79話 火薬は最後の武器だ!
火薬の生成を行うために、師匠の家にやってきている。
原料は、師匠の家に溜まっている糞尿と、森の腐葉土だ。
これ等を上手く使えば、火薬の元になる硝石を生成できると踏んでいる。
師匠のウ○コを黙って使っちゃうけど、怒られたりしないよな?
まあ、俺のも多少混じってるし。
「糞にまみれてよ~」
あまりの臭さに、やけくそで歌ってみる。
そりゃ、糞尿をかき混ぜているのだから、臭いのは当たり前。
船に森の腐葉土と糞尿を入れて、発酵促進の魔法を掛けながら鍬で撹拌している。
途中で、藁を押切で刻んで投入。 かき混ぜながら、柄杓で尿を足していく。
臭いっちゃ、臭いが、ガキの頃から嗅いでいる臭いだ。
ウチの実家はど田舎なんで、未だに汲み取り便所。 バキュームカーが走り回ってるからな。
最近、やっと簡易浄化槽のついた水洗モドキがチラホラと――そんな感じなのだが、なにせ限界集落。
後5~10年でおっ死んでしまう爺婆しかいないのに、高い金だして浄化槽の工事をするやつもいなくて、水洗化もそれほど進んでいない。
話がずれたが、もう戻らん元世界の事を言っても詮無い事か。
今いる実験場の場所だが、師匠の家があり、その脇を下ると川に出る。
その中間ほどの人目に付かない場所に作った。
重量軽減の魔法を使いつつ、スコップで土を掘り返し、平らに整地して船を設置、そこで糞尿をかき混ぜているのだ。
腰が痛くなるので、休み休み鍬でかき混ぜながら、魔法をかけ続けて約2時間。
おおよそ2年ぐらいの時間を早回ししている感じになっているはず。
塊は無くなって液体のようにドロドロになっている、そんなブツをかき混ぜていると――。
ガサガサという音と共に、野草が揺れる。
すわ四脚でも出たのか剣鉈に手をやり身構えるが、よく見ると師匠だった。
「ちょっと、師匠。 近づいちゃダメです。 汚いです! 臭いですよ!」
俺は懸命に制止したのだが――。
「何を言ってるのですか? ショウ、あなたは――」
――と、師匠が言いかけて、硬直して口を閉ざした。 俺が何をいじっているか、解ったからだ。
師匠の目から輝きが失われこちらをみている。 これは何かの魔法を使ったようだ。
多分、臭いを遮断するバリアのような魔法だろう。
『何をやっているのですか?』 師匠の感応通信が、俺の頭に響く。
今日は腕輪をしていないので、師匠の声がよく聞こえる。
「え~と、火の薬――火薬という炸裂する薬品を作るための原料を生成しています」
腕輪がないので、魔法を遮断出来ない。 正直に答えるしかない。 この状態で嘘を付いても一発でバレるしな。
敢えて感応通信を使ってきたということは、俺の真意を確かめる意味合いもあるのだろう。
多分、腕輪を持っていても、感応通信に答えざるを得なかったのに違いない。
「それは武器に使うのですか?」
師匠が、魔法を解いて俺に直接話しかけてくる。
「そうです」
もう、ここで誤魔化してもしょうがない。
「わかりました」
「止めないのですか?」
「あなたのやる事には、もう口出ししないと約束したでしょう。 でも、悪事に使うようなら、師匠として全力で阻止しますが」
「それはないですよ。 師匠に解っていただいて良かった。 それでは、私は作業を続けますので、師匠は家に居てください」
「何を言うのですか。 弟子が真理を極めようとしているに、師匠が見届けなくてどうするのです」
そんな事を言っている師匠の顔が徐々に青くなってくる。
「いや、しかし――」
ロッパー!
