82話 CQCQこちら異世界
お城の東側に広がっている無人地帯――かつての古戦場跡。
そこに爆炎が上がり、白いキノコ雲が天高く舞い上がる。
数秒後に、俺達がいる城壁の屋上にも爆風が押し寄せ、殿下の純白のスカートが爆風に靡く。
「「すげぇぇぇ!」」
俺の目の前にいる男達の声が、ハモった。
頭をモヒカンにしたこいつ等は、チッチとカッカという双子のチカ兄弟。
モヒカン頭と言っても、スポーツ刈りのモヒカンで、元世界の軍隊にもこんな頭の兵隊がいたような気がする。
元々猟師だったのだが、目が異常に良いので、それを買われてお城の見張り役をやっていたのを俺がスカウトしたのだ。
どのくらい目が良いかというと、1000mぐらい離れた所にいる動物の種類が解ると言う。
実際、猟師としての腕もかなり良かったらしいのだが、全然儲からないので止めたようだ。
そりゃ、お城勤めの方が稼ぎは良いからな。
ここら辺にも、能力重視の人事採用をしている、殿下の雇用方針が効いている。
逆に身分だけで、今まで良い仕事にありついていた貴族達はぐぬぬ……となったわけだ。
「やっぱり、俺の狙いが良いせいだな」
「てやんでぇ、俺が狙っても同じだろうが」
「こら、殿下の御前だぞ、止めろ」
俺が窘めるも、延々とやっている。
この兄弟、いつもこんな感じで喧嘩をしている、ホントに仲が良い。
ただ、同じ格好同じ髪型なので、どっちがどっちなのか全然解らんのが玉に瑕だ。
目が凄い良いという話だったので、俺が作った迫撃砲の観測員に雇ったのだが、試しに撃たせてみて欲しいと言われて――模擬弾を撃たせてみたらバンバン的に当てやがる。
まさに百発百中。
まだ、銃は完成しておらず筒だけの状態で、しばらくは配備は出来ない。 しかし、銃が完成したら狙撃兵をやらせようと思っている。
掘り出し物とはこの事か。
「おおっ! やはり凄まじい威力だの。 どのくらい飛ぶのだ?」
殿下が身を乗り出して、着弾地点を眺めている。
「今のところは1/4リーグ(約400m)といったところですか」
「これが全部、理で行われているとはな」
「もう少し、大型の物を作れば、倍は飛ぶと思われますが、移動や装填が大変になってしまうので」
「なるほどの」
「真学師様、この筒と魔法の粉があれば、俺達にも魔法と同じ力が使えるって事ですよね?」
「そうだが、お前らこれは他言無用だし、粉も持ち出し禁止だぞ」
「わかってますよ」
「上手くやれば、高い給金も払ってやるし、もっと凄いのも撃たせてやるから楽しみにしてろ」
「まじっすか?」「やったな兄貴!」
チカ兄弟はその場で小躍りをし始めた。
まったく、殿下の前だってのに。
「よいよい。 この件はショウ、其方に任す」
「承知いたしました」
殿下が階段を降りて見えなくなったのを確認すると、チカ兄弟に特別手当をやる。
「コレで飯食って、一杯やれ」
「やり~!」「兄貴、何食う?」
「戦闘になって、大物でも仕留めれば、殿下から直接褒美が貰えるぞ」
「マジっすか?」「俺達にも運が向いてきたぜぇ」
兄弟はギャアギャアと大騒ぎだ。
今回テストした大型迫撃砲は、外装式の物。
元世界の軍隊等で装備されている迫撃砲は、筒の中に弾を入れるが、この迫撃砲は筒の外側に被せるように、大型の弾頭を装填する。
弾頭は分厚い木製で、竹製の箍が隙間無く嵌められて、頑丈な樽といった構造になっている。
もちろん、元世界の迫撃砲のように何千mも飛ぶことはない。 それでも威力はそれなりにデカイ。
今は仮弾で運用しているが、本番では威力を増すために、鉄片を混入する予定だ。
これを全部鉄製にしたとすると、重量オーバーで飛距離が大幅に落ちてしまう。
筒内に火薬を入れて、根元にある撃発装置に金属製のキャップに火石が仕込まれた雷管を差し込む。
そして、弾頭をセットして紐を引くと発火――発射されて、筒の角度と火薬の量で決められた放物線を描いて目標に着弾する。
本当は、計算式で求められる放物線を、この兄弟は脳みそというアナログコンピュータではじき出すのだろう。
隠れた才能を持ってるやつがいるもんだと、改めて感心する。
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――ある日、俺は新しく作った機械の前で、腕組みをして機械が動き出すのを待っている。
