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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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84話 ダークエルフはボン・キュッ・ボン


 ――ある日、伯爵領へ来ている。

 赤い塩という、カリウムの試験運用の結果が出たというので、見学をしに来た。

 結果から言うと、いい結果が出ているようで――不足分のカリウムを補給出来ているらしく、木々はすくすくと育っている。


「上手くいったようだな」

「ええ、塩が肥料になるとは思いませんでしたわ」

「塩と言っても、ちょっと違う物だからな」

「アルスダットから取り寄せた、鳥糞肥料はこちらで使っております」


 アルスダットとの交渉が行われているのは、高台にうず高く積もった鳥糞。

 これが、長年に渡り化学変化を起こして出来た燐鉱石と言われる物。

 この交渉には、伯爵様が直に出向いているが、漁業以外何もない辺境国に資源が出来るというので、彼等も乗り気のようで、快く協力してくれているらしい。

 費用は伯爵領が出しているし、失敗したとしても、アルスダットにはデメリットは無いからな。

 上手くいけば、瓢箪から駒、棚からぼた餅ぐらいの感覚なのだろう。

 ただ、物流が馬車しかないこの世界で、どのくらいの産業になるのかはまったく不明だ。

 本来なら、結構重要な鉱物資源なのだが、ここでは肥料ぐらいしか使い道がない。


 ミルーナに案内されてバラ園に行くと、そこには見事なつるバラがアーチを描いている。


「こいつは見事な蔓バラだな」

「いままで、バラというのは1年に1回しか咲きませんでしたが、このバラは1年中咲くのです」

「四季咲き……新しい品種か」

「はい」

「となると、このバラを交配に使えば、他のバラも四季咲きの特性を受け継ぐ事が出来るようになるかもな」

「その通りです」

 新しい品種ってだけでは、こんなに見事なバラにはならない。


「とにかく、バラってのは肥料喰いだ。 肥料を入れれば入れるだけ、デカイ花が沢山咲く」

「ですので、新しい品種と、新しい高級肥料を一緒に売ろうと思いまして」

「なるほど、この新しい品種に、この新しい肥料を沢山与えれば、それは見事なバラが沢山咲き誇りますよ――というわけだ。 上手く考えたな――ふふふ、お主も悪よのう」

「いいえ~、ショウ様には敵いませんわ。 ホホホ」


 何処かでみた光景だが、全然似てないようで、ちょっとした所が似ている殿下とミルーナ。

 これが血なのか。

 思えば、俺の親戚を見回しても、姿形は皆誰かに似ていたな。

 父方に似ている、母方に似ている。 ドンドン遡っても、どの親戚の誰かに似ている。

 血は水よりも濃しなんて言うけど、そのくらい血ってのは濃いもんだ。

 外見上に限って言えば、トンビから鷲が生まれる事はないんだなぁと思ったよ。


 ------◇◇◇------


 伯爵領からの帰り道、たまにポテトフライを買っている出店に初めて見る種族がいた。

 深いフードを被っているが、浅黒い肌と長い銀髪をなびかせている女だ。

 店に近づいていくと、売り子の女が俺に気づき声を掛けてきた。


「ショウ様。 今日も買われるんですか?」

「ああ、1つくれ」

 隣に立っている女を見る。 フードからたなびく銀髪と、中から覗く切れ長の目から放たれる鋭い視線、一分の隙もない。

 背は俺より少し高い。


 う~む、只者ではない。


「ショウ様、こちらのお姉さん、真学師様を探してるんですって」

 彼女が笑いながら言う。

 

