83話 ハーピー、襲来
ハーピーが出た! という声の方向へ駆けていくと、上半身が人型の羽の生えた魔物が屋根の上にいた。
ギラギラ赤く鋭い目を光らせて白い牙を剥き出し、こちらを威嚇している。
人間の叫び声に似た鳴き声もするが、人語は話せないようだ。
興味本位で、魔物を見物しに来たのだが、子供が掠われて趾に捕らわれている。
呑気に見ている場合じゃなかったわ。
子供を助けるのが先決だが、ここで逃したら、他の子供が狙われる可能性がある。
なんとかしなくては!
俺は、鞄からスリングショットを取り出すと、牽制のための圧縮弾をハーピーの顔面に食らわせた。
それと同時に放たれる魔法で加速された菱型の弾丸が奴の頭蓋を捉えた。
――が、効かない?
人間ならば即死する威力の弾丸を食らいながらも、ハーピーは叫び声を上げて飛びたった。
だが、突然の攻撃を食らい慌てたのだろう、目測を誤り隣の建物の辻褄に脚を引っ掛けて、もんどり打って地面へ向けて落下した。
その際、趾で掴んでいた子供を離して、放り投げてしまう――。
放り投げられた子供は、屋根の上に落ち、ゴロゴロと転げ落ちてくる。
「子供を受け止めてくれ!」
俺の掛け声に、大人達がワラワラと屋根の下に集まり、なんとか子供を受け事なきを得た。
ちょっと乱暴すぎる感はあったが、空に飛ばれると全く手出しが出来ないからな。 結果オーライだ。
魔法は、発動するのにタイムラグがあるので、空を飛ぶような速い動きに魔法を当てるのは至難の業だ。
少し高く飛ばれると魔法も届かないし、魔法を当てても上空から落下させたら、子供の命も無いだろう。
屋根から落ちてきた子供をチラリと確認したが、容態は不明だ。
見てやりたいが、ハーピーを押さえなければ、他の住人に被害が出る恐れがある。
俺は、魔法を展開すると、重量増大の魔法でハーピーを押さえこむ。
鳥というのは、地面を蹴って反動を付けなければ飛び立つ事が出来ない。
もしくは、水鳥のように長い距離を滑走して飛び立つかだが、こいつはイキナリ飛び立とうとしたので、前述の方だろう。
スリングショットで3発程弾丸を撃ち込むが、攻撃の効果が薄い。
ハーピーを押さえこむのに重量増大の魔法を使っているので、弾丸の加速に魔法を使えないせいもあるのか、苦痛に喘ぐ素振りは見せるが致命傷にはならない。
攻めあぐねていると、ハーピーの頭上に閃光が瞬き、小爆発が起きた。
助っ人に入った街の魔導師が、攻撃魔法を使ったようだったが、この攻撃にもびくともせずに、ハーピーはジタバタと暴れている。
なんだこいつは?
そもそも、魔法が効かない魔物なのか?
そういえば、重量増大の魔法を使ってるのに、潰れる事も無く動きまわってるな。
一瞬、押さえ込んでいる魔法を切って、圧縮弾を使おうと思ったが、魔法の効果が薄いとなると――。
こりゃ、切り込むしかないのか?
スリングショットを懐に戻し、脇差しを抜いて構えると――ハーピーの胸に矢が突き刺さる。
矢の飛んできた方向を見ると、武器屋のオヤジが弩弓を構えていた。
「オヤジさん! 助っ人感謝する!」
「こっちへ惹きつけるんで、任せてくだせぇ!」
オヤジは、次の矢を装填するために、必死にハンドルを回して、弦を巻き上げている。
「それじゃ、次の矢を装填したら仕掛ける!」
「待ってくだせぇ! ……よっしゃ~いきますぜ!」
「応!」
オヤジの攻撃と同時に、ハーピーに切り込む。 とにかく、こいつを飛び立てないようにするのが先決だ。
俺の魔法が効いているせいで、動きは遅い。 奴の左側から蹴爪を掻い潜り羽の下に潜り込んで、下から切り上げる。
――が、浅い!