近距離では実験は成功したのだが、遠距離ではどうなるか……。
じっと、機械を見つめていると、いつの間にか俺の後ろに殿下が立っていた。
「何をしておる?」
「おっと! びっくりしたぁ。 殿下、驚かせないでくださいよ」
「呼んだのに、返事もせずに何を言う」
「それは、気づきませんで、申し訳ございませんでした」
「それで、この怪しげな機械は一体何なのだ」
「これは! 人を狂わす魔力を放出する機械でございます。 フヒヒヒヒ」
殿下が、じ~っと俺の顔を見ている。
「乗りが悪いですね」
「其方、妾を愚弄して遊んでおるだろ?」
「もう少し、怖がっていただかないと」
「其方の戯言を相手にするのは、愚かな事だと気付いたのでな」
「それは残念。 でも、戯言だけじゃなくて、たまに本当の事も言うのですよ?」
「で、これは? 何の機械なのだ?」
無視された。
「う~ん、ちょっと説明が難しいですね。 実験が上手くいけば、説明できるのですが……」
どう説明をしようかと考えていると、機械が動き出した。
動力はソケット化された魔石電池に繋がれたモーターだ。
自己保持回路がONになり、モーターは黒く塗られたドラムを回すと、その上に塗られた蠟を削って模様を刻んでいく。
ドラムの直径は20cmほどで、黒板と同じ仕組みだ。 そして、15秒程ドラムは回り続けて、ゼンマイ式のタイマーで物理的に電源が落ちる。
製作した機械制御と構造は、バイトの経験が物を言っている。
俺がバイトで行っていたのは、工業用の電動パレットラックを製作している会社だった。
パレットラックといっても、建物や工事を担当している現場の会社ではなくて、制御基板等を作る会社だったけどな。
そこで、モーターやらリレーを使っての、制御の仕方を少々勉強したわけだ。
まあ、異世界でこんな物を作るとは夢にも思わなかったのだが……。
「その刻まれた模様が何だというのだ」
「この模様を黒板に写しとります。 そして、この模様を暗号表の通りに文字に変換すると……」
――ミルーナデス キコエマスカ?――
「このような、文章になるのです」
「……」
なんだか、殿下は無反応だ。
「それでは、こちらから送ってみましょう。 まずは文章を作成します」
――ショウデス キコエマシタ イマデンカガキテイマス――
「これを暗号表の通りに模様に変換して、模様の順番通り木型を並べます」
おれは、『・』 と『―』 が掘られた木の板を並べて、機械にセットした。
木の板をセットした台を、右側へ移動させると、バネで左側へゆっくりと動き始める。
そして、木板に彫られた模様通りに打鍵が打たれたのを確認して、工房の外へ出て屋根を見る。 天辺に設置された鬼の角から魔力が放出されるように、2本の電極から青白いスパークが飛ぶ。
このスパークが飛んでいる電極は、最初鉄製だったのだがあっという間に摩耗してしまい、今はイリジウムに置き換えてある。
打鍵によって通電された電気は、1次コイルから2次コイルと通過するうちに、超高圧に昇圧され電極にスパークを飛ばす。
これは、俺が弄っていた愛車のイグナイターを参考にして作った物で、バイクや車のスパークプラグと同じ仕掛けだ。
「というカラクリなのですが……」
「……」
殿下は機械をじっと見つめたままだ。
すると、また機械が動き始めた。
ドラムに刻まれた模様は短い。 すぐに解読する。
「え~と――マケマセン―― どういう意味だ?」
「ショウ、こう返してやるがよい。 ――其方は負け戦が好きなようだな――と」
「はぁ」
おれはすぐに暗号に変換して機械にセットした。
「ショウ! 会話しているのは、伯爵領のミルーナなのか?」
「はい、そうでございます」
「要するに、遠距離間で会話が出来る機械であると?」
「その通りでございます」
「す、凄いではないか!」
やっと殿下が反応してくれた。 しかも、有用性を理解していただけたようだ。
「最終的な目的は、帝国にいるミズキさんと連絡が出来るようにすることです」
「そんな遠くとも会話が出来るのか?」
「やってみないことには解りませんが、多分できるでしょう」
「むう」
