85話 村はオッ○イがイッパイ(挿絵あり)
ダークエルフのフェイフェイという女から助けを求められ、彼女の村へ行くことになった。
その途中野盗に襲われ、難なく撃退したのだが、悪党共の死体からハイエナ行為をしていると、いつの間にか何かヤバい物に囲まれていた。
「囲まれたぞ!」
「そのようだな」
草むらを揺らして出てきたのは、黒い犬? 狼か? 赤い目が爛々と光っている。
見た目は犬っぽいが、数が多い。 ざっと見ただけど10頭以上いる。
「黒狼だ!」
「黒狼? 魔物か?」
「そうだ! とりあえず、あの木の上へ!」
彼女と2人、それぞれ剣と脇差しを抜いて振り回すと、黒狼を威嚇しながら近くにあった大木を目指す。
フェイフェイは華麗に飛び登り、俺は重量軽減の魔法を使い、ジャンプして枝を掴むと蹴上がりをする。
重量軽減しているので、細い枝でも折れることないが、太い枝にすぐに移動。
落ちたらヤバいからな。
1頭なら、大したこと無さそうだが、なにせ数が多い。 その後もぞろぞろと集まってきて20頭程になった。
俺たちの乗った大木の下へ集まり、幹に前脚を乗せて吠えまくっている。
非常に煩い。
あまりの煩さに少々むかついたので、ずっと同じ場所で吠えている個体に、先ほど野盗の生き残りを即死させた、神経を弄る魔法を使う。
――キャン! と鳴いて転げただけで、死ぬ様子は無い。
それで、魔法を警戒したのか、今度はグルグルと回りながら吠え始めた。
クソ、畜生の分際で中々順応性がある。
やはり魔物なのか、魔法の効きが悪いようだ。
面倒臭え。
「どうする?」
「弓があれば……」
フェイフェイが弓の話をしたので、俺はスリングショットを思い出した。
鞄からスリングショットを取り出して、2発程撃ってみたが、当たらん!
意外と動きが速く、1発撃った後は、すぐにスリングショットも警戒されてしまう。
「フェイフェイ、お前の魔法は?」
「炎の魔法があるが、使いたくない」
「何故?」
「黒狼の毛皮は高く売れる、焼いたら売れないだろ?」
「そんなこと言ってる場合か!」
「せっかくの獲物、勿体無いじゃないか」
「金なんて何に使う? 森深くにある村なんだろ?」
「私だって、女だ。 欲しい物だってある!」
彼女の話を聞くと、数ヶ月に1回ほど、森の奥深くにもかかわらずやって来る酔狂な商人がいると言う。
そこで、フェイフェイが見たのが、泡が立って身体が綺麗になり、良い香りがする――そう石鹸だ。
「なんだ、石鹸が欲しいのか。 それなら、俺が作り方を教えてやるよ」
「お前が作れるのか?」
「というか、その石鹸を発明したのが、俺だし」
その話を聞いたフェイフェイは納得したようだったのだが、やはり黒狼の毛皮は欲しいと言う。
「ええ~? じゃあ、どうする?」
「うう……」
フェイフェイは返答に困っている。 そりゃそうだ、ただ金になる毛皮が欲しいだけで、具体的な案があるわけでもないからな。
「う~ん、カマイタチじゃ毛皮が切れるかもしれんし、衝撃波を起こすと、俺達ごと吹き飛ぶかな? それじゃ、雷撃を使ってみるか」
「雷撃の魔法を使えるのか?」
「普通の魔法とちょっと違うんだけどな。 1頭は焦げるかもしれないが、2~3頭はひっくり返るかもしれない。 魔法が効かなくても、音で逃げるかもしれないし。 それで手を打て。 この状況じゃどうしようもないぞ?」
「承知した」
なんか渋々承知した感じだが……。
犬は雷を怖がる奴が多い。 実家でも何頭か飼っていた事があったが、歴代皆雷を怖がってた。
しかし、ここで使えるかな?