羽が邪魔で、攻撃が遮られている。 しかもこの羽根は硬いぞ。
もう一度上段に構え跳躍すると、奴の背後から渾身の力で、左上腕目掛けて脇差しを振り下ろした。
両断は叶わなかったが、手応えはあった。
俺の攻撃にハーピーの翼はその機能を維持することが出来なくなり、ぶらりと垂れ下がってる。
これではもう飛びたてないだろうと、重量増大の魔法を解いたのだが、それでも必死に飛び立とうとしたハーピーが、バランスを崩してその場に倒れこんだ。
俺は、倒れこんだ黒い魔物の肩口を踏みつけ、首筋目掛けて脇差しを一閃させた。
――終わった。
と思った。 そう思ったのだが、ハーピーは俺を跳ね除け猛烈に立ち上がると、建物の壁に突進して激突した。
壁に血が飛び散り、滴る。
激突した後も止まらずに、頭が無くなった首からどす黒い血を撒き散らしながら突進を繰り返す。
その後、飛び上がろうとしたが、折れた羽でそれが叶う事もなく、そのまま倒れ込んだ首が無くなった魔物は、ただデタラメにバタバタと羽ばたきを繰り返した。
辺り一面血の海になり、地獄絵図。
まさか、こんな事になろうとは――だが、俺の頭の中にはガキの頃の記憶がフラッシュバックしていた。
俺の爺さんが、庭先で何かをしている。
何をしているのかと聞くと、鶏を〆るのだという。 爺さんは袋を用意すると鶏を押し込めた。
何故、そんな事をするのかと俺が聞くと、こうしないと首が無くなった鶏が走り回るのだという。
小さかった俺はそれを信じられず、首が無いのに動くはずが無いと言うと。
爺さんが――それじゃ、やってみようと言う。
包丁を握った爺さんが、躊躇無く鶏の首を切る。
すると、首が無くなった鶏は羽をバタつかせながら、突然走りだし、5~6mも飛び上がり辺に鮮血をまき散らした。
30秒程デタラメに走り回ると、当然の如く庭は辺り一面血だらけになり、鶏は息絶えた。
それを目の当たりにした俺は――すげぇぇぇと大喜び。
爺さんは大笑い。 騒ぎを聞きつけてきた、曾祖父さんも大笑い。
やってきた親父も大笑い。
だが、すっ飛んできた曾祖母さんは大激怒。 婆さんも大激怒。
オカンは、まるでゴミを見るような視線で、男達を見ていた。
曾祖父さんはイカれてた。
爺さんもイカれてた。
親父は当然イカれてる。
なんだ、という事はやっぱり俺もイカれてたのか……。
あのイカれ家族の中で、なんで俺だけまともだと思っていたのか。
羽をバタバタさせていたハーピーの動きが止まり、息の根が絶えると――俺はフラッシュバックから解放された。
辺り一面、血だらけだ。
ここに来て、俺はハーピーの頭を落とした事をちょっと後悔したが、他にトドメを刺せそうな気がしなかったんだよなぁ。
騒ぎが収まって、人々がワラワラと集まってきた。
壁に飛び散った血を眺めたりしている。
「おおい! 血に直接触るな! 何か病気を持ってるかもしれん。 竈に灰があるだろう。 それを掛けてくれ!」
俺の指摘に、皆家に駆け込むと、鍋に灰を入れて出てきた。
そして、皆でパタパタと灰を掛け始めた。
尻もちをついている武器屋のオヤジに手を上げて挨拶をすると、最初に屋根から落ちた子供の所へ向かう。
その子供は、母親に抱かれていたが、まだ意識は戻っていない。
脈を測ると、脈はある。
蹴爪が食い込んだのか、脇腹に血が滲む。
服をめくって傷を確認すると、鞄からアルコールを取り出して、俺の手と傷口を消毒した。
「この子の傷口を少々切開して、どのぐらいの深さの傷か確認したいのだが、いいかな? 表面の傷だけを塞いでも、内臓が傷ついていたりすると、中から腐ってしまう。 そうなると助からん」
母親に確認すると、彼女は黙って頷いた。
