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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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80話 爆発は男のロマン


 火薬の原料を生成する実験のために、師匠の家に来ていたが、夜にステラさんに乱入されて大変な事に。

 色々とあった後、一段落して朝になったのだが、朝食の材料が無い。

 まさか、師匠とステラさんがやって来るとは思わないので、俺1人分の食材しか用意してなかったのだ。

 仕方ないので、朝飯の材料にするために、ここら辺に生息しているウ○コ蜘蛛を捕まえる事にした。

 コイツの脚は、蟹並に美味いのだ。


 ウ○コ蜘蛛が、隠れていそうな大きめの葉っぱをめくりながら歩く。

 この蜘蛛は巣を作らない。

 糸を出すのは子育てをする時だけで、子蜘蛛を守るためのまゆを作る時にしか糸は出さない。

 探すと意外と見つからない蜘蛛だが、今日はあっさりと発見できた。

 少々小さい蜘蛛だったが、スイトンの具に入れるだけなので、こんなもんで十分だろう。

 生け捕りする必要もないので、魔法で加熱して蜘蛛を捕らえる。

 可哀想だが、脚だけもぎ取ってポイ。 ついでに、脚も十分に魔法で加熱して下処理してしまう。


 ちょっと、青物も欲しいなぁ――とウロウロと探し回ったら、元世界で実家の裏に生えていたオオナルコユリと似た植物を見つけた。

 こいつの若芽は甘くて美味い。

 この植物は、白い小さな花がまるで鳴子なるこのように列をなして花を付けるので、その名前が付いている。

 見た目は、スズランに似た感じ。 スズランは猛毒だけどな。


 確かに若芽は美味いのだが、指ぐらいの太さになるのに10年ほど掛かるので、栽培には全く向かない。


 でも、待てよ。


 魔法を使えば促成栽培が出来るじゃん。

 この世界にはアスパラガスとかは無いので、その代わりになるかもしれないな。

 まあ、これが本当に食えるか、師匠に確認してからだな。

 似ているけど、ホウチャクソウとかは毒があるし。


 ウ○コ蜘蛛の脚と青物をゲットして、俺は調理をするために台所に戻った。


 芋の皮を剥いて小さく刻み、鍋に入れて魔法で加熱する。

 かまどを使ってもいいが、時間が掛かるので、手っとり早く魔法を使ってしまう。

 加熱して身をほぐした蜘蛛の脚と青物は、食べる直前に入れた方がいいだろう。

 

 小麦粉を練って小さな玉を取り、薄く延ばしてちょっとつまむと、リボン型になる。

 パスタでこんな形をしたものがあったような気がするが……。

 出来上がったパスタもどきを芋の鍋にいれ、昆布だしと岩塩を入れて煮込んでいると、師匠が起きてきた。


「師匠、おはようございます。 これ、私の故郷で食べられている植物の若芽に似ているのですが、食えますかね?」

 俺は、オオナルコユリの図を、黒板プレートに描いて、説明をしてみせる。

 ボサボサ頭で、寝起きな表情をしている師匠の話だと、オオナルコユリと同様の植物で間違いないという。

 

 芋が煮えたので、蜘蛛の脚を入れて、若芽を刻んで入れる。

 一見、アスパラのように太いのだが、開く前の大きな葉っぱが折りたたまれた構造になっているので、スープに入れると開いてその中を緑の葉が揺蕩たゆたう。

 本当は、少々灰汁抜きした方がいいのだけど、少しかじったところではなんともなかったので、大丈夫だろう。


 ちょっと出来上がったスープはパスタっぽいけど、一応スイトンってことにしておく。


 ちょっと、味見をしてみるが、蜘蛛の出汁ダシが出ていて、凄い旨い。

 師匠とステラさんの皿に盛りつけ、一緒にパンを持って居間のテーブルで待っている師匠に給仕。 俺の部屋で寝ているステラさんにも持っていく。


「ステラさん、出来ましたよ」

「ホント! 食べる食べるぅ! いい匂いがしてたんだよぉ」

「お腹大丈夫なんですか?」

「うん、治癒魔法も掛けたし」


 ステラさんは、大丈夫みたいだな。

 

