中に埋まっていますので、鉱山を作り掘り出せば、もはや木を切り倒して木炭を作る必要は無くなります」

「真学師様よ、これが燃料になるってのかい?」

 話に入ってきたのは、ドワーフの親方だ。  

 

「木から木炭を作ると、森が無くなってしまいますが、これならドンドン掘っただけ燃料が使えるわけです。」

「す、凄いではないか……これで燃料不足も解消できる」

「家庭用の燃料にならこれでも良いのですが、不純物が多く含まれているので鉄の製錬等に使うなら、もう一工夫必要になります」


 俺は袋から、石炭を加工した――コークスを取り出して、焼きごて等に使う小さい火床(ほど)にコークスを投入した。

 フイゴで風を送ると、コークスは一気に赤熱化した。

 

「こいつは、すげぇ火力だぜ。 これなら、製錬に十分使えるな」

 ドワーフ達が腕をくんで、おのおのに話し込んでいる。

 

「これは、石炭を蒸し焼きにして不純物を抜く加工をした物です。 この燃料が沢山あれば、鉄も沢山作れるわけです」

「その通りだな」

 殿下もうなずいた。

 

 俺は、利点ばかりではなくて、弱点も説明した。 元世界で産業革命が起こった時に問題になった環境問題だ。

 

「煙害とな」

「はい、しばらくは大丈夫だとは思いますが、国が隆盛期を迎え、大量の石炭を消費するようになれば、その問題が顔を出すはずです」

「して、その対策は考えておるのか?」

 俺は、工作師工房にある、巨大な黒板プレートに煤煙除去の方法を示す。


「煤煙を一旦水の中へ通します。 すると、煙の煤や毒が、この水の中へ溶け込みます」

 石炭の煤煙で問題になるのが硫化水素だが、こいつは水に溶ける。


「その毒の溶けた水はどうする?」

「この水へワームを投入します」

「なるほどのう。 虫か……」


「もう1つ、実現可能かは不明ですが、こんな物を考えてみました」

 俺は、模型をテーブルの上に並べた。


「鉱石等を馬車に満載すると、重さで地面にめり込んでしまいますが、こうして――鉄の道、つまり鉄道を作ってその上を走らせば、重量物の運搬も容易に出来るようになります」

「鉄の道とな」

 模型に鉄の固まりを載せて、土間で走らせると当然土にめり込む。

 そして、テーブル上に設置した線路の上ではスイスイと走るのを、俺が実演してみせた。


「これは、考えましたな」

 工作師の親方ラジルさんもうなり、工作師の面々と相槌を打っている。

 

「定点間の移動には、優れていると思いますよ。 これを作るには金と労力が掛かりますが。 でも、完成すれば経済効果は大きいはずです」


 俺の実験と講釈を見ていた、師匠とステラさんが石炭を手に取って眺めている。

「ステラさん、それは金剛石と似たような物ですよ。 不純物がかなり多いので、金剛石にはなりませんが」

「ふん……」

 ステラさんは、また機嫌が悪いようだ。 だが、鉱石の専門家として、石炭には興味があるらしい。


 金剛石と言えば、この石炭は無理だが、黒鉛等を魔法で圧縮すれば、ダイヤモンドにならないかな?

 元世界でも、熱と圧力で人工ダイヤモンドの製造が行われていたはず。


 鉄道に関しては、実験的に城郭工房内と、第二工房との移動に敷設してみようという事になった。

 人力や、馬での牽引になるが、重量物の運搬には効果を発揮するはずだ。

 こういうところは、殿下からの鶴の一声で決まる専制政治の良い所。

 まあ、トップが最低だと、とんでもないことになるが。

 

 早速、石炭鉱山の調査隊が組まれる事になった。

 鉱山を開くには、道路を整備して森を切り開き、そして橋も掛ける必要があり、多大な人員と金を使う大事業だ。

 それを取り仕切る責任者も探さないといけない。 それプラス、鉄道敷設となればやる事が山積みだ。

 鉄道敷設に関しては俺の知識も全く無い。 バラストを敷いて、枕木を置いて、レールを引く――コノぐらいの知識しかないしな。

 場所によって、敷設の仕方が色々と違うとかあるだろうし、しばらくは試行錯誤が続くと思われる。

 てつでも転生してくれれば良いけどな。 しかし、この世界に俺以外の転生者っているのかね?

 怪しいのは、ゼロって奴だけなんだが……そいつの手がかりは全くないし……。


 まあ鉄道に関しては、全部殿下の仕事なので、俺はやるべき事をやらなくては。


 後は、石炭といえば……蒸気機関か。


 モーターとかは簡単だったが、往復運動をするスライダクランク機構とか、そう簡単にはいかないだろう。

 模型ならなんとかなるだろうが、実物となるとなぁ――実用まで結構時間が掛かるかもしれない。


 でも、ニューコメン機関も、ワット機関もすっ飛ばして、いきなりスライドバルブ蒸気機関とか、チートだよなぁ。

 