「今まで馬を飛ばしても、4~5日掛かる情報が、1/4時もしないで手に入るのです。 例えば、帝国が軍を動かしたとしましょう。 その動きが瞬時にファーレーンに届いて、帝国の進撃に備える事が出来るようになるのです」
「ハハハ、それでは帝国で何かが値上がりするとして。 他国はその情報を入手するのに数日かかるのに、妾は瞬時に知ることが出来るということであろう?」
「そして、事前に買い占めれば大儲けに……」
「ハハハ、クックックッ! この悪魔め! これではイカサマ博打ではないか」
殿下は腹を抱えて大笑いをしている。
「まあ、そんな感じですよね。 もちろん、これは他国には渡せない秘中の秘になりますが」
「渡せるはずがないであろう」
「どうだ、ライラ。 俺もたまには本当の事を言うだろ?」
俺は殿下に近づくと、手を広げて言う。
それを見た殿下が、俺の両手の中に身体をドン! と預けてきた。
「妾が欲しいのであれば、強引に奪えばいいではないか。 其方なら赤子の手をひねるようなものであろう?」
「俺は殿下をお守りするって約束したんだよ。 傷つけるためじゃない」
「この胸も其方が揉めばもっと大きくなるぞ」
「抗い難い魅力があるけど、今は止めておくよ」
それを聞いた殿下は、プイと横を向いてしまった。
殿下と色々と今後の打ち合わせをしていると、ミルーナがわざわざ伯爵領からお城へ凸してきた。 この早さは魔法でやって来たに違いない。
「私は負けませんわよ!」
息を切らしたミルーナが俺の工房へ駆けこんできた。
「やれやれ、妾とショウの鋼鉄の絆に割って入ろうなどと、ご苦労な事だ」
「ショウ様! なんとか言ってくださいまし!」
「いや、なんとかと言われてもな」
「悔しいい!」
「其方は黙って輿入れしておれば良い」
「ぴいい!」
なにか叫んでいるミルーナは置いといて、俺が作ったこの機械は電信だ。
文章をトンツーのモールス信号で送受信する機械。
回路のヒントは、親父が持っていた電○ブロックという玩具だ。
スパークを飛ばしているのが、一番原始的な火花送信機。 回転するドラムが受信機で、検波には交流直流変換の際に作った2極真空管を使っている。
変調も無しで、受信機も同調回路すら付いていない、一番原始的な送受信機だ。
要は、空気中にノイズを飛ばして、それを信号に使っている。
受信のためのアンテナは、城壁の上に張ってみた。 雷が怖いが、ここら辺は滅多に雨も降らないし、大丈夫だろう。
元世界でこんなものを作ったら、近所のTVやPCにノイズが入りまくり、すぐに警察と昔でいう電波管理局がすっ飛んできて、後ろに手が回ることになるだろうと思われる。
しかし、この世界には電波法などないから、飛ばし放題。
欠点としては、周波数も関係なくノイズを飛ばしているだけだから、混信に弱い。
複数の機械を同時に使ったりはできないだろうが、今のところどうしても必要なのは、帝国とファーレーン、この間の通信だけだ。
ファーレーンと伯爵領間の通信は上手く入ったので、機械を馬車に積んで距離を延ばす実験が続いて行われた。
殿下選抜の電信要員を馬車に同行させて、操作訓練を兼ねた実地訓練だ。
天守閣東側の屋根裏に電信部屋を作り、そこからアンテナを張り帝国からの通信を受けている。
順調に距離は延びたが、帝国との国境辺で、動作が怪しくなった。
これに付いては性能アップさせるしかない。 急遽電源用の魔石を増強し出力アップ。
もう1つは、2極真空管を改良した3極真空管である。
2極真空管と3極真空管の大きな違いは、増幅作用があることだ。
真空の中を電子が飛ぶ2極真空管の間にグリッドと呼ばれる第3の電極を挿入し、マイナスの電圧を掛けると、あら不思議――。
取り出される電流が増幅されるのだ。
なぜ増幅作用が起きるのか? 俺にも解らん。
そして、低周波増幅用の三極真空管を製作して、低周波一段増幅回路に改造。
かなり性能が上がった。
最初は慣れない作業に戸惑っていた電信要員だったが、すぐに操作に順応したようで、俺にアレコレ聞いてくる。
そこは、天守閣の屋根裏に作られた電信専用の小部屋だ。
屋根裏なので、日光で暖められた屋根の熱が篭って、結構暑い。