俺の雷撃の魔法は、気圧を下げ水分を蒸発させて雲を作り、雷を発生させるという、気象現象シミュレーションだからな。
ここには、水源が無いが、地面や木々からの水分で可能だろうか?
初めての試みなので、成功するかは分からんが、森や林が蓄えている水分というのは意外と多い。
なので、森林を伐採してハゲ山にすると、すぐに洪水になる。 保水力が失われるからだ。
しかし、魔物の魔法耐性にはちょっと疑問があるな。
魔法が直接身体に影響する麻痺やら、重量増大に耐性があるのは解るが、魔法が引き起こした物理現象には耐性はどうなるんだろうか?
例えば、重量軽減で巨石を持ち上げて、下敷きにしたりすれば、耐性もクソも無いような気がするんだが……。
俺は、周りに生えている木々と地面から、満遍なく水分を吸い上げると、頭上に雲の柱を作りだす。
黒い雲が渦となり、回転を始めると、すぐに内部に青い光が瞬き始める。
「フェイフェイ、念の為に俺にくっつけ。 防御の魔法で、お前を守れる」
「わ、解った」
彼女が俺にくっつくと同時に、雷雲が臨界になり、青白い閃光が轟音と共に地面へ走る。
目の前が真っ白になり、オゾンの臭いと蛋白質の焼ける臭いが、漂ってくる。
「凄いな」
フェイフェイが装飾性を排した感想を述べる。
目のチカチカが収まり下を見ると、黒狼が4頭ほど痙攣しながら、ひっくり返っていた。
1頭から、白い煙が立ち上っているが、その他の黒狼は見当たらないので、多分逃亡したのだろう。
辺りを確認して下に降りてみるが、気配は無い。
ひっくり返っている黒狼を確かめてみると、雷の直撃を受けた1頭だけ即死だったようで、残りの3頭はまだ息があり、フェイフェイがトドメを刺している。
下手に俺がやると、毛皮の価値が下がってしまうからな、彼女に任せるのが吉だ。
トドメを刺したフェイフェイは、早速黒狼を木に釣るすと、皮を剥ぎ始めた。
さすがベテラン、匠の業だ。 そりゃ、どんなことでも300年もやってりゃ達人になるよなぁ。
時間が有り余っているというのは羨ましい限りだ。
「フェイフェイ、コレ食ってみようぜ。 ついでにバラしてくれよ」
「任せろ」
皮を剥いで、後ろ脚と首を切ると、血が噴き出し――腹に縦一文字にナイフを入れると、内臓がこぼれ落ちる。
食うなら血抜きをしないと、食えたもんじゃないからな。
ホントは、心臓が動いている時にやったほうが綺麗に抜けるのだが、コイツを生かしたまま弄るのは少々危険だ。
毛皮3枚と、1頭のアバラと脚を持って場所を移動する。
解体した肉や臓物の臭いを嗅ぎつけて、他の動物が寄ってくる危険性がある。
一応、乾燥の魔法を掛けて、カラカラに乾かしておいたが。
1kmほど歩いた所で、夕方になってしまったので、そのまま野宿することになった。
火を起こし、アバラ――というか、リブを焼く。 基本動物は火を恐れるので、火を焚いていれば他の動物は寄っては来ないだろう。
ジュウジュウと肉の焼ける音。 俺が持ってきた醤油を掛けると、焼けた醤油の匂いが鼻腔を擽る。
見た目が凄い美味そうだが、魔物の味はどうなのか?