師匠が吐いた。
どうやら、臭いに耐え切れなくなったようだ。 だから、家に居てくださいと言っているのに。
しばらく押し問答が続いて、その最中も師匠は吐いているのだが、こうなると師匠は梃子でも動かない。
「わかりました。 師匠のお好きになさってください。 でも、少し離れて見てた方がいいですよ?」
そんな俺の言葉に珍しく従ったのか、ちょっと離れた所に、青い顔をしてチョコンとしゃがみ込んでいる。
俺が色々と作業している姿を、青い顔の師匠がじ~っと見ている。
ひたすら、じ~っと。 何やら、ニマニマしながら。
なんだろう。 何をみているのだろうか。 なんか今日の師匠はキモいわぁ~。
そんな事を考えていると、デカイ石が飛んできた。
危ねぇ! イカン、今日は腕輪がなかったんだ。 あ、腕輪の事を考えないようにしないとな。
まあ、師匠は気がついているかもしれないが……。
少々キモい師匠は放置して、作業を続けなくては。
かき混ぜが終わり、この液状になった物体の中に硝石ができているはずなのだが、さてどうやって取り出そう……やっぱり、単純に水に溶かすか。
井戸から水を汲み。 持ってきた大鍋にブツと水を入れて、かき混ぜ溶かしながら魔法で加熱する。
硝石は水に溶けるはずなので、これで溶け出すだろう。
ここで、木灰を投入する。 この木灰の中に含まれるカリウムが呼び水になって、結晶が析出される手はずなのだが、上手くいくだろうか?
早く沈殿させて、上澄み液だけを取り出したいのだが、沈殿促進の魔法はないんだよなぁ。
だが、試しに重量増大の魔法を使ったら、一気に沈殿が進んで小躍りする。
なるほど、重量を増すと粒子も重くなるから、下に沈殿するのが早くなるのか。
こりゃ、発見だわ。
大体コツを掴んだ俺は、ブツを大鍋で煮た後→木灰を投入、そして魔法で沈殿させ――上澄み液を桶に移す作業を繰り返す。
桶が一杯になったら、乾燥の魔法で水を蒸発させると、徐々に硝石の濃度が上がってくる……はず。
そんな事を繰り返していると、桶の中に白い結晶が育ってきた。
「お、上手くいってるようだぞ」
全部のブツを処理した後、最後に桶の中に入っている水分を全て、乾燥させると――。
桶の壁はビッシリと白い針状の結晶で一杯になっていた。
不純物もかなり混じっているが、水に溶かして不純物を沈殿させて再結晶化させる――これを繰り返せば、純度を上げる事は可能だろう。
桶の中の結晶を削ぎ落とし、師匠の家から持ってきた木のボウルに入れる。
山盛りの糞尿をかき混ぜて、苦労して作った量は直径15cmぐらいのボウルに半分程。
とりあえず上手くいったみたいだが、この結晶がホントに硝石で、使えるのかどうかは火薬を作ってみないことには解らない。
使えるのが解ったら、これをシステムマチックに大規模にやれば生産性は上げることは出来る。
だが、大量生産するつもりはない。
あくまで、この知識は秘匿に徹する。 万が一この知識が漏れれば、戦場の死者数は2桁も3桁も跳ね上がるだろう。
これは、自衛のための最後の武器だ。
まあ、俺が作らなくても、いずれは誰かが発見するのかもしれないが……。
作業が終わった時には、すでに日が暮れ始めていた。
明日同じ作業をもう一度やるつもりなので、道具はそのままにして、身体を洗うために川へ向かう。
この糞まみれのまま飯を食うわけにはイカンだろう。
俺だけなら多少汚れてても良いが、師匠が一緒じゃ拙い。
汚れた作業用のボロ服を脱ぎ捨てて、川で裸になり石鹸でゴシゴシ洗う。
こんなの風呂で洗うわけにイカンからな。 風呂場に臭いが付いて取れなくなってしまう。
元世界のキャンピングカーにトイレが付いている物があるが、1回でも使用すると臭いが付いてしまい、取れなくなってしまうらしい。
臭いがキャビンまで流れ込んでくるので、付属のトイレは使わないようにして、公園等に駐車して外のトイレを使う。
――と、そんな話を聞いた。 そのぐらい、この臭いってのは1回付いてしまうと取れない。
川で裸になって身体を洗っていると、なにやら視線を感じるのだが……多分、師匠だろう。
何を考えているのかは解らんが、あえて突っ込むのは止めておく。
明日の作業に備えて、新しいボロ服を出した。
今日脱いだのは、もう駄目っぽいので、帰り際に燃やしてしまおう。
さっぱりとしたところで、飯の準備をしようとしたら師匠が風呂に入りたいという。
師匠のご命令とあらば、ひーこらひーこらと井戸で水を汲み風呂を満たすが、薪で沸かすと時間がかかる。
師匠もすぐに入りたいようだったので、師匠に魔法で沸かしてもらった。
あ~、ガチャポンプや、俺の工房に作った水道装置に慣れてしまったからな。 水汲みは結構しんどいわ。
ここで俺が最初に作ったガチャポンプは外してしまったからな。 ここにもガチャポンプを付けた方が良いかな?