 俺も、自分の皿によそう。 テーブルに行くと、師匠はすでに食べていたのだが、見るからに不機嫌そう。

 ゲテモノ食いに拒否反応を起こす師匠だが、この蜘蛛は以前食べさせたので、それ以来平気なようだ。

 ステラさんが言うとおり、食わず嫌いなんだよな。

 とは言え、無理矢理食べさせるのも俺のエゴかと思い、最近は考えを改めている。

 

「お味はどうでしょう?」

「美味しいわ。 後で、この野草がどこに生えていたか教えて」

「根を掘るんですか?」

 師匠が、黙ってうなずく。 オオナルコユリの根は滋養強壮に効くので、採取するのだろう。

 若芽同様、ある程度の大きさになるのに10年以上掛かる貴重品で、漢方薬にも使われている。


「ショウ! オカワリ!」

 ステラさんの大声が響いてくる。

 

「はい? ステラさん、そんなに食べて大丈夫なんですか?」

「大丈夫、大丈夫!」

 壁越しにそんな声が聞こえる。

 


 俺がオカワリを用意するために椅子から立ち上がると、師匠が何かつぶやいた。


「……死ねばいいのに」


 俺は冷や汗を流しながら聞こえない振りをした。


 ------◇◇◇------


 朝飯も食い終わったので、昨日の続きをするために、汚物のかき混ぜ作業をする。

 異世界に来て、なんでこんな物をかき混ぜているのか甚だ疑問でもあるが、ファーレーンを守るためだと、自分に言い聞かせる。

 昨日の作業から手順は掴めたので、順調に作業は進むが、ちょっと違うのは隣でステラさんが見ていることか。

 ステラさんは、こういうのは平気なんだな。

 服が汚れますよ、臭いが付きますよ――と言っても、一向に気にしないで、興味深そうに俺の作業を見ている。

 師匠は昨日と同様、少し離れた所で俺の作業をじっと眺めているのだが――彼女の身体から何やら黒いモノが溢れ出ている。

 眺めているというよりは、にらみつけているに近いかもしれない。

 昨日同様、俺の心を読んでいるのかもしれないが、ずっとステラさんと話しているので、俺の心の中にステラさんが顔を出しているのだろう。

 とりあえず、作業を進めたいので、師匠には構っていられない。

 

 滞り無く作業は完了して、ボウルに一杯の硝石が完成した。


「へぇ、面白いねぇ。 あんな材料から、こういう物ができるなんて」

「材料の腐葉土とか、発酵とかは師匠の得意分野でしょうけど、出来上がった物はステラさんの領分ですよね」

「うん、これは薬学、錬金の分野になるのかなぁ。 でも、これが武器になるの?」

「もちろんこれは材料で、更に加工が必要になりますので、後は俺の工房に戻ってからです」


 火薬――作ろうとしているのは黒色火薬だが、この硝石の他に木炭と硫黄が必要だ。

 木炭は普通に売っているし、硫黄もすぐに手に入る。

 この硝石が、実際に使えるかどうかは、黒色火薬を作ってみないと解らない。


 さて、やる事はやったし、撤収作業に入るか。

 道具は、臭いが付いちゃってるので、そのまま放置だな。

 ()は、腐ってしまうかもしれないが、ここに硝石塚を作るなら古代コンクリートで作りなおしても良い。

 帰り支度をするために、川で身体を洗う事にしよう。

 

 師匠達に――俺は、身体を洗ってから馬車で帰るので、先に帰っても良いですよ――と言ったのだが。

 

 川で素裸になって、身体をゴシゴシ洗っていると、いきなり誰かに抱きつかれる。

「ちょ!」

 何事かと見たら、ステラさんだった。


「へぇ。 ショウ、結構良い身体付きになったじゃん」

 ステラさんが、ペタペタと俺の身体を触ってくる。

 

 まあ、それなりに鍛錬してるからな。

 それと、筋トレでちょっとした裏ワザを見つけたのが大きい。

 それは――滅茶苦茶ハードトレーニングした後、すぐにフローの治癒魔法で回復する手法だ。

 これを使えば、短期間で筋トレやスタミナ強化も、大幅に捗る。

 無論、プロテインとかは無いので、ムキムキマッチョボディになることはないし、パワーやスタミナが獣人を超える事などはありえないのだが。

 獣人達とは基礎体力が違いすぎる

 だが、元世界にこんな魔法があったら、オリンピックなどは強化選手で一杯になるだろうなぁ。


「ステラさん、帰ったんじゃなかったんですか?」

「途中で引き返してきたぁ。 エヘヘ」

「エヘヘ、じゃないですよ。 ちょっと止めてください。 汚れてて汚いんですから」

「いいねぇ、汚物まみれぇ。 興奮するねぇ」

 なんかウットリした目をしだす、ステラさん。

 