電信要員は全て女性なのだが、あまりの暑さに皆肌を出しての薄着をしているので、目のやり場に困る。
過酷な職場で可哀相という事で――モーターと魔石で動く扇風機をプレゼントしてあげた。
ファーレーン近辺は湿度は低いので、風があればそれなりに涼しい。
「真学師様、これってもっと小さくならないんですか?」
電信要員の女性が機械を差して聞いてくる。
「小さくか……今のところはちょっと無理だろうな。 小さくしてどうする?」
「ちいさくなれば持ち運んで、友達と色々話せるじゃないですか」
「まあ、そのうちそういう事も出来るようになるかもな。 例えば、この黒板に文字が出て、この大陸中の人と会話できるようになるとか」
「ええ~っ! それって素敵ですよね?! いつ頃、出来るようになるんですか?」
「そうさなぁ……順調に技術が進んで、100年後か200年後か」
「なんだぁ、すぐには出来ないんですね。 そんな先じゃ、あたし死んじゃってるじゃないですか」
質問してきた女性はブーブー文句を言っているが、なにせ5000年もグダグダやってきたこの世界だからな。
俺が持ち込んだ技術や知識も引き継がれることもなく風化して、元に戻ってしまう可能性だってある。
引き続き行われた実験によって、最終的には帝国へ運び込んでも通信が可能だと解り、電信はミズキさんが活動拠点としている屋敷に装備された。
送信用の電極はなるべく高い所にセットしてくれと頼んだら、屋根の天辺に取り付けたらしい。
火花が飛んで目立ったりしないのか? と思ったが、拠点の屋敷は帝都の外れにあるらしく、大丈夫のようだ。
取り付けや設置に、俺が出向きたかったのだが、生憎帝国に指名手配されてる身。
代わりに、帝国に詳しいリンを連れてミルーナに行ってもらった。
ミルーナは俺と一緒に実験を繰り返して、電信の機械に精通していたので、セッティングにも存分な働きをしてくれた。
同行したリンの身バレを心配していたのだが、諜報間諜の拠点は彼女が住んでいた貴族街とは反対側にあるということだったので、心配無いという。
貴族街とかあるのかよ。 そんな所に住んで、外界を見下ろしているから国が傾くんだ。
リンに帝国へ戻りたいなら、そのまま戻っても良いと言ったら――
「何故、そんな事を仰るのですか?」
と泣かれてしまった。
オマケに、ミルーナにも無神経過ぎると怒られてしまった……スマン。
電信による定時連絡は1日2回。 受信機の電源は入りっぱなしなので、火急な連絡もすぐにとれる。
そのため、魔石の充填代が頻繁に掛かるが、受け取れる情報の価値の前には些細な経費だ。
検波に真空管を使わなければ、もっと節電が可能なのだが。
とりあえず、替えの真空管は10本ほど持たせた。2極管と3極管の違いも説明をしたが、ちょっと心配だ。
調子が悪かったなら、魔石か真空管を替えてみてくれと言ってある。
手持ちの真空管は全部送ってしまったが、暇を見て製作中だ。
手作り真空管を連続使用したことが未経験故、どのくらい持つのかは未だ不明だ。
それでも半年や1年ぐらいは持つと思うのだが。 どうしようもないトラブルなら、代わりの機械を送るしかなくなるが……。
何分、初めての運用だ。 なにもかも手探り状態だが、構造的にはシンプルだから、故障は無いと思うのだがなぁ。
ちなみに、帝国からの初めての電信は――オハヨウゴザイマス テイコクハアメデス――だった。
帝国に設置された電信からもたらされる情報は、帝国の動向、物品の相場、ゴシップ等々、多岐に渡る。
早速殿下は、手に入れた情報を使って、色々な物を売買したりしているようだ。
全く商魂逞しいとしか、言いようが無い。
まあ、殿下も言っていたが、絶対に勝てる博打みたいなもんだからな。
今のうち、稼げるだけ稼ごうという魂胆だろう。
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時間が空いたので、城下町をブラブラしてみる。
いつの間にか、ポテチを売る店や出店が増えてる。
ポテチを師匠達に食わせたが、凄く美味しくて気に入ったらしい。
もっと食いたいという事だったので、お城の食堂に作り方を教えて常備してもらっている。
食堂でも人気らしいので、そこから広がったのかな?