「そりゃ偶然、いいところで会ったな」

「お前、真学師を知っているのか?」

「ああ、知ってる。 知ってるぜぇ」


 銀髪の女がフードを脱ぐと、そこから出てきた長い耳。


「ダークエルフ……」

「そうだ」

 耳もそうなんだが、フードをはだけたところから出てきた、見事な胸の谷間に俺の視線は釘付けになってしまった。

 つまり、ガン見してしまったのだ。

 それを見たダークエルフの表情が険しくなり、剣に手が掛かる。


「ちょ、ちょっと待て!」

「やかましい! 失せろ!」

「はいぃぃ!」

 俺は、銭○に追いかけられるル○ンの勢いで逃げ出した。


 やべぇ! マジで斬られるかと思ったわ。 思わず――あばよとっつぁん~! って言いそうになったろ。

 多分、剣の腕じゃ敵わないし、ダークエルフと言えば魔法も使えるだろう。 こりゃ、厄介だ。

 でも、イキナリ胸をガン見は拙かったなぁ。 そりゃ、どんな女だって怒るわ。

 自己批判しよう。


 それにしても、あの胸はねぇよ。 師匠以上のけしからん乳とは……むうう!

 我々はぁ~かのような反社会的オッ○イに対してぇ~断固戦い抜く事を宣言するぅ~! 突撃ぃ!

 俺は、走って城に戻った。


 ------◇◇◇------

 

 ――次の日。

 さすがに、あのダークエルフにはもう会わないだろうと、燦々(さんさん)亭へ飯を食いに言ったのだが――。

 

 いたぁ! ダークエルフが。


 俺は、慌てて逃げ出そうとしたが、そのダークエルフは、テーブルに頭を擦り付けてきた。


「誠に申し訳ない!」

 話を聞くと、あれから真学師を知っている人を探すために、アチコチで聞き込みをしたのだという。

 だが、聞けば聞くほど追い払った俺が真学師だったと確信したようで、俺がよく飯を食いに来るという話を聞き、この店で待っていたという。

 

「いやぁ、俺も悪かったよ。 身体をジロジロ見たりして。 あまりに見事な身体だったのでな。 つい……スマン、男の性ってやつだ」

「いつもの事で、慣れている」

 アチコチの街で男共に絡まれたらしく、俺が声を掛けた時も――ああ、またかと思ったらしい。

 なるほど。 美人でスタイル良いからと、いい事ばかりじゃないんだなぁ。

 こんな話をしている今でも、店の客に舐めるような視線で見られてるし……。


「しかし、なんで真学師なんかに会いたがる? 俺が言うのもなんだが、ろくなもんじゃないぞ?」

「確かに噂には聞くが、助けてもらうためだ」

「助ける?」

「ああ」


 そのダークエルフが言うのには、彼女等の村へ続く谷間の道が、巨大な落石で塞がれてしまい難儀しているという。

 

 助けを求めるダークエルフ、キター!


「それなら、真学師でなくても、デカイ魔法を使える魔導師でも良いんだろ?」

「生憎、そのような者はいなかった。 それに、我が村はあまり裕福ではない。 礼も満足に支払えないのでは、引き受けてくれる者がいなくてな」

「ああ、なるほど。 魔導師は金じゃないと、動かないしなぁ。 でも、真学師は金でも動かないぞ?」

「そう聞いてはいるが。 本当に困っているのだ」

「ダークエルフも魔法を使えるんじゃなかった?」

「確かに皆使えはするが、あのような巨石をどうこうは出来ん」

「デカい岩ってどのくらい?」

 嫌な予感がしたのだが、一応聞いてみた。


「約30スタック(メートル)

「さんじゅう~? そんな岩を吹き飛ばす魔法ってあるかなぁ? とりあえず、俺は無理だぞ」

「無理なのか?」

 ダークエルフは立ち上がった。

 

「ああ。 まぁ、俺の師匠ならどうかな? 多分、大丈夫だとは思うけど」

「お前から、頼んでくれ! 此の通りだ!」

 再び、ダークエルフはテーブルに頭を擦りつけた。

 