師匠が風呂に入ってる間に、パンとスープの用意をする。
まさか、師匠が来るとは思ってなかったので、俺が1泊2日食う分しか用意してないんだけど……。
これを食ってしまったら、飯が無くなってしまうので、明日は何か作るしかないな。
畑にまた野良芋が育っていたようだったので、アレを使うか。
そんな事を考えていたら、師匠が風呂から上がってきた。
俺も川で身体を洗ったが、まだ少々臭いがするので、離れて食いますと言ったんだが、師匠は構わないと言う。
風呂あがりで、俺のタオルを頭に巻いている師匠と、晩飯を食べ始めた。
ここには、俺の工房にあるようなガス灯は無い。 蝋燭と、俺が持ってきた魔石ライトだけだ。
薄暗い中、師匠と久々に一緒に食事をする。
こうやって食事をしていると、ここで師匠と一緒に暮らしていた時の事を思い出す。
「師匠、臭くないですか?」
「まあ、少々臭いますが、大丈夫ですよ」
「だから、私は1人で食べますと言ったのに……」
「構いません」
そんな事を言う師匠なのだが、なんだか嬉しそうなのだ。 というか、今日の師匠はずっとこんな感じ。
何がそんなに嬉しいのだろうか? まったくもって不明。
「師匠? なんで嬉しそうなんですか? 今日の実験は、この世界の戦略を一変させるかもしれない物なのですが……」
「あなたのやる事には、もう口出ししないと言ったでしょう」
「じゃあ、なんでそんなに機嫌がよろしいのか……」
「今日は、あなたの心がよく見えるからです」
「うぇ! もう止めてくださいよ、人の心を読むのは。 嫌になりませんか?」
「普通の人間の心なんて、見たくもないですが、ショウの心は違います」
「ええ? どう違うんですか?」
「ここで、初めてあなたの心を読んだ時、なんて子供みたいな心の持ち主だろうと思いました」
「それって、幼いって事ですか?」
「まあ、有り体に言えば、そうです」
「なんか、全然嬉しくないんですけど」
「ああ、それなのに。 あなたがお城に行った途端に、そこら辺の男共と同じようになってしまって。 しかも、突然心を閉ざしてしまい、真っ暗な闇のよう! やはり、あなたをお城になど行かせるべきではありませんでした」
「そんな事はないですよ。 とても、充実してますし、金は稼げるし。 まあ、危ない事も結構ありますけど」
「ああ、嘆かわしい。 でも、今日のショウは、以前に私に見せてくれたようなあなたの心でした」
「別に見せてたわけじゃないですけど。 今日は、アレの事ばっかり考えてましたからねぇ。 ずっと興味があって、試してみたい事だったし」
飯を食いながら話したが、そんなこんなで、機嫌がいいらしい。
どうやら師匠は、俺の心を読むマニアだったようだ。
なんだそれ。
いったい、どういう趣味なんだ。
師匠の話を纏めると、元世界出身の俺は、擦れてなくて純真だと感じたのか。
確かに、この世界で殺戮を繰り返しサバイバルしてたら――
むせる……。
――って感じで心は荒むかもしれない。
よく判らんが、そんな師匠に付いていけそうにないので、さっさと寝ることにした。
慣れない作業が続いたし、魔法を使いっぱなしだったので、疲れた。
台所の後ろにある物置に作られた俺のベッドに横たわり、蝋燭が放つオレンジ色の光の中、しばし考える。
なんだかよく解らんが、師匠はクリアしたな。 後は殿下か……。
火薬を見て、なんて言うかなぁ。
あれこれ、シミュレーションをしてみたが、いくら考えても無駄だと思ったので、止めた。
少々蒸し暑いので、戸板の窓を開けてつっかい棒をする。
この家には師匠の結界が働いているので、窓を開けても虫とは無縁だ。
ふう、寝るか。
蝋燭を消して寝転がると、ドアが開いた。
驚いて起き上がると、燭台を持った師匠だった――しかも、スケスケの寝間着を着て。
いつもアップしている栗色の髪を解き、オレンジ色の光の中に露わになる、師匠の豊満な身体。
「え? 師匠、何かありましたか?」
ちょっと焦って、師匠に問う。
もちろん、この状況でやって来るのだから、察しは付くのだが……。
師匠は黙って燭台を置くと、俺に身体を寄せてきた。
「ちょっと、ちょっと、師匠! どうしたんですか? またチョコでも食べました?」