まあ、作り方は覚えれば簡単だし、材料は芋と油と塩だけだしな。
ポテチだけじゃなくて、芋を揚げるという事にヒントを得たのだろう。 元世界のポテトフライに似た食べ物も売りに出されている。
1つ買ってみたが、味はまんまポテトフライだ。
飯を食いに燦々亭に行ってみたが、ここでもポテチだ。
普通に料理として、ポテチとポテトフライが出されている。
炭水化物と油の組み合わせは、あまり健康上よろしくないんだがなぁ、大丈夫だろうか。
元世界の知り合いに、毎日の昼食代わりにポテチを食い続けて、尿管結石になった奴がいる。
そういう奴が、増えないだろうな?
アレは地獄の苦しみらしい、ここには結石を粉砕する超音波破砕機とかないし。
でも待てよ、魔石で超音波を出せるから、破砕機を作れるかもしれないか……。
それでも、身体内部の結石を破壊するだけのパワーを出せるのかは、甚だ疑問だが。
「あら、真学師様。 とんとお見限りでしたわねぇ」
「すまんな。 色々と忙しくてな」
いつもの肉焼きを頼んで食い始めると、女将さんがやって来た。
「たまに、お城の東側で大きな音がしてますけど……」
「あれは、俺の魔法の実験だ」
「帝国と戦争になるって噂もあるんですけど。 どうなんでしょう?」
「今のところはなんとも言えないな。 帝国に行っている知り合いからは、そんな動きは無いという話なのだが」
「そうですか……。 心配ですよ」
「ここには俺の師匠もエルフ様もいるし、ファーレーンに直接やって来るとは考えにくいがな」
「やっぱり、喧嘩をするなら弱いやつからですかね?」
「どうだろうなぁ。 帝国から一番目の敵にされてるのがファーレーンなのは間違いないけどな。 まあ、準備は万端整えてるよ」
しかし、可能な限りファーレーンを戦争に巻き込みたくはないなぁ。
燦々亭を出て、散歩しながらそんな事思う。
武器屋を冷やかしていたら、何やら外が騒がしくなってきたので、何事かと思って表へ出ると、誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。
「ハーピーだぁぁ!」
ハーピー? マジで? マジもんの魔物が?
是非とも見たいので、人々の叫び声が聞こえる方向へ走っていった。
――すると。
それはいた、屋根の上に。 しかし、なにやら薄汚れた黒い物体にしか見えない。
上半身は人っぽいのだが、黒いのでオスなのかメスなのかは判別出来ず、長い髪らしきものも生えてはいるが、あれが髪の毛なのかすら解らない。
その魔物が羽を広げる――デカい。 端に行くほど赤みを増す翼長は5m以上あるだろうか。
上半身はほとんど筋肉の塊のようで、逆に下半身は細く、殆ど骨のように見える。
見た目近いのは、ホウレンソウを食べたポ○イ――あの逆三角形の手先に羽がついてる感じだ。
う~む、キモいわぁ。 さすが異世界。
マジな魔物らしい魔物がいるとは。
「あああああ! 誰かぁ! アルを! アルを助けてぇ!」
1人の女性が半狂乱になっている。
女性がハーピーの足元を指さしながら必死に叫ぶ。
どうやら、子供が掠われたらしい。
よく見ると、屋根に止まったハーピーの趾に子供が握られている。
クソやべぇぇぇ!
呑気に魔物見物してる場合じゃなかったわ。