 むう、美人に頼み事されるのは弱いなぁ……だって、男の子だもん。

 しかし、30mの巨石か。 至近で師匠の爆裂魔法(エクスプロージョン)を使っても、爆風だけで岩が壊れるとは考え難いが……。

 師匠のことだから、他に魔法も持ってるだろうと、そのダークエルフを連れて、お城へ向かう。

 とりあえず、裏門の前で待たせて、師匠に話をしてみることにした。

 ダークエルフは、フードを深々と被り、目立たないようにしている。

 下側は今までよく見えなかったが、チラリと革のズボンを履いているのが見えた。


 顔と胸が見えなければ、背が高いので、男に見えなくもないな。

 まあ、いままで散々な目にあったのだろうと、想像に難しくない。


 ------◇◇◇------


「興味ありません」

 イキナリ取り付く島もない返答が、師匠から返ってきた。 何か書き物をしながら、顔を向けてもくれない。

「しかし、師匠。 ダークエルフが困っているのですよ?」

「私には関係ありません」

「……」


 駄目だこりゃ!

 いつもの如く、関心のない事には、全く興味を示してくれない。

 


「だめだったよ。 興味のない事には動かない人だからな」

 裏門で待っていた、ダークエルフに声を掛ける。

 

「そんな、私はどうすれば」

「もう1人真学師がいるけど、エルフだしなぁ」

「エルフの真学師と言えば、『破滅のステラ』 ではないか! そんな者を連れて帰ったら、村を追放されてしまう!」

「その前に、ステラさんが引き受けるとも思えないしなぁ」

 ステラさんは有名なのか……この世界でもエルフとダークエルフは仲悪いんだな。


「しょうがねぇ、役に立つか解らないが、俺が行くか」

「本当か?」

 下を向いていた彼女の表情がパッと明るんだ。

 

「だが、正直自信は無い。 それでも良いのか?」

「ああ、真学師を連れて行けば、私の面目は立つ」

「そういう考えもあるか。 それに、現場を見れば何かいい方法を思いつくかもしれない」

「恩に着る」

  ダークエルフが頭を下げる。

  

 旅に必要な物をざっとシミュレートしてみるが、すぐに出かけるのは無理だと判断した。


「それじゃ、用意もあるから、明日の朝霧が晴れたら出立って事で良いか?」

「解った」

「どっちの方向になるんだ?」

「フリフル峡谷の向こうだ」

「それじゃ、西か。 城下町プライムを出た所に橋があるだろう。 その上で待ち合わせって事で」

「承知した」


 思いつめたような表情だった彼女だったが、俺が行くと解って、表情が明るくなった気がする。

 村の希望を一心に集めてやって来たんだろうなぁ

 なんとかしてやりたいが、どうしよう。

 火薬で発破を掛ける手もあるが、火薬は今や戦略物資だ。 俺が勝手に使えば、背任になってしまう。

 それに、火薬での発破だと、岩に穿孔しないと駄目だろう。

 どうやって、穴を開ける?

 考えただけで、問題は山積みだ……。


 とりあえず、手持ちの食材を全部処分して空にするために、明日のための食事を作る。

 食いきれない食材は、ニムにあげる事にする。

 何時帰ってくるか分からんからな。

 メタンガス槽もしばらく使わないので、蓋を開けてワームを投入した。 少々勿体無いが仕方ない。


 飯の後、装備を確認。

 脇差しと剣鉈けんなたもハーピー戦の後、研ぎ直したばかりだ。 研ぎ具合を見るために脇差しをガス灯にかざす。

 金貨を褒美に貰って機嫌が良い武器屋のオヤジがサービスで研いでくれたのだ。

 遠出になるからフル装備だ、指差し確認イチニィサン。

 明日は早い、早めに寝るか。


 ------◇◇◇------


 朝起きて、霧が残っているうちに工房を出る。

 ダークエルフの村に行くとは、誰にも言ってない。

 特に、ステラさんとかにバレると何をされるか解らんからな。 ダークエルフと仲が悪いって言うし……。


 まだ霧が残っていたが、西の橋に着くと、もう彼女が待っていた。

「早いな。 何処かに泊まったんじゃないのか?」

「野宿だ」

「金が無いなら、知り合いの宿を紹介すればよかったか……」

「いや、いつも野宿なのだ。 気にするな」

 普段は森のなかに住んでるらしいから、森の中で野宿すれば、普段通りなのかな?