一口食ってみたが、いける。 大丈夫だ。
犬類は初めて食ったが、俺が食った肉の中では熊肉に似ている気がするな。
臭みはあるが、羊が食える奴なら、大丈夫だろう。 道産子なら、ジンギスカンが常食だからな。
臭い消しに、柑橘類が欲しくなるが、残念ながらこの世界には柑橘類は無い様だ。
ただ、未踏の大地が沢山あるらしいので、見つけてないだけかもしれないけどな。
もしかして、海の向こうにはあるのかもしれないし。
フェイフェイには、俺が金属ケースに入れて持ってきたスープを奢った。
腹一杯食ったが、まだまだあるので、明日の朝と昼も食えるな。
しかし、肉を食うフェイフェイは中々ワイルドだ。 美人でスタイルが良いので、どんなシーンでも絵になる。
焚き火が照らすオレンジ色の光の中で、肉に齧り付く彼女の姿は、映画のワンシーンみたいだ。
そんな彼女の話だと、明日の夕方前には村に到着できるはずだという。
脚の肉は削いだ後、乾燥の魔法を掛けて、ジャーキーにしてみた。
本当なら、タレに漬け込みたいところだが、ここじゃそれが出来ない。
だが、こうすれば、腐る心配も無いし、いつでも食える。
飯を食った後、やることもないので横になるが、俺の魔石結界を起動しようとすると、フェイフェイが精霊魔法の結界を使えるというので、彼女に任せる事にした。
ダークエルフも、精霊魔法が使えるのか……。 ただ、一応使えはするが、エルフのようにはいかないらしい。
結界があるとはいえ、森の近くで火を燃やすと灯りに虫が寄ってくるので、早めに寝るのが一番。
早く寝て、早く起きる。 ド田舎の鉄則だ。
焚き火を挟んで、彼女と色々話すが、巨石をどうにか出来ないと、村を捨てるしかなくなるという。
結構責任重大なのだが、果たしてどうにか出来るのだろうか? ちょっと自信が無いんだが……。
------◇◇◇------
――次の日。
朝起きると、霧の中。 焚き火からうっすらと煙が上がっている。
フェイフェイも起きていたので、朝食もそこそこに歩き出す。
この大陸には、東西に高さ50mの巨壁が走っている。
今はその崖を右手に見ながら延々と歩いているのだが、ある地点でフェイフェイが立ち止まり、崖を指さす。
そこには、巨壁の切れ目があった。 ダークエルフの村はその奥地にあると言う。
川を渡り、森のなかの細道を巨壁の切れ目を目指して歩く。
巨壁の裂け目が作り出す谷の入り口へ到達した時点で昼を回っていた。
ここから、12~3リーグ(約20km)程入った所に村があるらしい。
昼食後、見上げても上が見えないような崖の切れ目を、村を目指して歩く。
思うに、水が無くなった川の跡か。 上り坂なので、重量軽減の魔法を使う。
フェイフェイがいるのでスピードアップはしないが、軽くなるだけでかなり楽だ。
肉体的には楽なのだが、魔法を使うと精神的な疲労を伴うから、どちらを取るか――という話になる。
魔石時計では3時過ぎ。 予定より早くその現場につくと、巨石が見えてきたのだが……。
でけぇぇぇぇ!
巨石が、裂け目にスッポリ嵌っている。 もう誂えたように。
上を見ると、崖が少々高くなっている場所が崩れて、その下へ落ちたようだ。
つまり、高さ60mの崖が半分崩れて30mの巨石になった……。
どうすんの? マジでこれ。
俺は言葉を失う。
巨石の下へ行くと、他のダークエルフ達が何人か居た。 全員女でしかも、超美人!
背が高くて、長い脚に革のズボンを履いている。 これが、デフォルトの服装――民族衣装なのか。
フェイフェイ程巨乳ではないが、胸もデカい。 なんじゃこりゃ、天国か?