鞄からメスを取り出して、魔法で加熱して消毒する。 傷口を切開して確認するが、内臓まで届いていないようだ。
再生魔法で皮膚を塞いでいると、助っ人をしてくれた魔導師がやってきて、治癒魔法を掛けてくれた。
ひょろりとした若い男の魔導師だ。
「すまんな」
「なに、困った時はお互い様ですよ」
「料金が必要なら、お城に請求してくれ」
――と俺が言うと、その魔導師は苦笑いをしていた。
男の子の母親に声を掛ける。
「後で俺の師匠が来るかもしれん。 見てもらうと良い」
「あ、ありがとうございます」
母親は、子供を抱いたまま、ペコペコとお辞儀している。
辺りは、灰を撒かれて、赤黒から白と色を景色を変えていた。
首が無くなった黒い骸を前にして、どうしようかと思い悩んでいたら、白と黒のローブを着た2人がやって来た。
師匠とステラさんだ。
師匠は一緒にやって来た役人達になにやら、指示を出している。
「師匠! 怪我をした子供がいるんです。 ちょっと診てくれませんか」
俺は師匠に駆け寄り声を掛けた。
――が、師匠はこちらをチラリと見ただけ。
これだ。
この人、自分の興味のない事はどうでもいい人なのだ。 目の前の人が死にそうでも、お構いなし。
一方ステラさんは、滅茶苦茶な普段とは裏腹に、お願いすると面倒くさいと文句を言いつつも、処置してくれるのだが。
俺は師匠に、重量軽減の魔法を掛けると、彼女を担いで走りだした。
「ちょっと、ショウ!」
怪我をした子供の前で、師匠を下ろすと、大声でお願いした。
「師匠! お願いいたします!」
直立不動の俺を見た師匠は、ため息をつくと、子供の容態を診始める。
「身体の傷は塞いだのですが、頭を打ったみたいでして」
師匠は、子供の額に手をかざしていたが、すぐに手をおろした。
「気を失っているだけです。 大丈夫です」
「あざーっす!」
深々と師匠に礼をし、子供の母親に挨拶をすると、また師匠を抱え元の場所に戻ってきた。
「もう、ホントに……」
何かブツブツと言っている師匠と、骸の前で、話し込む。
ステラさんも混ざって話を聞くと、この死体をお城に持ち込み解体するという。 死んだばかりのハーピーの身体というのは中々貴重な研究材料らしい。
え~? こんなデカイのどうやって運ぶのだろ? と思っていたら、ゾロゾロと荷車を引いた暗い表情の男達がやって来た。
粗末な服と、首と手首には黒い刺青。 そう、奴隷だ。
野生動物から、病気に感染することも多く、この魔物も病気を持っている可能性が否定出来ない。
だからこそ、奴隷の出番なのかもしれないが、色々とリスクを考えると少々気の毒ではある。
まあ、俺の口出しできる事ではないが……。
奴隷達に手袋が配られると、積み込みが始まった。
手袋は、大ガエルの皮から作られていて、汚れ物等を弄る際に利用されるこの世界では定番の物だ。
奴隷達が荷車に骸を積み込む作業をしていると、白馬に乗った殿下がやって来た。
「ショウ! これは、其方が仕留めたのか?」
馬上から、殿下が躯になった黒い魔物を見下ろしている。
「そうです。 あそこにいる、武器屋の主人に助けて頂きましたが……」
「ほう!」
馬から降りた殿下は。武器屋のオヤジに近づくと声を掛ける。
「此の度は、妾の真学師を助けてもらい感謝致す」
「はは~っ」
オヤジは土下座をして畏まっている。
それを見た殿下は、俺の方にチラリと目配せをした。
あ~はいはい。
「武器屋の勇気溢れる行動に敬意を表して、ここに金貨2枚が其方に与えられる」
俺の巾着袋から、金貨を2枚出してオヤジにやる。 殿下は普段、お金とか持ち歩いていないから仕方ない。
「へへ~っ! 有難き幸せ!」
どうでも良いけど、この金貨後で戻ってくるんだろうな?