「そういえば、自己紹介してなかったな。 真学師のショウだ。 よろしくな」

「フェイフェイだ。 こちらこそよろしく」


 とりあえず、霧の中を歩き出した。

「ここから西なら、ファーレーンが一番近かったろ? なんで一番初めに寄らなかったんだ?」

「ファーレーンにいるのは、『魔女』 と『破滅』 だろ? 破滅は論外だし、魔女も可能性が薄いと思った」

「俺の噂は聞いてないのか?」

 まあ、ロクな噂は流れてないだろうが、聞いてみた。


「悪魔か? 正直、想像していたのと、全く違った……」

「とんでもない奴だと思われたのか」

「そうだ……スマン」

「まあ、そんなに外れてないから、あまり信用しないほうがいいぞ」

「ふふ」

 おっ、初めて笑ったが、可愛い! 

 美人の笑顔ってのは破壊力抜群だな。 だが多分、メチャ年上だろうしなぁ、可愛いは失礼かな?


 ------◇◇◇------


「そこに行けば~」

 歌いながら、ダークエルフのフェイフェイと、ガタガタと荷馬車に揺られている。

 

 運良く、西に向かう商人の馬車に便乗させてもらったのだ。

 荷台には竹を骨にした幌も付いており、日差しも防いでくれている。

 殿下の馬車のように、俺が作ったサスペンションは付いていないので、乗り心地は悪いが、歩くよりは楽だ。

 フェイフェイは重量軽減の魔法が使えないから、スピードアップ出来ないし、歩くとなると彼女に合わせて歩かないといけない。


 馬車の荷台で長い脚を伸ばし、フードをマントのように羽織り、肌を露わにさせているフェイフェイの身体は刺激的だ。

 

 黒い革のズボンを履いているが、腰の周りは肌が露出しているし、胸には革のアーマーを付けているが、それで隠し切れない程の豊かな実り。

 まさに凶器。 この世界の女達のファッションは基本厚着で、肌を露出させることは少ない。

 そりゃ、こんな格好で街を歩いたら、男どもが寄ってくるだろう。

 暗闇に光り、虫達を集めまくる誘蛾灯だ。


「悪いね~便乗させてもらって」

 荷馬車の持ち主、商人に声を掛ける。

 

「いえいえ、ここら辺はたまに野盗が出るんですよ。 真学師様に乗っていただければ100人力って事で」

「そうか」


「その都市はそんなに良い所なのか?」

「ん? 歌の話か?」

 彼女は俺が歌っていた歌に興味があるようだ。

 

「そうだ」

「その都市は、ある宗教の聖都だったんだよ。 そしてある国が退廃して、没落の一途を辿っていた。 そこで、偉い高僧が考えた――そうだ、聖都に行って素晴らしい経典と教えを学んでくれば、国を救えるかもしれないってな」

「それで、その聖都までどのぐらいの距離があったのだ?」

「え~と、往復で1万8千リーグ(約3万km)とかなんとか」

「1万8千だと! それは、人間の業なのか?」

 まあ、信じられんよなぁ。 俺だって、信じられん。


「16年掛かったらしい」

「ということは、無事に聖都に着いたのだな」

「ところが、着いた時には既にその聖都も宗教すら無くなって、国も変わってしまっていたんだ」

「それでどうしたのだ?」

「でも、その国の王様がとてもいい人でな。 その宗教は無くなってしまったが、経典は残っている。 我々にはもう必要ないから、好きなだけ持っていけと言われたんだ。 その国でしばらく勉強した後に、高僧は帰国したわけだ」