そんな俺の問いかけにも無言で、俺に抱きつき胸の鼓動が聞こえるぐらいに頬を押し付けてくる。
「もう少し、ショウの心を見せてください」
師匠はそんな事を言うのだが、こりゃどうすれば良いんだ。
師匠は、俺のシャツをめくりその中に頭を入れると、唇を這わせてきた。
「あはは、師匠! くすぐったいんですけど。 そんなことをされると、下着が伸びてしまいますよ」
この世界の下着は、麻で出来ていてほとんど伸びない。 逆に伸びると、だらしなくそのままになってしまう。
作業用に買ったボロ服なので、そうなっても良いのだが。
この世界にもシルクの下着もあるが、そんなのは余程の金持ちじゃないと着ていない。
今師匠が着ているスケスケは、多分シルクだと思われるのだが……こんなの持ってたんだ。
初めて見たよ。
そんな事を考えていると、師匠の唇が俺の下半身に移動しはじめ――
あ~、ヤバいなぁ。 そっちには珍しいキノコが生えているんだが、どうしようかなぁ……。
判断に困り、師匠から目を逸らして、ふと窓に目をやると――戸板の隙間から覗く、何かと視線がかち合う!
「うあぁっ!」
俺は、飛び上がり、上に乗っている師匠をお構いなしにベッドの端に寄った。
俺もそれなりに、修羅場をくぐったつもりだったが、得体の知れない物に対する恐怖というのは簡単には拭えないようだ。
師匠も、俺の心を読んでいたはずなので、異常に気がついたろう。
ベッドから立ち上がると、ドアの横に歩いて行く。
その途端、台所の裏戸を蹴破る音が響き、何かが侵入してきたようだ。
俺も、装備に手を掛け、剣鉈を引き寄せると、部屋のドアが蹴り開かれ――
だが、入ってきた瞬間にソレは、師匠の麻痺呪文に捕らわれたようで、そのまま俺に突っ込んできた。
危うく切りつけそうになった。
だが、入ってきた物が危険の無いとすぐに気が付いたので、そのまま受け止めると、蝋燭の光に照らされるプラチナの髪と、ピコピコ動く長い耳――。
ステラさんじゃん! 人騒がせな!
「くらぁ! 師弟で乳繰り合いやがって、お前らオカシイぞぉ! 私も混ぜろってんだ!」
麻痺を食らってぐったり下を向いたまま、いきなりステラさんが大声を上げた。
「ステラさん、なんでこんな所に……」
「ショウの所に行ったらいないじゃん。 ルビアもいないじゃん! ショウは馬車持ち出したっていうし、ここしかないじゃん!」
「あ~、なるほど。 でも、別に乳繰り合ってないですよ?」
「嘘つけぇ!」
ステラさんが、大口を開けて俺に食って掛かる。
「ちょっと――酒クセェ!」
俺は思わず、顔をそむける。
「臭い? 臭くねぇよ! 私の○○○は臭くない。 散々汚いだの臭いだの言いやがって、私に対する愛はないのかぁ! うううう……」
突然、泣き出すステラさんを抱えて、俺は困ってしまった。
「そんな事言ってませんよ」
「いや、言ったね。 言ったよぉ。 絶対に言った。 そんなに綺麗な〇〇〇のフローが良いのかぁ!」
「言ってませんって。 ステラさん、酔ってますね?」
「ええ? 酔ってない。 酔ってないよぉ、エヘヘ」
駄目だこりゃ、完全に酔ってるじゃん。 この世界でも、酔っぱらいは酔ってないと言い張るのか。
どうするんだコレ……そうだ。
「ステラさんに見せたい物があるんですけど」
「え~何ぃ? ショウのチ〇〇でも見せてくれるのぉ?」
「見せませんよ」
このままじゃ、どうしようもないので、麻痺しているステラさんに重量軽減の魔法を掛けて、お姫様抱っこをする。
それを見た、師匠から何やら黒い物が漂ってくるのだが……。
仕方ないでしょう。
憮然とした表情の師匠に燭台を持ってもらい、居間の椅子にステラさんを座らせた。
台所の棚に乗せてあったボウルを持ってきて、その中の硝石をステラさんに見せる。
「今日は、コレを作る実験をしてたんですよ」
「何これぇ? 初めて見たぁ」
身体は麻痺しているので、顔だけ傾けて、ボウルに入っている白い針状の結晶を見ている。
「これを使って、炸裂する薬を作るつもりなんです」
「炸裂って武器なの?」
「そうです」
「へぇ~、面白いぃ」
ステラさんはヘラヘラと笑っているのだが、今見せて記憶に残っているのだろうか?