 ------◇◇◇------


 石炭鉱山事業がスタートし、工作師工房や資材部は慌ただしくなっている。


 そんな喧騒の中俺は、数日前に思いついた、黒鉛からダイヤモンドを作る実験をしてみようと準備をしていた。

 中庭で魔法の実験をすると殿下に怒られるのだが、このぐらいは大丈夫だろう。


 畑の中に鉄の棒を立てて、イリジウムの皿を置き、その上に黒鉛を乗せる。

 これを魔法で圧縮してみようというのだ。

 元世界のネットで、数千度の温度と数十万気圧の圧力があれば、ダイヤモンドが出来ると載っていた。

 上手くいけば、光り輝く金剛石が手に入るかもしれない。

 

 しかし、色々とやってみたが、温度と圧力の調整が難しい。

 空気中で圧力を高めようと、圧縮の魔法を二重展開したりすると、圧縮された空気で温度が上がり過ぎてしまう。

 炭素でも、温度が5000度とかになると、全部燃えてしまい二酸化炭素になって消える。

 悩んだ末、1m程のガラス球を作り、その中の空気を少々抜きながら実験を繰り返す。

 この結果、圧縮率を高めても温度が上がりすぎる事は無くなり、圧力と温度の両立が可能になった。 


 そして苦労の末――米粒程のきらめくダイヤモンドが、俺の目の前でまばゆい光を反射している。


「うひょぉぉ!」

 俺は実験の成功に喜んだが。

 

 しかし、小さい。

 これって、何か使い道あるかなぁ。

 なんかすげぇ苦労したわりには、使い道がないような……。 せめてもう少し大きくなれば。

 


 そんな実験の結果に悶々としている俺に客だという。

 お城のメイドさんから連絡を受けて、裏門へ行ってみると、黒い革の鎧に忘れもしない巨乳! ダークエルフのフェイフェイが立っていた。

 以前会った時と違うのは、荷物が多いのと、大型の弓を背負っている事か。


「よお、フェイフェイじゃないか。 どうしたんだ」

「どうしたもこうしたもあるか、この悪魔め! お前のせいで、村は崩壊寸前だ!」

 フェイフェイが俺に詰め寄った。

 なんだそりゃ? いきなりの詰問きつもんに俺は、目を白黒させた。

 彼女の口から聞かされた村の惨状は――男達はチンチロリンの勝ち負けで支払いのゴタゴタ、女達は石鹸で揉めているという。

 

「なんだそりゃ、俺のせいなのか?」

「おまえのせいに決まっているだろう!」

「そんなぁ。 野盗に襲われたのは、野盗の武器を作った鍛冶屋が悪いって言ってるようなもんだぞ」

「うるさい! 責任を取れ!」

「責任って言われてもなぁ。 何をすりゃ良い」

 人助けして村を救ってやったというのに、解せぬ。

 散々な言われようだが――まあ確かに、博打を教えたのは失敗だったかもしれないが……。


「災いを村に引き込んだと言われて、私は村を追放されたんだぞ」

「ああ、解った。 住まいを提供してくれと言うんだな。 それなら任せろ」

「ほ、本当か?」

「ああ」


 俺は、フェイフェイを殿下に紹介することにした。 

「殿下は女性だろ。 護衛や警備にも女性じゃないと拙い場合が多いんだよ。 その点、フェイフェイの腕なら、適任だ。 人種や身分にもこだわらないお方だし」

「なるほど」

 フェイフェイをお城の中へ案内する。

 

 殿下に彼女を紹介すると、剣の腕を見たいという事だったので、近衛隊の数人と大広間で手合わせをして貰った。

 勝負はフェイフェイの圧勝。

 その上、彼女には魔法もあるし、精霊の加護とかいう防御魔法もある。 弓の腕も達人級だ。

 これ以上の適任者は居ないだろう――と思ったのだが、何故か殿下は渋い顔。

 なにやら、自分の胸を見たりしてるし。


 そして、やられた近衛隊の連中も、打ちのめされたってのに、なにやらニヤニヤしていて、少々キモい。

 これって――我々の業界ではご褒美ですってやつか?

 ちょっと理解出来――いや、俺も殿下の御御足(おみあし)による攻撃なら、嬉々として受けてしまうかもしれん……コレは男としてのさがか。


「ショウ、その者の実力は解った。 で、其方との関係は?」

 殿下の言葉に我に返る。

 

「は? ただの知り合いでございますが……それが何か」

「……の悪魔は、何人手を付ければ気が済むのか……」

 殿下が何か言ったようだが、よく聞こえなかった。

 

「殿下、何かおっしゃいましたか?」

「いいや、なんでもない。 確かに、これほど良い人材なら喉から手が出る程欲しい、故に雇う」

「ありがとうございます」

  

 殿下に一礼して、大広間から出る。

 部屋とかは、後で通達がくる……はず。 まあ、メイドさんに聞けばすぐに解るし。

 ハッキリ言って、お城の状態なら殿下よりメイドさんの方が詳しい。


「よかったじゃないか、すんなり決まって」

「ああ」

 フェイフェイの顔を見ても、あまり嬉しそうには見えない。

 まあ、俺のせいで村を追い出されて、とりあえず住むところが決まったからって、不安が先行するだけであまり嬉しくはないか……。

 

 とりあえず、行くところが無いので、俺の工房へ案内する。


「ここが、お前の工房か」

 俺の工房へ入ったフェイフェイは、目を輝かせた。

 

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