 アカン、こういう人だった。


「ちょっとちょっと! 変な所触らないでください」

「変な所ってどこ? ここぉ?」

 俺の払いのける手を物ともせずに、ステラさんはあらぬ所を触ってくる。


「もう、お姉さんに任せておけばいいからぁ」

 何がお姉さんだ。


 あ~この糞BBA、うぜぇぇぇぇ!


「おっと!」

 ステラさんが蹴り飛ばすと、俺はもんどり打って川面に突っ込んだ。

 

 刹那、俺とステラさんが立っていた場所に巨大な水柱が立ち、虹が舞う。


「この糞エルフ! いい加減にしろ!」

 どうやら、師匠が魔法を撃ったようだ。

 

「あれ? ルビアも戻ってきたのぉ? ケケケ」

 ステラさんに蹴り飛ばされた俺は、川の石で背中をしこたま強打し転げまわっていたが、ふと川面を見ると――。

 師匠の魔法で、魚が沢山浮いている。


「ああ、勿体無い!」

 俺は、素裸のまま水面に浮かんだ魚を拾って、川辺に投げ始めた。

 

 ステラさんに手伝ってもらおうとしたが、師匠と追いかけっこの真っ最中だ。

 それにしても、なんで俺はフリ○ンでこんな事してるんだ?


 結局、師匠とステラさんが追いかけっこしてる間に、川魚を15匹ほどゲット。

 森の中で遊んでいる師匠とステラさんは放置して、お城に帰ることにした。

 精霊が溢れてるここじゃ、エルフであるステラさんに敵わないと思うのだが……まあ、藪蛇になりそうなので、口出しはしないでおく。

 行きは荷物が沢山あったが、帰りは空荷なので、楽ちんである。


 お城についた俺は、メイドさんの詰め所を訪れて、ゲットした魚の半分をニムにプレゼントした。

 魚を受け取ったニムは、いつものように俺に抱きつこうとしたのだが――。


「ショウ様! このにおいなんにゃ!」

 ニムの動きが止り、固まる。

 

におい? やっぱりくさいか?」

 自分で袖の臭いを嗅いでみる。

 

くさいにゃ! なんでこんなにくさいにゃ! 肥溜めにでも落ちたにゃ?」

「まあ、それに近いかなぁ」

 ニムは、俺の周りをグルグルと回っていたが、臭いが我慢出来なくて諦めたようだ。


 そんなに臭いかな? 自分の身体をクンカクンカしてみるが、解らん。

 臭い作業をやりまくったせいか、鼻がバカになってるのかもしれない。


 ――元世界に、特殊清掃という職業がある。

 そういう仕事をしている人達は、髪の毛に臭いがつくそうで、そのためにスキンヘッドにしている人が多いという話を聞いたな。

 もしかして、髪の毛かな?

 臭いが取れないようなら、髪の毛を切る事を考えなくては駄目かも……後で数回、念入りに頭を洗ってみることにしよう。

 

 ------◇◇◇------


 坊主にならないと駄目かな? と心配していた臭いは、ステラさんに浄化の魔法を掛けてもらって、無くなったようだ。

 消臭も出来るのか? 便利だな、精霊魔法。

 臭いの元である分子構造を破壊すればいいのだから、ことわりの魔法でも出来そうな気がするが……。

 まあ、それは後回しだ。

 ドワーフの親方に頼みたい物があるので、注文した後、俺の工房で黒色火薬の製造に挑む。


 こういう作業には、乳鉢にゅうばちが必要なのだが、ステラさんが似たような石鉢を持っていると言うので、借りる事にした。

 俺の工房で、師匠とステラさんが見学している中、作業を開始する。


 硝石、硫黄、木炭を丹念に磨り潰し、粉にする。  硝石はすでに、溶解→再結晶を繰り返して、純度を上げてある。

 細かくすればより綺麗に混ざることになり、反応の効率がよくなるので、手を抜かない。

 混合の比率は、硝石、硫黄、木炭が重量比で60~70対20~10対20~10だ。

 色んな混合比率があるが、ここは7:2:1でいってみるか。


 棒はかりで正確に測り、石鉢で材料を混合していく。 もちろん、火気厳禁だ。


「これで完成なわけぇ?」

 ステラさんはこれが武器になるとは、イマイチ信用していないようだ。

 