こんな僻地までやって来る酔狂な商人がいるって言ってたけど、こりゃやって来るよ。
眼の保養、目の正月、眼福、此の世の春じゃん。
「おおい!」
フェイフェイが、仲間に声を掛ける。
「あ、フェイフェイ、帰ってきたんだ」
「真学師を連れてきたぞ」
「はじめまして。 真学師のショウだ、よろしくな」
「あ~! フェイフェイ、なにこれ? 黒狼の毛皮じゃん!」
無視かよ。
「ショウに貰ったのだ。 途中で襲われて、撃退した」
「え~? なんで、こんな良い物貰ったの?」
「それは……ショウが要らないからと言ったから……」
そう、おれは別に毛皮に興味はないので、フェイフェイにプレゼントしたのだ。
ここに何日滞在するか解らんし、剥いだ毛皮は処理しないと腐ってしまうからな。 そんな処理、俺じゃ出来ないし。
フェイフェイは、他の仲間にも囲まれて、質問攻めにあっている。
「ねぇねぇ、ショウって言ったっけ? フェイフェイじゃなくて、あたしと組もうよ? あっちのほうだって、フェイフェイより上手いしさぁ」
そんな事を言いつつ、ダークエルフの1人が、俺に抱きついてきた。
「ちょっと! なに抜け駆けしてんのさ! あたしの方が上手いに決まってるじゃん!」
「こんな2人よりあたしにしなよ……」
ダークエルフの美女3人にもみくちゃにされて、彼女等の着ている革の匂いと、野性的な女の匂いを嗅いでしまうと、意志に反して、俺の主砲がエネルギー充填を始めてしまう。
ヤバい!
「ちょっと待て! お前ら、アレは良いのか?」
俺が、彼女達を振りほどき、目の前の巨石を指さす。
「ええ? だってさぁ、もう無理っぽいし~。 長老衆は村を捨てる方向に動いているよ」
「なんだと! 私が、どれだけ苦労して、この男を連れてきたと思っている」
「そんなの知らないよ。 フェイフェイが中々帰ってこないから、逃げたんじゃないかって」
「そんなバカな! ショウ! 悪いが、長老共と話をしてくる」
「ああ、解った」
なんだか、色々と面倒な事になっているようだな。 まあ、この巨石じゃ途方に暮れるのも無理はないが……。
この巨石に谷を塞がれて、ダークエルフ達はどうやって移動してるのかというと、岩の左右に低い所があるので、そこを登って越えているようだ。
フェイフェイが、そこを登って巨石の向こうへ行こうとすると、ダークエルフの男達が降りてきた。
「フェイフェイじゃないか! 帰ってきたのか」
そう言って、イキナリフェイフェイの胸に手を伸ばそうとして、彼女の横蹴りをくらった。
「お前と遊んでいる暇は無い!」
「くくく……相変わらずきついぜ……」
男は腹を押さえて苦しそうだが、会話からするといつもこんな事をやっているのかもしれない。
ダークエルフの男達が来て、一気に騒がしくなった。 男達のノリは、居酒屋でウェーイ! とか言ってる学生みたいだ。
女達は落ち着いていて、男共が騒いで走り回るその光景。
小中学の教室で――『ちょっと、ダンスィ! サボらないで、真面目に掃除してよね!』 『ウェーイ!』
これに近い気がする。
そんなダークエルフ達は放っておいて、この巨石をどうする?
石切り場での石の切り出しには、タガネが使われているが、さすがにこんなデカイ石は無理だろう。
火薬で発破を掛けるのは、穿孔する必要があるし……。
トンネル工事や鉱山では、デカイドリルを使って、穴あけをしているが、無論そんな物は無い。
火薬自体は、少しずつちょろまかせば……いや、時間がかかり過ぎるな。
ダークエルフ達は、村を捨てるって話に動いているようだし、事を急ぐのだろう。
女達に話を聞いてみたが、皆で集まって魔法で炙ってみたりもしたそうなのだが、ビクともせず――だったらしい。
真空衝撃波じゃ、岩は砕けないし……圧縮弾じゃ、そんな威力はない。
試しに、思いっ切り圧縮した、圧縮弾を巨石に近づけてみるが、熱量が足りないのか、表面が焦げただけ。
う~ん……。
もっと高い熱量か…………二重圧縮はどうだ?