そんな心配をしていると、オヤジは孫に自慢できるとか喜んでいる。
そういえばと、もう1人の助っ人、若い魔導師を探したのだが、すでに姿は無かった。
なんだ、欲のないやつだな……と思っていると。
あ、思い出した! 何処かで見たようなと思ってたら、フリフル峡谷にいた魔導師だわ。
言ってくれれば良いのに。 だから苦笑いしていたのか。
武器屋のオヤジと殿下で寸劇をしている間に、黒い魔物の骸は、荷車に積み込みを完了して、お城へ動き出していた。
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ハーピーの死骸はお城の中庭に運び込まれて、その首のない無残な姿を晒し、その横には、俺が落とした奴の頭がある。
漆黒のエプロンをして、手袋を嵌めたステラさんと師匠、そして奴隷達も作業を手伝い、その骸を解体していく。
顔には長い鳥の嘴のようなマスクをしている。 こんな物もあるのか。
生臭い臭いが立ち込め、内臓の内容物を確認するために、切り開くと悪臭が漏れる。
こんなに中庭を汚して大丈夫なのかな? と思うが、火薬の製造に使った汚物の臭いも、精霊魔法で浄化出来たぐらいだから、平気なのかな?
「1人でやったんじゃ、大変だっただろ?」
ステラさんが解体作業をやりながら、マスクを通したくぐもった声で話しかけてくる。
「武器屋のオヤジが助っ人してくれましたよ。 それ解体してどうするんですか?」
「こんなに新鮮なハーピーの死体は中々ないからねぇ。 これは貴重な資料だよ」
「ショウ、私の部屋から裸の黒板を持ってきてください」
「あ、私の所からも、お願いぃ」
「わかりました!」
走り回り黒板をかき集めて、師匠達に渡すと克明に解剖の記録がなされていく。
マスクの目に透明な板が嵌っているので、気になったのだが――ガラスじゃないだろうし……後で聞くと『雲母』 だという。
その作業を眺めていた俺はというと、フラッシュバックの発作のせいでちょっと調子が悪い。
流れ出る内臓やらを見ていると、首のない鶏が走り回った後、その鶏を捌いた時の事がフラッシュバックしてくる。
砂嚢には、ホントに砂が入っているんだぞ――と、砂嚢を真っ二つにすると、中に砂がビッシリと入っている光景やら。
卵になる前の卵黄が数珠のように連なっている卵巣の光景やら。
そんな光景がフラッシュバックしてきて、頭の中が一杯になる。
やっぱり、首なしハーピーの暴走がトリガーになったな……。
まさか、こんな異世界にフラッシュバックのトリガーがあるとは。
青い顔をして、俺がフラフラしているのを見て、ステラさんが笑っている。
「なに? こんなの見て、青くなっているのぉ?」
「いや、そういう訳ではないんですが……今日はちょっと疲れました」
「まあ、こんなのを相手にしたんじゃね? 魔法も余り効果なかったでしょ?」
「そういえば、そうでした。 魔物ってみんなこんな感じなんですか?」
「まあねぇ。 全く効かない奴もいるしね。 普通は面倒だから、戦わないんだよぉ?」
そういえば、ウィルオーウィスプを見た、師匠も面倒だから離れましょうと言ってたな。
「子供が掠われたので、やむを得ずなんですけど」
「全く、君は奇特だねぇ」
ステラさんはケラケラと笑っているが、褒められているのかバカにされているのかイマイチ解らん。
「あの~申し訳ないのですが、今日は調子も悪いので、自分の部屋に戻ってもいいですか?」
「ええ? それは良いけどぉ、これは君が仕留めた獲物だから、君の物なんだよ?」
「処理の仕方とか売り方とか全然解らないので、ステラさんにお任せしますよ」
「それは構わないけど、私がやると手数料とるよ?」
「もちろん、良いですよ」
「それじゃ……」
ステラさんは死体の腹の中に手を突っ込むと何かを探し始めた。
「あったぁ。 ほら、これは君にあげるよぉ」
そう言ってステラさんは、何かを投げてよこした。
「なんですか?」
受け取ると、親指程の小さな石?
「結石ですか? これ?」
「そう。 中々貴重な物だよ。 香料とかに使われたりするんだ」
「へぇ……臭っ!」
臭いを嗅ぐと臭い!