「これでも使えない事はないですよ」


 試しに少量皿に取って、火を付けてみることになったので、ソレに備えて残りの材料を避難させる。

 出来上がった黒色火薬に着火すると、白い煙をモウモウと吐きながら、赤い炎が皿の上で激しく燃える。

 俺が作ったこの硝石が使える事を、今確信した。

 実は、黒色火薬を作ったのはこれが初めてではない。

 中学生の頃、文字通りの中二病を発症していた時に、作ったことがあるのだ。 もちろん、硝石をゼロから生成したのではないが、硝石は市販の〇〇〇から取った。

 市販されているものでも、火薬爆薬の原料になるものは意外とある。

 農家で肥料として使われて農協に置いてある、硝安や硫安はモロ爆薬だし。


「なんだ、大したことないじゃん」

 ステラさんは、ちょっと期待ハズレという表情を浮かべている。

 

「ここから、後処理があるんですよ」

「後処理?」


 石鉢に入った混合物に水を垂らし、練っていく。 練り終わったら、布で包み圧縮魔法で圧縮する。

 

「こうやって圧縮すると、密度が上がって威力が増すんですよ。 魔法を使わなくても、重石を掛けても良いでしょう」

「なるほどねぇ。 ことわりに適ってるよね」

 乾燥の魔法を掛けてカチカチになったら、砕いて顆粒状にする。

 これで完成だ。


 先ほどと同様に、皿に少量乗せて火を付けてみると――赤い閃光と白い煙になって、一瞬で皿の上から消えた。

 

「全然違いますね。 なるほど、反応の効率を上げるために後処理を施すわけなのですね」

 師匠がつぶやいた。 

 

 さて、黒色火薬は出来たが、ステラさんはまだ半信半疑だ。

 師匠はどう思っているか――解らん。

 後は、ドワーフの親方に注文した物が出来上がってきたら、殿下に火薬のお披露目といこう。

 なんて、言うかな? まぁ、なるようにしかならんか。


 ------◇◇◇------


 お城の中庭に、文字通りの爆音が響く中、火薬のお披露目が始まった。

 メンツは、俺と殿下、そして師匠とステラさんだ。


 まずは、オーソドックスに、手投げ弾だ。 簡単に言えば、デカイ爆竹。

 ティッケルト()の中に火薬を詰めて、その周りを縄でギチギチに巻き、ちょっと長めの導火線が出ている。

 俺が中庭に作った畑の真ん中に突き刺して、長い棒で火を付ける。

 魔法で火を付けても良いが、魔法が無くても使えるってことをアピールしなくてはいけないからな。

 火を付けると、素早く殿下のもとに戻り、俺の腕輪が作り出す防御の中に入っていただく。


「殿下、私にくっついてください。 防御の魔法を使います」

「うむ」

 殿下のすぐ後ろに立ち、殿下をお守りする――白い煙と共に導火線が根元まで燃えると、1拍おいて爆音と共に弾けた。

 多分、小石を飛ばしたのであろう。

 畑の隣に建っている離れの窓ガラスが割れ、殿下は、あまりの爆音に耳を覆い、ひるんで尻もちをついてしまった。

 実は、作った俺も驚いた。 耳にキーンという音が残って、あまりの音のデカさにビビる。

 その威力で、畑には30cmぐらいの穴が開き、手で持っていたら手が吹き飛ぶだろう。


「こ、これは魔法なのか?!」

 目を見開いた殿下が大声で俺に問う。

 

「いいえ、これはことわりで起こした爆発でございます」

 自分の作った火薬の威力にビビっているのを悟られないように、平然をよそおう。

 

「なん……だと。 それでは、これを使えば、妾でも魔法と同様の事が出来ると申すのか?!」

「はい」

「妾でも出来るということは、農民でも女子供でも同じ事が出来るという事であろう?!」

「その通りでございます。 実際はもっと大型の物を使います。 一気に20~30人は吹き飛ばせるでしょう」

「なんということだ……」

 殿下は下を向いて考え込んでいる。

 