今まで、二重圧縮は試したことがなかったが、これが可能ならば、かなりの熱量を持って岩に穴を開けられるかもしれない。
つまり、圧縮弾をさらに圧縮する。 当然、弾ける威力も上がるはず。
魔法の二重展開は可能だが、かなりの困難を伴う。
掌に野球のバットを立てる遊びを、魔法に例えると――違う魔法を2つ唱えるのは、両手でバットを掌に立てる感じ。
そして、同じ魔法を二重展開すると、バットの上にバットを立てるような感じになり、難易度が倍増するため通常やらない。
とりあえず、手っ取り早くなんとかするためには、これしかないような気がするなぁ……これは、集中力勝負だ。
「ちょっと皆、試したい事があるので、離れてもらえないだろうか?」
男達は当てにならなさそうなので、女達に伝える。
「わかったわ。 こら、男共! 岩から離れて! 何かやるんだってさ」
ダークエルフ達を下がらせて、巨石のど真ん中表面ギリギリに圧縮弾を展開する。
通常、圧縮弾を動かすのでも結構大変なのに、二重圧縮した物を動かして岩の中へ送り込まないと駄目なのだから、こりゃ大変の2乗。
精神を統一して圧縮の魔法をさらに展開して、圧縮弾をさらに圧縮すると――オレンジ色だったソレは黄色、そして白色に変わり始める。
色温度からして、5000度は超えているはず、これなら――。
ゆっくりと動かすと、すでに溶けはじめていた岩肌に圧縮弾が吸い込まれていき、溶けた岩がオレンジ色に光る溶岩となって流れ出てくる。
そのまま、圧縮弾を岩の中へ送り込むが、俺の集中力も既に限界――その集中力が一瞬途切れると、圧縮弾が破裂して溶岩を盛大に吹き出した。
「うわちゃちゃちゃ!」 「ひぃぃ!」
逃げ惑うダークエルフの男共。
離れていろと言ったのに、結構近くまで寄っていたらしい。 魔法に集中するのに一杯だったので、気が付かなかった。
「なにやってるんだよ、男共は!」
女達も呆れて、そんな言葉を吐き捨てる。
精魂尽き果てた俺は膝を突いたが、手応えはあった。
溶けた岩が吹き出したのは、さすがに真ん中過ぎたのだろう。 もっと岩の上部とか弱い場所でコレを行えば、部分的に吹き飛ばせるのではないだろうか。
溶けた岩の穴がストレートだったのも、吹き出した要因かもな。
内部の圧力がもっと高まるように、穴を開ければ――例えば、ジグザグ形のようにすれば、吹き出しを防げるかもしれない。
う~ん、なんとなく、道筋は見えたような。
再度、挑戦しようとしたところで、俺は意識を失った。
------◇◇◇------
――目が覚めた。
起きると、見知らぬ小屋? 粗末な草を引いたベッドに毛布が掛けてあり、枕元には俺の装備が置いてある。
外から、話し声が聞こえるので、表へ出てみた。
「あ、ショウが起きてきたよ」
「大丈夫か? ショウ」
フェイフェイが心配そうに話しかけてくる。
「ああ、大丈夫だ。 ちょっと疲れがあったのと、特殊な魔法だったので、魔力を使いすぎたな。 運んでくれてありがとう」
なんだか、フェイフェイがしょんぼりしているので理由を聞いたら、長老衆を説得するのに、黒狼の毛皮を賄賂にしたそう。
うわぁ、なんか世知辛いなぁ。
その長老衆の所へ案内される。
「遥々、このような僻地へようこそおいでくださいました」
爺さん婆さんという感じではないが、初老といった方々が5人。
3人は女性だが、熟女で巨乳……熟女マニアがいれば、タマラン光景だろう。
フェイフェイの話だと、長老達は1000~1500歳の面々だという。 やっぱりすげぇ長生き。