「まさに偉業だな」

「それは数千年前の出来事だったけど、未だに物語として語り継がられて、愛されているってわけさ」

 俺はパン! と手を叩く。

 

「さもありなん」

 彼女はこの話に深い感銘を受けたようだ。

 

 それから、色々とフェイフェイと話す、彼女の歳は300とちょっとらしい。

 エルフと違って、歳を聞いても大丈夫なようだ。 それにしても、解ってはいたが年上かぁ。


「やはり、たまには村の外へ出るべきだな。 色々と面白い話が聞ける」

 フェイフェイがそんな事を言って微笑んでいると、馬車が突然停止した。


「どうした?」

 幌から顔を出して、商人に尋ねる。

 

「真学師様、野盗です」

 商人の顔がひきつっている。

 

「ありゃ、出たか。 よし! 俺達が一発ぶちかますから、降ろした後に隙をついて逃げろ」

「よろしいのですか?」

「大丈夫だ、心配するな」


 荷台の後ろから飛び降りて、フェイフェイと一緒に馬車の前に出る。

「フェイフェイ、腕は確かなんだろうな」

 彼女の身のこなしから、只者ではないとは思うが、念の為に聞く。

 

「任せろ、少なくとも野盗如きに後れを取ることはない」

「安心した」

 前に進むと、野盗がゾロゾロと出てきた。 皆汚い格好で、装備もバラバラだが、こういう連中は実戦重視だからな。

 見た目で判断することは出来ない。


「ひょ~! 女だ! ダークエルフだぜ。 捕まえれば一攫千金だ」

「ヒャヒャヒャ!」

 野盗達が剣を抜いた。

 

「くそぉ、堪らねぇ身体しやがって! たっぷりと可愛がってやるぜぇ」

  

「フェイフェイ、俺の後ろに。 魔法を使う」

「承知!」

 編み出したのは良いが、全く使う機会が無かった、カマイタチ(ウィンドカッター)を使う。

 ことわりに干渉して生み出した真空との気圧差で、カマイタチを作り出し、目標を切断する魔法だ。

 ただ、目標を定めて狙ったり出来ないのが欠点で、ただ前方に打ち出すことしか出来ないが、ここなら障害物も無いし、存分に試すことが出来るぜ。

 

 魔法で空間に干渉して気圧差を作り出すと、ゆっくり打ち出す。

 それはまるでそよ風のようだが、静かに忍び寄り、物を切り裂く刃になるのだ。

 当然音もしないが、野盗達は突然の風に驚いたようだ。


「なんだ? 魔法か?」 「魔導師?」

「なんの魔法かしらねぇが、こんなヌルいのが効くはずねぇだろ!」

  

 野盗の1人が剣を振りかぶり、俺に切り掛かってきた。

 俺が横っ飛びにその男を避けると、再度振りかぶり切り込む素振りを見せたのだが――。

 首から鮮血を噴き出し、そこで止まってしまう。

 自分の鼓動に合わせて噴き出す血を手で押さえようと試みるが、そのまま膝を付き事切れてしまった。


「なんじゃこりゃ!」

 振り向くと、他の野盗達も顔を血だらけにして、顔をぬぐっている。

 どうやら、カマイタチでいつ切れたのか、解らない様子。

 という、俺も野盗の何処を切っているのか、自分でもコントロール出来てないし。 こりゃ、威嚇にも使えないな。

 効果があると言えば、ある。

 俺は、圧縮弾を作ると、顔を血まみれにしてパニクっている野盗の顔面に炸裂させた――。

 それと同時に俺の脇差しがその男の背中まで貫通した。

 それを見た商人は、馬に気合をいれると馬車を発進させ、野盗の脇を擦りぬけていく。

  