「もう1つあるのですが」

 そう言って俺は、ドワーフに作ってもらった鋼鉄の筒を取り出し、殿下にお見せする。


「用意した筒に、この火薬という薬を入れて、上から鉛の()を押し込めます」

「そ、それでどうなるのだ」

 殿下はもうビビリメーターがマックス状態だ。

 

 畑の隅に鎧がすでにセットしてある。 普通の騎士等が装備している一般的なプレートアーマーだ。

 畑に脚立を立てて、その上に鋼鉄の筒を固定して狙いを定める。 距離は10mほど。

 なにせ試射してないぶっつけ本番なので、こんな物を手に持って射撃するなんて、ちょっと無理。

 ライフリングは切ってないスムーズボアなので、当たるかどうか解らんが、このぐらいの距離なら当たるだろう。

 筒の根元にある受け皿に火薬を足して、準備完了。

 コレは一番単純なマッチロック(火縄銃)だ。

 だが、ここには魔法から作った火石という物もある。 火石は衝撃を与えても発火するので、それを雷管にしてパーカッション式も薬莢式の銃も、実現出来るだろう。


「それじゃ、いきますよ!」

 長い棒を使って受け皿の火薬に火をつけると、白い煙があがり、ワンテンポ遅れて鋼鉄の筒が火を吹くと――。

 爆音と共に白煙で何も見えなくなったが、煙が晴れると立てかけていた鎧は倒れ、胸にはピンポン球大の穴が開いていた。

 その鎧を持ってきて、殿下にお見せする。


「このような武器でございます」

「これは……これもことわりだと、申すのか」

 殿下は、鎧の開いた穴を、手でなぞって確認している。

 

「その通りでございます」

「では、あの筒を持てば、農民でも女子共でも、騎士を打ち倒す事が出来ると?」

「もちろんでございます。 しかも、魔法では100スタック(メートル)程しか届きませんが、これなら数百スタックは余裕で届きます」

「こ、このような物を妾に見せて、どうしろと言うのだ!」

「今更、何を恐れて、何を躊躇ためらっているのです。 この悪魔と一心同体だと仰ったのは殿下でございましょう」

「うう、まさかこんな……小銭に目がくらんだ対価がコレだと言うのか」

 いや、小銭じゃなかったでしょう?


「さぁ、ファーレーンの運命を背負い(アマテラス)に挑み、この世界を紅蓮の炎に沈めましょう、ハハハ!」


 なんて事を言ってると、師匠のロッドが俺の側頭部を捉えた。 俺の悪ふざけに我慢出来なくなったようだ。

 不意打ちだと腕輪が反応しない事が、ままある。


「と言うのは冗談でぇ。 殿下、これはあくまでファーレーンを防御するための最後の武器ですよ。 外部には漏らしません」

 俺が頭をさすりながら言う。

 元世界の古代でも火薬の製法は、秘中の秘とされて、秘匿された。


「本当にそうなのか?」

「ええ、この武器の秘密を知っているのは、私と師匠とステラさんだけです。 大丈夫ですよね? ステラさん?」

「こ、こんなの、漏らせるわけないじゃん! こんなのが大陸に広がったら、地獄への入口が開くようなもんだよぉ!」

 さすが、頭脳明晰なステラさんだ。 これが、この世界に広がったら、どうなるかシミュレートが完了したらしい。


「帝国との戦力差が10倍でございましょう。 それを埋めるための最終手段ですよ」

「なるほど……確かにこれがあれば、ファーレーンだけでもなんとかなるかもしれん」

 殿下も落ち着いて、冷静に分析を始めたらしい。

 

「ルビア、あんたなんで止めないの?」

「だ、だって、別に純粋なことわりで禁忌ってわけじゃないし、禁呪でもないし……確かに、威力が凄くてビックリしたけど」

「禁忌じゃないけど、ある意味禁忌よりたちが悪いよぉ」

 ステラさんが取り乱すのはちょっと珍しい。 そのくらいインパクトがあったか。

 

「なんすか! なんすか! 何の音っすか?!」

 バタバタとやって来たのはフローだ。

 

 ステラさんは露骨に――フローにあっちに行けポーズをしている。

 