「武器だけじゃなくて、これは肥料にも使えますよ。 原料は、腐葉土、木灰、藁、肥ですから、肥料になる成分を集めて凝縮した物がコレです」
「ふ~ん」
「明日、ステラさんにも作り方を教えるので、今日はもう寝ましょう?」
「うん、寝る寝る。 ショウと一緒に寝るぅ」
師匠は、そんな事を言ってるステラさんの首根っこを捕まえると、ズルズルと彼女を引っ張ったまま、師匠の寝室に向かった。
「ちょっと、ルビア! 私は、ショウと寝るのぉ!」
バタン! とドアが閉まり、ステラさんが何やら喚いていたのだが、イキナリ静かになった。
何をしたのか知りたくはないが、疲れたのでそのまま寝ることにした。
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次の日、起きると既に朝の霧は晴れていた。
顔を洗いに井戸に行くと、何やら身体が痒い。
見ると、何箇所か虫に食われている。
師匠の結界があるはずなのに――もしかして、ステラさんが強引に入ってきたから、結界を壊した?
かなり酔っ払っていたのに、よくそんな事が出来るなぁ。
ブツブツと独り言を言っていると、俺の下に白い馬がやって来た。
「馬?」
俺が乗ってきた馬車馬は栗毛だ……。
ああ、ステラさんが乗ってきたのか? 飲酒運転じゃん! いや、飲酒乗馬か、危ねぇなぁ、ホントに……。
白い馬に水をやり、俺の馬にも食事の草と、水をやっていたりして世話をしていると。
勢い良く玄関のドアが開いて、ステラさんが飛び出してきた。 しかも、素裸で。
なんで裸なんだ?
彼女は草むらまで駆けていくと、ケロケロと吐いている。
またかよ。
俺は、柄杓に水を汲むと、ステラさんの所へ持っていき、彼女に差し出した。
「飲みます?」
「ありがと」
ステラさんは、口周りを拭うと、口を濯ぎ、ゴクゴクと水を飲んでいる。
水は飲めるようなので、そんなに酷い様子ではないようだ。
「大丈夫ですか? またお酒飲みながらチョコ食べたんですか?」
「だって、美味しいんだもん」
「そりゃ、美味いのは解りますが……それはそうと、なんで裸なんです?」
聞くと、覚えてないが自分で脱いだらしい。 ステラさんはいつも裸で寝ているらしいので、そのつもりで無意識に脱いだか?
この分じゃ、昨日の夜に話したことも忘れているんじゃないのか? と思ったら、それは覚えているらしい。
あんなに、ヘベレケだったのにな。
「ショウ、前に作ってくれた料理を作ってぇ」
「え? 以前、宿酔いになった時のやつですか?」
「うん」
「材料が何も無いんですよ。 まさか、師匠とステラさんが来るとは思いませんでしたから、何も用意してなかったんです。 適当に材料探して、何か作りますから、それでいいですか?」
「うん」
なんか、やけに素直でキモい。
「じゃあ、私のベッドで寝て待っててください。 つ~か、ステラさん何処で寝てたんですか?」
「床に転がってた……」
ひでぇ。
裸のステラさんが、家の中に入ったのを確認すると、朝飯の材料を物色し始める。
何か作るとは言ったけど、何を作ろう……。
畑に野良芋が生えているのは解っていたので、まずは芋をゲット。
芋のスープにするかぁ。
ダシは昆布だしを持ってきてるしな。
しかし、芋だけじゃちょっと寂しい。 やはり肉が欲しい。
また、鳥でも捕まえるか……?
そうだ、ここら辺にはウ○コ蜘蛛がいるじゃん。 あいつの脚を使おう。
小麦粉は少しあるから、蜘蛛芋スイトンにするかな。
それじゃ、早速蜘蛛を捕まえるか。
俺は、蜘蛛を求めて、家の脇の下り坂を川に向かって歩き始めた。