「てめぇぇぇ!」

 もう1人の男の斬撃に身体を開き、半歩後退すると同時に切り上げると、野盗の顎から上が真っ二つに裂け、うめき声を上げて倒れ込む。

 すかさず男の首を両断するが、さすが研ぎ上がったばかりだ――鋭利な切れ味と武器屋のオヤジがもっている研ぎの腕に感心する。


 振り向きフェイフェイを確認すると、彼女もすでに野盗を2人仕留めていた。

「やるな」

 フェイフェイに声を掛ける。

 

「お前こそ。 真学師というのは剣術もやるのか?」

「いや、俺だけだ。 皆から変わり者だと言われるよ」


「うわぁぁぁ!」

 

 

 1人残った野盗が剣を捨てて逃げ出したが、当然見逃すつもりはない。

 男の逃げ道に圧縮弾を置き、タイミングよく解放すると、男の顔面に炸裂した。

 真っ直ぐ逃げるから、そういうことになる。

 男はそのまま倒れこみ、気を失ったようだが、そいつに近づくと仰向けにさせた。


「助けるのか?」

「まさかな」

 俺は以前から、練っていた魔法を使う。

 途端に、男の身体は硬直し、激しい痙攣を起こした後に息絶えた。


「う~ん、駄目か……。 やっぱり主神経(メイン)にアクセスしようとすると、即死だな。 こりゃ、末梢神経か神経節から攻めないと。 いや、神経伝達物質を魔法で擬似再現するというのはどうだ……」

 死体の前でブツブツと思案している俺の行動を、フェイフェイはじっと見ている。


「俺を軽蔑するか?」

「いや、それはお前にとって必要な事なのだろう?」

「新しい魔法を開発したり、確かめたりするにはどうしても実験台が必要だ」

「目的達成のためには、手段を選ぶべきではない――我々の教義だ。 地面に描いた料理は食えないとも言う」

「食えない料理の絵を地面に書く暇があったら、なんとかして食える料理を作れって事か?」

「そうだ」

 まあ、どこでも似たような考え方はあるなぁ。


「俺の故郷では――勝てば官軍、負ければ賊軍というぞ」

 死体になった野盗達から追い剥ぎをしながら、彼女と話す。


「官軍?」

「官軍というのは、軍の名前だ。 つまり、勝てば正義で、勝ったほうが歴史を好きにできるのだから、どんな手を使っても勝つべきだ――という教えだな」

「全くその通りだ」

 フェイフェイが何かを思い出し、悔しさをにじませる。

 

 フェイフェイの話だとダークエルフやエルフ達も、帝国に里を奪われて、帰る所を失った連中が沢山いるらしい。

 しかし、帝国の言い分は、彼等が謀反を企んでいるので、正義のためにコレを討った――という話になっているという。

 ああ、なるほどな。

 エルフが帝国を嫌っている訳は、コレか……。

 ダークエルフもエルフも、個々の戦闘能力はかなり高いが、帝国に負けるという事は、やはり――戦いは数だよ、兄貴! なのか。


「どうせ血に塗られた道だ。 敷き詰めるのは悪党の方が良いだろう」

 野盗の死体を指さし、俺が言う。

 しかし、ロクな物を持ってないな。 小銭すら持ってねぇ。

 まあ、こんなところじゃ、金を使う場所も無いから、持っててもしょうがないけどな。


 そんな中、俺が仕留めたうちの1人が上等な短剣を持っていたので、それだけゲットした。

 多分、誰かから奪ったものだろう。

 

 そんな追い剥ぎプレイをしていると、なにやら嫌な感じがしてくる――この感じは、ちょっとヤバいぞ。

 ハーピーと戦った時と似たような感覚が、俺の背中をゾリゾリと逆撫でしてくる。

 すると、フェイフェイが腰の剣に手を掛け、叫ぶ。

 

「おい、囲まれたぞ!」

「そのようだな」


 一難去ってまた一難ってやつ?


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