「なんでもないよ。 新しい魔法を殿下にお見せしていたところなんだよ」

「なんすか! あたしは仲間はずれっすか? プンプン!」

「まぁまぁ、新しいお菓子を食わせてやるから、機嫌を直せ」

「お菓子すか? どんなのっすか? 食うっすよ」


 火薬のデモンストレーションも終わったし、フローのために、お菓子を作ることにした。

 また、農家から芋を沢山貰ったので、ポテトチップに挑戦してみるかな。

 フローに手伝わせ、芋の皮も剥いて、スライサーに掛ける。 このスライサーも自作だ。

 この芋のスライスをそのまま揚げても、ポテチにならない。 芋の水分が邪魔して、カラリと揚がらないのだ。

 本当は、2度揚げをするのだが、俺には魔法がある。

 芋のスライスに乾燥魔法を掛けてから油で揚げると、パリパリと元世界のポテチ上等な出来あがり。

 岩塩とスパイスを振り掛けて、完成だ。

 フローに食わせるつもりだったのだが、何故か全員がテーブルに付いている。

 手で食べると汚れるし、しかも殿下は手袋をしている。 皆は箸を使えないので、ティッケルト()で作ったトングを出した。

 

 ざるに乗せて、テーブルに出すと、皆が口に運ぶ。


「ほう、芋を揚げたものか。 パリ……それにしても、あのような物がこの世界にあるとは……パリ」

「パリパリ……もう、半分バカにしてたのに、とんでもない物を作って、どうするつもりなんだよぉ」

「正直……パリパリ、私も驚きました」

「美味いっす! パリパリ美味いっす!」

「ショウ! 足りないぞ、もっと作るがよい」

「はいはい!」

 皆ブツブツ言いながら、エライ勢いでポテチを平らげていく。

 

「手が止まらんぞ。 何か変な魔法が掛かってるのではあるまいな」

「そんなわけありませんよ」

「はぁ……それにしても、我が母が鬼籍に入っていて助かったわ。 こんな物を見たら、嬉々として大量生産の挙句、帝国へ攻め入っただろう」

 殿下が大きなため息を吐きながらそんな事を言うと、それを聞いた師匠とステラさんがウンウンとうなずいている。


「甘いですね。 悪魔の力はこんなもんじゃありませんよ」

「他にどんなものがあると言うのだ」

「私が新しい麦を作りましたでしょ?」

「皆が喜んでおるが……」

「良い物も作れれば、悪い物も作れるんですよ。 例えば、少し毒を含む麦を作って、帝国へバラ撒いたりすれば、数年後には……」

「やめよ」

「それでは、誰も見たことがないような流行り病はどうでしょう? コレに羅患すると、身体の中がドロドロに溶けて、体中の穴という穴から吹き出します」

「聞きとうない!」

「ご注文が多いですね。 では、死者の軍はどうでしょうか? 死体にまやかしの魂を吹き込んで、不死の軍隊をつくります」

「それは死霊ではないか!」

「ああ、そういうのが、すでにあるんですね? 何処かで使われたのですか?」

 そういうのに詳しそうなステラさんに尋ねる。

 

「ある国がソレをやって、国中が死体に飲まれて自滅したんだよぉ」

「それで、どうなったんですか?」

「大陸中の魔導師と真学師が集まって、国ごと焼き尽くした……」

「なんだ、先駆者がいたんですね。 そりゃ、つまんないな。 もっと面白そうなネタを探さないと」

 無論、全部俺の悪質な冗談で、本気でそんな事を実行すれば――前述ぜんじゅつの如く国ごと灰にされるような強烈なしっぺ返しが来るのが目に見えてる。

 

「なんということだ……妾が頼ったのが、本当の悪魔だったとは……」


 俺は、追加で揚げたポテチをざるに乗せた後、白い手袋で包まれた殿下の右手を取ると――


「殿下の御手もお美しい御御足(おみあし)も何人たりとも傷つけることをあたわず。 このショウ、森羅万象の手段をもって、殿下をお守り致す所存でございます」


「……ルビア殿、妾は早まったかもしれぬ」

 何故か、殿下は泣きそうな顔をしている。

 

「私は、ショウの登城に反対いたしましたよ」


 師匠はそう言うと、ポテチを一枚口に運んだ。


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