「少量使うんだよ。 そのまま嗅いだら、臭いに決まっているじゃん」
ステラさんは笑っている。
そういえば、元世界で鯨の結石が凄い値段で取引されるとかなんとか、値段がウン百万円とか。
「高いんですか?」
「その大きさだと、金貨20~30枚(400~600万円)かな。 欲しい人がいればもっと値段はあがるかもしれないよぉ」
「へぇ。 他に貴重な部位とかはあるんですか? あ、飾りとか作りたいんで、爪は欲しいかな」
「ああ、それじゃ、爪は取っておくよ。 後は骨かな。 軽くて丈夫だから、よく使われるよ。 それと羽ね」
「じゃあ、適当に見繕ってください。 残りはステラさん差し上げますよ」
「いいの? ホントにぃ?」
「はい」
師匠は、そんな俺とステラさんの会話には興味が無いらしく、凄い集中力で黙々と黒板に書き込みをしている。
危険な魔物をわざわざ倒して、研究する人もいないようで、こういう機会は滅多にないチャンスのようだ。
他の動物と同じように、胆嚢等は薬として珍重されるし、その他の部位もそれなりの金額で取引されてるので、ハンターも存在するらしいのだが。
ただ、通常ハーピーは群れで行動するらしく、今回のは、はぐれハーピーだったのも幸いしたようだ。
確かに金にはなるだろうが、危険すぎる。 魔法の効きは悪いし、大魔法で焼いたら金にならない。
こんな危ない仕事は、俺は勘弁だな。
俺の工房に戻り、ベッドに横たわる。
しかし、魔物に魔法は効かないだろうけど、火薬の武器は効果あるだろう。
対魔物兵器としても、火薬は有効な手段になるかもしれないな。
例えば、銃じゃなくても、矢尻に火薬を取り付けて魔物の体内で爆発させるとか。
ベッドに寝転んで色々考え込んでいると、フローがやって来た。
「ショウ! ズルいっすよ! あたしも何か貰うっすよ」
「フロー……気分が悪いんで勘弁してくれ」
「治癒魔法掛けるっすか?」
「精神的な物だから、治癒魔法は多分効果ないだろ。 寝る」
「ショウ~」
寝ている俺に、フローが抱きついてくる。 ウザいのだが、払いのける気力もない。
「ハーピーの処理は、ステラさんに任せてしまったから、ステラさんに言ってくれよ……」
俺はぐったりしたまま答えた。
「解ったっす! ステラ様~!」
フローが、俺の工房から飛び出て、ステラさんの所へ向かうと、ステラさんの叫び声が聞こえる。
なんだか、揉めているようだが。 今日はダメだ……。
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結局、そのまま眠ってしまい、目が覚めたら翌日の朝。
起きがけにふと思ったが、首の無くなった鶏は走り回った挙句死ぬんだが、結局は血が無くなったための失血死なんだよな。
それじゃ、首を切った瞬間に血止めが出来れば、ずっと生きてるかも……。
寝ぼけ頭でぼんやりと考えながら、テーブルを見ると。
黒板に書き置きがある。 ステラさんの字だ。
一緒に、ハーピーの羽が30本と、爪が4本置いてある。
骨は専門の業者が処理をしてから、渡してくれるそうだ。
あと、羽は風通しのいいところに干さないと、虫が湧くから注意と書いてある。
虫?
まあ、羽といってもタンパク質だからな。 湧くかもなぁ。
ステラさんの忠告に従い、工房の天井にロープを張り、そこに羽を吊るすことにした。
羽は、矢羽を作るのに重宝されるという。
弓矢を作る予定はないが、お宝としてストックしておこう。
貰ったハーピーの爪で何を作ろうかと迷ったが――試しにサイコロを作ってみた。
この世界にも、双六のようなボードゲームはあるので、サイコロもあるのだが、フライス盤で簡単に作れるからな。
材料の質が解ったので、残りは簡単な加工と組紐を組み合わせて、アミュレットを作った――が。
フローに取られてしまう。
俺からもらったと、他の人に言うなよ――と言っていたのに、結局バレて他の人にも強請られる羽目に……。
そんな事を言われても、ハーピーの爪はもう無いんだよ。
どうすりゃいいのさ?