だが皆、背は普通の高さで、エルフのように背がやたら高くなるという事はないようだ。
本当は、もっと年寄りが居るのだが、生きている事に飽きてしまい、1人2人と森の深部へ姿を消してしまうと言う。
そのまま生きてるのか、死んでいるのかも解らんらしい。
この集落は50人ぐらいだが、女がちょっと多い感じ。 しかも、美男美女揃いだ。
皆、浅黒い肌と、銀髪をなびかせている。
しかし、見渡しても子供の姿は見当たらない。 聞くと、ここ100年は子供は生まれていないそうだ。
ということは、一番若いやつでも100歳以上って事か……。
「いきなり醜態をお見せしてしまい、申し訳ございません。 こちらの村からの救いを求める要請に応じ、まかりこしましたファーレーンの真学師、ショウでございます。 以後お見知りおきを」
「これは、ご丁寧な挨拶、痛み入ります。 貴方様に長寿と繁栄を」
手を掲げる長老達。
長老達に、俺の魔法でなんとかなりそうだと説明をする。
フェイフェイの賄賂が効いて、村を捨てるのは一旦保留ということに、長老衆の意見は統一されて――。
とりあえず俺の魔法を試してから、その後を見極めるという事になったらしい。
皆で朝飯を食いながら、打ち合わせをする。
飯は、肉と何かのスープ。 そして、虫――多分、かみきり虫か甲虫の幼虫だろう。
蜂の子と似たような味で、ケツから噛むと中からトロリとしたクリーム状の物が出て来る。
頭は固いので、食わない。
いつもこういうのを食べるのかと聞くと、そんな事は無いと言う。
多分、俺という客人が来たので、特別に用意されたご馳走なのだと思われる。
この世界、生水は普通飲まないので、食事時にはスープかぶどう酒を飲むのが普通だ。
ちょっとぶどう酒を飲ませてもらったが、商人から買った物だという。
ぶどう酒は、俺が作った新品種のぶどう酒だ。 こんな僻地まで、俺の作った物が入り込んでいるとは……。
フェイフェイは、石鹸が欲しいとか言ってたしな。
「要は、巨石を全部吹き飛ばさなくても、荷馬車が通れる道だけ確保出来れば良いんだろ?」
「そうだ」
「それなら、1週間~10日ほど時間が掛かるかもしれないが、すこしずつ砕いて通路を作れるかもしれない」
「本当か?」
「とりあえず、試してみないと解らないけどな。 あと、特殊な魔法なので、1日につき1~2回しか使えないんで、時間がかかる」
「今まで待った時間に比べれば、10日程の時間は微々たる物。 ホホホ」
長老の1人がそんな事を言う。
暗に、フェイフェイの時間が掛かった事に揶揄しているのだろう。
「誠に申し訳なく……」
フェイフェイが畏まる。
「だいたいさ、ファーレーンから連れてくるならすぐじゃん。 なんでこんなに時間がかかったのよ?」
「それは……」
フェイフェイが、いままで巡り歩いた行程を説明すると、皆からツッコミが入りまくる。
まあ、ファーレーンにいるのは、有名な『魔女』と『破滅』だからなぁ、避けたくなるも解るが……。
それに、魔女の弟子と言われる悪魔という男も、貴族を呪い殺して、貴族の娘を拐って――そんな噂を聞いていれば、まともな人間とは思わなかったに違いない。
「そういえば、自己紹介まだだったね。 あたしはミルミル」
女の1人が、俺に自己紹介をした。
「アイアイ」 「チルチル」 「ライライ」 「カンカン」
覚えられねぇ!
ちなみに、フェイフェイの胸をイキナリさわろうとして、蹴りを食らったやたら煩い男は『ムイムイ』 というらしい。
とりあえず、こいつだけ覚えた。
――んじゃ、飯も食ったし、そろそろやってみるか!
俺は、巨石の下へ向かった。





